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また、タヌキなどの目撃情報を収集しています。
連絡先などの詳細はこちらのページをご覧ください。
対象地域:東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府および隣府県
対象動物:タヌキ、ハクビシン、アライグマ、アナグマ、キツネ、イタチ(野生の哺乳綱食肉目)


東京都23区内のタヌキ、ハクビシン、アライグマの目撃情報の集計と分析(2011年1月版)

※無断転載禁止

執筆:宮本 拓海 (東京タヌキ探検隊!)
2011年1月


■概要

・宮本(東京タヌキ探検隊!)による東京都23区内でのタヌキ、ハクビシン、アライグマの目撃情報の集計を報告する。
・今回の集計期間は2008年〜2010年。タヌキは459件、ハクビシンは344件、アライグマは27件が含まれる。
・2010年はタヌキよりもハクビシンの目撃情報が多かった。ハクビシンはおそらくタヌキと同程度の数が生息していると推測される。ハクビシンの目撃件数が増加したので、集計の内容も精度が向上している。ハクビシンの分布はタヌキとやや違った傾向が見られる。
・アライグマは世田谷区北部、文京区〜豊島区で繁殖・定住の兆候がある。23区全体でも数十頭が生息している可能性がある。

■前文

 今年もタヌキ、ハクビシン、アライグマの目撃情報の集計を報告する。今回は2008年〜2010年の目撃情報の集計結果を報告する。
 報告書は2007年[文献1]、2009年[文献2]、2010年[文献3]に続き4回目となる。基本的には2009年の報告書の形式を踏襲しているが、数値等は当然アップデートされたものである。
 2010年はタヌキよりもハクビシンの目撃情報が多かったのが最大のトピックである。これによりハクビシンについてより詳細な分析が可能になった。


■2010年の事件

 目撃情報の報告の前に、2010年の東京タヌキ関係の事件を振り返る。
 2010年5月17日に朝日新聞と時事通信で報道されたのが「皇居でアライグマ捕獲」という事件だった。皇居での最初の目撃は2009年9月、捕獲されたのは2010年3月であった。実は2009年9月には東京タヌキ探検隊!にも皇居のすぐ外でのアライグマ目撃情報が届いている。どうやらほぼ同時期にアライグマの存在に気付いたことになるようだ。この事件については宮本によるホームページ「いきもの通信」に解説を掲載している[文献4]
 2010年8月12日の朝日新聞などの報道によると、8月10日、東京メトロ・霞ケ関駅通路でハクビシンが捕獲される事件があった。
 もうひとつは2010年11月5日に報道されたニュースである。これは11月4日に千代田区大手町のJXビル地下入り口からタヌキ1頭が入ってきたところを捕獲した、というものだった。このタヌキは皇居から移動してきた若い個体ではないかと思われる。これもホームページ「いきもの通信」に解説を掲載している[文献5]


■目撃情報の集計

 収集された目撃情報は、データベース・アプリケーション上で記録されている。記録する際、複数の目撃情報を1件にまとめることなどがある。そのルールは次のようになっている。

1. 原則として、1つの目撃情報を1件として扱う。
2. 同じ目撃者が同じ場所で繰り返し目撃している場合は、1件として数える。例えばタヌキが住宅の庭に来る場合や、ネコのエサやり場に来る場合がこれにあたる。
3. 毎年同じ場所で目撃が繰り返される場合は、年ごとに1件として扱う。例えば、宮本が継続して定点観察している場所では、2008年から2010年の毎年営巣が行われていることが確認されている。このような場合は各年を1件とし、計3件として集計している。
4. 同じ個体(または同じ家族)であると推測される場合でも、場所・日時・目撃者が異なっていれば目撃情報別に個別に扱う。
5. 位置情報・年があいまいな場合は記録しているが、集計はしていない。例えば「丁目」すらわからない場合である。
6. 伝聞情報(いわゆる「人から聞いた話」)は日時や場所があいまいなことが多く、そのような情報は集計していないか、あるいはデータベースに記録すらしていない。

