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東京都23区内のハクビシンおよびアライグマの目撃分布(2009年1月版)

※無断転載禁止

執筆:宮本 拓海 (NPO法人 都市動物研究会)
2009年1月


■概要

・宮本による東京都23区内でのハクビシンおよびアライグマの目撃情報の集計と分布について報告する。
・ハクビシンの情報の総件数は2006年〜2008年の41件。タヌキに比べると件数はかなり少ない。
・ハクビシンはタヌキと同様に西側に偏った分布傾向がある。
・アライグマの目撃は3件のみ。これがすべての生息情報とは思えないが、現在のところ大繁殖の兆候はない。

■前文

 宮本は東京都23区を中心としたタヌキの情報を収集しているが、同時にハクビシン、アライグマなど食肉目哺乳類についての情報も同時に収集している。 今回は2006年〜2008年の目撃情報の集計結果を報告する。
 タヌキとハクビシンとアライグマは混同されることが少なくない。情報提供者がタヌキと思っていても、目撃時の状況を詳しく尋ねたり、撮影された写真を検証した結果、ハクビシンであることが判明したこともある。データベースに記録するにあたってはこのような混同を回避するために、不審な点があれば情報提供者に再確認することも少なくない。それでもおそらくは少数の混同は残っているのではないかと思われる。混同を避けるために「東京タヌキ探検隊!」のホームページでは、これらの違いを図説するページをわざわざ設けたほどである(http://tokyotanuki.jp/comparison.htm)。
 なお、アカギツネ、ニホンアナグマ、ニホンイタチなど他の野生の食肉目哺乳類についての目撃情報は得られていない。アカギツネとニホンアナグマは23区内には生息していないと推測される。ニホンイタチは河川沿いにまだ生息があると考えられる。

■目撃情報の集計

 収集された目撃情報は、フォーマットに従ったテキスト・ファイルの形で整理されている。これはタヌキと同じフォーマットを使用している。ハクビシンもアライグマも長期間連続して目撃されることがないため、1つの目撃情報が1件に対応している。

■ハクビシンの目撃情報の集計

 2006年〜2008年の目撃情報の集計数は41件となった。2006年は4件、 2007年は12件、 2008年は25件である。
 情報源の分類は以下の通りである。

宮本メール
38
宮本
1
ホームページ
1
メディア
1

宮本メール=宮本がホームページ(tokyotanuki.jp、旧 ikimonotuusin.com)で情報収集を呼びかけ、メールで寄せられた情報。
宮本=宮本が直接確認した情報。または聞き取りなどで収集した情報。
ホームページ=インターネット上のホームページ(ブログを含む)に掲載されていた情報。
メディア=新聞、テレビで紹介された情報。

 各区毎の件数を多い順に並べると次のようになる。

世田谷区
10
杉並区
10
文京区
3
練馬区
3
港区
2
新宿区
2
目黒区
2
中野区
2
板橋区
2
台東区
1
大田区
1
渋谷区
1
北区
1
江戸川区
1
千代田区
0
中央区
0
墨田区
0
江東区
0
品川区
0
豊島区
0
荒川区
0
足立区
0
葛飾区
0
合計
41

■ハクビシンの目撃情報の分布地図

 分布を可視化するために、目撃地点をメッシュ地図にプロットする作業を行った。メッシュ地図の仕様はタヌキの場合と同じである。

・座標系は世界測地系を採用する。
・メッシュは約2km×約2kmに相当する。
 正確には、東西方向に90秒、南北方向に60秒で近似している。基準点は、区切りのいい北緯35度45分、東経139度45分(荒川区と北区の境界付近)。
・目撃位置の詳細が不明であるため数百mの誤差のあるプロットもある。大半は「番地」より詳しい位置が判明している。

 完成したメッシュ地図は次の通り。

■考察:ハクビシンについて

 ハクビシンは目撃数が少ないため、その分布にも不明な点が多い。しかし、タヌキと同様に西側に多い傾向が見られる。これはハクビシンの生存が主に緑地に依存しているためと考えられる。タヌキの分布と比較した場合、「京王線グループ」「西武線グループ」「目白グループ」 [文献1] の分布と重なっている。しかし、荒川近辺ではハクビシンの目撃が少ないことはタヌキと異なっている。逆にハクビシンは世田谷区南部〜目黒区南部でよく目撃されるが、タヌキは少ない。
 ハクビシンは都心部の中央区東新橋でも目撃されている。これは2007年5月に日本テレビ本社「日テレタワー」で目撃されたもので、同テレビ局のニュースでも映像が放映されている。この付近には緑地が少ないためどこから来たのかは不明だが、ハクビシンの長距離移動能力を示唆しているのかもしれない。

