Yahoo!ニュースから来られる方が多いようですが、このページだけ読んでも東京タヌキの全体像の把握は難しいと思います。トップページからもぜひお読みください。
また、タヌキなどの目撃情報を収集しています。
連絡先などの詳細はこちらのページをご覧ください。
対象地域:東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県
対象動物:タヌキ、ハクビシン、アライグマ、アナグマ、キツネ、イタチ(野生の哺乳綱食肉目)
※無断転載禁止
執筆:宮本 拓海 (NPO法人 都市動物研究会)
2009年1月
・宮本(一部、NPO都市動物研究会ら)による東京都23区内でのタヌキの目撃情報の集計と分布について報告する。
・今回の集計情報の総件数は2006年〜2008年の334件。ただし、前回2007年7月分とは集計方法が異なるので同一視はできない。
・目撃分布のメッシュ地図からは、前回同様に北西側に偏った分布傾向が読み取れる。
宮本らによる報告書「東京都23区内のタヌキの生息分布(2007年7月版)」[文献1]では、初めて東京都23区でのタヌキの詳細な分布が明らかにされた。これは書籍「タヌキたちのびっくり東京生活 都市と野生動物の新しい共存」[文献2]でも解説している。
タヌキの目撃情報の収集はその後も引き続き行われた。2006年以降は情報の収集量も増え、さらに精度を増すことができた。
今回は2006年〜2008年の目撃情報の集計結果を報告する。
収集された目撃情報は、フォーマットに従ったテキスト・ファイルの形で整理されている。整理する際、複数の目撃情報を1件にまとめることなどがある。そのルールは次のようにしている。
1. 原則として、1つの目撃情報を1件として扱う。
2. 同じ目撃者が同じ場所で長期間目撃している場合は、1件として数える。例えばタヌキが住宅の庭に来る場合や、ネコのエサやり場に来る場合がこれにあたる。
3. 毎年同じ場所で目撃が繰り返される場合は、年ごとに1件として扱う。例えば、宮本が継続して定点観察している場所では、2006年から2008年の毎年営巣が行われていることが確認されている。このような場合は各年を1件とし、計3件として集計している。
4. 同じ個体(または同じ家族)であると推測される場合でも、場所・日時・目撃者が異なっていれば目撃情報別に個別に扱う。ただし、場所・目撃者が同一で日時の間隔が1ヶ月以内であれば同一目撃として扱う。
5. 位置情報・年があいまいな場合は集計していない場合がある。例えば「丁目」すらわからない場合は集計していない。
6. タヌキかハクビシンか確定できない場合は集計していない。
7. 伝聞情報(いわゆる「人から聞いた話」)は日時や場所があいまいなことが多く、そのような情報は今回は集計していないか、あるいはデータベースに記録すらしていない。5〜7の条件に当てはまり、データベースに記録されながら今回集計されなかった件数は約10件ある。場所が不明確なことが主な理由である。
整理の結果、2006年〜2008年の目撃情報は334件となった。2006年は81件、 2007年は120件、 2008年は133件である。
今回は目撃情報数がほぼそのまま件数となっている。前回2007年7月版では目撃情報をかなり整理しているため、今回の結果と単純比較はできないことには注意が必要である。
情報源の分類は以下の通りである。
宮本メール 216宮本 22NPO 19佐々木 38ホームページ 30メディア 5その他 4
宮本メール=宮本がホームページ(tokyotanuki.jp、旧 ikimonotuusin.com)で情報収集を呼びかけ、メールで寄せられた情報。
宮本=宮本が直接確認した情報。または聞き取りなどで収集した情報。
NPO=都市動物研究会のアンケート調査で得られた情報。または都市動物研究会あてにFAXなどで送られてきた情報。
佐々木=佐々木洋(NPO都市動物研究会・理事長、プロ・ナチュラリスト)が直接確認した情報。または聞き取りなどで収集した情報。