■目撃情報の分布地図の仕様

 分布地図の仕様は次の通り。

・座標系は世界測地系を採用する。
・メッシュは約2km×約2kmに相当する。
 正確には、東西方向に90秒、南北方向に60秒で近似している。基準点は、区切りのいい北緯35度45分、東経139度45分(荒川区と北区の境界付近)。
・目撃位置の詳細が不明であるため誤差のあるプロットもある。誤差(誤差半径)の最大はタヌキでは600m。誤差500m超は5件。平均誤差は約30m。ハクビシンでは誤差の最大は1000mで、誤差500m超は3件。平均誤差は約30m。
 大半は「番地」よりも詳しい位置が判明しており、中には誤差0mの例も少なくない。「番地」レベルでの誤差は約50〜200mに相当し、これは予想されるタヌキの行動範囲内に収まる。そのため「番地」レベルの位置情報が把握できれば実用上は十分である。ハクビシンの行動範囲は不明だがタヌキよりも極端に広いとは考えにくい。


■タヌキの目撃情報の集計

 2008年〜2010年の目撃情報は459件となった。2008年は153件、2009年は169件、2010年は137件である。以前の報告書と数字が異なるのは、2010年に入ってからも前年までの目撃情報が寄せられたためである。
 情報源の分類は以下の通りである。

メール
425
宮本
16
ホームページ
9
メディア
7
その他
2

・メール=宮本がホームページ(東京タヌキ探検隊!tokyotanuki.jp)で情報収集を呼びかけ、メールで寄せられた情報。
・宮本=宮本が直接確認した情報。または聞き取りなどで収集した情報。
・ホームページ=インターネット上のホームページ(ブログを含む)に掲載されていた情報。
・メディア=新聞、テレビなどで紹介された情報。
・その他=2008年7月〜8月の国立科学博物館の展示「皇居のタヌキとその生態」で紹介された皇居内での1件の情報、他に手紙1件。

 このようにほとんどはメールによる情報である。ネット検索でのホームページ、ブログの情報収集は効率が悪いためほとんど行っていない。

 各区毎の目撃件数を多い順に並べると次のようになる。

練馬区
78
杉並区
73
板橋区
67
世田谷区
41
中野区
40
新宿区
33
文京区
27
北区
19
渋谷区
17
豊島区
17
千代田区
10
足立区
9
大田区
7
港区
4
台東区
4
葛飾区
4
目黒区
3
江戸川区
3
江東区
1
品川区
1
荒川区
1
中央区
0
墨田区
0
459

 目撃件数はこれまで同様、上位3区(練馬区、杉並区、板橋区)が突出して多く、合計で約48%に達する。順位は多少変動しているが、全体の傾向は前年から変わらない。

 面積当たりの目撃件数を多い順に並べると次のようになる。

件数
面積
件数/面積
中野区
40
15.59
2.57
文京区
27
11.31
2.39
杉並区
73
34.02
2.15
板橋区
67
32.17
2.08
新宿区
33
18.23
1.81
練馬区
78
48.16
1.62
豊島区
17
13.01
1.31
渋谷区
17
15.11
1.13
北区
19
20.59
0.92
千代田区
10
11.64
0.86
世田谷区
41
58.08
0.71
台東区
4
10.08
0.40
目黒区
3
14.70
0.20
港区
4
20.34
0.20
足立区
9
53.20
0.17
大田区
7
59.46
0.12
葛飾区
4
34.84
0.11
荒川区
1
10.20
0.10
江戸川区
3
49.86
0.06
品川区
1
22.72
0.04
江東区
1
39.94
0.03
中央区
0
10.17
0.00
墨田区
0
13.75
0.00
459
617.17
0.74

 面積はkm2。東京都ホームページによる。

 順位に変動はあるが、全体の傾向はやはり前年と同じである。おおざっぱには上位(1.0以上、中野区〜渋谷区)、中位(0.5以上1.0未満、北区〜世田谷区)、下位(0.5未満、台東区〜墨田区)に区分できる。

