タヌキなどの情報は東京タヌキ探検隊!ホームページにも掲載しています。

東京タヌキ探検隊!ではタヌキなどの目撃情報を常時収集しています。
連絡先などの詳細はこちらのページをご覧ください。
対象地域:全国
対象動物:タヌキ、ハクビシン、アライグマ、アナグマ、キツネなど(野生の哺乳綱食肉目)

東京都23区内のタヌキ、ハクビシン、アライグマ、アナグマの目撃情報の集計と分析(2015年1月版)

※無断転載禁止

執筆:宮本 拓海 (東京タヌキ探検隊! 隊長)
2015年1月

※2016年1月 一部修正


■概要

・宮本(東京タヌキ探検隊!)による東京都23区内でのタヌキ、ハクビシン、アライグマ、アナグマ他の目撃情報の集計を報告する。
・今回の集計期間は2012年〜2014年。タヌキは368件、ハクビシンは596件、アライグマは42件、アナグマは9件が含まれる。
・2014年も東京都23区でのアナグマの目撃情報があった。
・タヌキとハクビシンの鳴き声について紹介する。
・ハクビシンとアライグマの襲撃事例について紹介する。
・東京都23区以外の全国の目撃情報についても簡単に報告する。東京都23区以外の目撃情報数はまだ非常に少なく、分析できる規模ではない。
・これまでの全目撃情報の中から特殊な事例についても報告する。

■前文

今年もタヌキ、ハクビシン、アライグマの目撃情報の集計を報告する。今回は2012年〜2014年の目撃情報の集計結果を報告する。

文中に「DBN1234」のように記されている数字は、東京タヌキ探検隊!データベースで目撃情報に割り振られた通し番号である。この番号はデータベースに記録された順であり、実際の目撃年月日の順ではない。後の検証をやりやすくするためにできるだけこの報告書にも記載していく。


■2014年の事件

目撃情報の報告の前に、2014年の東京都23区でのタヌキ関係の事件を振り返る(全国の事件については後述)。今年はいわゆる「大手マスコミ」で報道された事件はなかった。

ロケットニュースによると、2014年9月16日に、19日に発売されるiPhone6を購入するために千代田区有楽町にある販売店前で並んでいた記者がタヌキを目撃した(DBN3299)。写真は不明瞭ながらも特徴からタヌキと判定できるものであった。

ねとらぼ(ITmedia)によると、2014年11月14日、港区南青山一帯でハクビシンが目撃された(DBN3369)。警察が出動して捕獲しようとしたが、道路に飛び出したところを車にひかれたとのこと(記事中でははっきりと生死が書かれていない)。投稿された写真をストリートビューと照らし合わせることで場所の特定ができた。


■目撃情報の集計

収集された目撃情報は、データベース上で記録されている。記録する際、複数の目撃情報を1件にまとめることなどがある。そのルールは次のようになっている。

1.原則として、1つの目撃情報を1件として扱う。
2.同じ目撃者が同じ場所で繰り返し目撃している場合は、1件として数える。例えばタヌキが住宅の庭に来る場合や、ネコのエサやり場に来る場合がこれにあたる。
3.毎年同じ場所で目撃が繰り返される場合は、年ごとに1件として扱う。例えば、毎年営巣が行われていることが確認されている場合は各年を1件として集計している。
4.同じ個体(または同じ家族)であると推測される場合でも、場所・日時・目撃者が異なっていれば目撃情報別に個別に扱う。

せっかくの目撃情報がデータベースに記録されない場合がある。位置情報・年があいまいな場合は原則として記録されない。位置情報が「丁目」すらわからない場合はまず記録されない。
伝聞情報(いわゆる「人から聞いた話」)も日時や場所があいまいなことが多く、多くは記録していない。
駆除業者や行政からの聞き取りは行っていない。


■目撃情報の分布地図の仕様

分布地図の仕様は次の通り。

・座標系は世界測地系を採用する。
・メッシュは約2km×約2kmに相当する。正確には、東西方向に90秒、南北方向に60秒で近似している。これは地域メッシュ(JIS X 0410)での2倍メッシュと同一のものである(辺の長さが基準地域メッシュ(第3次メッシュ)の2倍のメッシュ)。

目撃位置の詳細が不明であるため誤差のあるプロットもある。
タヌキでは誤差(誤差半径)の最大は500m。誤差100m以上は7件。平均誤差は約12m。
ハクビシンでは誤差の最大は600mで、誤差100m以上は6件。平均誤差は約9m。
アライグマでは誤差の最大は100mで、誤差100m以上は2件。平均誤差は約15m。
大半は「番地」よりも詳しい位置が判明しており、中には誤差0mの例も少なくない。

「番地」レベルでの誤差は約50〜200mに相当し、これは予想されるタヌキの行動範囲内に収まる。そのため「番地」レベルの位置情報が把握できれば実用上は十分である。ハクビシン、アライグマの行動範囲は不明だがタヌキよりも極端に広いとは考えにくい。


■タヌキの目撃情報の集計

2012年〜2014年の目撃情報は368件あった。2012年は137件、2013年は134件、2014年は97件である。以前の報告書と数字が異なるのは、2014年に入ってからも前年までの目撃情報が寄せられたためである。
情報源の分類は以下の通りである。

メール
356
メディア
6
ホームページ
2
宮本
0
その他
4

・メール=宮本がホームページ(東京タヌキ探検隊!)で情報収集を呼びかけ、メールで寄せられた情報。
・メディア=新聞、テレビなどで紹介された情報(ホームページに掲載された情報も含む)。
・宮本=宮本が直接確認した情報。または聞き取りなどで収集した情報。
・ホームページ=インターネット上のホームページ(ブログを含む)に掲載されていた情報。
・その他=電話3件、手紙1件。

このようにほとんどはメールによる情報である。

各区毎の目撃件数を多い順に並べると次のようになる。

杉並区
119
世田谷区
57
新宿区
40
渋谷区
27
文京区
14
中野区
14
練馬区
14
千代田区
10
豊島区
10
足立区
10
大田区
9
港区
8
板橋区
7
葛飾区
7
江戸川区
7
北区
5
目黒区
3
台東区
2
江東区
2
品川区
2
中央区
1
墨田区
0
荒川区
0
368

杉並区が飛び抜けて多い理由は不明である。宮本は杉並区在住であるが、特別な働きかけをしているわけではない。
多数の生息が予想される練馬区と板橋区で目撃情報数が少ない「練馬区のパラドックス」はまだ続いている[文献1]。

面積当たりの目撃件数を多い順に並べると次のようになる。

件数 面積 件数/面積
杉並区
119
34.02
3.50
新宿区
40
18.23
2.19
渋谷区
27
15.11
1.79
文京区
14
11.31
1.24
世田谷区
57
58.08
0.98
中野区
14
15.59
0.90
千代田区
10
11.64
0.86
豊島区
10
13.01
0.77
港区
8
20.34
0.39
練馬区
14
48.16
0.29
北区
5
20.59
0.24
板橋区
7
32.17
0.22
目黒区
3
14.70
0.20
葛飾区
7
34.84
0.20
台東区
2
10.08
0.20
足立区
10
53.20
0.19
大田区
9
60.42
0.15
江戸川区
7
49.86
0.14
中央区
1
10.18
0.10
品川区
2
22.72
0.09
江東区
2
39.99
0.05
墨田区
0
13.75
0.00
荒川区
0
10.20
0.00
368
618.19
0.60

