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対象地域:全国
対象動物:タヌキ、ハクビシン、アライグマ、アナグマ、キツネなど(野生の哺乳綱食肉目)


タヌキのフン調査マニュアル(2012年暫定版)

執筆:宮本 拓海 (東京タヌキ探検隊!)
2012年11月
Ver. 0.3(暫定版)


■0 目的

タヌキはフンを一定場所にためる「ためフン」をつくるため、他の動物のフンと区別しやすい。その内容物を調べることでタヌキが食べたものの概要を知ることができる。
タヌキは雑食で、環境に応じて食べるものが違っている。特に都会では食べ物になる自然物が少ないため、何を食べているのか、人間由来物をどれほど食べているのかを知ることは重要な課題である。

タヌキのフン調査では次の項目が主要目的となる。

・フンの分析からタヌキの食べ物を調べる
・1年以上継続して分析することで食べ物の季節変化を調べる

このマニュアルでは、なるべく特殊な道具を使用しない方法を解説する。とはいえ、安い物ばかりではないので、このマニュアルを読んで予算を検討することを勧める。

このマニュアルは、調査方法の基準を作ることも目指している。人によって調査方法や分析方法が大きくばらつかないよう、統一的な指針を提示したい。

長期的な調査を行う場合、一連の作業にかかる時間を知るために、予備的な調査を何度か行っておくよい。これは作業の訓練にもなる。

※このマニュアルはハクビシンなど似た大きさ、似た生態の動物のフンの調査にも応用できる。

※使用する道具類のうち、100円ショップで購入できるものには「★」を付記している。

※衛生について

野生動物は必ず何らかの寄生虫や感染症を持っていることを前提として作業しなければならない。フンを扱う場合、最も注意すべきなのはカイチュウ(回虫)、ギョウチュウである。これらはフンとともに卵が排出され、口を通して体内に入る。
また、エキノコックス症にも注意が必要である。これはエキノコックスという寄生虫による感染症である。イヌやキツネ、タヌキのフンに卵が入っている。北海道での感染例が多く、キタキツネが主な宿主になっている。関東南部まではまだ到達していないとされているが、警戒しなければならない。

フンそのものを素手でさわるのは好ましくない。素手で行いたいような作業では、手に密着する薄型ゴム手袋の使用を推奨する。 ただし、カイチュウもエキノコックスも経口感染である。手袋をしてもしていなくても、汚れた指が口や鼻に触れるとそこから体内に入る可能性がある。うっかり触ることを防ぐには、マスクも着用することが適切かもしれない。
また、休憩時、作業終了後は手を洗うことを習慣づけたい。

■1 ためフンを見つける

ためフン場を見つけるのは意外と難しい。長期的な調査を行う前には、ためフンの場所を発見することは絶対に必要である。ためフン場はできれば複数箇所を発見しておきたい。ためフン場はいつまでも同じ場所を使い続けるわけではないためである。
長期間調査する場合は、新しいためフン場の探索も同時に行うこと。

以下では、これまでの経験からためフンがある場所の例を紹介する。

●東京都23区の場合。主に住宅地

・住宅の壁際。窓が無いか、あまり開けられていない窓がある。
・空き家の庭。
・砂利の上。
・露出した地面。
・コンクリートの上。
・落ち葉が堆積した場所にもある。ためフンの上には落ち葉はないので見つけやすい。よく管理されている竹林にためフンがあった例もある。
・芝生のあちこちに単独フンが落ちていた例もあった。

全体に人間に気づかれにくい場所を選んでいるように見える。

●自然環境下の場合

・林道など人が歩く道のあちこち
・堤防の上
・薮の中

●皇居の場合

・「土塁のような小高い場所に多い傾向が見られた」
(論文「皇居におけるタヌキの食性とその季節変動」より)

