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タヌキなどの目撃情報を常時収集しています。
連絡先などの詳細はこちらのページをご覧ください。
対象地域:全国
対象動物:タヌキ、ハクビシン、アライグマ、アナグマ、キツネなど(野生の哺乳綱食肉目)

東京都23区内のタヌキ、ハクビシン、アライグマの目撃情報の集計と分析(2012年1月版)

※無断転載禁止

執筆:宮本 拓海 (東京タヌキ探検隊!)
2012年1月


■概要

・宮本(東京タヌキ探検隊!)による東京都23区内でのタヌキ、ハクビシン、アライグマの目撃情報の集計を報告する。
・今回の集計期間は2009年〜2011年。タヌキは 454 件、ハクビシンは 558 件、アライグマは43件が含まれる。
・2011年もタヌキよりもハクビシンの目撃情報が多かった。3年間の合計でもハクビシンの方が多くなった。
・アライグマはいくつかの地域で繁殖・定住の兆候がある。23区全体でも数十頭が生息している可能性がある。
・タヌキの目撃情報は2010年から一部の区で急減した。その地域の個体群が大激減したとは考えにくい。生息数は多いが、その情報が東京タヌキ探検隊!まで伝わらない「パラドックス」が発生していると推測される。今回の報告書を読むにあたってはこの点は特に留意しなければならない。
・今回は東京都23区以外の全国の目撃情報数についても簡単に報告する。東京都23区以外の目撃情報数はまだ非常に少なく、分析できる規模ではない。

■前文

 今年もタヌキ、ハクビシン、アライグマの目撃情報の集計を報告する。今回は2009年〜2011年の目撃情報の集計結果を報告する。東京タヌキ探検隊!名義での報告書は今回が3回目となる。

 文中に「DBN1234」のように記されている数字は、東京タヌキ探検隊!データベースで目撃情報に割り振られた通し番号である。この番号はデータベースに記録された順であり、実際の目撃年月日の順ではない。後の検証をやりやすくするためにできるだけこの報告書にも記載していく。


■2011年の事件

 目撃情報の報告の前に、2011年の東京都23区でのタヌキ関係の事件を振り返る。
 東京に限らず全国的に大きな影響を与えることになったのが2011年3月11日に発生した東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)であった。東京都23区は震度5強であったため大きな被害は発生しなかった。それでもその後の計画停電等により交通や流通が一時期混乱した。タヌキあるいはその他の野生動物については特に影響はなかったはずである(放射性物質の影響については完全に情報が不足している)。
 2011年6月21日にフジテレビ、6月23日にテレビ朝日の番組で中野区の民家の床下で子育てするタヌキ家族が紹介された(DBN1535)。
 ニコニコニュースによると、2011年10月24日に国会議事堂(千代田区)近くでタヌキが目撃された (DBN1806)[文献1]。
 2011年11月25日、渋谷区神宮前のマンションでタヌキ2頭が警察により捕獲された (DBN1856) [文献2]。特に問題が発生していない状況での野生動物の捕獲は鳥獣保護法違反のはずだが、この点については警察は何も説明していない。また捕獲されたタヌキは多摩地区に放獣されたという。このタヌキは明治神宮から来たことが確実なのに、遠く離れた場所に放獣するのは問題があると指摘しなければならない。
 年に数回タヌキについての報道があるのは毎年のことである。報道される確率が高いのは、成長した子どもたちがぞろぞろと巣から現れる6月〜7月、あるいはタヌキたちが新たな生活場所を求めて遠くへ移動する10月〜12月の時期である。
 ハクビシン、アライグマについては特にニュースは得られなかった。


■目撃情報の集計

 収集された目撃情報は、データベース上で記録されている。記録する際、複数の目撃情報を1件にまとめることなどがある。そのルールは次のようになっている。

原則として、1つの目撃情報を1件として扱う。
同じ目撃者が同じ場所で繰り返し目撃している場合は、1件として数える。例えばタヌキが住宅の庭に来る場合や、ネコのエサやり場に来る場合がこれにあたる。
毎年同じ場所で目撃が繰り返される場合は、年ごとに1件として扱う。例えば、毎年営巣が行われていることが確認されている場合は各年を1件として集計している。
同じ個体(または同じ家族)であると推測される場合でも、場所・日時・目撃者が異なっていれば目撃情報別に個別に扱う。

 せっかくの目撃情報がデータベースに記録されない場合がある。位置情報・年があいまいな場合は原則として記録されない。位置情報が「丁目」すらわからない場合はまず記録されない。
 伝聞情報(いわゆる「人から聞いた話」)も日時や場所があいまいなことが多く、多くは記録していない。

■目撃情報の分布地図の仕様

 分布地図の仕様は次の通り。

・座標系は世界測地系を採用する。
・メッシュは約2km×約2kmに相当する。
 正確には、東西方向に90秒、南北方向に60秒で近似している。基準点は、区切りのいい北緯35度45分、東経139度45分(荒川区と北区の境界付近)。
・目撃位置の詳細が不明であるため誤差のあるプロットもある。誤差(誤差半径)の最大はタヌキでは500m。誤差100m以上は18件。平均誤差は約22m。ハクビシンでは誤差の最大は1000mで、誤差100m以上は13件。平均誤差は約20m。アライグマでは誤差の最大は800mで、誤差100m以上は4件。平均誤差は約54m。
 大半は「番地」よりも詳しい位置が判明しており、中には誤差0mの例も少なくない。「番地」レベルでの誤差は約50〜200mに相当し、これは予想されるタヌキの行動範囲内に収まる。そのため「番地」レベルの位置情報が把握できれば実用上は十分である。ハクビシン、アライグマの行動範囲は不明だがタヌキよりも極端に広いとは考えにくい。