 タヌキは地面上で目撃されるのが普通だが、ハクビシンは高所での目撃が多い。今回の目撃例から紹介すると次のようになる(電線から屋根に移るなど、1件の目撃情報の中で複数場所が含まれる場合がある)。

電線を渡る    … 8件
塀・フェンスの上 … 6件
屋根・ひさしの上 … 6件
木の上      … 5件(内3件はカキノキ(柿)、1件はビワ、いずれも実のなる季節の目撃)
壁・フェンスを登る… 2件

 地面を移動する姿の目撃ももちろんあるが、高所を移動するのはハクビシンに特徴的なものである。ハクビシンの目撃が少ない理由のひとつは、このように目撃されにくい場所にいるからだと思われる。また、電線を伝うことによって、交通量の多い道路を容易に横断できることが予想される。これがハクビシンの長距離移動を可能にしている要因かもしれない。

 目撃時刻は大半が夜間である。

 死亡例は1件のみだった。この個体は顔の部分だけ脱毛症状が見られた(顔の模様がわからない状態だったが、尾の長さ、肉球の形状などからハクビシンと判断できた)。

 ハクビシンが天井裏にすみつく、あるいは農業被害などの被害報告は0件であった。実際には、天井裏にすみつく例は少数ながらあると考えられる。

 目撃の頻度から、ハクビシンの生息数はタヌキよりも少ないことが推測される。ただし、目撃されにくい場所にいることが多く、かなり見逃されているのも確実である。現在の手元の情報からは具体的な生息数を推測することは難しい。

■アライグマの目撃情報の集計

 2006年〜2008年の目撃情報の集計数は3件となった。2006年は0件、 2007年は2件、 2008年は1件である。情報源はすべてメールによるもの。

 目撃場所は、世田谷区、中野区、板橋区である。

■考察:アライグマについて

 アライグマの目撃情報については、そもそも目撃者がアライグマを正しく認識しているかという問題がある。アライグマはタヌキと混同されやすいし、謎の動物と遭遇してもアライグマという名前が思いつかないということもある。23区内ではアライグマが多く生息しているとは考えられないため、アライグマの目撃が報告されてもタヌキやハクビシンの見間違いの可能性を常に考慮しなければならない。
 今回の情報はいずれも写真が無く、はっきりとした確証があるわけではない。ただし、1件では目撃者がはっきりとタヌキ、ハクビシン、アライグマを見分けており信頼できる。別の1件では、前脚を地面から離し胴体を立てた姿勢をしていたことから、タヌキではなくアライグマと考えられる。残りの1件は情報提供者の伝聞情報なので不確かな点があるが、写真はあるとのことである(その写真は宮本はまだ確認していない)。
 目撃場所はそれぞれ離れており、生息分布の連続性は無い。

 今回の目撃情報からは、東京都23区のアライグマの生息数は非常に少ないことが推測される。この生息密度では継続的な繁殖も困難なはずである。目撃されたアライグマは捨てられたペットまたは脱走したペットの可能性が高い。
 しかし、鎌倉市や横浜市など三浦丘陵・多摩丘陵一帯に生息しているアライグマが徐々に生息範囲を拡大し、その一部が東京都23区に達したという可能性も考慮する必要があるだろう。最近では埼玉県東松山市でかなりの被害をもたらしているなど、生息範囲を拡大しつつある兆候があるので監視は必要である。
 ただ、数が少ないアライグマの情報収集は難しい。アライグマ被害予防のためには、行政、業者、研究者らが情報を持ち寄りデータベース化する仕組みが必要であろう。

■今後の課題

 東京都23区および周辺地域のハクビシンとアライグマの目撃情報は今後も引き続き収集し、今後も年1回の報告を続ける予定である。次回は2010年1月を予定している。

■謝辞

 この報告書も、タヌキの場合同様に皆さまから寄せられる目撃情報に支えられている。情報を寄せられた方々には感謝しなければならない。私の調査研究の中心はタヌキであるが、ハクビシンやアライグマの情報価値が劣るということはまったくない。今後も地域住民の皆さまのご協力をお願いしたい。

■文献

[文献1] 「タヌキたちのびっくり東京生活 都市と野生動物の新しい共存」
著:宮本拓海、しおやてるこ、NPO法人都市動物研究会
技術評論社、2008年

■使用地図

本稿に掲載した地図は国土地理院発行の以下の数値地図を複製・使用した。
「数値地図5mメッシュ(標高) 東京都区部」
「数値地図50mメッシュ(標高) 日本II」

数値地図からは「数値地図ビューア」を使用して基本図版を作成、さらにAdobe Photoshop CS3、Adobe Illustrator CS3で加工して完成図版を作成した。
「数値地図ビューア」は、片柳由明(品川地蔵)氏によるMacintosh用アプリケーション(シェアウェア)である。


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