 参考までに、東京都23区外の目撃情報の件数は以下の通り。ただし、2010年の目撃件数のみで、自治体ごとの件数は省略している。

●東京都(23区以外)=12件
 八王子市、立川市、三鷹市、調布市、町田市、国分寺市

●埼玉県=3件
 さいたま市(見沼区、南区)、上尾市

●神奈川県=11件
 横浜市(旭区、神奈川区、金沢区、港北区、南区)、川崎市(宮前区、多摩区、麻生区)、横須賀市

●千葉県=2件
 千葉市(花見川区)、柏市

 ホームページや報告書では東京都23区を中心に扱っているためか、23区外からの情報は少ない。しかし、分布のつながりを知るためには欠かせない情報である。23区外での目撃情報もぜひお知らせいただきたい。これはハクビシンやアライグマ、アナグマ、キツネなどでも同様である。
 横浜市はタヌキ、ハクビシン、アライグマが広い範囲で目撃されている。横浜市も有数の大都市であるため、このような野生動物が生息しているのは意外に思われているようだが、丘陵地が連なる地形は自然環境がよく残っていて生存条件がそろっているといえる。東京都23区の比較対象として、横浜市および隣接する川崎市は興味深い地域である。

■タヌキの目撃分布図

 メッシュ地図を下に掲載した。
 これまで通り、北西部に偏った分布が確認できる。1メッシュ当たり目撃件数の最大は25件である。

■タヌキの目撃例の分析

 それぞれの目撃情報には興味深いものも含まれる。今回集計された情報を対象に紹介する。

・死亡例

 死亡したタヌキの目撃例は7件あった。自動車にひかれたと思われる例は0件だった。実際には交通事故死する例は少なくないと考えられる。

・ためフン

 タヌキのフンの例は、詳細がはっきりしない場合も含めて13件あった。

・疥癬症、脱毛症状

 何らかの脱毛症状が見られた例は37件あった。全目撃数に対する割合は約8%である。毎年同程度の割合なので、流行とは関係なく一定割合で発症しているようだ。地域もばらばらである。
 このうち昼間の目撃は18件あった。夜間は毛並みの確認までできないということもあるのだろう。また疥癬症だと裸同然の姿になるので、冬は暖かい昼間でないと活動できないのかもしれない。
 目撃月の最多は11月の7件、次いで1月の6件、8月の5件である。ただし母数が少ないため、これだけで季節との相関を推測するのは難しい。また、前述のように冬は昼間に活動する可能性が高いために発見率も高いのかもしれない。

・イヌとの遭遇

 タヌキがイヌに遭遇する例は19件あった。交差点の出合い頭など唐突に近距離で遭遇する場合、吠えられた場合はタヌキは慌てて逃げるが、ある程度の距離がある場合はすぐには逃げず、イヌと人間の様子をうかがう例もある。イヌがリードでつながれていることを見切っている節もある。イヌの方もあまり吠えないようにしつけられているのか、小型犬はタヌキを狩猟対象と見なさないのか(仲間と思っているのか?)あまり反応しない例がある。

・ネコとの遭遇

 タヌキとネコが遭遇する例は17件あった。この大半はエサがらみである。ネコ用に置いたエサを食べに来た例も含む。
 野良猫へのエサやり場にタヌキが現れる例は各地で発生していると推測されるが、ネコ担当者は肩身の狭い思いをしているせいか、あまり外部に助けを求めないようにも見える。ネコとタヌキのトラブルについては、筆者が個別に対応しているので、ぜひメールで知らせてほしい。

・河川落下

 河川落下は10件あった。内2件は地上と河床を行き来できる場所であるため、正確には「落下」ではない。
 河川落下事件で不思議なのは、タヌキが現れたり消えたりしたり、非常に長期間目撃されたりする例があることである。誤って転落したのではなく、排水管などを通って地上と行き来できている可能性が疑われる例もある。
 なお、タヌキ河川落下事件ではたいていの人が警察や消防に通報するが、これは正しくない。野生動物の行政の窓口は都道府県であり(東京都の場合は東京都環境局)、まずこちらに通報すべきである。