面積はkm2。東京都ホームページによる。

順位に変動はあるが、全体の傾向はやはり例年と同じである。おおざっぱには上位(1.0以上)、中位(0.5以上1.0未満)、下位(0.5未満)に区分できる。
「タヌキがいる地域」(上位、中位)と「タヌキがほとんどいない地域」(下位)がはっきりと分かれていることが特徴である。


■タヌキの目撃分布図

メッシュ地図を下に掲載した。
これまで通り、北西部に偏った分布が確認できる。1メッシュ当たり目撃件数の最大は34件である。杉並区東部で特に目撃が集中している。この地域は「環七通り〜環八通り間の善福寺側・神田川流域」および「中野区南台、杉並区方南、渋谷区笹塚」に相当する。


■タヌキの目撃例の分析

それぞれの目撃情報には興味深いものも含まれる。今回集計された情報を対象に紹介する。

・死亡例

死亡したタヌキの目撃例は9件あった。自動車にひかれたと思われる例は5件だった(DBN2152、2335、2713、2751、3292)。実際には交通事故死する例は少なくないと考えられる。鉄道事故と思われる例は1件だった(DBN2956)。脱毛症状を伴う例は1件だった(DBN2877)。

・ためフン

タヌキのフンの例は3件あった(DBN2391、2456、3319)。

・疥癬症、脱毛症状

何らかの脱毛症状が見られた例は46件あった。
全目撃数に対する割合は約13%である。毎年同程度の割合なので、流行とは関係なく一定割合で発症しているようだ。
区毎の件数の上位は杉並区18件、世田谷区9件、新宿区6件だが、これは目撃数の順位とも一致している。総目撃数が多ければ脱毛症状の目撃例も多くなるということであり、これらの地域で特に多いということではない。
昼間の目撃は29件で、全体の半数を超える。夜間は毛並みの確認までできないということもあるのだろう。また疥癬症だと裸同然の姿になるので、冬は暖かい昼間でないと活動できないのかもしれない。
目撃月の最多は12月の11件、次いで11月=7件、2月、3月=6件、4月=5件、1月=4件である。他の月は0〜2件であった。冬の目撃が多い。前述のように冬は昼間に活動する可能性が高いために発見率が高いのかもしれない。そのため本当に冬に発症率が高いかどうかはわからない。

・イヌとの遭遇

タヌキがイヌに遭遇する例は17件あった。イヌが興奮する例が2件、何も反応しない例が7件、イヌがタヌキに気づかない例が2件である。タヌキの方も、ある程度の距離があればイヌと人間の様子をうかがう例もある。イヌがリードでつながれていることを見切っている節もある。
タヌキがイヌを威嚇する例が1件あったが、このタヌキは疥癬症で毛が抜けていたという(DBN2935)。タヌキがイヌや人間を威嚇する例は非常に珍しい。

イヌについては犬種と年齢もたずねているが、件数が少ないため特に分析はしていない。全般的には最近のイヌはよくしつけられているせいかとてもおとなしい印象である。

・ネコとの遭遇

タヌキとネコが遭遇する例は32件あった。これにはネコ用に置いたエサを食べに来た例(ネコには直接遭遇していない場合もある)が含まれる。ネコのエサを食べた例は11件。この他にもエサを食べずに去った例、ネコのエサやり場に姿を現した例が複数ある。
宮本が直接観察した例では、タヌキの方がネコよりも強い。しかしネコがタヌキを威嚇したり、ちょっかいを出すこともあった。過去の目撃情報でも、タヌキが強かったり、ネコがタヌキを追いかけたりといった例がある。全体としてはタヌキの方が優勢のようだ。
野良猫へのエサやり場にタヌキが現れる例は各地で発生していると推測されるが、ネコ担当者はいろいろと肩身の狭い思いをしているせいか、あまり外部に助けを求めないようにも見える。ネコとタヌキのトラブルについては、筆者が個別に対応しているので、ぜひメールで知らせてほしい。

・河川落下

河川落下は1件あった(DBN2763=石神井川)。
これまでの事例から推測すると、タヌキは誤って落下したのではなく、道路側溝などからつながる排水管を通って河床へ行き来している可能性が高い。
なお、タヌキ河川落下事件ではたいていの人が警察や消防に通報するが、これは正しくない。野生動物の行政の窓口は都道府県であり(東京都の場合は東京都環境局)、まずこちらに通報すべきである。

・目撃月

グラフを下に掲載した。月日が不明な目撃例は集計していない。はっきりした傾向がわかりにくいが、10月が最多、5月が最小となるのはいつも通りである。秋に目撃が多いのは、タヌキが巣から離れて遠くへ移動していくためあちこちで目撃される可能性が高くなるからだろう。5月は出産直後の時期で、巣からあまり離れられないため目撃が少ないと推測される。

・目撃時刻

グラフを下に掲載した。時刻が不明な目撃例は集計していない。18時から24時の目撃が多いのはタヌキが夜行性であることの反映である。0時以降の目撃が少ないのは人間の活動があまりなく目撃機会が少ないためである(つまり「終電後」の時間なのである)。
(目撃時刻は「20時ごろ」といったあいまいな場合も「20時」として集計した。そのためグラフにはいくらかの誤差が含まれる。これはハクビシン、アライグマの場合も同じ。)
参考までに東京の日出時刻は4時25分ごろ〜6時51分ごろ、日没時刻は16時28分ごろ〜19時01分ごろである。

・目撃頭数

有効件数は358件。目撃頭数が1頭のみの例は275件で、全体の約77%にあたる。2頭は56件、3頭は14件、4頭は6件、5頭以上は7件である。最大目撃頭数は9頭(内、幼獣が7頭)(DBN3175)。
1頭の目撃が多いが、つがいでもいつも寄り添って行動しているわけではなく、少し離れた場所にいることもある。目撃が1頭であっても近くに他の個体がいた可能性は否定できない。

・目撃場所

ここでの目撃場所とは、最初に目撃された位置のことである。例えば道路と民家敷地を行き来したとしても、最初の目撃場所が道路ならば「道路」と分類している。
道路は173件、民家は115件、企業は24件、公園は19件、寺・神社は11件、学校(教育施設)は6件である。ただし、「民家」には「アパートやマンションの敷地、駐車場」が含まれる。「企業」にも「駐車場(店舗用、コインパーキング)」が含まれる。
上記と重複するが、「線路・踏切」は11件ある(線路・踏切への出入りを含む)。この内4件はあるJR駅での目撃情報である(DBN2051、2086、2090、2100)。線路敷地内にタヌキがすみついていたようだが、2013年、2014年は目撃情報はなかった。他には東急世田谷線で4件、京王線で1件、京王井の頭線で1件、JR総武線で1件である。JR総武線の事例は上記の死亡事故である(DBN2956)。
塀の上で目撃された例は11件ある。

