タヌキなどの情報は東京タヌキ探検隊!ホームページにも掲載しています。

東京タヌキ探検隊!ではタヌキなどの目撃情報を常時収集しています。
連絡先などの詳細はこちらのページをご覧ください。
対象地域:全国
対象動物:タヌキ、ハクビシン、アライグマ、アナグマ、キツネなど(野生の哺乳綱食肉目)

東京都23区内のタヌキ、ハクビシン、アライグマ、アナグマの目撃情報の集計と分析(2016年1月版)

※無断転載禁止

執筆:宮本 拓海 (東京タヌキ探検隊! 隊長)
2016年1月


■概要

・宮本(東京タヌキ探検隊!)による東京都23区内でのタヌキ、ハクビシン、アライグマ、アナグマ他の目撃情報の集計を報告する。
・今回の集計期間は2013年〜2015年。タヌキは316件、ハクビシンは596件、アライグマは38件、アナグマは12件が含まれる。
・タヌキなどの目撃情報数の変動について報告する。特にタヌキの目撃情報数が減少しており、生息数も減少していることが推測される。ハクビシン、アライグマ、アナグマについても推定生息数を報告する。
・アライグマについては2006年〜2015年の10年間の統計を簡単に報告する。
・東京都23区以外の全国の目撃情報についても簡単に報告する。東京都23区以外の目撃情報数はまだ非常に少なく、分析できる規模ではない。

※東京タヌキ探検隊!とは

東京タヌキ探検隊!は全国のタヌキ、ハクビシン、アライグマ、アナグマ、キツネなどを対象に目撃情報の収集、調査分析を行っています。これまでに3860件の目撃情報を記録してきました(2015年末現在)。
東京タヌキ探検隊!の原形は1999年にホームページで東京都23区のタヌキの目撃情報の提供を呼びかけたことに始まります。シチズンサイエンスやオープンサイエンスの世界的にも先駆的な試みでした。発想も実践もアマチュアによるものという非常に珍しい例でもあります(隊長の宮本は職業専門家ではない)。
これまでの成果として、東京都23区でのタヌキ、ハクビシン、アライグマの生息分布の解明、生息数の推定、アナグマ生息の報告などがあります。

■前文

今年もタヌキ、ハクビシン、アライグマの目撃情報の集計を報告する。今回は2013年〜2015年の目撃情報の集計結果を報告する。

文中に「DBN1234」のように記されている数字は、東京タヌキ探検隊!データベースで目撃情報に割り振られた通し番号である。この番号はデータベースに記録された順であり、実際の目撃年月日の順ではない。後の検証をやりやすくするためにできるだけこの報告書にも記載していく。


■2015年の事件

目撃情報の報告の前に、2015年の東京都23区でのタヌキ関係の事件を振り返る(全国の事件については後述)。

朝日新聞によると4月16日夜、中央区築地5丁目(記事では銀座8丁目となっているが誤り)の東京国税局(当時は移転直前で工事中)前の築地川千代橋公園で朝日新聞記者がハクビシンを目撃した。ハクビシンは米飯を食べていた。その米飯はネコのためのえさだったようだ。この記事には宮本のコメントも掲載されている。(DBN3531、朝日新聞2015年4月20日夕刊(東京版))

10月4日午後6時50分ごろ、千代田区外神田4丁目の中央通り、つまり秋葉原のメインストリートにアライグマが現れた。アライグマは街路樹に登った。警察と消防が出動し捕獲しようとしたがつかまえられず、約2時間後に木から降りてきたところを警官らが素手で捕獲した。その際、警官ら3人がかまれて軽いケガを負った。日曜の夜ということもあり、見物の人も多かった。(DBN3773、読売新聞、朝日新聞など)


■目撃情報の集計

収集された目撃情報は、データベース上で記録されている。記録する際、複数の目撃情報を1件にまとめることなどがある。そのルールは次のようになっている。

1.原則として、1つの目撃情報を1件として扱う。
2.同じ目撃者が同じ場所で繰り返し目撃している場合は、1件として数える。例えばタヌキが住宅の庭に来る場合や、ネコのエサやり場に来る場合がこれにあたる。
3.毎年同じ場所で目撃が繰り返される場合は、年ごとに1件として扱う。例えば、毎年営巣が行われていることが確認されている場合は各年を1件として集計している。
※この項は、2015年以降は「同じ場所で目撃が繰り返される場合は、半年が経過したら新たに1件として扱う。」に変更した。
4.同じ個体(または同じ家族)であると推測される場合でも、場所・日時・目撃者が異なっていれば目撃情報別に個別に扱う。