・目撃月

 グラフを下に掲載した。月日が不明な目撃例は集計していない。2〜5月に少なく、10〜1月に多い。秋に目撃が多いのは、その年生まれの若い個体が親から独立して遠くへ移動していくためあちこちで目撃される可能性が高くなるからだろう。この時期は過去に目撃例があまりない場所での目撃もよくあり、タヌキが遠くへ移動しているらしいことを裏付けている。前述の大手町の事件も11月であった。5月は出産直後の時期で、巣からあまり離れられないため目撃が少ないと推測される。冬に目撃が少ないのは活動が不活発になるからかもしれない。

・目撃時刻

 グラフを下に掲載した。時刻が不明な目撃例は集計していない。18時から24時の目撃が多いのはタヌキが夜行性であることの反映である。0時以降の目撃が少ないのは人間の活動があまりなく目撃機会が少ないためである(つまり「終電後」の時間なのである)。
 (目撃時刻は「20時ごろ」といったあいまいな場合も「20時」として集計した。そのためグラフにはいくらかの誤差が含まれる。これはハクビシンの場合も同じ。)
 参考までに東京の日出時刻は4時25分ごろ〜6時51分ごろ、日没時刻は16時28分ごろ〜19時01分ごろである。

・目撃頭数

 目撃情報のメールで書き忘れが多いのが目撃頭数である。そのような場合は返信メールで再確認するようにしている。有効件数は430件。
 目撃頭数が1頭のみの例は312件で、全体の約73%にあたる。2頭は88件、3頭以上は30件である。最大目撃頭数は11頭(内、幼獣9頭)。
 1頭の目撃が多いが、つがいでもいつも寄り添って行動しているわけではなく、少し離れた場所にいることもある。目撃が1頭であっても近くに他の個体がいた可能性は否定できない。

・目撃場所

 ここでの目撃場所とは、最初に目撃された位置のことである。例えば道路と民家敷地を行き来したとしても、最初の目撃場所が道路ならば「道路」と分類している。
 道路は224件、民家は115件、公園は28件、学校(教育施設)は12件、企業は12件、寺・神社は9件である。ただし、「民家」には「アパートやマンションの敷地、駐車場」が含まれる。「企業」にも「駐車場」が含まれる。
 上記と重複するが、「線路・踏切」は8件ある(線路・踏切への出入りを含む)。

・家屋侵入

「家屋侵入」とは、建物の内部に入り込むことである(民家だけでなくあらゆる建築物が対象)。
 家屋侵入は12件あった。1件はドライスペース(地下を掘り込んだ空間)への落下、1件は前述の2010年11月の大手町のJXビルの事件、他は床下への侵入である。
 その場所で出産したのではないかと思われる例が2件あるが、確実な証拠はない。


■ハクビシンの目撃情報の集計

 2008年〜2010年の目撃情報は344件となった。2008年は39件、2009年は146件、2010年は159件である。
 情報源の分類は以下の通りである。

メール
338
宮本
2
ホームページ
2
メディア
2

 これらには駆除業者や行政からの情報は含まれていない。
 2010年もハクビシンの目撃情報は増加し、タヌキの目撃情報数を上回った。

 各区毎の目撃件数を多い順に並べると次のようになる。

世田谷区
50
杉並区
33
新宿区
30
大田区
27
中野区
26
練馬区
24
文京区
20
豊島区
18
渋谷区
17
港区
14
目黒区
14
板橋区
12
足立区
12
北区
11
品川区
7
江戸川区
6
千代田区
5
中央区
4
江東区
4
葛飾区
4
台東区
3
荒川区
2
墨田区
1
344

 タヌキとハクビシンでは順位が異なっていることがわかる。タヌキよりもハクビシンの目撃情報が多い区も多い。ハクビシンは23区すべてで目撃されている。

 面積当たりの目撃件数を多い順に並べると次のようになる。

件数 面積 件数/面積
文京区
20
11.31
1.77
中野区
26
15.59
1.67
新宿区
30
18.23
1.65
豊島区
18
13.01
1.38
渋谷区
17
15.11
1.13
杉並区
33
34.02
0.97
目黒区
14
14.70
0.95
世田谷区
50
58.08
0.86
港区
14
20.34
0.69
北区
11
20.59
0.53
練馬区
24
48.16
0.50
大田区
27
59.46
0.45
千代田区
5
11.64
0.43
中央区
4
10.17
0.39
板橋区
12
32.17
0.37
品川区
7
22.72
0.31
台東区
3
10.08
0.30
足立区
12
53.20
0.23
荒川区
2
10.20
0.20
江戸川区
6
49.86
0.12
葛飾区
4
34.84
0.11
江東区
4
39.94
0.10
墨田区
1
13.75
0.07
344
617.17
0.56