・家屋侵入

「家屋侵入」とは、建物の内部に入り込むことである(民家だけでなくあらゆる建築物が対象)。
家屋侵入は13件あった。ビルの地下1階で保護された例(おそらくドライエリアに落下したと思われる、DBN1905)、ビル地下1階のバレエスタジオに侵入した例(DBN2507)、集合住宅の玄関ホールにいた例(DBN2820)がある。床下への侵入は6件、出産・子育てをした例は6件である。

・子育て

タヌキが出産・子育てをしたという情報は24件あった。これは「同時に3頭以上の目撃」というだけでなく、明らかに親子の体格差があること、巣の場所がおおよそ絞り込めることも条件としている。
出産・子育ての場所は建物の床下が多い。建物の間の狭い空間を利用した例もある。雑木林や側溝の中など目撃されにくい場所で出産・子育てをする例もあると推測される。巣そのものを発見することは非常に難しい。


■ハクビシンの目撃情報の集計

2012年〜2014年の目撃情報は596件あった。2012年は222件、2013年は155件、2014年は219件である。
情報源の分類は以下の通りである。

メール
590
宮本
2
メディア
2
その他
2

その他=手紙2件。

「宮本」の内1件は宮本自身の目撃である。宮本が野生のハクビシンを目撃したのはこれが初めてである。

各区毎の目撃件数を多い順に並べると次のようになる。

世田谷区
82
杉並区
58
渋谷区
43
練馬区
42
新宿区
41
大田区
38
豊島区
33
目黒区
30
中野区
29
板橋区
25
港区
24
品川区
23
文京区
22
江戸川区
18
北区
16
足立区
15
葛飾区
13
千代田区
12
台東区
9
墨田区
7
江東区
7
中央区
5
荒川区
4
596

ハクビシンは23区すべてで目撃されている。

面積当たりの目撃件数を多い順に並べると次のようになる。

件数 面積 件数/面積
渋谷区
43
15.11
2.85
豊島区
33
13.01
2.54
新宿区
41
18.23
2.25
目黒区
30
14.70
2.04
文京区
22
11.31
1.95
中野区
29
15.59
1.86
杉並区
58
34.02
1.70
世田谷区
82
58.08
1.41
港区
24
20.34
1.18
千代田区
12
11.64
1.01
品川区
23
22.72
1.01
台東区
9
10.08
0.89
練馬区
42
48.16
0.87
板橋区
25
32.17
0.78
北区
16
20.59
0.78
大田区
38
60.42
0.63
墨田区
7
13.75
0.51
中央区
5
10.18
0.49
荒川区
4
10.20
0.39
葛飾区
13
34.84
0.37
江戸川区
18
49.86
0.36
足立区
15
53.20
0.28
江東区
7
39.99
0.18
596
618.19
0.96

面積はkm2。東京都ホームページによる。

タヌキと比べると、薄く広く分布していることがわかる。


■ハクビシンの目撃分布図

メッシュ地図を下に掲載した。

1メッシュ当たり目撃件数の最大は17件である。タヌキほど突出している地域はない。
全体的にはタヌキと同じく、東に少なく、西に多く生息している。しかし、23区全体に広く分布していることがタヌキと異なる。タヌキの生息が少ない都心部、東部、海岸部でも目撃されている。


■ハクビシンの目撃例の分析

・体色

ハクビシンの胴体部分の体色は淡色型、暗色型、赤褐色型があることが知られている(ただし、この分け方は宮本によるもの)。淡色型は112件(59%)、暗色型は63件(33%)、赤褐色型は14件(7%)が記録されている。夜間の目撃が多いため、体色がはっきりしない場合が多い。これらの3つの型の比率は地域によって異なる可能性がある。全国的な比較ができるようになれば興味深い結果が出てくるかもしれない。
目撃情報の中には奇妙な例もあった。ハクビシンの特徴は顔の中心を通る白い模様だが、「白線が無い(薄い)」という例が8件、「白線が2本」という例が2件あった。ゴミや汚れなどのせいでそのように見えた可能性もあるが、特殊な模様の例かもしれない。残念ながらその顔がはっきり写った画像はない。

・死亡例

死亡例は8件あった。内7件は自動車にひかれたものと思われる。1件は4車線以上の大通りであった(DBN2700)。ハクビシンは道路幅に関係なく横断しようとしているようだ。自動車にひかれたが自力で逃げ、その後の生死は不明という事例が1件ある(DBN3268)。
他の1件は何らかの病気であったようで、生きている状態で発見後に死亡している(DBN3130)。

・フン・尿

フン・尿の例は19件あった。屋根、ベランダ、屋上にフンがあったケースが14件、天井裏にフン・尿をしたケースが2件(DBN1987、2349)であった。内5件ではフンを回収し分析した(DBN1968、1976、2013、2219、2730)。フンの内容物はほとんどが植物種子である。植物種子以外の内容物が発見されたのはDBN2219のみである(甲虫類、おそらくコガネムシ類)。

・疥癬症、脱毛症状

何らかの脱毛症状が見られた例は2件あった。DBN2568の例では額の部分がはげていた。DBN3130は上記の死亡例で、体のところどころが脱毛していたとのことであった。
脱毛症状の件数が少ないのは、ハクビシンは短毛であるため目立たないからかもしれない。また、夜間の遠くからの目撃では脱毛症状はわからないだろう。

・イヌとの遭遇

イヌに遭遇する例は41件あった。イヌは吠えない、あるいは何も関心を示さないことが多い。イヌが吠える例は6件あった。イヌが電線上のハクビシンに気付く例もあった(DBN2118)。
DBN3180ではハクビシンがイヌにかみついた。ハクビシンの逃げ道をふさぐかたちになったからかもしれない、とのことであった。DBN3376ではハクビシンがイヌに威嚇した。このハクビシンは2頭の子を連れていた。襲撃・威嚇の事例は後述の「考察2」でも述べている。

・ネコとの遭遇

ネコに遭遇する例は22件あった。これにはネコ用に置いたエサを食べに来た例(ネコには直接遭遇していない場合もある)が含まれる。ネコのエサを食べた例は3件。ネコがハクビシンに対して威嚇したり騒いだりした例は3件、ネコがハクビシンの後を追う例は5件、ハクビシンがネコを追う例は3件あった。ハクビシンとネコはいい勝負なのかもしれない。

・河川落下

河川落下の情報はない。ハクビシンの運動能力ならば、垂直壁の鉄ハシゴを登ることなど容易なはずである。よって、河床から脱出できなくなることはないだろう。

・目撃月

グラフを下に掲載した。月日が不明な目撃例は集計していない。夏に多く冬に少ないというパターンで、タヌキとは違う傾向を示している。タヌキと違い出産時期も読み取ることができない。
目撃数が多い夏でも7月は目撃数が少し減っている。タヌキの場合から類推するとこの頃に出産することが多いのかもしれない。 冬は目撃が少ないため、ハクビシンは寒冷期は活動が不活発になるのかもしれない。