●全体の傾向

・水はけの良い場所を選んでいるのかもしれない。
水につかるとフンの分解が速く、フンが堆積できないからである。
・見晴らしの良し悪しは関係ないようだ。

以上のように、法則性がはっきりしないため、ためフンを見つけるのは難しい。

●ためフンの年間の傾向

秋は食いだめをするせいか、フンの量がかなり多くなる。そのため発見できる可能性も高い。短期間だけ調査をするなら秋が一番やりやすいだろう。

冬から春は行動が不活発になるせいか、フンの頻度が少なくなる。フンはほとんど分解されなくなり、古いフンがいつまでも残る。

出産・子育ての時期(東京都23区では5〜6月)は親の行動が制限されるためフンの頻度が少なくなるのかもしれない。

夏はフンの分解が非常に速い。数日ですべてのフンが消失してしまうこともある。そのためためフン場の位置を見失いやすい。

■2 回収

長期調査する場合、フンの回収作業は、週1回程度が望ましい。
夏季はフンの分解が非常に速いので、間隔が空きすぎるとフンに遭遇できない可能性が高い。冬から春にかけてはタヌキの活動が不活発になるせいか新しいフンが少なくなる。このような理由のため、月に1〜2回の回収作業ではフンを得られない可能性が高くなる。
水洗い、分別、集計などにかかる時間も検討して間隔を決めると良い。

●用意するもの

・ポリ袋(小)★
最も小さいサイズで良い。枚数は念のため少し多めに用意すること。

・油性ペン★

・デジタルカメラ
ためフンを撮影する。記録目的だけでなく、資料としても使えるだろう。
ためフン場の大きさがわかるように、定規を脇に置いて撮影すると良い。

●現場での回収

フンはためフンの中から、新しいもの(軟らかいもの)を1〜3個拾う。古いフンは固くなって水洗いしにくいことがある。
長期調査の場合、目的は最近の食べ物の内容を知ることなので、いつのものかわからない古いフンは回収しない。

イヌのフンを拾うのと同じように、ポリ袋(小)★に手を入れてフンを拾い、ポリ袋を裏返してフンを包む。ポリ袋は1個所あたり1枚使う。複数のためフン場で拾う場合は、油性ペン★でメモをポリ袋に書き込んでおく(少なくとも場所名(各ためフン場にアルファベットを割り当てておくとよい)、フン個数を書く)。
ポリ袋は大きなものではなく、小さなものを使う。
回収後、電車や車などで長距離移動する場合は、悪臭が漏れないようにさらに別のポリ袋に入れておくこと。

●回収しなくていいもの

フンの周囲には種子が落ちていることもある。これは古いフンが分解され、種子だけが分解されずに残ったものである。このようなものは回収する必要はない。
種子を残しておけば、ためフン場からフンが消失した時にも場所を知る目印になる。

別途資料として使用するならば回収してもよいが、フンとは別のポリ袋に入れておくべきである。また、集計にも含めないこと。

●単独フンの場合

単独フンは本当にタヌキの物であるどうかの判別が難しいため、回収はしなくてもよい。

■3 水洗い、乾燥

●用意するもの

・茶こし★
柄があるもの

・割りばし★

・プラスチックまな板★
ぺらぺらの薄いタイプは持ち運びの時にこぼしてしまうおそれがあるので、持ち上げても変形しない厚みのあるタイプを使用すること。
フン1ヶ所あたりにまな板1枚を使用するのが目安(フン3個程度まで)。念のため予備があった方がよい。

・タッパー★
例えば、種子にこびりついた汚れを洗い落とす時に使う。

・薄型ゴム手袋

・チャック付きポリ袋★、小さなタッパー容器★、ラベルシール★
内容物の整理・保存に使う。

●水洗い

水洗いは原則としてフン回収の当日行う。そうしないと形がくずれて水洗いしにくくなることがあるためである(どろどろになって取り出しにくくなってしまう)。

当日に水洗い作業ができない場合は、冷凍庫に保管する。
冷凍庫に保管したものを取り出した時は、30分ほど放置して解凍する。

水洗いは水道の蛇口があれば室内でも室外でもどちらでもよい。

水洗い作業では必ずゴム手袋を着用すること。

フンを割りばしで1個ずつ(小さいならば複数個でも可)取り出し、水を流しながら茶こしでほぐしていく。
水は少量を流すこと。茶こしが水であふれそうになったら、茶こしを水流から離し、水量を調節する。

大きな内容物は茶こしから取り出して、水を入れたタッパーで洗う。
ビニール、紙など薄い物は水につけて広げていく。(この作業は厚手のゴム手袋ではやりにくいので素手でやらざるを得ないこともある。)