 面積はkm2。東京都ホームページによる。

 タヌキと比べると、薄く広く分布していることがわかる。上位4区は隣接しており、この一帯に集中しているらしいことは次に示す目撃分布図からも読み取れる。ただし、これは後述するように人口密度が高いためとも考えられる(考察2を参照のこと)。タヌキでは上位の板橋区、練馬区の順位が低くなっている。目撃件数では世田谷区がトップだが、面積が広いため生息密度が特に高いわけではない。
 タヌキと同様に区分すると、上位(1.0以上、文京区〜渋谷区)、中位(0.5以上1.0未満、杉並区〜練馬区)、下位(0.5未満、大田区〜墨田区)となる。

 東京都23区外の目撃情報の件数は以下の通り。ただし、2010年の目撃件数のみで、自治体ごとの件数は省略している。

●東京都(23区以外)=10件
 八王子市、武蔵野市、三鷹市、府中市、小金井市、国分寺市、東久留米市

●埼玉県=0件

●神奈川県=4件
 横浜市(港南区、鶴見区、中区)、藤沢市

●千葉県=3件
 千葉市(中央区)、松戸市、栄町

■ハクビシンの目撃分布図

 メッシュ地図を下に掲載した。

 1メッシュ当たり目撃件数の最大は12件である。
 全体的にはタヌキと同じく、東に少なく、西に多く生息している。しかし、23区全体に広く分布していることがタヌキと異なる。タヌキの生息が少ない都心部、東部、海岸部でも目撃されている。逆に荒川や多摩川近辺での目撃は少ない。

■ハクビシンの目撃例の分析

・死亡例

 死亡例は6件あった。内3件は自動車にひかれたものと思われる。

・フン・尿

 フン・尿の例は5件あった。屋根やベランダにフンがあったケースが4件、天井裏にすみついて天井に尿の跡がついたケースが1件である。内1件はフンと思われる物体を回収し分析したが、ハクビシンのものであるという確証は得られなかった。
 フンを分析すれば、何を食べているかを知ることができる。しかし、ハクビシンのフンの回収はタヌキよりも難しい。気付く人が少ないからである。ハクビシンのフンの回収は非常に重要な課題なので、発見された場合はぜひ連絡してほしい。

・疥癬症、脱毛症状

 何らかの脱毛症状が見られた例は3件あった。ハクビシンは短毛であるため脱毛症状があっても目立たないのかもしれない。また、夜間の遠くからの目撃では脱毛症状はわからないだろう。

・イヌとの遭遇

 イヌに遭遇する例は19件あった。イヌの反応は何も関心を示さなかったり、吠えたりとさまざまである。イヌの個性によるものと考えていいだろう。中にはハクビシンに対して友好的な態度のイヌの例も1件あった。散歩中にイヌがハクビシンに気付く例は5件あった。

・ネコとの遭遇

 ネコに遭遇する例は11件あった。ネコがハクビシンの後を追う例が2件あった。ネコのエサを食べに来た例が2件あった。
 タヌキと比べると少ないのはハクビシンがネコや人間を警戒しているためかもしれない。邪魔がいない時に食べに来ているとも推測され、人間は気付いていないことも多いのではないだろうか。

・河川落下

 河川落下の情報はない。ハクビシンの運動能力ならば、垂直壁の鉄ハシゴを登ることなど容易なはずである。よって、河床から脱出できなくなることはないだろう。

・目撃月

 グラフを下に掲載した。 月日が不明な目撃例は集計していない。温暖期に多く見られ、タヌキとは違う傾向を示している。タヌキと違い出産時期も読み取ることができない。グラフらからはわかりにくいが、4月後半になると目撃情報が突然急増するという傾向がある。冬季は目撃が少ないため、ハクビシンも寒冷期は活動が不活発になるのかもしれない。