せっかくの目撃情報がデータベースに記録されない場合がある。位置情報・年があいまいな場合は原則として記録されない。位置情報が「丁目」すらわからない場合はまず記録されない。
伝聞情報(いわゆる「人から聞いた話」)も日時や場所があいまいなことが多く、多くは記録していない。
駆除業者や行政からの聞き取りは行っていない。


■目撃情報の分布地図の仕様

分布地図の仕様は次の通り。

・座標系は世界測地系を採用する。
・メッシュは約2km×約2kmに相当する。正確には、東西方向に90秒、南北方向に60秒で近似している。これは地域メッシュ(JIS X 0410)での2倍メッシュと同一のものである(辺の長さが基準地域メッシュ(第3次メッシュ)の2倍のメッシュ)。

目撃位置の詳細が不明であるため誤差のあるプロットもある。
タヌキでは誤差(誤差半径)の最大は400m。誤差100m以上は2件。平均誤差は約8m。
ハクビシンでは誤差の最大は100mで、誤差100m以上は1件。平均誤差は約5m。
アライグマでは誤差の最大は70m。平均誤差は約10m。
大半は「番地」よりも詳しい位置が判明しており、誤差0mの例も少なくない。

「番地」レベルでの誤差は約50〜200mに相当し、これは予想されるタヌキの行動範囲内に収まる。そのため「番地」レベルの位置情報が把握できれば実用上は十分である。ハクビシン、アライグマの行動範囲は不明だがタヌキよりも極端に広いとは考えにくい。


■タヌキの目撃情報の集計

2013年〜2015年の目撃情報は316件あった。2013年は134件、2014年は106件、2015年は76件である。以前の報告書と数字が異なるのは、2015年に入ってからも前年までの目撃情報が寄せられたためである。
タヌキの目撃数は2009年以降、減少が続いている。このことについては後述の「■考察1:目撃情報数の変動とタヌキの目撃情報数の減少」を参照のこと。

情報源の分類は以下の通りである。

メール
310
メディア
2
ホームページ
2
宮本
0
その他
3

・メール=宮本がホームページ(東京タヌキ探検隊!)で情報収集を呼びかけ、メールで寄せられた情報。
・メディア=新聞、テレビなどで紹介された情報(ホームページに掲載された情報も含む)。
・宮本=宮本が直接確認した情報。または聞き取りなどで収集した情報。
・ホームページ=インターネット上のホームページ(ブログを含む)に掲載されていた情報。
・その他=電話2件、手紙1件。

このようにほとんどはメールによる情報である。

各区毎の目撃件数を多い順に並べると次のようになる。

杉並区
75
世田谷区
62
新宿区
35
渋谷区
23
練馬区
16
文京区
12
豊島区
11
足立区
11
中野区
10
板橋区
9
葛飾区
9
大田区
8
千代田区
7
北区
7
江戸川区
7
港区
5
江東区
3
台東区
2
品川区
2
目黒区
2
中央区
0
墨田区
0
荒川区
0
316

多数の生息が予想される練馬区と板橋区で目撃情報数が少ない「練馬区のパラドックス」はまだ続いている[文献1]。

面積当たりの目撃件数を多い順に並べると次のようになる。

件数 面積 件数/面積
杉並区
75
34.02
2.20
新宿区
35
18.23
1.92
渋谷区
23
15.11
1.52
文京区
12
11.31
1.31
世田谷区
62
58.08
1.07
豊島区
11
13.01
0.85
中野区
10
15.59
0.64
千代田区
7
11.64
0.60
北区
7
20.59
0.34
練馬区
16
48.16
0.33
板橋区
9
32.17
0.28
葛飾区
9
34.84
0.26
港区
5
20.34
0.25
足立区
11
53.20
0.21
台東区
2
10.08
0.20
江戸川区
7
49.86
0.14
目黒区
2
14.70
0.14
大田区
8
60.42
0.13
品川区
2
22.72
0.09
江東区
3
39.99
0.08
中央区
0
10.18
0.00
墨田区
0
13.75
0.00
荒川区
0
10.20
0.00
316
618.19
0.51

面積はkm2。東京都ホームページによる。

順位に変動はあるが、全体の傾向はやはり例年と同じである。おおざっぱには上位(1.0以上)、中位(0.5以上1.0未満)、下位(0.5未満)に区分できる。
「タヌキがいる地域」(上位、中位)と「タヌキがほとんどいない地域」(下位)がはっきりと分かれていることが特徴である。