ホームページ=インターネット上のホームページ(ブログを含む)に掲載されていた情報。収集は宮本が担当。
メディア=新聞、テレビで紹介された情報。
その他=今回は2008年7月〜8月の国立科学博物館の展示「皇居のタヌキとその生態」で紹介された、皇居内での4件の情報のこと。
前回と比べると宮本がメールで得た情報の割合がかなり多くなっている。これはメールの数が増えた結果でもあるが、NPO都市動物研究会や佐々木洋氏からの新規情報がほとんどなかったためである。また、ネット検索でのホームページの情報収集も効率が悪いためあまり行っていない。
各区毎の件数を多い順に並べると次のようになる。
練馬区 |
55
|
板橋区 |
53
|
杉並区 |
42
|
文京区 |
30
|
世田谷区 |
30
|
中野区 |
28
|
新宿区 |
25
|
北区 |
16
|
豊島区 |
13
|
足立区 |
11
|
渋谷区 |
10
|
千代田区 |
9
|
港区 |
2
|
目黒区 |
2
|
大田区 |
2
|
葛飾区 |
2
|
台東区 |
1
|
江東区 |
1
|
荒川区 |
1
|
江戸川区 |
1
|
中央区 |
0
|
墨田区 |
0
|
品川区 |
0
|
合計 |
334
|
面積当たりの目撃件数を多い順に並べると次のようになる。
区 件数 面積 件数/面積文京区 30 11.31 2.65中野区 28 15.59 1.80板橋区 53 32.17 1.65新宿区 25 18.23 1.37杉並区 42 34.02 1.23練馬区 55 48.16 1.14豊島区 13 13.01 1.00北区 16 20.59 0.78千代田区 9 11.64 0.77渋谷区 10 15.11 0.66世田谷区 30 58.08 0.52足立区 11 53.20 0.21目黒区 2 14.70 0.14台東区 1 10.08 0.10港区 2 20.34 0.10荒川区 1 10.20 0.10葛飾区 2 34.84 0.06大田区 2 59.46 0.03江東区 1 39.80 0.03江戸川区 1 49.86 0.02中央区 0 10.15 0墨田区 0 13.75 0品川区 0 22.72 0合計 334 617.01 0.54面積はkm2。東京都ホームページによる。
これらのデータの解説は後述する。参考までに、東京都23区外の情報の件数は以下の通りである。
東京都多摩地区(23区以外の全域) 12神奈川県 3埼玉県 3千葉県 4
分布を可視化するために、目撃地点をメッシュ地図にプロットする作業を行った。
地図の仕様は次の通り。・座標系は世界測地系を採用する。
・メッシュは約2km×約2kmに相当する。
正確には、東西方向に90秒、南北方向に60秒で近似している。基準点は、区切りのいい北緯35度45分、東経139度45分(荒川区と北区の境界付近)。
・目撃位置の詳細が不明であるため誤差のあるプロットもある。誤差の最大は約500m。大半は「番地」よりも詳しい位置が判明しており、中には誤差0mの例も少なくない。「番地」レベルでの誤差は約50〜200mで、これは予想されるタヌキの行動範囲内に収まる。そのため「番地」レベルの位置情報が把握できれば実用上は十分である。完成したメッシュ地図は次の通り。
それぞれの目撃情報には興味深いものも含まれる。それらをいくつか紹介する。(今回集計された334件を対象とする。)
・死亡例
死亡したタヌキの目撃例は11件あった。内2件は2008年7月〜8月の国立科学博物館の展示「皇居のタヌキとその生態」で紹介されたもので、皇居内でのものである。自動車にひかれたと思われる例は5件あった。実際にはもっと多数のタヌキが交通事故死していると考えられる。
目撃例の内1件では宮本が死体を埋め、後日頭骨を回収している。・ためフン