水洗い作業の終了は、「流れ出す水がにごっていないこと」「茶こしの残留物のにおいがくさくないこと」が目安。

水洗いが終わったら、茶こしの残留物を割りばしでつまんでプラスチックまな板に置いていく。この時、できるだけほぐしておくと、分別作業が楽になる(かたまりのままでは、乾燥後にほぐすのが大変)。
大きな物はわかりやすい位置に並べておくと後でわかりやすい。
水分が多い場合はティッシュペーパー・ちり紙などで吸い取ってもよい(吸い取らなくてもよい)。

●乾燥

乾燥は室内で行う。24〜48時間は放置して乾燥させる。
プラスチックまな板には採集日、採集場所その他のメモを書いた紙をテープや目玉クリップなどでとめる。
乾くと扇風機やエアコンの風でも吹っ飛んでしまうので置く場所には注意すること。

植物の種子は意外と水分を保持しているため、数日程度の乾燥ではポリ袋に入れるとカビが生えてしまうことがある。
種子はポリ容器(フタ無し)★などに入れて、日当たりのよい室内でさらに2週間以上放置して完全に乾燥させる。
完全に乾燥させると表面にしわがよるので、写真を撮るなら水洗い後数日内に行う。

●一時的な保存

保存は乾燥し終わってからすること。水分が残っているとカビが生えることがある。

乾燥後、すぐに分別しない場合は小さなタッパー容器★などに保管しておく。
容器には採集日、採集場所などを書いたラベルシール★などを貼っておく。そのままではラベルシールがはがれやすいので、セロテープ★などで上からしっかり固定した方がよい。
タッパー容器は分別後は洗って再利用できる。

■4 分別

分別は、肉眼→ルーペ→実体顕微鏡の順に行う。
実体顕微鏡は機材の準備が大変だったり、作業も時間がかかるので省略してよい。ルーペまでの作業でも8割ほどは判明できる。

●注意

乾燥したフンの内容物は非常に軽く、鼻息でも吹き飛んでしまう。分別作業時には必ずマスクを着用すること。
また、扇風機やエアコンの風でも動いてしまうので、風が絶対にあたらない場所で作業をすること。部屋の窓も開けないこと。
細かいものを長時間見続ける作業なので、休憩を適時とること。

●用意するもの

・マスク
安物で十分

・チャック付きポリ袋★
分別したものはそのつど小さなチャック付きポリ袋に入れていく。

・ラベルシール★
接着力が弱いので、セロテープなど★でしっかりとポリ袋に貼りつける。

・スチロールびん
スクリューキャップが望ましい。最も小さい5ml、10mlをよく使う。

・有柄針(ゆうへいしん)
先端が針状の棒。細かいものを選り分けるために使用する。「有柄針」でネット検索するとネットショップが見つかる。Amazonでも扱っている。2本あった方が良い。

・ピンバイス+極細の展翅針
顕微鏡作業では有柄針は太すぎる場合がある。その場合、ピンバイス(小型のドリルの柄)に極細の展翅針を取り付けたものを使用すると良い。1本あれば良い。
展翅針は、志賀昆虫普及社の有頭シガ昆虫針00号を推奨する。
ピンバイスは0.3mm径の針を取り付けられるものを使用すること。ピンバイスの柄は重すぎても作業しにくいので、細いものの方がよいだろう。
宮本が使用しているピンバイスは、明工舎製作所の「MKS細長四ツ割#1」。製品番号は「F212310」または「12310」。時計修理用の工具なのだそうです。

志賀昆虫普及社のホームページ
展翅針は「昆虫針」のページに掲載されている。

[写真]有柄針(上)と展翅針を付けたピンバイス(下)

[写真]有頭シガ昆虫針00号(太さ0.3mm)。100本セットです。

・ピンセット
ピンセットは安物では先端が大きすぎて微小なものがつかめない。先端が針のように細いものを使用しなければならない。
宮本が使っているのは、幸和ピンセット工業(KFI)の「K-29」という製品。Amazonでも購入できる(「KFI K-29」で検索する)。
ピンセットも2本あった方がいい。細かい選り分け作業は有柄針よりもピンセットの方が向いている。
志賀昆虫普及社のホームページには使えそうなピンセットが複数掲載されているが、まだ試したことがないので私からは何もアドバイスできない。それぐらい微妙な道具なのである。
もっと良いピンセットの情報があれば教えてください。