■タヌキの目撃分布図

メッシュ地図を下に掲載した。
これまで通り、北西部に偏った分布が確認できる。1メッシュ当たり目撃件数の最大は18件である。


■タヌキの目撃例の分析

それぞれの目撃情報には興味深いものも含まれる。今回集計された情報を対象に紹介する。

・死亡例

死亡したタヌキの目撃例は6件あった。自動車にひかれたと思われる例は3件だった(DBN2713、2751、3292)。実際には交通事故死する例は少なくないと考えられる。鉄道事故と思われる例は1件だった(DBN2956)。脱毛症状を伴う例は1件だった(DBN2877)。

・ためフン

タヌキのフンの例は1件あった(DBN3319)。

・疥癬症、脱毛症状

何らかの脱毛症状が見られた例は57件あった。
全目撃数に対する割合は約18%である。2015年に限ると23件(約30%)となるため疥癬症が流行しているように見えてしまうが、「珍しい外見」「異様な姿」のため目撃情報メールにつながりやすいという面もある。
2015年1月〜3月、世田谷区で同一個体と見られる脱毛症状のタヌキの目撃情報が8件あった。この重複分を差し引くと数値は下がるが、それでも例年よりは高めの数字である。
区毎の件数の上位は世田谷区19件、杉並区13件、新宿区9件だが、世田谷区の重複分を差し引くと目撃数の順位と一致している。総目撃数が多ければ脱毛症状の目撃例も多くなるということであり、これらの地域で特に多いということではない。
昼間の目撃は37件で、全体の半数を超える。疥癬症だと裸同然の姿になるので、冬は暖かい昼間でないと活動できないのかもしれない。また、夜間は毛並みの視認が難しいということもあるだろう。

月別の目撃数は次の通り。

件数
1月
10(3)
2月
12(3)
3月
6(2)
4月
7
5月
2
6月
1
7月
2
8月
0
9月
1
10月
2
11月
5
12月
9

括弧内は世田谷区の同一個体と見られる件数である。
冬の目撃が多い。前述のように冬は昼間に活動する可能性が高いために発見率が高いのかもしれない。そのため本当に冬に発症率が高いかどうかはわからない。

・イヌとの遭遇

タヌキがイヌに遭遇する例は12件あった。イヌが興奮する(吠える)例が1件、何も反応しない例が5件、イヌがタヌキに気づかない例が1件である。タヌキの方も、ある程度の距離があればイヌと人間の様子をうかがう例もある。イヌがリードでつながれていることを見切っている節もある。
タヌキがイヌを威嚇する例が1件あったが、このタヌキは疥癬症で毛が抜けていたという(DBN2935)。タヌキがイヌや人間を威嚇する例は非常に珍しい。

イヌについては犬種と年齢もたずねているが、件数が少ないため特に分析はしていない。全般的には最近のイヌはよくしつけられているせいかとてもおとなしい印象である。

・ネコとの遭遇

タヌキとネコが遭遇する例は28件あった。これにはネコ用に置いたエサを食べに来た例(ネコには直接遭遇していない場合もある)が含まれる。ネコのエサを食べた例は11件。この他にもエサを食べずに去った例、ネコのエサやり場に姿を現した例が複数ある。
宮本が直接観察した例では、タヌキの方がネコよりも強い。しかしネコがタヌキを威嚇したり、ちょっかいを出すこともあった。過去の目撃情報でも、タヌキが強かったり、ネコがタヌキを追いかけたりといった例がある。全体としてはタヌキの方が優勢のようだ。
野良猫へのエサやり場にタヌキが現れる例は各地で発生していると推測されるが、ネコ担当者はいろいろと肩身の狭い思いをしているせいか、あまり外部に助けを求めないようにも見える。ネコとタヌキのトラブルについては、筆者が個別に対応しているので、ぜひメールで知らせてほしい。

・河川落下

河川落下は1件あった(DBN2763=石神井川)。
これまでの事例から推測すると、タヌキは誤って落下したのではなく、道路側溝などからつながる排水管を通って河床へ行き来している可能性が高い。
なお、タヌキ河川落下事件ではたいていの人が警察や消防に通報するが、これは正しくない。野生動物の行政の窓口は都道府県であり(東京都の場合は東京都環境局)、まずこちらに通報すべきである。

・目撃月

グラフを下に掲載した。月日が不明な目撃例は集計していない。いつもなら10月が最多、5月が最小となるが、今回はそうなっていない。秋に目撃が多いのは、タヌキが巣から離れて遠くへ移動していくためあちこちで目撃される可能性が高くなるからだろう。5月は出産直後の時期で、巣からあまり離れられないため目撃が少ないと推測される。