タヌキのフンの例は、詳細がはっきりしない場合も含めて6件あった。この内3件では現場に行きフンの一部を回収している。3件中1件は1回限りの回収だったが、2件では継続してフンを回収している(いずれも2008年秋から開始し、本稿執筆時点でも継続中)。フンは水洗処理後に内容物を乾燥保管している。時間がとれないため内容物の分析はほとんど進んでいない。
フン情報の少なさは、住宅地でのフン発見の難しさを表してもいる。おそらくほとんどは気づかれないか、他の動物(イヌやネコ)のフンとしてすぐに片づけられてしまうのだろう。「タヌキのためフン」というものが知られていないために見逃されていることが多いのではないかと推測される。
ためフン場がある場所の特徴は、私が現場で見た3件のいずれも民家の壁際だった。その壁は窓が少ないか、窓があまり利用されておらず、タヌキにとっては安全を確保しやすい状況のようだ(壁があれば周囲360度ではなく半分の180度だけに注意をすればいいから)。・疥癬症、脱毛症状
何らかの脱毛症状が見られた例は10件あった。ただし、不明瞭な写真画像から判断した例も含まれる。タヌキの脱毛症状は一般にはヒゼンダニによる疥癬症とされるが、これらすべてが疥癬症であるかどうかはわからない。他の皮膚病の可能性も考えられるからである。
脱毛のタイプは、全身脱毛、一部のみ脱毛、広い範囲の毛がまばらに生えている、といった3種類があるようだ。・イヌとの遭遇
タヌキはイヌを明らかに避けている。私が直接観察をしていた場所では、散歩中のイヌが接近してくるとタヌキたちはあっという間にその場を去っていった。
タヌキが散歩中のイヌに遭遇する例は4件あった。詳しい状況をしらせてくれた例では、住宅地の見通しの悪い狭い交差点で散歩中のイヌとばったり遭遇している。その時タヌキはあわてて逃げたという。
また、1件では民家の庭に入り込んだところをイヌに吠えられて逃げ場を失った(その後、住民がなんとか逃がした)。これは非常に運が悪い珍しい例といえる。
今回の334件の情報には含まれていないが、「イヌが死んだら庭にタヌキが来た」という事例が2件ある。タヌキは人間生活をよく観察していることをうかがわせる。・ネコとの遭遇
タヌキは明らかにネコよりも強い。しかし、直接武力行使(けんか)に到る例は無いようだ。たいていはネコが逃げ出してしまう。
ネコのエサ場にタヌキが現れる例は19件あった。野良猫(地域ネコ)へのエサやり場、または民家の庭に置いた野良猫用のエサにタヌキが来る、というものである。
野良猫へのエサやり場にタヌキが現れる例では、期間は主に6月下旬から10月にかけてに限定される。タヌキの巣の近くでネコのエサやりを行っていると、エサにつられてタヌキ家族がぞろぞろと現れ、ネコのエサを横取りするのである。タヌキ親子が合計10頭近くも現れるので、エサ担当の人がびっくりしてしまうことになる。ネコはエサにありつけず、かといってタヌキを捕獲することもできないため(鳥獣保護法では野生哺乳類は原則捕獲禁止)、かなり困った事態になることがある。その解決方法についてはここでは述べないが、筆者にメールをいただければ個別に対応している。
これらとは別に、タヌキとネコが遭遇している例が2件あった。・河川落下
東京都区部の中小河川は河岸が垂直なコンクリート壁になっている、いわゆる「3面コンクリート張り」がほとんどである。そのような河川に何らかの理由によりタヌキが落下してしまい、あがれなくなった例が4件あった。その内の1件では少なくとも3ヶ月以上にわたってその状態のままになっていたようだ。人間が橋の上から投げ与える食べ物で生きていたらしい。同様な河川落下の例は他にもあると思われ、おそらく年に数件は発生しているのではないかと思われる。
・長距離の移動
タヌキの長距離移動能力についての事例報告は全国的にもほとんどないと思われるが、今回興味深い例が1件あった。江東区の唯一の目撃例は荒川河口部西岸付近のものである。この近辺でのタヌキの目撃例は皆無といってもいい状況で、定住個体群はいないと考えられる。最も近い個体群がいるのは荒川西岸をさかのぼった北千住(足立区)近辺となる。もしこの個体が北千住から移動してきたとすると、約10kmを歩いてきたことになる(途中で世代交代した可能性ももちろんある)。これは荒川河川敷という生息可能域が長距離にわたって連続しているために可能となった移動であろう。