・目撃時刻

 グラフを下に掲載した。 時刻が不明な目撃例は集計していない。20〜23時に目撃は多い。昼間の目撃は少なく、タヌキよりも夜行性が強いようである。

・目撃頭数

 有効件数は315件。目撃頭数が不明の場合は算入していない。
 目撃頭数が1頭のみの例は269件で、全体の約85%にあたる。2頭は33件、3頭以上は13件である。最大は5頭。体格の違いから成獣2頭、幼獣3頭と判断された例がある。
 親子と思われる目撃例は2月、6月、10月、11月、12月にあるが、体格差は年齢ではなく個体差による可能性もある。それでも、タヌキの成獣・幼獣が区別できるのは5〜8月に限られているのに対し、ハクビシンでは出産・成長の状態がタヌキとはかなり異なっていることを示しているようである。ハクビシンは年2回出産するのか、出産期が非常に長いのかは不明である。
 6頭以上の目撃例がないことから、出産頭数はタヌキよりも少ないことが推測される。

・目撃場所

 道路は183件、民家は109件、公園は11件、企業は8件、学校(教育施設)は4件、寺・神社は0件である。ここでの目撃場所とは、最初に目撃された位置のことである。ただし、ハクビシンが電線上にいる場合は「道路」、民家の屋根の上ならば「民家」などと分類している。寺・神社が0件ではあるが、目撃場所近くに寺・神社がある例は少なくなく、巣やねぐらにしている可能性は否定できない。
 特殊な目撃場所については上とは別に集計している。塀・フェンスの上は90件、電線・電柱は79件、樹上は25件、屋根・屋上は23件、欄干・手すりは2件である。これらの数字は重複がある。例えば、電線から屋根に移動した、という場合は「電線」「屋根」の両方でカウントしている。
 電線・電柱の目撃は全体の約23%になる。なぜ電線のハクビシンを発見できたかについて理由をたずねたところ、「2階など上層階のベランダや窓から発見」が15件、「たまたま見上げて」が10件、「音がして」が3件、「カラスが騒いでいた」が3件、「イヌが気付いた」が2件、「視界に何か見えて」が2件、「鳴き声がして」が1件、「坂道なので目線が自然に上を向いていた」が1件だった。なお、ハクビシンが電線を走っていたという報告もいくつかある。橋の欄干を走っていたという報告もあり、ハクビシンの運動能力の高さがうかがえる。
 目撃例にはハクビシンが塀・フェンスを登る例もある。ネコの場合は一気に駆け上がるものだが、ハクビシンはほぼすべての例で一歩一歩よじ登っている。
 線路・踏切での目撃は3件ある。

・家屋侵入

 家屋侵入は13件だった。屋根裏・天井裏が8件、ベランダに現れた例が1件、集合住宅の入り口を通り抜けた例が1件、地下鉄駅構内が1件(冒頭で紹介した事件)、その他建物内にいた例が2件である。
 ハクビシンは屋根裏・天井裏に入り込むことがある動物である。もっと多くの侵入例があってもいいはずだが、少なすぎるように思える。侵入された場合、駆除業者や行政への連絡が優先されるためかもしれない。
 あるいは、空き家などを選んで侵入していることも考えられる。他にも寺の本堂や神社の本殿は屋根が高く、使用頻度も少ないためハクビシンがすみついても気づかれていない可能性がある。
 ところで家屋侵入ではないが、昼間、公園の樹上で寝ているところを目撃された例がある。侵入するばかりではなく、自然環境下でも普通にねぐらを得られるのだろう。


■アライグマの目撃情報の集計

 2008年〜2010年の目撃情報は27件となった。2008年は4件、2009年は11件、2010年は12件である。
 情報源は、メール22件、ホームページ2件、メディア2件、宮本による聞き取り1件である。
 目撃された区は、文京区5件、世田谷区5件、豊島区3件、練馬区3件、千代田区2件、中野区2件、その他中央区、港区、新宿区、大田区、杉並区、北区、足立区が各1件である。千代田区の内1件は前述の皇居で捕獲された報道のものである。
 アライグマはタヌキなどと見間違える可能性が高い。4件は証拠の確実性がやや欠けるが、その他は映像があったり、尾のしま模様をはっきりと確認しており確実な情報である。
 電線を歩いていた例が1件ある。