・目撃時刻

グラフを下に掲載した。時刻が不明な目撃例は集計していない。18時から24時の目撃が多いのはタヌキが夜行性であることの反映である。0時以降の目撃が少ないのは人間の活動があまりなく目撃機会が少ないためである(つまり「終電後」の時間なのである)。
(目撃時刻は「20時ごろ」といったあいまいな場合も「20時」として集計した。そのためグラフにはいくらかの誤差が含まれる。これはハクビシン、アライグマの場合も同じ。)
参考までに東京の日出時刻は4時25分ごろ〜6時51分ごろ、日没時刻は16時28分ごろ〜19時01分ごろである。

・目撃頭数

有効件数は309件。目撃頭数が1頭のみの例は234件で、全体の約76%にあたる。2頭は54件、3頭は11件、4頭は4件、5頭以上は6件である。最大目撃頭数は9頭(内、幼獣が7頭)(DBN3175)。
1頭の目撃が多いが、つがいでもいつも寄り添って行動しているわけではなく、少し離れた場所にいることもある。目撃が1頭であっても近くに他の個体がいた可能性は否定できない。

・目撃場所

ここでの目撃場所とは、最初に目撃された位置のことである。例えば道路と民家敷地を行き来したとしても、最初の目撃場所が道路ならば「道路」と分類している。
道路は143件、民家は95件、企業は23件、公園は23件、寺・神社は7件、学校(教育施設)は6件である。ただし、「民家」には「アパートやマンションの敷地、駐車場」が含まれる。「企業」にも「駐車場(店舗用、コインパーキング)」が含まれる。
上記と重複するが、「線路・踏切」は5件ある(線路・踏切への出入りを含む)。東急世田谷線で2件、京王井の頭線で2件、JR総武線で1件である。JR総武線の事例は上記の死亡事故である(DBN2956)。
塀の上で目撃された例は6件ある。
建物2階で目撃された例がある。これは外階段を登っていったようだ(DBN3430)。

・家屋侵入

「家屋侵入」とは、建物の内部に入り込むことである(民家だけでなくあらゆる建築物が対象)。
家屋侵入は9件あった。ビル地下1階のバレエスタジオに侵入した例(DBN2507)、集合住宅の玄関ホールにいた例(DBN2820)がある。床下への侵入は5件、出産・子育てをした例は5件である。

・子育て

タヌキが出産・子育てをしたという情報は21件あった。これは「同時に3頭以上の目撃」というだけでなく、明らかに親子の体格差があることなども条件としている。
出産・子育ての場所は建物の床下が多い。建物の間の狭い空間を利用した例もある。雑木林や側溝の中など目撃されにくい場所で出産・子育てをする例もあると推測される。巣そのものを発見することは非常に難しい。


■ハクビシンの目撃情報の集計

2013年〜2015年の目撃情報は596件あった。2012年は157件、2013年は227件、2014年は212件である。
情報源の分類は以下の通りである。

メール
589
宮本
3
メディア
1
ホームページ
1

その他=手紙2件。

「宮本」の内2件は宮本自身の目撃である。

各区毎の目撃件数を多い順に並べると次のようになる。

世田谷区
66
杉並区
51
新宿区
41
練馬区
40
渋谷区
36
目黒区
33
大田区
33
板橋区
30
港区
28
文京区
27
豊島区
27
北区
27
品川区
25
中野区
25
台東区
17
足立区
15
江戸川区
15
千代田区
13
墨田区
11
葛飾区
11
中央区
9
江東区
9
荒川区
7
596

ハクビシンは23区すべてで目撃されている。

面積当たりの目撃件数を多い順に並べると次のようになる。

件数 面積 件数/面積
文京区
27
11.31
2.39
渋谷区
36
15.11
2.38
新宿区
41
18.23
2.25
目黒区
33
14.70
2.24
豊島区
27
13.01
2.08
台東区
17
10.08
1.69
中野区
25
15.59
1.60
杉並区
51
34.02
1.50
港区
28
20.34
1.38
北区
27
20.59
1.31
世田谷区
66
58.08
1.14
千代田区
13
11.64
1.12
品川区
25
22.72
1.10
板橋区
30
32.17
0.93
中央区
9
10.18
0.88
練馬区
40
48.16
0.83
墨田区
11
13.75
0.80
荒川区
7
10.20
0.69
大田区
33
60.42
0.55
葛飾区
11
34.84
0.32
江戸川区
15
49.86
0.30
足立区
15
53.20
0.28
江東区
9
39.99
0.23
596
618.19
0.96