・目撃時刻

グラフを下に掲載した。時刻が不明な目撃例は集計していない。20〜23時に目撃は多い。昼間の目撃は少なく、タヌキよりも夜行性が強い。

・目撃頭数

有効件数は575件。目撃頭数が1頭のみの例は486件で、全体の約85%にあたる。2頭は64件、3頭は19件、4頭は6件である。5頭以上の目撃例がないことから、出産頭数はタヌキよりも少ないことが統計的に推測される。
体格の違いから親子と思われる目撃例は25件あった。月別では1月=4件、2月=1件、5月=1件、6月=2件、7月=3件、8月=1件、9月=4件、10月=3件、11月=4件、12月=1件(不明1件)。時期がばらついているため、出産の時期が長いことが推測される(タヌキの出産時期が1ヶ月ほどの間に限定されるのとは対照的である)。秋に比較的目撃が多いため夏から秋にかけて出産することが多いのではないかとも推測できる。

・目撃場所

道路は353件、民家は171件、企業は26件、公園は14件、学校(教育施設)は6件、寺・神社は6件である。ここでの目撃場所とは、最初に目撃された位置のことである。ただし、ハクビシンが電線上にいる場合は「道路」、民家の屋根の上ならば「民家」などと分類している。寺・神社が少ないが、目撃場所近くに寺・神社がある例は少なくなく、巣やねぐらにしている可能性は否定できない。
上記と重複するが、「線路・踏切」は10件ある(線路・踏切への出入りを含む)。内訳はJR7件、小田急線1件、東急東横線1件、東京メトロ(地下)1件である。
特殊な目撃場所については上とは別に集計している。電線・電柱は134件、塀・フェンスの上は128件、屋根・屋上・ベランダは76件、樹上は58件、壁・窓・雨どいは14件、欄干・手すりは2件である。これらの数字は重複がある。例えば、電線から屋根に移動した、という場合は「電線」「屋根」の両方でカウントしている。いずれにも該当しない例(つまり地上を歩くだけの例)は285件(全体の48%)ある。

電線・電柱の目撃は全体の約22%になる。なぜ電線のハクビシンを発見できたかについて理由をたずねたところ、「2階など上層階のベランダや窓から発見」が22件、「たまたま見上げて」が18件、「視界に何か見えて」が16件、「カラスが騒いでいた」が10件、「鳴き声がして」が4件、「音がして」が3件、「イヌが気付いた」が1件、「坂道なので目線が自然に上を向いていた」が1件だった。

・運動能力

前項に書いたようにハクビシンは高いところにも普通に登ることができる運動能力を持つ。
ハクビシンが電線を走っていたという報告が6件あった。その速度は正確にはわからないが、人が歩くよりも速かったのだろう。
ハクビシンは有刺鉄線を歩いたり(DBN2875)、電柱のステー(電柱から地面に斜めに張られているワイヤー線)を登ったりしている(DBN2104)。かなり細い線でも歩けることがわかる。

ハクビシンの目撃例を分析すると、ハクビシンが森林の樹上生活に適応した動物であることが明らかである。ハクビシンは電線を歩き、電柱や樹木や塀を登る。住宅地では電線が縦横に張られており、これはハクビシンにとっては森林の樹上と似たような環境に見えることだろう。都市部でもハクビシンが生活できるのは電線のおかげと言えるかもしれない。
ただし、ハクビシンは「完全な樹上生活者」ではないことにも注意されたい。ハクビシンは地面上で目撃されることが最も多いのである。

・家屋侵入

家屋侵入は13件だった。ベランダに現れた例は含まない。屋根裏・天井裏が9件。いずれも民家であった。内1件では壁の中を登ったことがわかっている(壁の中の断熱材をかきわけて天井裏に登ったと思われる)。
他にはビル・マンションの地下駐車場に侵入した例が2件ある(DBN1996、3235)。
ハクビシンは屋根裏・天井裏に入り込むことがある動物である。もっと多くの侵入例があってもいいはずだが、目撃情報数が少なすぎるように思える。侵入された場合、駆除業者や行政への連絡が優先されるためかもしれない。
あるいは、空き家などを選んで侵入していることも考えられる。他にも寺の本堂や神社の本殿は屋根が高く、人間の使用頻度も少ないためハクビシンがすみついても気づかれていない可能性がある。


■アライグマの目撃情報の集計

アライグマの集計結果は目撃情報が少ないため統計的に十分なものとは言えないことに注意してほしい。

2012年〜2014年の目撃情報は42件あった。2012年は10件、2013年は19件、2014年は13件である。
情報源の分類は以下の通りである。

メール
42
宮本
0
メディア
0
ホームページ
0

各区毎の目撃件数を多い順に並べると次のようになる。

世田谷区
5
目黒区
4
大田区
4
杉並区
4
新宿区
3
練馬区
3
江戸川区
3
江東区
2
品川区
2
豊島区
2
板橋区
2
葛飾区
2
千代田区
1
港区
1
文京区
1
台東区
1
渋谷区
1
中野区
1
中央区
0
墨田区
0
北区
0
荒川区
0
足立区
0
42

■アライグマの目撃分布図

メッシュ地図を下に掲載した。
1メッシュ当たり目撃件数の最大は4件である。


■アライグマの目撃例の分析

・死亡例

死亡例は0件だった。

・フン・尿

フン・尿の例は0件だった。

・疥癬症、脱毛症状

何らかの脱毛症状が見られた例は0件だった。

・イヌとの遭遇

イヌに遭遇する例は0件だった。

・ネコとの遭遇

ネコに遭遇する例は4件あった。これにはネコ用に置いたエサを食べに来た例(ネコには直接遭遇していない場合もある)が含まれる。ネコのエサを食べた例は1件(DBN2429)。

・河川落下

河川落下は0件だった。

・目撃月

グラフを下に掲載した。月日が不明な目撃例は集計していない。

・目撃時刻

グラフを下に掲載した。時刻が不明な目撃例は集計していない。夜行性であることを示しているようだ。

・目撃頭数

有効件数は40件。目撃頭数が1頭のみの例は37件で、2頭は3件である。

・目撃場所

道路は25件、民家は12件、企業は1件、その他3件である。
特殊な目撃場所については上とは別に集計している。電線・電柱は4件、塀・フェンスの上は2件、屋根・屋上・ベランダは2件、樹上は2件、欄干・手すりは1件である。これらの数字は重複がある。

・家屋侵入

家屋侵入は0件だった。

・子育て

出産・子育の情報は0件だった。どこを巣にしているのかの情報もまったくない。

・繁殖の可能性がある地域

アライグマが同時に複数頭目撃されたり、ある地域で集中して目撃される場合、繁殖が疑われる。これまで繁殖の可能性があることを指摘してきた地域は、世田谷区北部、田園調布周辺(大田区、世田谷区、目黒区)、文京区〜豊島区にかけての地域、赤坂御用地、江戸川区北部の5つである。これらの地域は引き続き警戒が必要だろう。

・アライグマの推定生息数

アライグマの目撃件数は少ないため、生息数を推定することは難しい。23区のタヌキの生息数を1000頭と仮定し[文献2]、タヌキとの目撃件数の比較から単純計算すると、23区内にアライグマは数十頭から100頭前後の規模で生息していると推測できる。

アライグマはいずれ生息数が増加していく可能性は否定できず、その動向を継続的に監視する必要がある。東京タヌキ探検隊!がアライグマを情報収集の対象にしているのはそのためである。