 昨年は世田谷区北部でのアライグマの繁殖の可能性を指摘した。今回のデータからは文京区から豊島区にかけての地域でも目撃が多いことがわかり、繁殖・定住の可能性がある。

 アライグマの詳細な分析ができないのは目撃件数が少なすぎるためである。しかし目撃件数の比較から計算すると、23区内にアライグマは数十頭のレベルで生息していると推測できる。東京タヌキ探検隊!では情報収集を続けることでアライグマの動向の監視を続けていく予定である。


■アナグマ、キツネの目撃情報

 2010年はアナグマとキツネの目撃情報はなかった。


■考察

 タヌキについてはこれまで同様の傾向が続いている。特定の地域で目撃が急増することはなく、安定して生息しているようである。
 ハクビシンの目撃例が前年よりさらに増加したことはかなり意外だった。宮本は東京都23区のタヌキの推定生息数は約1000頭としており[文献6]、単純に比較すると、23区内にもハクビシンは1000頭規模が生息していると推測できる。少なくとも数百頭のレベルでの生息は確実である。
 ハクビシンの目撃例を分析すると、ハクビシンが森林の樹上生活に適応した動物であることが明らかである。ハクビシンは電線を歩き、電柱や樹木や塀を登る。住宅地では電線が縦横に張られており、これはハクビシンにとっては森林の樹上と似たような環境に見えることだろう。都市部でもハクビシンが生活できるのは電線のおかげと言えるかもしれない。
 タヌキとハクビシンの生息分布は似ているが異なる部分もある。これは2010年の報告書でも指摘している[文献7]。目撃情報がさらに蓄積できればより正確な分布を知ることができるだろう。次回2012年の報告書ではあらためて生息分布の傾向分析を行う予定である。

 アライグマ、アナグマ、キツネについては情報不足で十分な分析ができない。
 ただし、アライグマについては情報収集は重要な課題である。日本各地でアライグマ被害が発生しているが、東京都ではまだ緊急性の高い問題とはとらえられていない。しかし、前回、今回の報告からもわかるようにアライグマは23区内にも確実に生息しており、安全地帯とは言えない。今のうちから何らかの対策を準備する必要があるだろう。東京タヌキ探検隊!の情報収集はアライグマ対策に貢献できると考える。

■考察2 目撃件数と人口密度の関係

 タヌキとハクビシンの目撃情報の分布図を見ると、新宿区、文京区、中野区、豊島区にまたがる地域で目撃件数が多いことがわかる。これはこの地域での生息数が多いことを意味しているのだろうか。
 主にメールに頼った情報収集の場合、「人口が多いほど報告者も多い」であろうことは容易に想像できる。人口密度が高ければ目撃情報件数も多くなるのではないか、という仮説がたてられるのである。そこで、23区の人口密度を以下に示す。

人口 人口密度
中野区
313,714
20,123
豊島区
259,320
19,932
荒川区
199,845
19,593
目黒区
268,750
18,282
墨田区
241,839
17,588
文京区
198,244
17,528
新宿区
314,956
17,277
台東区
172,060
17,069
板橋区
533,529
16,585
北区
334,156
16,229
杉並区
539,179
15,849
品川区
359,319
15,815
世田谷区
861,977
14,841
練馬区
709,598
14,734
渋谷区
203,649
13,478
江戸川区
667,686
13,391
葛飾区
430,239
12,349
足立区
637,119
11,976
大田区
680,182
11,439
江東区
447,352
11,201
中央区
112,992
11,110
港区
212,667
10,456
千代田区
44,623
3,834
8,742,995
14,166