■タヌキの目撃情報の集計

 2009年〜2011年の目撃情報は454件あった。2009年は175件、2010年は152件、2011年は127件である。以前の報告書と数字が異なるのは、2011年に入ってからも前年までの目撃情報が寄せられたためである。年々目撃情報数が減少しているが、これは特定地域での目撃情報数の減少に関わることであり、詳細は後述する。
 情報源の分類は以下の通りである。

メール
432
宮本
13
メディア
6
ホームページ
2
その他
1

・メール=宮本がホームページ(東京タヌキ探検隊!)で情報収集を呼びかけ、メールで寄せられた情報。
・宮本=宮本が直接確認した情報。または聞き取りなどで収集した情報。
・ホームページ=インターネット上のホームページ(ブログを含む)に掲載されていた情報。
・メディア=新聞、テレビなどで紹介された情報。
・その他=手紙1件。

 これらには駆除業者からの情報や行政から聞き取った情報は含まれていない。
 このようにほとんどはメールによる情報である。Googleの「ニュース検索」は全国の新聞、テレビメディアを一通り網羅しているので便利だが、東京都23区に限るとタヌキ等のニュースはほとんどなく、あまり役に立っていない。

 各区毎の目撃件数を多い順に並べると次のようになる。

杉並区
90
世田谷区
66
練馬区
56
板橋区
51
新宿区
38
中野区
38
文京区
21
渋谷区
16
北区
15
千代田区
14
豊島区
14
大田区
10
足立区
9
台東区
4
港区
3
葛飾区
3
江戸川区
3
品川区
1
目黒区
1
荒川区
1
中央区
0
墨田区
0
江東区
0
454

 これまで上位だった練馬区と板橋区が大きく数を減らしている。この詳細については後述する。それを除けば全体の傾向は変わらない。

 面積当たりの目撃件数を多い順に並べると次のようになる。

件数
面積
件数/面積
杉並区
90
34.02
2.65
中野区
38
15.59
2.44
新宿区
38
18.23
2.08
文京区
21
11.31
1.86
板橋区
51
32.17
1.59
千代田区
14
11.64
1.20
練馬区
56
48.16
1.16
世田谷区
66
58.08
1.14
豊島区
14
13.01
1.08
渋谷区
16
15.11
1.06
北区
15
20.59
0.73
台東区
4
10.08
0.40
足立区
9
53.20
0.17
大田区
10
59.46
0.17
港区
3
20.34
0.15
荒川区
1
10.20
0.10
葛飾区
3
34.84
0.09
目黒区
1
14.70
0.07
江戸川区
3
49.86
0.06
品川区
1
22.72
0.04
中央区
0
10.18
0.00
墨田区
0
13.75
0.00
江東区
0
39.94
0.00
454
617.18
0.74

 面積はkm2。東京都ホームページによる。

 順位に変動はあるが、全体の傾向はやはり例年と同じである。おおざっぱには上位(1.0以上)、中位(0.5以上1.0未満)、下位(0.5未満)に区分できる。
 上位と下位に2極分化しているのが特徴であり、「タヌキがいる地域」と「タヌキがほとんどいない地域」がはっきりと分かれていると言える。

■タヌキの目撃分布図

 メッシュ地図を下に掲載した。
 これまで通り、北西部に偏った分布が確認できる。1メッシュ当たり目撃件数の最大は23件である。

■タヌキの目撃例の分析

 それぞれの目撃情報には興味深いものも含まれる。今回集計された情報を対象に紹介する。

・死亡例

 死亡したタヌキの目撃例は8件あった。自動車にひかれたと思われる例は2件だった (DBN1338、1523)。実際には交通事故死する例は少なくないと考えられる。

・ためフン

 タヌキのフンの例は、詳細がはっきりしない場合も含めて8件あった。

・疥癬症、脱毛症状

 何らかの脱毛症状が見られた例は46件あった。ただし3件は同じ場所であり同一個体群であることは確実(DBN1225、1266、1274)、また別の2件も目撃日と場所が近接しており同じ個体である可能性が高い(DBN1873、1874)。
 全目撃数に対する割合は約10%である。毎年同程度の割合なので、流行とは関係なく一定割合で発症しているようだ。地域もばらばらである。
 このうち昼間の目撃は27件あった。夜間は毛並みの確認までできないということもあるのだろう。また疥癬症だと裸同然の姿になるので、冬は暖かい昼間でないと活動できないのかもしれない。
 目撃月の最多は1月、5月の7件、次いで11月、12月の6件である。他の月は1〜3件であった。前述のように冬は昼間に活動する可能性が高いために発見率が高いのかもしれない。そのため本当に冬に発症率が高いかどうかはわからない。全体では最も目撃が少ない5月に脱毛症状個体の目撃率が高い理由は不明である。

・イヌとの遭遇

 タヌキがイヌに遭遇する例は31件あった。交差点の出合い頭など唐突に近距離で遭遇する場合、吠えられた場合はタヌキは慌てて逃げるが、ある程度の距離がある場合はすぐには逃げず、イヌと人間の様子をうかがう例もある。イヌがリードでつながれていることを見切っている節もある。イヌの方もあまり吠えないようにしつけられているのか、小型犬はタヌキを狩猟対象と見なさないのか(仲間と思っているのか?)あまり反応しない例がある。もちろんイヌが興奮する例もある。
 室内のイヌが、見えないはずの屋外のタヌキに反応する例もある。