面積はkm2。東京都ホームページによる。

タヌキと比べると、広く分布していることがわかる。


■ハクビシンの目撃分布図

メッシュ地図を下に掲載した。

1メッシュ当たり目撃件数の最大は14件である。タヌキは特定地域で目撃件数が突出しているが、ハクビシンではそのような傾向はない。大田区で突出しているメッシュがあるのは熱心なウォッチャーがいるためである。
全体的にはタヌキと同じく、東に少なく、西に多く生息している。しかし、23区全体に広く分布していることがタヌキと異なる。タヌキの生息が少ない都心部、東部、海岸部でも目撃されている。


■ハクビシンの目撃例の分析

・体色

ハクビシンの胴体部分の体色は淡色型、暗色型、赤褐色型があることが知られている(ただし、この分け方は宮本によるもの)。淡色型は123件(67%)、暗色型は49件(27%)、赤褐色型は11件(6%)が記録されている。夜間の目撃が多いため、体色がはっきりしない場合が多い。これらの3つの型の比率は東京都23区以外では異なる可能性がある。全国的な比較ができるようになれば興味深い結果が出てくるかもしれない。
目撃情報の中には奇妙な例もあった。ハクビシンの特徴は顔の中心を通る白い模様だが、「白線が無い(薄い)」という例が9件、「白線が2本」という例が3件あった。ゴミや汚れなどのせいでそのように見えた可能性もあるが、特殊な模様の例かもしれない。
DBN3544とDBN3559では「白線が薄い」例を静止画と動画で確認できた。角度や明るさによっては「白線が無い」ように見えることだろう。

・死亡例

死亡例は10件あった。内7件は自動車にひかれたものと思われる。1件は4車線以上の大通りであった(DBN2700)。ハクビシンは道路幅に関係なく横断しようとしているようだ。自動車にひかれたが自力で逃げ、その後の生死は不明という事例が1件ある(DBN3268)。
DBN3130は何らかの病気であったようで、生きている状態で発見された後に死亡している。DBN3685も病気だったらしく、幼獣3頭の内2頭が死亡している。

・フン・尿

フン・尿の例は11件あった。屋根、ベランダ、屋上にフンがあったケースが10件あった。天井裏にフン・尿をしたケースは0件。実際にまったく被害がなかったとは考えられないので、駆除業者や行政への連絡が優先されているのだろうと思われる。フンを回収し分析したのはDBN2730のみ。

・疥癬症、脱毛症状

何らかの脱毛症状が見られた例は2件あった。DBN2568の例では額の部分がはげていた。DBN3130は上記の死亡例で、体のところどころが脱毛していたとのことであった。
脱毛症状の件数が少ないのは、ハクビシンは短毛であるため目立たないからかもしれない。また、夜間の遠くからの目撃では脱毛症状はわからないだろう。

・イヌとの遭遇

イヌに遭遇する例は31件あった。イヌは吠えない、あるいは何も関心を示さないことが多い。イヌが吠える例は4件あった。

襲撃・威嚇の例が3件あった。ハクビシンの襲撃・威嚇事例はいずれもイヌがらみである点に注目すべきである。
DBN3180ではハクビシンがイヌにかみついた。飼い主によれば、ハクビシンの逃げ道をふさぐかたちになったからかもしれない、とのことであった。
DBN3376ではハクビシンがイヌに威嚇した。このハクビシンは2頭の子を連れていた。
DBN3789ではハクビシンが威嚇し、人間とイヌに1m以内まで近づいてきた。飼い主は持っていたものを投げつけて追い払った。その時、近くにハクビシンがもう1頭おり、それは幼獣だったかもしれないとのことであった。現場は空き家の裏であり、その空き家がハクビシンの巣になっているらしかった。

・ネコとの遭遇

ネコに遭遇する例は25件あった。これにはネコ用に置いたエサを食べに来た例(ネコには直接遭遇していない場合もある)が含まれる。
ネコのエサを食べた例は5件。これには朝日新聞に掲載された築地での目撃情報も含まれる(DBN3531)。同じ場所では9月にも目撃されている(DBN3757)。
ネコがハクビシンに対して威嚇したり騒いだりした例は1件、ネコがハクビシンの後を追う例は4件、ハクビシンがネコを追う例は3件あった。ハクビシンとネコはいい勝負なのかもしれない。
ネコが電線の上のハクビシンに気付いた例が1件ある。