[写真]ピンセットK-29

・スタンドルーペ
スタンドルーペとは、ルーペを台座に固定したタイプのものである。レンズは大きいほど使いやすい。作業のために両手を使うことが多いのでスタンドルーペを使うことが望ましい。
推奨するのは、倍率2倍のスタンドルーペ。レンズ直径は10cmほどあると視野が広く見やすい。安価な商品もあるので購入しやすい(Amazonで2000円以下の商品もある)。

[写真]スタンドルーペ

・実体顕微鏡
下記「実体顕微鏡による分別」を参照のこと。

●肉眼による分別

肉眼で正体が明らかなものは、ルーペや顕微鏡を使わなくても分別できる。
種子や羽毛、羽軸、大きな昆虫断片などは肉眼で判別できる。

フンの内容物は、くっついていたりからまっていたりしている。それをほぐすためには有柄針(ゆうへいしん)2本を使う。有柄針を両手にもってほぐしていく。

内容物を取り出す時は、指でつまめないものがほとんどなのでピンセットを使う。

●ルーペによる分別

肉眼で見分けられないものは、スタンドルーペで拡大して分別する。作業の方法は肉眼での場合と同じ。

頭部に固定して使うヘッドルーペというものもある。メガネに取り付けるタイプも含む。メガネに取り付けるタイプは、メガネが重くなるので使いにくい。また、頭にバンドで装着するタイプも、バンドがずれるのが気になると作業しにくく感じるかもしれない。

ルーペは倍率が上がるとレンズが小さくなってしまい、視野が狭くなる。また、ピントの合う距離(レンズと対象との距離)が短くなる。例えば、高倍率のヘッドルーペだと、顔を対象に近づけなければならなくなり、やや使いづらい。
倍率5倍のルーペを使うぐらいなら実体顕微鏡を使った方が作業は楽だろう。

●実体顕微鏡による分別

さらに小さなものの分別には実体顕微鏡を使用する。実体顕微鏡とは、観察対象をそのまま観察するので「実体」と呼ばれる。倍率は10〜30倍程度で低倍率である。
ちゃんとしたものを買うと10万円以上になる。

顕微鏡での作業はかなり集中力と根気を必要とするし、時間もかかる。顕微鏡での分別は省略しても良い。
ただし、顕微鏡でなければ見えないものもある。羽毛の羽枝・小羽枝の構造、体長2mm以下のアリのパーツなどである。一度は顕微鏡で内容物を観察することをお勧めする。

▶製品例

安価な製品としてはニコンビジョン社の「ファーブル」シリーズがある。Amazonでも扱っている。

ファーブルミニは照明装置が無いが、十分に明るい場所なら照明装置は不要である。
ファーブルフォト、ファーブルフォトEXはデジカメを接続できるが、対応機種が限定されているので事前に確認すること。
ファーブルシリーズは安価で小型であるので初心者でも使いやすい。欠点は、倍率が20倍固定であること。フンの内容物分別には10倍程度が作業しやすいし、時には40倍ぐらいでじっくりと見てみたい時もある。

理想的には、可変倍率(10〜40倍程度、ズーム機能)、カメラ接続用の鏡塔、透過照明などがあると良い。(メカニカルステージも写真撮影には便利。)
実体顕微鏡では写真撮影ができる製品を選んだ方がいい。どのカメラに対応しているか、どうやってカメラを接続するかなど事前の検討が必要である。
価格は最低でも10万円ぐらいからとなる。

▶分別の方法

フンの内容の分別作業は、なるべく低倍率(8〜10倍程度)で行う。視野が広いからである。
もちろん、微小なものはズームアップしてよく見るべし。

内容物の選り分けには有柄針を使う。実体顕微鏡での作業ではより細い「ピンバイス+極細の展翅針」も使う。

▶動物学・植物学の知識

フンの内容物は種子を除けばどれも細かな断片で、元の形のままということはまれである。そのため、わずかな手がかりからその正体を見極めなければならない。(特に動物の場合は)種名まで判明することはまれで、おおざっぱに「甲虫目」程度しかわからないことが多い。
それでも各種の動物、植物の形態を知っておくと判別の役に立つ。以下ではタヌキ(とハクビシン)のフンからよく出てくるものを紹介する。