・ネコとの遭遇

 タヌキとネコが遭遇する例は24件あった。この大半はエサがらみである。ネコ用に置いたエサを食べに来た例も含む。
 宮本が直接観察した例では、タヌキの方がネコよりも強い。しかしネコがタヌキを威嚇したり、ちょっかいを出すこともあった。目撃情報でも、タヌキが強かったり、ネコがタヌキを追いかけたりといった例がある。全体としてはタヌキの方が優勢のようだ。
 野良猫へのエサやり場にタヌキが現れる例は各地で発生していると推測されるが、ネコ担当者はいろいろと肩身の狭い思いをしているせいか、あまり外部に助けを求めないようにも見える。ネコとタヌキのトラブルについては、筆者が個別に対応しているので、ぜひメールで知らせてほしい。

・河川落下

 河川落下は6件あった。内2件は善福寺川の地上と河床を行き来できる場所であるため、正確には「落下」ではない(DBN721、1217)。善福寺川は一部区間(杉並区荻窪〜杉並区大宮)で護岸が斜面になっており、タヌキなら簡単に登り降りができる。
 なお、タヌキ河川落下事件ではたいていの人が警察や消防に通報するが、これは正しくない。野生動物の行政の窓口は都道府県であり(東京都の場合は東京都環境局)、まずこちらに通報すべきである。

・目撃月

 グラフを下に掲載した。月日が不明な目撃例は集計していない。秋に目撃が多いのは、タヌキが巣から離れて遠くへ移動していくためあちこちで目撃される可能性が高くなるからだろう。この時期は過去に目撃例があまりない場所での目撃もよくあり、タヌキが遠くへ移動しているらしいことを裏付けている。前述の神宮前の事件がこれにあたる。6月に目撃が増えるのは、子どもたちが巣からぞろぞろと現れる時期にあたるからである。子どもたちは集団で現れ、昼間も活動するので目撃されやすい。
 5月は出産直後の時期で、巣からあまり離れられないため目撃が少ないと推測される。

・目撃時刻

 グラフを下に掲載した。時刻が不明な目撃例は集計していない。18時から24時の目撃が多いのはタヌキが夜行性であることの反映である。0時以降の目撃が少ないのは人間の活動があまりなく目撃機会が少ないためである(つまり「終電後」の時間なのである)。
 (目撃時刻は「20時ごろ」といったあいまいな場合も「20時」として集計した。そのためグラフにはいくらかの誤差が含まれる。これはハクビシン、アライグマの場合も同じ。)
 参考までに東京の日出時刻は4時25分ごろ〜6時51分ごろ、日没時刻は16時28分ごろ〜19時01分ごろである。

・目撃頭数

 有効件数は431件。目撃頭数が1頭のみの例は310件で、全体の約72%にあたる。2頭は89件、3頭は16件、4頭以上は16件である。最大目撃頭数は10頭(内、幼獣は少なくとも7頭)(DBN913)。
 1頭の目撃が多いが、つがいでもいつも寄り添って行動しているわけではなく、少し離れた場所にいることもある。目撃が1頭であっても近くに他の個体がいた可能性は否定できない。

・目撃場所

 ここでの目撃場所とは、最初に目撃された位置のことである。例えば道路と民家敷地を行き来したとしても、最初の目撃場所が道路ならば「道路」と分類している。
 道路は232件、民家は124件、 企業は25件、 公園は13件、寺・神社は10件、学校(教育施設)は9件である。ただし、「民家」には「アパートやマンションの敷地、駐車場」が含まれる。「企業」にも「駐車場(店舗用、コインパーキング)」が含まれる。
 上記と重複するが、「線路・踏切」は13件ある(線路・踏切への出入りを含む)。ある駅ではタヌキがすみついているらしい(DBN1556、1690、1778)。
 塀の上にいるのを目撃された例があるが、これはハクビシンかもしれない(DBN1656)。新聞記事に掲載された目撃情報であるため、記事の通りタヌキとしてデータベースには記録した。他には高所(塀の上、電線の上、樹上、欄干の上など)での目撃情報はない。

・家屋侵入

 「家屋侵入」とは、建物の内部に入り込むことである(民家だけでなくあらゆる建築物が対象)。
 家屋侵入は12件あった。1件は2010年11月の大手町のJXビルの事件(DBN1190)、1件は開けた入り口からの侵入(床下ではない) (DBN1543)、1件はガレージの中への侵入 (DBN1561)、他は床下への侵入である。
 その場所で出産した例が5件ある。

・子育て

 タヌキが出産・子育てをしたという情報は24件あった。これは「同時に3頭以上の目撃」というだけでなく、明らかに親子の体格差があること、巣の場所がおおよそ絞り込めることも条件としている。
 出産直後に幼獣を保護した例が1件(DBN1437、5月中旬)、おそらく出産直後に人間が存在に気付いた例が1件ある(DBN1448、4月下旬)。その他の目撃例(幼獣の成長の程度からの推測)と合わせても東京都23区内でのタヌキの出産時期は4月後半〜5月前半であると推測できる。


■ハクビシンの目撃情報の集計

 2009年〜2011年の目撃情報は558件あった。2009年は149件、2010年は175件、2011年は234件である。 2011年もハクビシンの目撃情報は増加し、タヌキの目撃情報数をはるかに上回った。
 情報源の分類は以下の通りである。

メール
552
宮本
2
ホームページ
2
メディア
2

 これらには駆除業者からの情報や行政から聞き取った情報は含まれていない。

 各区毎の目撃件数を多い順に並べると次のようになる。

世田谷区
79
新宿区
58
杉並区
54
大田区
51
練馬区
40
中野区
37
文京区
30
豊島区
25
渋谷区
20
港区
19
目黒区
19
足立区
18
品川区
17
板橋区
17
江戸川区
15
北区
13
葛飾区
10
中央区
9
千代田区
8
台東区
7
江東区
7
墨田区
3
荒川区
2
558