以下で紹介する事例は詳細な統計をとったものではないが、関心が高いと思われるものである。
・遭遇場所の傾向
目撃情報の多くは道路上でのもので、次に多いのは民家の敷地内である。
一方、公園(緑地公園)、寺、神社、学校、企業敷地、河川敷、鉄道線路といった場所での目撃情報はなかなか集まらないのが現状である。これらの場所はタヌキが生息している可能性が高く、周辺での目撃情報から生息が確実視されている場所も少なくない。しかし、夜間は入れない、夜間の人口密度が極端に低い、照明が無いなどといった理由から目撃の機会が非常に少なくなってると推測される。また学校や企業敷地内での目撃では、近年の「情報保護」の流れからか、目撃情報を外部に報告することが自制されているのではないかと思われる節もある。このような場所は実は調査に適している面もあるため、ぜひご協力をお願いしたい。・目撃時刻の傾向
タヌキの目撃は夜の方が圧倒的に多い(夕方、明け方を含む)。タヌキは夜行性であるため当然の結果である。しかし、写真撮影には夜は不向きで、写真が撮影されるのはだいたい昼間の目撃である。
・高齢者の家が好き?
メールなどでは情報提供者の家族構成まではわからないが、内容や文体などでおおよその年齢の見当がつくこともある。そこから推理すると、タヌキが訪問する民家というのは高齢者宅が多いような印象がある。つまり、高齢者宅は居住人数が少なく、静かに生活しているため、タヌキにとっては安心して近づけると考えることができる。もっとも、広めの庭がある一軒家には若い人はなかなか住めないという事情の裏返しかもしれない。
23区の目撃件数は上位3区(練馬区、板橋区、杉並区)で約45%を占めている。これら3区では広範囲にタヌキが目撃されている。しかし、目撃件数だけでは他の地域を正しく把握することはできない。そのためには面積当たりの目撃件数を見た方が適切である。
面積当たりの目撃件数からは23区を3つのグループに分けることができる。・1km2当たりの目撃件数が1.0以上 … 広い範囲でタヌキが定住している(文京区〜練馬区)。
・1km2当たりの目撃件数が0.5以上 … 特定地域でタヌキが定住している(豊島区〜世田谷区)。
・1km2当たりの目撃件数が0.5未満 … タヌキの定住はほとんど無い(上記以外の区)。ただし、この指標は狭い面積の場合には適用できない。分布図のメッシュ(約4km2)程度以上なら当てはまるようである。また、このグループ分けも厳密ではなく、細かい地域事情も見ていく必要がある。
以下では面積当たりの目撃件数の多い順に各区の目撃情報・生息状況を述べていく。・文京区
意外に思われるだろうが、文京区でのタヌキ目撃は多い。しかもその範囲はほぼ全域に渡る。宮本は文京区の某地域で継続してタヌキ観察をしているため目撃情報が集まりやすいという事情があるが、それを除外しても目撃情報は多い。これは文京区に緑地が多いことの反映である。残念ながら区の行政や議会はこの「財産」を理解していないようで、緑地保全の意欲が低いことが懸念される(これは他の区でも多かれ少なかれ同様であるが)。
・中野区
中野区が第2位というのも意外に思われる方は多いだろう。しかもその目撃情報はほとんどが早稲田通りの北側に集中しており、その地域に限れば目撃密度はさらに上がる。この地域は「西武線グループ」 [文献2]に相当する。
・板橋区
板橋区では東端のJR板橋駅周辺を除くほぼ全域で目撃されている。特に、赤塚から東へ徳丸、西台、志村、小豆沢へと続く崖地周辺での目撃が多い。
・新宿区
新宿区での目撃は下落合周辺に集中している。この地域は宮本にとって情報が集めやすい地域であるという事情もある。丹念に情報を集めれば、生息数や行動範囲を明らかにすることが可能かもしれない。