・昆虫、無脊椎動物

最もよく現れるのは甲虫目。脚や腹、前翅が多い。軟らかい後翅も出てくる。アリの断片もよく出る(ほぼ丸ごと出ることも)。他には、セミの幼虫、直翅目(バッタ、コオロギ)、カメムシ、ハチなども出てくる。まれに鱗翅目(チョウ、ガ)の口吻が出てくることも。
昆虫については、分類と形態についての知識が一通りあった方がいいだろう。
昆虫以外の無脊椎動物では、ムカデの足が出てくる。これに似たゲジ、ヤスデ、ダンゴムシの形態も知っておくとよいだろう。

・脊椎動物

小さな骨、その断片が出てくる。ただし、これだけで種名を判別するのは非常に困難。可能性としては、ネズミ、モグラ、ヒキガエル、鳥が主な候補になる。

・鳥

羽毛、羽軸はよく出てくる。ただし、非常に小さなもので、種名を判別することはまず不可能。特徴的な色模様があれば別だが、そういう例にはまだお目にかかったことはない。

・植物

果実の種子はよく出てくるので知識は必要。だが、果実の種子を紹介する書籍やWEBコンテンツはほとんどなく、調べるのが難しい。日頃から果実の種子を集めたり、現場付近の果実をよく探したり、といったことも必要となる。

●最終的な保管

種類別に分別し、チャック付きポリ袋★に入れる。
ポリ袋には採集日、採集場所、物体の名称などを書いたラベル★を貼っておく。

大きめの昆虫断片など、チャック付きポリ袋ではつぶれてしまいそうなものは、スチロールびんに保管する。スチロールびんはフタがスクリュー式のものを推奨。長期間調査を行う場合は、コストを下げるためにもスチロールびんをまとめ買いしておくとよい。

余ったもの(分類不能なもの)は大きめのスチロールびんや小さなタッパー容器★、あるいはチャック付きポリ袋に入れて保存する。タッパーはかさばるので、よほど量が多い時以外は使わない方がいい。

これらは日付ごと、あるいは場所ごとに大きめの封筒に入れて保管する。封筒にも、採取日付、場所などを書くこと。

■5 撮影

「分別」とは別項目にしているが、実際は分別しながら撮影も行っていく。特に顕微鏡作業レベルの小さなものは、取り出したりしまったりするのが非常に面倒であるし、紛失のリスクも高くなるので、分別と撮影は同時進行した方が良い。

●用意するもの

・デジタルカメラ
近接撮影機能(マクロ撮影機能)があること。最短撮影距離は10cm以下であること。3倍以上のズーム機能もほしい。豪華なデジカメである必要はなく、コンパクト型でも十分な機能を持つものはある。
顕微鏡に接続するためのデジカメその他の機材については「顕微鏡での写真撮影」の項も参照のこと。

・定規
撮影する時に対象物の横に並べる。
大きすぎると作業(特に顕微鏡作業)の邪魔になるので、小さいもの(15cm程度以下)を推奨する。

●大きなものの写真撮影

大きさがおおよそ1cm以上のものは普通にデジカメで撮影する(顕微鏡は使わない)。
デジカメはマクロモード(近接撮影)で撮る。最短撮影距離は10cmで十分である。できればズーム側で撮ると画像のゆがみが少なくなる。

昼間の屋外の日陰で撮ると、シャッター速度も十分確保できるので失敗が少ない。屋内だとフラッシュを使わざるを得ないが、近接撮影でのフラッシュ光は強すぎる。日陰で撮るのは直射日光で強い影ができないようにするため。
ホワイトバランスが理解できる人なら事前に設定しておく方がいい(自動設定でもかまわないが、後でPhotoshopなどで色調補正が必要になるだろう)。
定規を並べる、あるいは方眼紙(5mm方眼ぐらいが見やすい)の上に置いて撮るなど大きさがわかるようにして撮る。

風には注意すること。

ルーペを通して写真を撮ると、色にじみが発生しやすい。普通にマクロモードで撮るか、顕微鏡で撮った方がいい。

●顕微鏡での写真撮影

一般的な実体顕微鏡での撮影方法を説明する。
ファーブルフォトの場合は取り扱い説明書を読んでほしい。

▶用意するもの

・カメラを接続できる3鏡塔型の実体顕微鏡

・カメラ接続キット(接眼レンズ含む)