 人口は東京都ホームページによる。
 中野区は平均の1.42倍、文京区は1.24倍など人口密度が高いことがわかる。この地域では人口密度の高さが目撃件数の多さと相関関係にあることが推測できる。目撃件数が多いからといって、タヌキやハクビシンの生息数がこの地域で突出して多いと単純に言うことはできないのである。
 逆に人口密度が高いにもかかわらず目撃数が非常に少ない荒川区や墨田区は、生息数が極めて少ないことが確実と言える。

■今後の課題

 目撃情報の収集は今後も引き続き行っていく。ホームページでは「東京タヌキ」を名乗っているが、タヌキだけではなく、ハクビシン、アライグマ、アナグマ、キツネなども平等に扱っている。野生の陸上食肉目ならなんでも情報をしらせてほしい。2011年からは大阪府および近府県の目撃情報の収集も開始した。東京と大阪では分布がどう違うのか興味深い。皆さまのご協力をお願いします。

 タヌキの研究ではフンの分析やセンサーカメラの設置など、より詳細な調査研究を今年も行っていく予定である。ただし相変わらず資金と時間の問題により十分な活動ができない状態である。
 ハクビシンについてはタヌキ同様「住宅地で何を食べているのか」が大きな謎である。そのためフンの回収と分析が重要な課題だが、フンの情報はなかなか得られない。屋根や屋上の動物のフンはハクビシンのものである可能性が高い。発見された方はぜひ連絡をしてほしい。

 東京都23区のタヌキなどの目撃情報の報告は次回は2012年1月を予定している。今回と同じく直近の3年間が対象となる。


■謝辞

 この調査研究は地域の皆さまから寄せられる目撃情報によって成り立っている。情報を寄せていただいた多くの方々にまず感謝をしなければならない。また、スポンサーをはじめ、フンの回収やセンサーカメラの設置など特別のご協力をいただいた方々にも深く感謝する。

 そして都会でしっかりと生活し、時々私たちの前に姿を見せてくれるタヌキやハクビシンたちにも感謝する(残念ながらアライグマは外来生物なので感謝はできない)。

■文献

東京タヌキ探検隊!のホームページ
http://tokyotanuki.jp

[文献1] 「東京都23区内のタヌキの生息分布(2007年7月版)」
 http://tokyotanuki.jp/tanuki0707.htm
 NPO法人都市動物研究会、宮本 拓海(執筆担当)、佐々木 洋、木村 雅美、2007年

[文献2] 「東京都23区内のタヌキの目撃分布(2009年1月版)」
 http://tokyotanuki.jp/tanuki0901.htm
 宮本 拓海、2009年

[文献3] 「東京都23区内のタヌキ、ハクビシン、アライグマの目撃情報の集計と分析(2010年1月版)」
 http://tokyotanuki.jp/docs/tanuki1001.htm
 宮本 拓海、2010年

[文献4] いきもの通信 Vol.485(2010/5/23)
[東京タヌキ探検隊!・今日の事件]皇居でアライグマ捕獲
 http://ikimonotuusin.com/doc/485.htm
 宮本 拓海

[文献5] いきもの通信 Vol.504(2010/12/26)
[東京タヌキ探検隊!・今日の事件]東京・大手町タヌキ捕獲事件
 http://ikimonotuusin.com/doc/504.htm
 宮本 拓海

[文献6] 「タヌキたちのびっくり東京生活 都市と野生動物の新しい共存」
 著:宮本拓海、しおやてるこ、NPO法人都市動物研究会
 技術評論社、2008年

[文献7] 東京都23区内のタヌキ、ハクビシンの生息分布(2010年1月版)
 http://tokyotanuki.jp/docs/tanuki1001b.htm
 宮本 拓海、2010年

■使用地図

本稿に掲載した地図は国土地理院発行の以下の数値地図を複製・使用した。
「数値地図5mメッシュ(標高) 東京都区部」
「数値地図50mメッシュ(標高) 日本II」

数値地図からは「数値地図ビューア」を使用して基本図版を作成、さらにAdobe Photoshop CS3、Adobe Illustrator CS3で加工して完成図版を作成した。
「数値地図ビューア」は、片柳由明(品川地蔵)氏によるMacintosh用アプリケーション(シェアウェア)である。


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