■アナグマの目撃情報

2012年〜2014年のアナグマの目撃情報は9件あった。2012年は3件、2013年は3件、2014年は3件である。写真が撮影された例は3件ある。
場所は渋谷区3件、杉並区2件、品川区、大田区、世田谷区、江戸川区が各1件である。
詳細は次の通り。

DBN 目撃場所 目撃年など
2061 品川区 2012年。
2361 世田谷区 2012年。自然環境、地形を考えると可能性が高い。
2418 大田区 2012年。写真あり。
2581 江戸川区 2013年。荒川堤防近く。
2602 渋谷区 2013年。
2725 杉並区 2013年。
3156 渋谷区 2014年。写真あり。
3259 杉並区 2014年。
3359 渋谷区 2014年。写真あり。DBN3156と同一の場所。

2014年は渋谷区で2度も写真が撮影され、間違いなくアナグマであることが確認できた。

2014年は東京都23区外でもアナグマ関連情報があった。
2014年1月26日、NHK総合テレビ「ダーウィンが来た!」では三鷹市の国際基督教大学の敷地内に生息するアナグマが紹介された。同大学のアナグマについてはそれ以前に目撃情報がありデータベースに記録している(DBN2818、2013年)。
2014年6月、JR吉祥寺駅北口2F(駅ビル「アトレ吉祥寺」)にアナグマがいるのが発見された(DBN3100)。宮本が得た情報では6月16日〜19日にそこにいたらしい。通りからよく見える場所に顔を出したため写真にも撮られ、ネット上でその画像を見つけることができる。このアナグマは捕獲され、放獣されたとのことである。上のNHK番組の連想から、国際基督教大学から来たのかという噂も出たようだが、ずっと近い場所である井の頭公園(玉川上水や神田川も含めて)を疑うべきだろう。

これまでの目撃情報からアナグマが生息しているであろう場所の推測もできる。
まず、渋谷区のアナグマは距離から考えると明治神宮から来た可能性が高い。明治神宮に定住している個体群がいると予想される。
大田区、世田谷区の目撃場所は多摩川水系である。三鷹市の国際基督教大学は野川に接する位置にあり、野川も多摩川水系である。これらに共通するのは「国分寺崖線」ということである。「崖線」とは河岸段丘の縁に続く崖地形のことである。崖地形はアナグマが巣穴を掘るのに適した地形と考えられる。(大田区の目撃場所は厳密には国分寺崖線から外れているようだが、やはり崖地形である。)
杉並区の内1件は神田川近くでの目撃である。吉祥寺駅近くの井の頭公園が神田川の水源であることを考えると、吉祥寺駅事件にまったくの無関係とも言えないだろう。神田川沿いも崖地形あるいは急斜面の地形が見られる。
江戸川区の目撃情報からは、アナグマが荒川の堤防に巣穴を掘っているのではないかと推測される。もしそうならば巣穴を見つけることは比較的容易であり、生息の証拠になるだろう。

アナグマ生息の証拠は増えたが、どの程度生息しているのか、どうやって生活しているのかなどはまだわからない。アナグマの生息調査はいそぎ行うべきことである。特に大田区、世田谷区、江戸川区は生息場所の絞り込みが可能であり、調査を優先して行うべきである。本来ならば私自身が調査を行いたいところであるが、残念ながらリソース(時間、資金、人員)をまったく持ち合わせていないため実行不可能である。興味本位ではなく、しっかりとした態勢で生息調査を行う用意がある方には情報提供などの協力はするつもりでいる。

日本全国で見ればアナグマは絶滅のおそれはない動物である。しかし大都会の中のアナグマが消え去ってしまうことの是非については多くの人に考えていただきたいことである。

・アナグマの推定生息数

目撃情報の数の比較からアナグマはアライグマよりも少ないと考えられる。東京都23区全体で最大でも数十頭以下と宮本は推測している(これは「絶滅寸前」と言っていい状態である)。

■キツネの目撃情報

キツネの目撃情報はなかった。


■考察1:タヌキとハクビシンの鳴き声

タヌキ、ハクビシン、アライグマ、アナグマといった動物はあまり鳴かない動物である。都市部に生息していても存在が気付かれないのはその性質のためでもあるだろう。
以下では宮本自身の経験、収集された目撃情報からタヌキとハクビシンの鳴き声を紹介する。なお、鳴き声について言及されていた目撃情報数(全国対象)はタヌキ12件、ハクビシン25件、アライグマ0件、アナグマ0件である。

・タヌキの鳴き声

宮本はタヌキの直接観察を行ったことがある。2008年は特に鳴き声も記録を書き残しているのでそこから拾ってみた(この直接観察では映像記録もある)。

タヌキの幼獣たちがじゃれあっている時、小型犬のような声で鳴くことがあった。
「キャン」
「ギャン」
「キャキャキャン」
「キャキャー、キャウキャウキャウ」
といったような鳴き声だった。小型犬に近い声だが、ちょっと違うようにも聞こえる。イヌの鳴き声だと思い込まれることが多いだろうと思われる。声量はそこそこ大きいので遠くからでも聞こえるだろう。
成獣がこのように鳴くことはほとんどない。幼獣がまだ小さく、家族がまとまって行動する夏によく聞かれるだろう。

他にも次のような鳴き声を記録している。
「ガウー」(小さいうなり声、成獣)
「クー、クー、キュー」(幼獣)
「クーン、クーン」(幼獣)
「キャウキャウ」(幼獣)
「キャウー」(幼獣)
これらは小さな鳴き声だった。離れた場所では聞こえないだろう。

観察記録を見ると、タヌキは複数頭いる時、特にじゃれあう時に小さな鳴き声を含めてよく声を出している。単独時にはあまり鳴かないようである。

・ハクビシンの鳴き声

東京タヌキ探検隊!には目撃情報のメールといっしょに写真データが添付されていることがあるが、動画が添付されていることもある。その中でDBN2515、2686、3317、3380では鳴き声も録音されていた。
その鳴き声を聞き取ると次のようなものである。
「キュキュキュキュキューー」(鳥の声ではなく、哺乳類の声)
「キュキュ、キュキュキュ」(幼獣。鳴き続けている。鳥の鳴き声のようにも聞こえる)
「ウーーウーーウーーウウーー」(成獣が警戒する、低く小さい声)
「キィーー、キィーーー」
「キュッキュッ」
「ギャー、ギャー」(鳥の鳴き声のようにも聞こえる)
いずれの場合も何度も繰り返し鳴いている。

私たちが普通知っているような哺乳類の鳴き声にはあまり当てはまらない。ニホンザルなどサル類の鳴き声に近く聞こえるかもしれない。
鳥で例えればオナガやサギ類のような「悪声」に近い印象だが、よく聞けばどの鳥とも異なっていることは慣れたバードウォッチャーならわかるだろう。
いずれにせよ、聞きなれない鳴き声が繰り返されているならばハクビシンであることを疑った方がいいかもしれない。