 タヌキとハクビシンでは順位が異なっていることがわかる。タヌキよりもハクビシンの目撃情報が多い区も多い。ハクビシンは23区すべてで目撃されている。

 面積当たりの目撃件数を多い順に並べると次のようになる。

件数
面積
件数/面積
新宿区
58
18.23
3.18
文京区
30
11.31
2.65
中野区
37
15.59
2.37
豊島区
25
13.01
1.92
杉並区
54
34.02
1.59
世田谷区
79
58.08
1.36
渋谷区
20
15.11
1.32
目黒区
19
14.70
1.29
港区
19
20.34
0.93
中央区
9
10.18
0.88
大田区
51
59.46
0.86
練馬区
40
48.16
0.83
品川区
17
22.72
0.75
台東区
7
10.08
0.69
千代田区
8
11.64
0.69
北区
13
20.59
0.63
板橋区
17
32.17
0.53
足立区
18
53.20
0.34
江戸川区
15
49.86
0.30
葛飾区
10
34.84
0.29
墨田区
3
13.75
0.22
荒川区
2
10.20
0.20
江東区
7
39.94
0.18
558
617.18
0.90

 面積はkm2。東京都ホームページによる。

 タヌキと比べると、薄く広く分布していることがわかる。上位4区は隣接しており、この一帯に集中しているらしいことは次に示す目撃分布図からも読み取れる。ただし、これは人口密度が高いためとも考えられる [文献3]。目撃件数では世田谷区がトップだが、面積が広いため生息密度が特に高いわけではない。
 タヌキと同様に区分すると、上位(1.0以上)、中位(0.5以上1.0未満)、下位(0.5未満)となる。タヌキは上位と下位がはっきりと分かれているが、ハクビシンでは中位も多く、これによっても薄く広く分布していることが確認できる。

■ハクビシンの目撃分布図

 メッシュ地図を下に掲載した。

 1メッシュ当たり目撃件数の最大は16件である。
 全体的にはタヌキと同じく、東に少なく、西に多く生息している。しかし、23区全体に広く分布していることがタヌキと異なる。タヌキの生息が少ない都心部、東部、海岸部でも目撃されている。逆に荒川や多摩川近辺での目撃は少ない。

■ハクビシンの目撃例の分析

・体色

 ハクビシンの胴体部分の体色は淡色型、暗色型、赤褐色型があることが知られている。東京タヌキ探検隊!では目撃情報メールに添付されている写真画像などから体色も記録してきた。また、2011年からは目撃情報提供者に対して体色についても知らせてくれるよう呼びかけている。ただ、夜間の目撃が多いため、体色がはっきりしない場合が多い。
 淡色型は34件、暗色型は3件、赤褐色型は3件が記録されている。まだ件数が少ないため、今後の情報蓄積が必要である。
 これらの3つの型の比率は地域によって異なる可能性がある。全国的な比較ができるようになれば興味深い結果が出てくるかもしれない。

・死亡例

 死亡例は6件あった。内5件は自動車にひかれたものと思われる。
 ハクビシンは電線を歩くことができるため交通事故とは無縁そうに見えるが、広い道路では横断する電線が無い場所も少なくなく、路上を横断せざるを得ない。3件は4車線以上の大通りであった(DBN626、659、1600)。
 ハクビシンはいつも電線など高所を歩くのではなく、地上で目撃されることが最も多い。そのため住宅街で交通事故にあうこともある。

・フン・尿

 フン・尿の例は10件あった。屋根やベランダにフンがあったケースが7件、天井裏にすみついて天井に尿の跡がついたケースが1件(DBN829)、自動車の屋根の上が1件(DBN1447)であった。内2件ではフンを回収し分析した(DBN1306、1447)。フンの内容物は植物種子のみで、他には正体が判別できるものは出てこなかった。タヌキならば昆虫類の断片や雑草が出てくることが多いことと比較すると、ハクビシンは極端な果実食なのかもしれない。ハクビシンの食べ物については後述する。
 フンを分析すれば、何を食べているかを知ることができる。しかし、ハクビシンのフンの回収はタヌキよりも難しい。気付く人が少ないからである。ハクビシンのフンの回収は非常に重要な課題なので、発見された場合はぜひ連絡してほしい。
 ハクビシンのフンは小型犬やネコのものに大きさ、形は似ている。2階より上のベランダや屋根などネコがまず来ない場所のフンはハクビシンのものと疑った方がよい。フンにカキノキ(柿)やビワなどの種子が含まれるのもハクビシンのフンの特徴である。

・疥癬症、脱毛症状

 何らかの脱毛症状が見られた例は2件あった (DBN436、1201)。ハクビシンは短毛であるため脱毛症状があっても目立たないのかもしれない。また、夜間の遠くからの目撃では脱毛症状はわからないだろう。

・イヌとの遭遇

 イヌに遭遇する例は33件あった。イヌの反応は何も関心を示さなかったり、吠えたりとさまざまである。イヌの個性によるものと考えていいだろう。中にはハクビシンに対して友好的な態度のイヌの例もあった。イヌが電線上のハクビシンに気付く例もあった(DBN1252)。

・ネコとの遭遇

 ネコに遭遇する例は26件あった。これにはネコのエサを食べに来た例4件を含む。
 ネコがハクビシンの後を追う例は2件あった(DBN496、958)。ハクビシンがネコを追う例は1件あった(DBN1698)。その両方を目撃した例も1件あった(DBN549)。ハクビシンとネコはいい勝負なのかもしれない。

・河川落下

 河川落下の情報はない。ハクビシンの運動能力ならば、垂直壁の鉄ハシゴを登ることなど容易なはずである。よって、河床から脱出できなくなることはないだろう。

・目撃月

 グラフを下に掲載した。 月日が不明な目撃例は集計していない。温暖期に多く見られ、タヌキとは違う傾向を示している。タヌキと違い出産時期も読み取ることができない。
 冬季は目撃が少ないため、ハクビシンは寒冷期は活動が不活発になるのかもしれない。