・河川落下

河川落下の情報はない。ハクビシンの運動能力ならば、垂直壁の鉄ハシゴを登ることなど容易なはずである。よって、河床から脱出できなくなることはないだろう。

・目撃月

グラフを下に掲載した。月日が不明な目撃例は集計していない。夏に多く冬に少ないというパターンで、タヌキとは違う傾向を示している。タヌキと違い出産時期も読み取ることができない。
目撃数が多い夏でも7月は目撃数が少し減っている。タヌキの場合から類推するとこの頃に出産することが多いのかもしれない。
冬に目撃が少ない理由として、一部のハクビシンが冬眠していることが予想される(「ハクビシンは冬眠してるのかも仮説」、[文献2])。かなり難しいことではあるが野生のハクビシンを長期間モニタリングすることで検証できるだろう。飼育個体は冬眠しないかもしれないので検証には適さない。

・目撃時刻

グラフを下に掲載した。時刻が不明な目撃例は集計していない。20〜23時に目撃は多い。昼間の目撃は少なく、タヌキよりも夜行性が強い。

・目撃頭数

有効件数は575件。目撃頭数が1頭のみの例は488件で、全体の約85%にあたる。2頭は66件、3頭は16件、4頭は5件である。5頭以上の目撃例がないことから、出産頭数はタヌキよりも少ないことが統計的に推測される。
体格の違いから親子と思われる目撃例は26件あった。月別では1月=1件、2月=4件、3月=1件、5月=1件、6月=1件、7月=3件、9月=3件、10月=3件、11月=4件、12月=3件(不明2件)。時期がばらついているため、出産の時期が長いことが推測される(タヌキの出産時期が1ヶ月ほどの間に限定されるのとは対照的である)。秋に比較的目撃が多いため夏から秋にかけて出産することが多いのではないかとも推測できる。

・目撃場所

道路は360件、民家は159件、企業は29件、公園は19件、学校(教育施設)は5件、寺・神社は5件である。ここでの目撃場所とは、最初に目撃された位置のことである。ただし、ハクビシンが電線上にいる場合は「道路」、民家の屋根の上ならば「民家」などと分類している。寺・神社が少ないが、目撃場所近くに寺・神社がある例は少なくなく、巣やねぐらにしている可能性は否定できない。
上記と重複するが、「線路・踏切」は8件ある(線路・踏切への出入りを含む)。内訳はJR5件、東急東横線1件、西武新宿線1件、東京メトロ(地下)1件である。
特殊な目撃場所については上とは別に集計している。電線・電柱は128件、塀・フェンスの上は120件、屋根・屋上・ベランダは61件、樹上は49件、壁・窓・雨どいは13件、欄干・手すりは1件である。これらの数字は重複がある。例えば、電線から屋根に移動した、という場合は「電線」「屋根」の両方でカウントしている。いずれにも該当しない例(つまり地上を歩くだけの例)は304件(全体の約51%)ある。

電線・電柱の目撃は全体の約21%になる。なぜ電線のハクビシンを発見できたかについて理由をたずねたところ、「2階など上層階のベランダや窓から発見」が23件、「たまたま見上げて」が23件、「視界に何か見えて」が16件、「カラスが騒いでいた」が10件、「音がして」が4件、「鳴き声がして」が3件、「坂道なので目線が自然に上を向いていた」が3件、「ネコが気付いた」が1件だった。

・運動能力

前項に書いたようにハクビシンは高いところにも普通に登り、電線を歩くこともできるほどの運動能力を持つ。
ハクビシンが電線を走っていたという報告が5件あった。その速度は正確にはわからないが、人が歩くよりも速かったのだろう。
有刺鉄線を歩いた例(DBN2875)もあり、かなり細い線でも歩けることがわかる。

ハクビシンの目撃例を分析すると、ハクビシンが森林の樹上生活に適応した動物であることが明らかである。ハクビシンは電線を歩き、電柱や樹木や塀を登る。住宅地では電線が縦横に張られており、これはハクビシンにとっては森林の樹上と似たような環境に見えることだろう。都市部でもハクビシンが生活できるのは電線のおかげと言えるかもしれない。
ただし、ハクビシンは「完全な樹上生活者」ではないことにも注意されたい。ハクビシンは地面上で目撃されることが最も多いのである。