■考察2:ハクビシンとアライグマの襲撃

ハクビシン、アライグマの性格は時々「凶暴」と言われることがある。だが、東京タヌキ探検隊!のデータベースの記録では襲撃あるいは威嚇の事例は非常に少ない。ハクビシン、アライグマが特に凶暴ということはない。ただし特殊な状況下では襲撃することもあるようなので絶対安全ということではない。
以下ではデータベース中での事例を紹介する(全国対象)。

・ハクビシンの襲撃

ハクビシンが直接攻撃した例は1件ある(DBN3180)。散歩中のイヌ(小型犬)がハクビシンを(意図せず)追いつめる形になったらしく、近づいたイヌの胸にかみついた。イヌにはハクビシンの犬歯による傷跡が残り、動物病院で治療した。

直接接触はしなかったがかなり攻撃的だった事例は2件ある。
屋内のネコが網戸越しにハクビシンを威嚇したところ、ハクビシンが応戦するように網戸に飛びついてきた(DBN1969)。

庭にいたハクビシンに懐中電灯を向けたところ、人間の足下まで「突然襲いかかってきた」(DBN3120)。

襲撃ではないが、ハクビシン2頭が流血するほどのケンカをした事例がある(DBN2558)。

・ハクビシンの威嚇

ハクビシンが威嚇した事例は24件ある(上記の襲撃事例は除外している)。
ハクビシンが子連れだった例は5件ある(DBN567、1250、1781、3281、3376)。
ハクビシンがイヌに対して威嚇した例は2件ある(DBN1167、3376)。
ハクビシンが何らかの病気だった例は2件ある(DBN1201、3130)。
箱ワナに捕獲されたハクビシンが箱ワナの中から威嚇した例は2件ある(DBN2568、3001)。

ハクビシンに対して接近しすぎると威嚇される例が多い。

・アライグマの襲撃

アライグマが人間を襲う例はある。
最も有名なのは2011年7月、兵庫県で発生した事例で、イヌの散歩中の人がアライグマに襲われるという事件が次々と発生した。東京タヌキ探検隊!のデータベースには伊丹市1件、尼崎市5件が記録されている。データベースでは同じ丁目の事件を1件にまとめている場合があるため、実際に発生した事件は7件である。新聞記事には「8件」としているものがあるので、宮本が把握していない事件もあったようだ。
他にも大阪府で3件の襲撃事例があった(2011年=1件、2014年=2件)。

これらの事件には次のような共通点がある。

・イヌの散歩中だった。
兵庫県の7件はすべてイヌの散歩中に発生した。アライグマはまずイヌを襲撃し(あるいは襲撃しようとし)、間に入った人間が巻き込まれて負傷している。

・アライグマが子連れだった。
兵庫県の事件では事件時に幼獣が近くにいたかどうかはわからないが、付近ではアライグマ親子が目撃されていたという。大阪府での1件はアライグマは子連れだった(付近を捜索すると幼獣が発見された)。

以上をまとめると、これらの襲撃はアライグマの母親が子どもを守ろうとする過剰防衛行動ではないかと推測される。
ただ、このような襲撃が普通に発生するならもっと多くの被害と報道があってもいいはずである。いずれにせよ事例数が少なすぎて、襲撃が一般的なことなのか、珍しい特殊なことだったのかは判断できない。

・アライグマの威嚇

アライグマが威嚇した事例は5件ある(上記の襲撃事例は除外している)。
おそらくネコとにらみ合っていた例が1件ある(DBN533)。
箱ワナに捕獲されたアライグマが箱ワナの中から威嚇した例が1件ある(DBN3044)。

・タヌキの威嚇

タヌキが威嚇した事例は5件ある。数が少ないのでそれぞれ簡単に紹介する。
・DBN2003、脱毛症状。ネコのような声で威嚇。
・DBN2124、子連れの親が威嚇。
・DBN2544、人間が与えたエサを食べながらうなる。
・DBN2546、脱毛症状。興奮したイヌに追いつめられ、「小型犬のような細く高い声で必死に威嚇」した。
・DBN2935、脱毛症状。イヌ(大型犬)に近づいて威嚇。

脱毛症状のタヌキには手が届くほど近くまで接近することができることがある。そのため近づきすぎてしまいタヌキが威嚇するということはありえるだろう。

宮本は子連れのタヌキも疥癬症のタヌキも観察したことがあるが、威嚇された経験はない。

タヌキの襲撃の事例はない。ネコの攻撃に反撃した例を宮本は見たことがあるが、ネコ、タヌキとも攻撃が相手には届いていたかは不明である。両者の攻撃とも一瞬のことであった。

・どう対処すればよいか

最も良いのは「動物には無理に近づかないこと」である。
十分に距離をとれば襲撃される心配はない。お互いに発見が遅れてかなりの近距離で出くわしてしまった場合でもその場を離れれば問題は起こらないだろう。
逃げ道をふさぐように追いつめるのはかなり危険である。天井裏・屋根裏はまさに「逃げ場のない場所」であり、そこにいるハクビシン、アライグマを捕獲しようとすると反撃されるのは当然のことである(そのため駆除業者はハクビシンやアライグマを「凶暴」と表現する傾向があるかもしれない)。

上記のアライグマの襲撃については、いつどこで襲われるか予想できないため対策が難しい。

私たちが見ていない場所でタヌキ・ハクビシン・アライグマがネコを襲っているのではないかと心配されることが時々ある。これらの動物は雑食性であるが植物食に偏る傾向がある。また襲う対象となる動物もネズミ・小鳥サイズ以下の小型動物が多いはずである。タヌキ・ハクビシン・アライグマ・ネコといった体格が近い動物同士が格闘した場合、お互いに傷を負うリスクが高くなる。そのため積極的に戦うようなことは考えにくい。
タヌキの場合、ネコは近づきたがらないので問題は起こりにくい。タヌキの方もネコを無視しているように行動する。
ハクビシンの場合、ネコとの力関係はほぼ同等らしく、ネコがハクビシンの後をついていったり、逆にハクビシンがネコについていったりする目撃事例がある。
アライグマについては事例数が少なく詳しくはわからない。

最後にもう一度繰り返すが、目撃情報全体の中では襲撃・威嚇の事例はとても少ない。タヌキとハクビシンは1500件以上の目撃情報がある中で襲撃・威嚇の事例は上に挙げただけしかないのである。襲撃・威嚇は非常に珍しい事例であることを知っておいてほしい。


■全国の目撃情報の集計

東京都23区以外の目撃情報についても報告する。いずれも2014年のみの集計である。

 ・2014年の事件

宮本は主に朝日新聞デジタルとGoogleアラートを利用してタヌキなどの記事をチェックしている。2014年は既に紹介したもの以外に東京タヌキ探検隊!として注目する事件はなかった。

ちょっと変わった事件を1つだけ紹介する。12月26日、宮城県亘理町のJR常磐線・逢隈駅構内でポイント故障が発生し、上下2本が運休した。原因はタヌキがポイントにはさまれたためだった。タヌキの生死は不明である(DBN3425)。

・都道府県毎の目撃情報数

下に都道府県毎の目撃情報数の表を掲載した。これは2014年の目撃のみの集計である。目撃情報数が0件の地域は省略した。首都圏や大阪府は目撃者本人からのメールによるものが多いが、それ以外の地域の情報は新聞などのメディアに掲載されたものが多い。
目撃情報数が増えれば、東京都23区のようにより詳細な分析が可能になる。東京都23区以外からの目撃情報もぜひ知らせてほしい。