・目撃時刻

 グラフを下に掲載した。 時刻が不明な目撃例は集計していない。20〜23時に目撃は多い。昼間の目撃は少なく、タヌキよりも夜行性が強い。

・目撃頭数

 有効件数は531件。目撃頭数が1頭のみの例は449件で、全体の約85%にあたる。2頭は58件、3頭は16件、4頭以上は8件である。最大は5頭 (DBN1026)。体格の違いから親子と判断された例が複数ある。
 体格の違いから親子と思われる目撃例は18件あった。月別では2月=1件、5月=1件、6月=1件、8月=2件、10月=6件、11月=4件、12月=3件。時期がばらついているため、出産の時期が長いことが推測される(タヌキの出産時期が1ヶ月ほどの間に限定されるのとは対照的である)。一方で10月〜12月に目撃が多いため夏から秋にかけて出産することが多いのではないかとも推測できる。
 6頭以上の目撃例がないことから、出産頭数はタヌキよりも少ないことが統計的に推測される。

・目撃場所

 道路は297件、民家は185件、公園は15件、企業は15件、学校(教育施設)は8件、寺・神社は3件、線路敷地が1件である。ここでの目撃場所とは、最初に目撃された位置のことである。ただし、ハクビシンが電線上にいる場合は「道路」、民家の屋根の上ならば「民家」などと分類している。寺・神社が少ないが、目撃場所近くに寺・神社がある例は少なくなく、巣やねぐらにしている可能性は否定できない。
 特殊な目撃場所については上とは別に集計している。塀・フェンスの上は145件、電線・電柱は117件、 屋根・屋上・ベランダは57件、 樹上は51件、壁・窓・雨どいは9件、欄干・手すりは3件である。これらの数字は重複がある。例えば、電線から屋根に移動した、という場合は「電線」「屋根」の両方でカウントしている。
 電線・電柱の目撃は全体の約21%になる。なぜ電線のハクビシンを発見できたかについて理由をたずねたところ、「2階など上層階のベランダや窓から発見」が21件、「たまたま見上げて」が15件、「視界に何か見えて」が9件、「鳴き声がして」が6件、「カラスが騒いでいた」が6件、「音がして」が4件、「イヌが気付いた」が2件、「坂道なので目線が自然に上を向いていた」が2件だった。なお、ハクビシンが電線を走っていたという報告が複数ある。橋の欄干を走っていたという報告もあり(DBN553)、ハクビシンの運動能力の高さがうかがえる。
 目撃例にはハクビシンが塀・フェンスを登る例もある。ネコの場合は一気に駆け上がるものだが、ハクビシンはほぼすべての例で一歩一歩よじ登っている。

 ハクビシンの目撃例を分析すると、ハクビシンが森林の樹上生活に適応した動物であることが明らかである。ハクビシンは電線を歩き、電柱や樹木や塀を登る。住宅地では電線が縦横に張られており、これはハクビシンにとっては森林の樹上と似たような環境に見えることだろう。都市部でもハクビシンが生活できるのは電線のおかげと言えるかもしれない。
 ただし、ハクビシンは「完全な樹上生活者」ではないことにも注意されたい。ハクビシンは地面上で目撃されることが最も多いのである。

・行動範囲

 2011年3月から7月にかけて、新宿区のある地域で5件のハクビシン目撃情報があった。この周辺ではハクビシンの目撃は無く、孤立した個体(群)と考えられる。またこの内4件は日中の目撃である。夜行性のハクビシンが昼間目撃されるのは珍しく、これらが同一個体である可能性が高い。これらの目撃地点で最も離れていた距離は約300mだった。サンプル数が少なく、同一個体であるかどうかも不明だが、参考値として紹介しておく。

・家屋侵入

 家屋侵入は16件だった。ベランダに現れた例は含まない。屋根裏・天井裏が10件。その内9件は民家、1件は文化財(古い建物)(DBN829)であった。他には集合住宅の入り口を通り抜けた例が1件(DBN1079)、地下鉄駅構内が1件(DBN1069)、オフィスビル1階(DBN1573)に侵入した例が1件である。
 ハクビシンは屋根裏・天井裏に入り込むことがある動物である。もっと多くの侵入例があってもいいはずだが、目撃情報数が少なすぎるように思える。侵入された場合、駆除業者や行政への連絡が優先されるためかもしれない。
 あるいは、空き家などを選んで侵入していることも考えられる。他にも寺の本堂や神社の本殿は屋根が高く、人間の使用頻度も少ないためハクビシンがすみついても気づかれていない可能性がある。
 ところで家屋侵入ではないが、昼間、緑地公園の樹上で寝ているところを目撃された例がある(DBN1104、1684)。侵入するばかりではなく、自然環境下でも普通にねぐらを得られるのだろう。さまざまな場所をねぐらとして利用できることは、都市での分布の拡大に有利に働いているのだろう。

・食べ物

 フンの内容物、果実を食べている現場を見た目撃情報などからハクビシンが食べている果実を挙げると次の通り。トキワサンザシ属(1〜2月)、サクラ(5月)、ビワ(5〜8月)、ウメ(7月)、モモ(7月)、ブドウ(7月〜8)、 ズバイモモ (=ネクタリン)(8月)、イチジク(9月)、カキノキ(10月〜1月)。 いずれも民家の果樹または街路樹であり、農作物ではない。 特にビワとカキノキの果実を食べている姿がよく目撃される。これらの果樹がハクビシンの生息を助けているのだろう。
 ただし、これらの果実が1年を通じていつでも得られるわけではない。果実以外に何を食べているかは今後の調査研究の課題である。
 直接観察されたわけではないが、ハクビシンが ミカンを食べたと思われる例が1件(DBN1176)、 サツマイモを食べたと思われる例が1件(DBN1336)、置いたリンゴを食べたと思われる例が1件(DBN1391)ある。直接観察された例では野鳥用に置かれたミカンを食べた例がある(DBN436)。