・家屋侵入

家屋侵入は9件だった。ベランダに現れた例は含まない。屋根裏・天井裏が6件。いずれも民家であった。内1件では壁の中を登ったことがわかっている(壁の中の断熱材をかきわけて天井裏に登ったと思われる)(DBN3317)。
他にはマンションの地下駐車場に侵入した例が1件ある(DBN3235)。
ハクビシンは屋根裏・天井裏に入り込むことがある動物である。もっと多くの侵入例があってもいいはずだが、目撃情報数が少なすぎるように思える。フン・尿の場合と同様、駆除業者や行政への連絡が優先されているのだろう。
あるいは、空き家などを選んで侵入していることも考えられる。他にも寺の本堂や神社の本殿は屋根が高く、人間の使用頻度も少ないためハクビシンがすみついても気づかれていない可能性がある。


■アライグマの目撃情報の集計

アライグマの集計結果は目撃情報が少ないため統計的に十分なものとは言えないことに注意してほしい。

2013年〜2015年の目撃情報は38件あった。2013年は18件、2014年は13件、2015年は7件である。
情報源の分類は以下の通りである。

メール
37
宮本
0
メディア
1
ホームページ
0

各区毎の目撃件数を多い順に並べると次のようになる。

新宿区
3
江東区
3
目黒区
3
大田区
3
世田谷区
3
杉並区
3
練馬区
3
品川区
2
渋谷区
2
中野区
2
豊島区
2
板橋区
2
千代田区
1
港区
1
文京区
1
台東区
1
北区
1
葛飾区
1
江戸川区
1
中央区
0
墨田区
0
荒川区
0
足立区
0
38

■アライグマの目撃分布図

メッシュ地図を下に掲載した。
1メッシュ当たり目撃件数の最大は4件である。


■アライグマの目撃例の分析

・死亡例

死亡例は1件だった(DBN3645)。渋谷区で、交通事故死とみられる。

・フン・尿

フン・尿の例は0件だった。

・疥癬症、脱毛症状

何らかの脱毛症状が見られた例は0件だった。

・イヌとの遭遇

イヌに遭遇する例は0件だった。

・ネコとの遭遇

ネコに遭遇する例は4件あった。これにはネコ用に置いたエサを食べに来た例(ネコには直接遭遇していない場合もある)が含まれる。ネコのエサを食べた例は2件(DBN2429、2905)。

・河川落下

河川落下は0件だった。

・目撃月

グラフを下に掲載した。月日が不明な目撃例は集計していない。

・目撃時刻

グラフを下に掲載した。時刻が不明な目撃例は集計していない。夜行性であることを示しているようだ。

・目撃頭数

有効件数は38件。目撃頭数が1頭のみの例は36件で、2頭は2件である。

・目撃場所

道路は24件、民家は9件、企業は2件、その他3件である。
特殊な目撃場所については上とは別に集計している。電線・電柱は2件、塀・フェンスの上は3件、屋根・屋上・ベランダは0件、樹上は3件、欄干・手すりは1件である。これらの数字は重複がある。

・家屋侵入

家屋侵入は0件だった。

・子育て

出産・子育の情報は0件だった。どこを巣にしているのかの情報もまったくない。

・繁殖の可能性がある地域

アライグマが同時に複数頭目撃されたり、ある地域で集中して目撃される場合、繁殖が疑われる。
2013年〜2015年では特に目撃が集中した地域はなかった。新宿区の一部で目撃が多くなっているが、目撃時期はばらついているため繁殖との関係は不明である。

・アライグマの推定生息数

アライグマの目撃件数は少ないため、生息数を推定することは難しい。23区のタヌキの生息数を1000頭と仮定し[文献3]、タヌキとの目撃件数の比較から単純計算すると、23区内にアライグマは数十頭から100頭前後の規模で生息していると推測できる。

アライグマはいずれ生息数が増加していく可能性は否定できず、その動向を継続的に監視する必要がある。東京タヌキ探検隊!がアライグマを情報収集の対象にしているのはそのためである。


■アナグマの目撃情報

2013年〜2015年のアナグマの目撃情報は12件あった。2013年は3件、2014年は3件、2014年は6件である。写真が撮影された例は2件、足跡の例が1件ある。
場所は渋谷区3件、杉並区3件、大田区2件、世田谷区、板橋区、練馬区、江戸川区が各1件である。
詳細は次の通り。

DBN 目撃場所 目撃年など
2581 江戸川区 2013年。荒川堤防近く。
2602 渋谷区 2013年。
2725 杉並区 2013年。
3156 渋谷区 2014年。写真あり。
3259 杉並区 2014年。
3359 渋谷区 2014年。写真あり。DBN3156と同一の場所。
3448 板橋区 2015年。荒川堤防近く。
3499 大田区 2015年。
3577 世田谷区 2015年。2頭。
3582 杉並区 2015年。足跡の写真あり。5本指で横幅がある足跡。DBN2725に近い場所。
3783 練馬区 2015年。石神井公園の近く。
3820 大田区 2015年。