都道府県毎の目撃情報数(2014年)

タヌキ ハクビシン アライグマ アナグマ キツネ マングース
北海道
1
宮城県
1
栃木県
2
3
群馬県
1
埼玉県 ※1
9
2
4
1
さいたま市
1
1
千葉県
3
2
4
4
2
東京都23区
97
219
13
3
東京都多摩地区
16
17
4
3
神奈川県 ※2
2
1
1
横浜市
3
7
2
川崎市
2
1
3
相模原市
1
石川県
1
山梨県
2
岐阜県
1
静岡県
1
1
愛知県
1
三重県
1
1
京都府
1
2
大阪府 ※3
1
1
5
1
1
堺市
4
1
兵庫県
3
奈良県
1
2
鳥取県
1
山口県
1
香川県
1
福岡県
1
2
大分県
1
鹿児島県
1

※ 「マングース」はジャワマングースのこと
※1 さいたま市を除く
※2 横浜市、川崎市、相模原市を除く
※3 大阪市、堺市を除く

・東京タヌキ探検隊!データベースの記録について

2014年末現在、記録された全目撃情報数は3427件。動物別の内訳は以下の通り。

タヌキ 1623件(47.4%)
ハクビシン 1502件(43.8%)
アライグマ 209件(6.1%)
ニホンアナグマ 30件(0.88%)
キツネ 23件(0.67%)
チョウセンイタチ 11件(0.32%)
ニホンイタチ 3件(0.09%)
ジャワマングース 2件(0.06%)
不明 24件(0.70%)。

地域の内訳は以下の通り(%表示は1%未満は省略)。

●東京都 2890件(84.3%)
23区 2659件(77.6%)
多摩地区 231件(6.7%)
八王子市 32件
三鷹市 25件
町田市 24件
武蔵野市 22件
府中市 15件
小金井市 14件
調布市 13件
国分寺市 11件
立川市 10件
多摩市 10件

●神奈川県 171件(5.0%)
横浜市 91件(2.7%)
川崎市 47件(1.4%)

●千葉県 88件(2.6%)
市川市 22件
船橋市 11件
松戸市 11件

●埼玉県 75件(2.2%)
さいたま市 18件

●大阪府 55件(1.6%)
堺市 13件
大阪市 11件
高槻市 11件

●福岡県 18件
福岡市 11件

●兵庫県 15件

●京都府 13件

調査方法の性質上、人口が多いほど目撃数も多くなる傾向があることに注意してほしい。

全データのうち、写真や動画などがあるものは753件(22%)である。


■特殊事例の記録

目撃情報の内、特殊な事例については目撃年にかかわらず別に記録しておく。断りがなければ東京都23区内の事例である。

・白化個体

ここではアルビノも白変種も「白化個体」としてまとめて扱う。
東京都23区での白化個体の例はタヌキ1件のみ(DBN444)。
東京都23区を除く日本全国では、タヌキ4件、キツネ1件が記録されている。この内、DBN2653(タヌキ)は白い毛と濃褐色の毛がまだらになった体色だった。

・ピンク色の鼻のタヌキ

タヌキの鼻は黒色である。アルビノの場合はピンク色である。体色が通常であるのに鼻がピンク色の事例が1件あった(DBN3254)。東京都23区外でも1件の事例があった(DBN3421、大阪府)。

・尾が無い

尾が無いタヌキの目撃例が1件ある(DBN2544、2006年)。これと同じ個体は宮本も目撃している(書籍「タヌキたちのびっくり東京生活」p92に掲載。目撃は2006年。NPO法人・都市動物研究会の活動での目撃であるためデータベースには記録していない)。
尾が無いアライグマの目撃例が1件ある(DBN2606)。
ハクビシンが電線で感電、落下した時に尾が切れた例がある(DBN2781、後述)。

・降雨、降雪での行動

タヌキ、ハクビシン、アライグマは雨の中を行動することはまずない。
「傘が必要なほどの雨」の中を行動した例はタヌキ1件、ハクビシン3件である。「傘はいらない程度の雨」の中を行動した例はタヌキ2件、ハクビシン2件である。
2013年1月14日、関東地方に大雪が降った。その降雪の最中にハクビシンが目撃された(DBN2426)。

・最大頭数

同時に複数頭が目撃された例で、頭数の最大はタヌキ11頭(成獣2頭、幼獣9頭、DBN251)、ハクビシン5頭(成獣2頭、幼獣3頭、DBN1026)、アライグマ3頭(DBN717)である。
タヌキは出産後から9月頃までは家族(つがいと子ども)がまとまって行動することが多く、同時に多数が目撃されるのはこの期間にほぼ限られる。

・タヌキの片足おしっこ

イヌのオスは後脚の一方を高く上げておしっこをする。これと同じ様子がタヌキでも1件目撃されている(DBN497)。東京都23区以外でも1件ある(DBN2745)。

・タヌキ寝入り

タヌキは何らかのショックによって死んだように動かなくなることがあり、これは「タヌキ寝入り」と言われる。動物学では「擬死」と呼ばれる。タヌキ寝入りは東京タヌキ探検隊!のデータベースでは全国で1件も記録されていない。
タヌキがタヌキ寝入りできることは確実であるが、それが発生する確率は非常に低いようで、詳細に記録された例はほとんどないようだ[文献3]。その生理的な仕組みもはっきりしない。
タヌキ寝入りに最も近い例は2013年、静岡県での例(DBN2768)である。走行中の自動車に接触したらしいタヌキが道路上でぐったりしていた(外傷はなかったらしい)が、しばらくすると起き上がって去って行ったという。
なお、タヌキは関心があるものを(立ったまま)じっと見つめて動かないということがよくあるが、これはタヌキ寝入りとは言わない。

・ハクビシンが最も高く登った事例

マンション7階の外廊下で目撃された事例がある(DBN2469)。外階段を登ってきたと推測される。目撃の直後、そこから地面に落下したらしいが、ハクビシンがどうなったのかは不明。死体は無かった。
ビル屋上(5階相当)にフンがあった事例がある(DBN2358)。

・ハクビシンのジャンプ力

水平方向へのジャンプ力については2件の具体的な事例がある。DBN2013ではベランダ間をジャンプした(2階)。DBN2358ではビル間をジャンプした(4階相当)。いずれも水平距離は約80cm、上下差はほとんどない。

・ハクビシンの電線落下、感電

ハクビシンが電線から落下した例は2件ある(DBN2649、2781)。この内、DBN2781は感電したため落下したらしく(火花が散っているのが目撃されている)、その時に尾が切れた。
東京都23区を除く日本全国では感電死した例が3件ある。1件は変電所(DBN1373)、2件は鉄道施設(DBN2087、2626)であった。実際にはさらに多くの事例があると思われる。

・ハクビシンの珍しい目撃場所

ハクビシンが歩道橋を渡った例は3件ある(DBN1700、2222、2890)。

昼間、緑地公園の樹上で寝ているところを目撃された例がある(DBN1104、1684、2400)。ハクビシンは天井裏をねぐらにすることが知られているが、自然環境下でも普通にねぐらを得られるようだ。さまざまな場所をねぐらとして利用できることは、都市での分布の拡大に有利に働いているのだろう。