■アライグマの目撃情報の集計

 アライグマの目撃情報は少ないためにこれまでは詳細な分析はしてこなかった。年々目撃情報が増えていることもあり、今回よりアライグマの分析も行う。だが東京都23区(約600km2)で100件以下の目撃数というのは非常に少なく、統計的に十分なものとは言えないことに注意してほしい。

 2009年〜2011年の目撃情報は43件あった。2009年は11件、2010年は13件、2011年は19件である。
 情報源の分類は以下の通りである。

メール
39
宮本
1
メディア
2
ホームページ
1

 これらには駆除業者からの情報や行政から聞き取った情報は含まれていない。

 各区毎の目撃件数を多い順に並べると次のようになる。

世田谷区
10
文京区
5
豊島区
4
港区
3
大田区
3
練馬区
3
千代田区
2
中央区
2
目黒区
2
杉並区
2
北区
2
江戸川区
2
新宿区
1
江東区
1
足立区
1
台東区
0
墨田区
0
品川区
0
渋谷区
0
中野区
0
荒川区
0
板橋区
0
葛飾区
0
43

■アライグマの目撃分布図

 メッシュ地図を下に掲載した。
 1メッシュ当たり目撃件数の最大は3件である。

■アライグマの目撃例の分析

・死亡例

 死亡例は0件だった。

・フン・尿

 フン・尿の例は0件だった。

・疥癬症、脱毛症状

 何らかの脱毛症状が見られた例は0件だった。

・イヌとの遭遇

 イヌに遭遇する例は4件あった。

・ネコとの遭遇

 ネコに遭遇する例は2件あった。

・河川落下

 河川落下は0件だった。

・目撃月

 グラフを下に掲載した。月日が不明な目撃例は集計していない。

・目撃時刻

 グラフを下に掲載した。時刻が不明な目撃例は集計していない。夜行性であることを示しているようだ。

・目撃頭数

 有効件数は40件。目撃頭数が1頭のみの例は36件で、2頭は3件、3頭は1件である。

・目撃場所

 道路は23件、民家は12件、 企業は2件、 公園は1件である。
 特殊な目撃場所については上とは別に集計している。塀・フェンスの上は6件、 樹上は4件、 電線・電柱は2件、 屋根・屋上・ベランダは1件、 欄干・手すりは1件である。これらの数字は重複がある。

・家屋侵入

 家屋侵入は0件だった。

・子育て

 出産・子育の情報は0件だった。どこを巣にしているのかの情報もまったくない。

・繁殖の可能性がある地域

 アライグマが同時に複数頭目撃されたり、ある地域で集中して目撃される場合、繁殖が疑われる。これまで、世田谷区北部と文京区〜豊島区にかけての地域で繁殖の可能性があることを指摘してきた[文献4]。今回はさらに2地域を追加したい。ひとつは田園調布(大田区)周辺である。大田区だけではなく世田谷区、目黒区も含まれる地域である。同時複数頭の目撃はないが、目撃頻度が高いため繁殖が疑われる。もうひとつは赤坂御用地である。赤坂御用地内での情報はないが、赤坂(港区)で2件の目撃例がある (DBN1402、1568)。タヌキもハクビシンも生息している赤坂御用地内ならばアライグマも生息可能である。繁殖するほどの生息数がいるかどうかはわからないが、注意しなければならない場所である。

・アライグマの推定生息数

 アライグマの目撃件数は少ないため、生息数を推定することは難しい。23区のタヌキの生息数を1000頭と仮定し、タヌキとの目撃件数の比較から単純計算すると、23区内にアライグマは数十頭から100頭前後の規模で生息していると推測できる。ただし最近はタヌキの目撃情報が集まりにくくなっているらしいことを考えると、アライグマは100頭まではいっていないだろうと考えられる。

 アライグマはいずれ生息数が増加していく可能性は否定できず、その動向を継続的に監視する必要がある。東京タヌキ探検隊!がアライグマを情報収集の対象にしているのはそのためである。


■アナグマ、キツネの目撃情報

 2011年はアナグマとキツネの目撃情報はなかった。


■考察1:練馬区のパラドックス

 2011年は練馬区と板橋区でタヌキの目撃情報数が急減した。実はこれは2010年からの傾向である。この4年間毎の全目撃情報数に対する割合は以下の表の通りである。比較対象として目撃情報数の多い杉並区も並べてみた。

 
2008年
2009年
2010年
2011年
練馬区
14.7%
22.9%
9.9%
0.8%
板橋区
17.3%
16.0%
9.9%
6.3%
杉並区
13.5%
15.4%
21.1%
24.4%


 練馬区と板橋区でタヌキの生息数が多いのは、その自然環境からも間違いない。それがわずか数年で急減するというのは非常に不自然な現象である。これは実際の生息数が急減したことを意味するのだろうか。