・杉並区
杉並区での目撃は、妙正寺川、善福寺川、神田川といった河川流域に多い(妙正寺川流域には現在、遊歩道となっている井草川を含む。神田川流域には玉川上水も含む)。おおざっぱに言うと、杉並区の中央を分断するJR中央線近くでは目撃が少なく、その北側が「西武線グループ」、南側が「京王線グループ」に含まれる [文献2]。
・練馬区
練馬区はほぼ全域で目撃されている。ただし、西端付近での目撃情報が予想よりもかなり少ない。これはタヌキの存在が珍しくないため、わざわざ目撃情報を連絡しようとはしないからではないかと思われる。おそらくは板橋区並みの生息密度があると推測される。
・豊島区
豊島区での目撃は、目白崖線一帯、または西武池袋線付近に集中している。
・北区
北区での目撃は、北端と南端に分かれている。その間の赤羽、十条、王子といった地域は開発されすぎていてタヌキの生息には向かないようだ。
・千代田区
千代田区での目撃の多くは皇居とその周辺のものだが、永田町などでも目撃されている。
・渋谷区
渋谷区での目撃は山手通りの西側に集中している。目撃情報が極めて少ないが、明治神宮、新宿御苑(南側が渋谷区)にもタヌキが生息しているのは確実である。
・世田谷区
世田谷区での目撃数が少ないことを意外に思われる方がいるだろうが、これは目撃場所が多摩川流域(野川、仙川を含む)か小田急線近辺以北に限られているからである。
・足立区
足立区での目撃は荒川の西岸に集中しており、区の大部分を占める荒川東岸ではまばらにしか目撃されていない。荒川西岸は荒川・隅田川にはさまれた細長い土地で、荒川河川敷を主な生息地にしていると考えられる。
・目黒区
目黒区では北端と南端で目撃されている。
・台東区
台東区での目撃は上野公園一帯でのものだが、その北には谷中霊園もあり、ある程度の数が定住していると推測される。
・港区
港区では赤坂御用地でタヌキが定住しているのは確実だが、今回集計された情報は赤坂御用地外の場所である。
・荒川区
目撃は1件のみで、これは定住個体ではない可能性が高い。ただし、荒川区は西日暮里を含んでおり、その崖地(JR京浜東北線の西側)には生息があると推測される。
・葛飾区
葛飾区での目撃情報は少ないが、水元公園とその周辺にはある程度の数が定住していると推測される(「水元グループ」 [文献2])。
・大田区
大田区での目撃は田園調布近辺に限られている。ただし、多摩川河川敷近辺にも生息していると考えられる。
・江東区
江東区では定住の可能性は無い。唯一の目撃系は、荒川河川敷を南下してきたものと推測される。
・江戸川区
江戸川区では定住の可能性はほぼ無いが、南端で少数が定住している可能性はある。
・中央区
中央区では定住の可能性は無い。
・墨田区
墨田区では定住の可能性は無い。荒川河川敷では少数の生息があるかもしれない。
・品川区
品川区では定住の可能性は無い。
最初に、目撃情報の多さが生息数を反映しているとは限らないことを説明しておきたい。目撃分布図では目撃件数が11件以上の領域が7ヶ所ある(参考までに多い順に件数を並べると、18件、14件、13件、12件、12件、12件、11件)。これらの中には、たまたま情報が収集しやすい地域も含まれている。新宿区下落合がその一例で、ここでは地元住民がタヌキに注意を払っていること、宮本自身も現場の状況を理解していることなどから情報収集がやりやすい地域である。そのため他の地域よりも相対的に目撃件数が多くなっている。逆に、例えば河川敷では相対的に目撃される機会が少ないため、生息数の割に目撃情報は少ないものとなりがちである。
このようにさまざまな条件によって目撃されやすい地域とされにくい地域がある。つまり目撃が多いからといって実際の生息数が多いとは限らず、また逆の場合も同様である。それでも全体としては目撃件数は生息数に相関していると考えていいだろう。