・ハクビシンが食べた果実類

特殊事例というわけではないが、ハクビシンが食べた果実類をまとめてみた。東京都23区内の事例のみで、おおよそ季節順に並べた。
トキワサンザシ属、キンカン、桜桃(食用サクランボ)、ビワ、ウメ、モモ、ブドウ、イチジク、ズバイモモ(=ネクタリン)、カキノキ(干し柿を含む)、ヤマモモ、チューリップの球根
(野鳥のエサを食べた例)リンゴ、ミカン、夏ミカン、バナナ、モモ
(ハクビシンが食べたと疑われる例)イチョウ、イチゴ、ユズ、サツマイモ、オキザリス(カタバミ属)の球根、キュウリ、ブルーベリー

・魚被害

アライグマに池や水槽の魚を食べられる被害(未遂含む)は東京都23区で3件、それ以外で5件の例がある。被害に気付かれていない例は多数あると思われる。
以上の例はアライグマによる犯行である(推測含む)が、アライグマ以外にもゴイサギ、アオサギなどが魚を食べることがありうる。

・近接目撃事例

目撃情報がこれだけあると、別の人がほぼ同時に同じ動物個体を目撃した例がいくつもありそうだが、実際には非常に少ない。「別の人が」「近接した時刻に」「近接した場所で」目撃する例を「近接目撃事例」と呼ぶことにしているが、これに該当するのは3組しかない。それぞれ
2008年、渋谷区、タヌキ(DBN364、365)
2011年、世田谷区、タヌキ(DBN1345、1346)
2012年、渋谷区、タヌキ(DBN2388、2390)
である。
もうひとつ、2011年大田区では奇妙な事例があった(DBN1803、1811)。別の人が、近接した時刻、近接した場所で動物を目撃しているのだが、それぞれアライグマ、ハクビシンだったのである(アライグマは写真あり)。ハクビシンが見誤りだった可能性はあるものの、かなり珍しい事例となった。

・東京都23区で目撃情報が無い区

東京都23区でタヌキの目撃情報が無いのは墨田区のみ。目撃情報が10件以下の区は中央区1件、荒川区2件、品川区4件、江東区5件、目黒区7件、台東区9件である。
ハクビシンはすべての区で目撃されている。目撃情報が10件以下の区は荒川区6件、墨田区10件のみ。
アライグマの目撃情報が無いのは墨田区、荒川区のみである。アライグマは生息数は少ないはずであるが、既に広く分散していることがわかる。

・キツネは東京都23区にどこまで迫れるか

東京都23区にキツネが生息していないのはほぼ確実である。その理由は、タヌキよりも肉食傾向が強いため、都会では十分な食べ物が得られないためだろうと推測される。野ネズミを多数狩るには広大な緑地が必要となるだろう。
東京都23区に最も近いキツネの生息地としては、多摩川河川敷、荒川河川敷が挙げられる(いずれもその近接地域をも含む)。荒川では埼玉県戸田市で目撃例があり(2011年、DBN1761)[文献4]、これが東京都23区に最も近い目撃例である。多摩川では東京都多摩市で目撃例がある(2012年、DBN2368)。
千葉県側では、野田市の江戸川河川敷(2013年、DBN2644)、利根川河川敷(2013年、DBN2573)で目撃例がある。
いつの日かキツネが河川敷を下り東京都23区に到達することがあるかもしれない。ただし、上記の目撃例はいずれも東京都23区から見て対岸側である。
大河川から離れた場所では埼玉県所沢市(2012年、DBN2048)[文献5]、東京都国立市(2013年、DBN2629)[文献6]で目撃例がある。


■今後の課題

報告書は毎年同じような内容ではあるが、最新の情報を提供するためにも定期的な報告は継続していく。
目撃情報の収集は今後も引き続き行っていく。「東京タヌキ探検隊!」を名乗っているが、タヌキだけではなく、ハクビシン、アライグマ、アナグマ、キツネなども平等に扱っている。また地域も日本全国を対象にしている。皆さまのご協力をお願いします。

宮本は現在、仕事の都合で調査研究のための時間がとりにくい状況である。しかし目撃情報の収集と分析、センサーカメラの設置などはこれまで通り行っている。時間がかかるフンの分析は停止しており、詳細な報告はすぐにはできない。

東京都23区のタヌキなどの目撃情報の報告は次回は2016年1月を予定している。今回と同じく直近の3年間が対象となる。

東京都23区でのアブラコウモリを調査する「東京コウモリ探検隊!」も引き続き活動を行っている。アブラコウモリはタヌキなどよりも観察は非常に簡単である。ぜひ多くの方に参加していただきたい。


■謝辞

この調査研究は全国の皆さまから寄せられる目撃情報によって成り立っている。情報を寄せていただいた多くの方々にまず感謝をしなければならない。フンの回収やセンサーカメラの設置など特別のご協力をいただいた方々にも深く感謝する。

そして都会でしっかりと生活し、時々私たちの前に姿を見せてくれるタヌキやハクビシンやアナグマやキツネたちにも感謝する(残念ながらアライグマは外来生物なので感謝はできない)。


■文献

東京タヌキ探検隊!のホームページ

http://tokyotanuki.jp

東京タヌキ探検隊!の過去の報告書は次のページから見ることができる。

http://tokyotanuki.jp/reports.htm

東京コウモリ探検隊!のホームページ

http://tokyobat.jp

[文献1] 「東京都23区内のタヌキ、ハクビシン、アライグマの目撃情報の集計と分析(2012年1月版)」 「考察1:練馬区のパラドックス」の項を参照のこと
http://tokyotanuki.jp/docs/tanuki1201.htm
宮本 拓海、2012年

[文献2] 「東京都23区内のタヌキの生息数の推定(2012年版)」
http://tokyotanuki.jp/docs/tokyotanuki1208.pdf
宮本 拓海、2012年
「東京都23区のタヌキの生息数は約1000頭」ということは広く知られつつあるが、その根拠を示しているのは宮本だけである。

[文献3] 私の手持ちの書籍では「狸の話」(著・宮沢光顕、発行・有峰書店新社、1978年、宮本が所持しているのは第3版)のp20〜22にいくつかの話が紹介されている程度しか見つからなかった。

[文献4] 「ホンドキツネ:生息の可能性高まる 戸田ケ原でフン発見 自然再生の象徴に/埼玉」
毎日新聞ホームページ、2011年10月3日掲載。

[文献5] 「ホンドギツネ撮影 所沢の狭山丘陵 県平野部で絶滅危惧種」
東京新聞ホームページ、2012年5月25日掲載。

[文献6] 「国立市・谷保でキツネ被害-谷保天満宮の鶏激減、注意呼び掛ける」
立川経済新聞ホームページ、2013年5月23日掲載。


■使用地図

本稿に掲載した地図は国土地理院発行の以下の数値地図を複製・使用した。
「数値地図5mメッシュ(標高) 東京都区部」
「数値地図50mメッシュ(標高) 日本II」


[東京タヌキ探検隊! TOP]