 予想される生息数に比べて目撃情報数が少ないという現象は以前から見られていた。この現象を私は「大泉のパラドックス」と名付けている。詳細は[文献5]に書いている。大泉とは練馬区西端部にある「大泉」の名が付く広い地域のことである。この地域は農地・緑地が多く、多くのタヌキが生息していることが推測されている。しかし、目撃情報数は非常に少ない。これが「大泉のパラドックス」である。
 目撃情報数が少なくなる理由は以下のようなものが考えられる。
(1)人口密度が低いこと。人口密度が高いほどタヌキが目撃される確率は高くなる。逆に人口密度が低いと、目撃確率も低くなる。
(2)タヌキの存在が珍しくないため。東京タヌキ探検隊!に届くメールにはあるパターンが非常に多い。それは、「タヌキを見てびっくりする」→「ネットで調べる」→「東京タヌキ探検隊!のホームページを発見する」→「メールで目撃情報を送信する」というものである。タヌキを普通に目撃できる地域ならば第一段階の「びっくりする」が発生せず、その後の一連の流れも起こらない。
(3)「タヌキがいるなんて田舎みたいで恥ずかしい」という心理的な理由。練馬区は23区の中でも特に「田舎」と揶揄されやすい。
(4)東京タヌキ探検隊!のこれまでの報告書では練馬区、板橋区はタヌキの目撃数が非常に多いことが書かれているため、「これ以上の目撃情報は必要ないだろう」と思い込まれているのかもしれない。
 ただし、本当に生息数が減少している可能性も否定できず、今後の情報収集では特に注意をしていかなければならない。ここで強く述べておきたいが、東京タヌキ探検隊!はあらゆる地域の目撃情報を必要としている。練馬区、板橋区の目撃情報を遠慮なく知らせてほしい。全国どこの目撃情報も同様である。

 練馬区・板橋区の目撃情報数の減少が調査研究に与える影響についても述べておく。両区は目撃情報数が多いが、面積も広いために目撃地域は分散している。そのためどこに生息が集中しているのか、個体群の行動範囲、営巣場所などがわかりにくい状況である。これらがある程度わかるためには1km2当たり2件以上の目撃情報が必要である。今回は練馬区・板橋区はそれを下回るレベルになってしまったため、生息状況がまったくわからなくなってしまった。長期的な調査では、この欠落は大きな痛手である。

■考察2:タヌキとハクビシンの目撃情報分布の比較

 タヌキとハクビシンの目撃情報の分布を比較してみる。
 下に掲載したのはタヌキとハクビシンの目撃情報数の分布を3Dグラフで表したものである。それぞれ2方向から眺めたグラフを載せている。色分けは前に掲載した平面図と同じである。黄色の部分と黄緑色の部分に注目すると、いずれもハクビシンの方が数が多いのがわかる。つまり、タヌキよりもハクビシンの方が広く分布していることがわかる。

 もうひとつの図は、タヌキとハクビシンの目撃情報数を比較した分布図である。タヌキはこの報告書で採用した2009年〜2011年の454件のデータを使用している。ハクビシンはタヌキより目撃情報数が多いため、データベース上でのDBNが新しい454件のみを採用し、タヌキと同数にそろえている。2009年10月から2011年までのデータにおおよそ該当する(2009年9月以前のデータも含まれるが、2008年以前のデータは含まない)。比較は単純に多いか少ないかのみで、同数の場合、または目撃情報数が0の場合は着色していない。この分布図では北西部ではタヌキが多く、それ以外ではハクビシンが多いことが明らかである。
 この分布図は全体を4つに分けることができる。まず北西部は、タヌキもハクビシンも多い地域である。ただ、タヌキは北西部に集中して生息しているのでハクビシンよりも数が多くなっている。南西部はタヌキが少なく、ハクビシンが多い地域である。北東部はタヌキもハクビシンも少ない地域である。目撃数はハクビシンの方が確実に多い。南東部は海岸部であり、埋め立て地が多い。この地域にはハクビシンでさえまだ分布を広げていない。だが隅田川河口の島である佃島(中央区佃)でもハクビシンが目撃されている。いずれは埋め立て地全域へと分布を拡大していくかもしれない。


■全国の目撃情報の集計

 東京都23区以外の目撃情報についても報告する。いずれも2011年のみの集計である。

 最初に2011年の事件を紹介する。
 2011年3月11日の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)では津波によって多くの人命が失われた。タヌキをはじめとする野生生物にも多大な被害があったはずだがその実情は不明である。また福島第一原子力発電所の事故によって広い範囲に放射性物質がばらまかれることになった。野生生物への長期的な影響が心配されるだけでなく、立ち入りが制限された地域での生物調査が難しくなったため、現地の実態を知ることも困難になった。生物の調査は長期的、継続的なものであるため、調査機会の損失は学問上、自然保護上でも大きな損失である。
 その福島第一原子力発電所であるが、現地に設置された監視ビデオカメラにタヌキが映っていることが報道された(6月7日、テレビ朝日、DBN1516) [文献6]。
 7月、兵庫県尼崎市などでイヌの散歩中の人がアライグマに襲われるという事件が次々と発生した[文献7]。東京タヌキ探検隊!のデータベースに記録されたのは尼崎市6件、伊丹市1件である。これらの事件のデータベースへの記録は「丁目」単位で行っており、実際に発生した事件数とは一致しない。この事件の原因は、子どもを守ろうとした母アライグマがイヌに対して過剰防衛行動に出たものと、私は推測している。
 アライグマについては他にも九州北部など各地で生息数、分布を拡大していることが報道されているが、東京タヌキ探検隊!のデータベースは目撃場所をある程度特定できる情報しか記録していないため、これらの報道は役に立っていない。

 下に都道府県毎の目撃情報数の表を掲載した。これは2011年の目撃のみの集計である。目撃情報数が0の地域は省略した。首都圏や大阪府は目撃者本人からのメールによるものが多いが、それ以外の地域の情報は新聞などのメディアに掲載されたものがほとんどである。
 大阪市ではタヌキが浪速区、中央区といった場所で目撃されており、中心部でもある程度の生息数がいることが予想される。
 目撃情報数が増えれば、東京23区のようにより詳細な分析が可能になる。東京23区以外からの目撃情報もぜひ知らせてほしい。

都道府県毎の目撃情報数(2011年)

 
タヌキ ハクビシン アライグマ アナグマ キツネ
北海道
 
 
 