今回の目撃分布図は、2007年7月の生息分布図 [文献1] と同じような傾向を示している。その分布傾向とは、タヌキは23区に均一に分布しているのではなく、北西で多く、その他の地域では少ないと述べることができる。
2007年7月と今回の2回の分布図とも同じような傾向であることから、目撃情報とその分布の信頼性は高いと言えるだろう。
タヌキの生息分布をさらに詳細に検討すると、7つのグループに分けることができる。この詳細は書籍「タヌキたちのびっくり東京生活」[文献2]のp102以降で解説している。地図はp104に掲載している他、口絵p4でも同じ地図を掲載している。
この分布グループ地図では「?」となっているグループがある。場所は文京区の大半を含む領域である。このグループを「?」としたのは隣接グループとのつながりが書籍執筆時にはっきりわからなかったためである。今回これまでの目撃情報を再検討した結果、この未解決グループの位置付けがはっきりした。・このグループは西の目白グループと連続している。
・書籍中の地図ではこのグループは北の荒川南岸グループにつながっているが、実際には分布はつながっていないと推測される。赤羽、十条、王子ではタヌキの生息は難しいと見られるためである。
・このグループと目白グループはひとつにまとめて、「目白文京グループ」と名付ける。分布グループの地図には他にも細かな修正が必要ではあるが、全体としてはこのまま使用しても問題ない。よって修正地図は今回は作製しない。
タヌキの目撃情報の収集は今後も引き続き行っていく予定である。皆さまのご協力をお願いします。
東京都23区のタヌキの分布については、今後も年1回の報告を続ける予定である。次回は2010年1月を予定している。今回と同じく直近の3年間が対象となる。現在、タヌキの目撃情報はテキスト・データとして管理している。しかし、総件数が500件にせまろうとしており、情報の取り出しが面倒になってきているのも確かである。データのフォーマット(書式)も確定していることもあり、データベース・アプリケーションへのデータ移行を2009年は行いたい。
宮本の東京タヌキの研究では他にも現地調査やフンの収集・分析なども行っているが、十分かつ迅速な研究活動が行えているわけではない。その根本的な原因は資金と時間が足りないことにある。この問題を解決し、研究環境を整えることは今後の課題だが、東京タヌキの研究は経済的な価値があるわけではないため支援を得られる見込みがないのが残念である。
東京都23区のタヌキ研究は地域の皆さまから寄せられる目撃情報に大きく依存している。これまで情報を寄せていただいた方々には真っ先に感謝しなければならない。情報提供者のご厚意により、センサーカメラの設置やためフンの回収、頭骨の回収などができた例もあり、タヌキ研究を進める上で非常に役に立っている。
データベースの一部はNPO法人・都市動物研究会および佐々木洋氏の貢献によるものである。最近は情報の交換ができていないのは残念なことである。そして最後に、東京タヌキたちの平穏な生活が続くことを祈りたい。
[文献1] 「東京都23区内のタヌキの生息分布(2007年7月版)」
http://tokyotanuki.jp/tanuki0707.htm
(WEBのみで公開)
NPO法人都市動物研究会、宮本 拓海(執筆担当)、佐々木 洋、木村 雅美
2007年[文献2] 「タヌキたちのびっくり東京生活 都市と野生動物の新しい共存」
著:宮本拓海、しおやてるこ、NPO法人都市動物研究会
技術評論社、2008年
本稿に掲載した地図は国土地理院発行の以下の数値地図を複製・使用した。
「数値地図5mメッシュ(標高) 東京都区部」
「数値地図50mメッシュ(標高) 日本II」数値地図からは「数値地図ビューア」を使用して基本図版を作成、さらにAdobe Photoshop CS3、Adobe Illustrator CS3で加工して完成図版を作成した。
「数値地図ビューア」は、片柳由明(品川地蔵)氏によるMacintosh用アプリケーション(シェアウェア)である。