・デジタルカメラ
顕微鏡に接続するにはレンズが小さい方が良い(そのためコンパクト型を選択することになるだろう)。
電源を入れてもレンズがせり出してこないタイプが安全かもしれない。鏡塔に接続する場合、せり出したレンズが鏡塔にぶつかることがあるためである。

▶あれば便利な物

・メカニカルステージ
位置の微調整をする台。必須ではないが、あればかなり便利。

・リモートスイッチ(またはリモコン)
レリーズのこと。レンズ交換型一眼レフデジカメならオプション品がたいていあるが、コンパクトデジカメには無いことがほとんど。

実体顕微鏡のオプションはいろいろあるので、ホームページやカタログなどで検討してほしい。

▶撮影方法

具体的な撮影方法は長くなるのでここでは書かない。経験者の撮影方法を参考にしたり、試行錯誤しながらやり方を考えてほしい。

顕微鏡撮影ではピントを合わせることが難しいため、場合によってはマニュアルフォーカスを使った方が良いこともある。ただし液晶モニタでピントを合わせるのは困難かもしれない。また、小型のデジカメはマニュアルフォーカスができないものがあるかもしれない。

▶簡易写真撮影

デジカメを接眼レンズにくっつけて撮影する、という簡単なやり方。レンズの小さなコンパクトデジカメを使用すること。
ズーム機能がある携帯電話・スマートフォン付属のカメラでも可能だと思われるので、持っているならば試してみるべし。倍率は3〜4倍程度あった方がいい。
シャッターを押す時にブレるのが気になるならば、セルフタイマー撮影をすると良い。

●写真データの整理

写真データの整理は忘れないうちにする。
パソコンでは、写真管理ソフトを使った方がいいだろう。説明をつけられるので後で確認するのに便利である。採取日、採取場所、対象物の説明などを記録しておくこと。

■6 集計

※この項、未完成。

フンの内容物はExcelなど表計算アプリケーションに記録する。

昆虫や種子は種名を特定できる場合がある。そのようなものは独立項目として扱う。

数を正確に数えることはあまり重要ではない。例えば昆虫1頭を食べた場合、それは複数の断片となってフンに含まれるからである。1個のフンからとんでもない数の種子が現れることもある。分別の手間を考えると、それをすべて数える必要はない。
集計のひとつの提言として、「計数は20まで数える。それ以上はすべて「999」と記入する」というやり方も考えられるだろう。

最終的な集計では「出現率」で表す。

出現率(%)=(当該内容物が含まれていた回数)÷(調査回数)×100

ひとつのためフンを1回調べたならば、「調査回数=1回」とする。フンの個数は関係ない。
(フンの個数が増えると出現率は上がってしまうので、「新しいフンを1〜3個回収する」というルールで条件をそろえることにするわけである。)

大きな分類として、動物性、植物性、人間由来物に大別する。
人間由来物とは、生ゴミや人工物や人間が与えたもの、持ち込んだもの(自然にはないもの)である。人工物とは例えば輪ゴムやビニールなどである。動物性、植物性であっても、明らかに人間由来のものならば人間由来物として扱う。例えば、東京都23区ではリンゴ樹木はまずありえない。フンの中からリンゴの種子が出てきたならば、それは人間が与えたもの、野鳥のエサ、生ゴミなどと推理され、人間由来物と見なすことができる。

■7 文献

●東京タヌキ探検隊!のホームページ

http://tokyotanuki.jp

●書籍「ニッポン里山探検隊シリーズ1 哺乳類観察ブック」

絵・文:熊谷さとし(発行:人類文化社)、2001年

出版社が倒産したとかで現在入手困難。
日本の各種哺乳類について、観察方法や標本の作り方などを解説した実用的な本。
フンの水洗い方法はp39に書かれている。コップなどに入れた水の中でフンをほぐし、茶こしでこす、というもの。

●書籍「タヌキまるごと図鑑」

著:盛口満、大日本図書、1997年

「子ども科学図書館」シリーズの1冊で、小学校中学年以上向き。36ページの薄い本ではあるがタヌキの生態を一通り解説している。
p10にフンの水洗い方法について書いてあるが、やはり「(コップの)水でとかして、ザルでこす」とある。ザルだとちょっと取りこぼしが出てくるような気もするが…。


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