 
1
秋田県
 
 
 
1
 
福島県
1
 
 
 
 
茨城県
1
 
 
 
 
栃木県
 
1
 
 
 
埼玉県 ※1
2
2
1
 
1
さいたま市
 
2
 
 
 
千葉県
2
5
 
 
 
東京都23区
127
234
19
 
 
東京都多摩地区
13
27
1
1
 
神奈川県 ※2
4
4
 
 
 
横浜市
4
10
1
 
 
川崎市
3
4
 
1
 
富山県
1
 
 
 
 
石川県
1
 
 
 
 
長野県
1
2
 
 
 
大阪府 ※3
 
 
4
 
 
大阪市
2
 
 
 
 
堺市
2
 
 
 
 
兵庫県
 
 
8
 
 
奈良県
 
 
1
 
 
島根県
 
 
 
1
 
愛媛県
1
 
 
 
 
高知県
1
 
 
 
 

※1 さいたま市を除く
※2 横浜市、川崎市を除く
※3 大阪市、堺市を除く

・東京タヌキ探検隊!データベースについて

 東京タヌキ探検隊!のデータベースはこれまで動物別、地域別に分けて管理していた。しかし全データを横断的に調べるには都合が悪かったため、東日本大震災の直後にこれらを統合し、ひとつにまとめる作業を行った。震災直後に目撃情報のメールが極端に少なくなった時期にこの作業に踏み切った。統合されたデータベースでは全記録に通し番号を割り振った。これがこの報告書中にも使用されている「DBN」(=Database Number)である。また、どの地域の情報にも対応できるようになったため、情報収集の対象も全国へと拡大した。
 2011年末現在、記録された全目撃情報数は1894件。動物別の内訳は
 タヌキ1021件(54%)
 ハクビシン756件(40%)
 アライグマ93件(4.9%)
 ニホンアナグマ4件(0.21%)
 キツネ3件(0.16%)
 チョウセンイタチ5件(0.26%)
 ニホンイタチ1件(0.05%)
 不明11件(0.58%)。

地域の内訳は
 東京都23区1564件(83%)
 東京都多摩地区117件(6.2%)
 横浜市52件(2.7%)
 川崎市20件(1.1%)
 さいたま市10件(0.53%)
 大阪府25件(1.3%)
などである。


■今後の課題

 目撃情報の収集は今後も引き続き行っていく。ホームページでは「東京タヌキ」を名乗っているが、タヌキだけではなく、ハクビシン、アライグマ、アナグマ、キツネなども平等に扱っている。また地域も日本全国を対象にしている。皆さまのご協力をお願いします。特に練馬区、板橋区の目撃情報が必要です。

 2011年末、宮本は正社員になった(それまではパート労働者だった)。そのため調査研究のための時間が十分にはとれなくなるかもしれない。しかし調査研究の基盤である目撃情報の収集は最優先で継続していく。また、センサーカメラの設置やフンの分析なども可能な限り行っていくつもりである。

 東京都23区のタヌキなどの目撃情報の報告は次回は2013年1月を予定している。今回と同じく直近の3年間が対象となる。


■謝辞

 この調査研究は全国の皆さまから寄せられる目撃情報によって成り立っている。情報を寄せていただいた多くの方々にまず感謝をしなければならない。また、スポンサーをはじめ、フンの回収やセンサーカメラの設置など特別のご協力をいただいた方々にも深く感謝する。

 そして都会でしっかりと生活し、時々私たちの前に姿を見せてくれるタヌキやハクビシンたちにも感謝する(残念ながらアライグマは外来生物なので感謝はできない)。

■文献

東京タヌキ探検隊!のホームページ
http://tokyotanuki.jp

東京タヌキ探検隊!の過去の報告書は次のページから見ることができる。
http://tokyotanuki.jp/reports.htm

[文献1] 「国会周辺に野生のタヌキ「のだちゃん」(仮)あらわれる」
 http://news.nicovideo.jp/watch/nw135084
 ニコニコニュース(オリジナル) 、2011年10月25日配信

[文献2] いきもの通信 Vol. 534(2011/11/27) [東京タヌキ探検隊!・今日の事件]原宿タヌキ捕獲事件
 http://ikimonotuusin.com/doc/534.htm
 宮本 拓海

[文献3] 「東京都23区内のタヌキ、ハクビシン、アライグマの目撃情報の集計と分析(2011年1月版)」 「考察2 目撃件数と人口密度の関係」の項を参照のこと
 http://tokyotanuki.jp/docs/tanuki1101.htm
 宮本 拓海、2011年

[文献4] [文献3]に同じ。「アライグマの目撃情報の集計」の項を参照のこと

[文献5] いきもの通信 Vol. 495(2010/9/19)
[東京タヌキ探検隊!・今日の勉強]練馬区にタヌキは何頭いるか?/大泉のパラドックス
 http://ikimonotuusin.com/doc/495.htm
 宮本 拓海

[文献6] 「【原発】狸が原発敷地内に・・・ライブカメラとらえる(11/06/07)」

 http://www.youtube.com/watch?v=gokLEVKcXFw
 テレビ朝日、2011年6月7日

 ※Googleの動画検索などで「タヌキ 原発」といった語で検索すると他の記録映像を見ることができる。タヌキの他に野犬などが映っている。

[文献7] いきもの通信 Vol. 524(2011/7/31) [今日の事件]伊丹尼崎アライグマ襲撃事件
 http://ikimonotuusin.com/doc/524.htm
 宮本 拓海

■使用地図

本稿に掲載した地図は国土地理院発行の以下の数値地図を複製・使用した。
「数値地図5mメッシュ(標高) 東京都区部」
「数値地図50mメッシュ(標高) 日本II」


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