2014年は渋谷区で2度も写真が撮影され、間違いなくアナグマであることが確認できた。

アナグマ生息の証拠は増えたが、どの程度生息しているのか、どうやって生活しているのかなどはまだわからない。アナグマの生息調査は急ぎ行うべきことである。特に大田区、世田谷区、江戸川区は生息場所の絞り込みが可能であり、調査を優先して行うべきである。本来ならば私自身が調査を行いたいところであるが、残念ながらリソース(時間、資金、人員)をまったく持ち合わせていないため実行不可能である。興味本位ではなく、しっかりとした態勢で生息調査を行う用意がある方には情報提供などの協力はするつもりでいる。

日本全国で見ればアナグマは絶滅のおそれはない動物である。しかし大都会の中のアナグマが消え去ってしまうことの是非については多くの人に考えていただきたいことである。

・アナグマの推定生息数

目撃情報の数の比較からアナグマはアライグマよりも少ないと考えられる。東京都23区全体で最大でも数十頭以下と宮本は推測している(これは「絶滅寸前」と言っていい状態である)。

■キツネの目撃情報

キツネの目撃情報はなかった。


■考察1:目撃情報数の変動とタヌキの目撃情報数の減少

ここではタヌキなどの動物の目撃情報数の変動を報告する。その中でもタヌキの目撃情報数が減少傾向であることには注目が必要である。

次の表とグラフは1999年以降の目撃情報数の推移である。

タヌキ
ハクビシン
アライグマ
1999年
2
1
0
2000年
3
1
0
2001年
8
1
1
2002年
6
1
1
2003年
8
0
0
2004年
9
1
0
2005年
23
3
0
2006年
49
7
0
2007年
106
19
3
2008年
157
44
4
2009年
177
153
12
2010年
157
183
14
2011年
140
243
21
2012年
137
224
10
2013年
134
157
18
2014年
106
227
13
2015年
76
212
7

表とグラフの解釈には注意が必要である。東京タヌキ探検隊!の情報収集システム(ホームページで情報提供を呼びかけ、メールで連絡するという方法)は初期の頃はほとんど機能していなかった。なぜならパソコンとインターネットの普及率が低かったからである。これらが一般家庭へ十分普及したのは2007年頃であり、そのころから情報収集システムがうまく稼働するようになった。またタヌキ以外の動物、ハクビシンやアライグマ、アナグマの目撃情報収集を積極的に行い始めたのは2008年以降である。
そのため信頼できる目撃情報数は、タヌキでは2008年以降、ハクビシン、アライグマでは2009年以降だと考えられる。

タヌキは2009年をピークにずっと減少傾向、ハクビシンは変動はあるものの200件前後を行き来している。
目撃情報数はメディアなどでの報道やネット検索での順位、東京タヌキ探検隊!自身の広報宣伝活動などに影響される面はあるものの、おおむね生息数を反映していると考えられる。そうすると、タヌキの生息数が現実に減少傾向であると推測せざるをえない。ただし減少の理由は不明である。
減少のひとつの仮説として、捕獲されすぎている可能性を挙げる。複数の区ではタヌキやハクビシン、アライグマ捕獲のために箱ワナを設置している[文献4]。また駆除業者による駆除もある(どちらの場合でも捕獲された動物は原則として殺処分されている)。タヌキは捕獲されすぎているため生息数が減少しているのかもしれない。ただし、ハクビシンも同じように捕獲されているはずなのに減少していないことを説明できない。

一方でハクビシンはタヌキよりも安定して生息数を維持しているようである。最近、ハクビシン被害が新聞等で取り上げられることが以前より多くなってきたが、生息数が増加しているわけではないらしいという点には特に注意が必要である。
ハクビシン被害が増加しているように見えるのは、以前はハクビシン被害が知られていなかったから、最近になってメディアでの登場が増えたからといった理由のためと考えられる。実際には東京都23区でのハクビシンの生息数は既にほぼ上限に達しており、今後生息数が爆発的に増加することは考えにくい。

・それぞれの動物の生息数の推定

東京都23区のタヌキの生息数については2012年に約1000頭と推定した[文献3]。
目撃情報数の減少を考慮すると、その半分近く、約500頭まで減少している可能性がある。減少のペースが速すぎるため、この推定値が正しいかの判断は難しい。現時点では約500〜約1000頭という幅を持たせた数を示さざるを得ない。

ハクビシンの生息数は、具体的な生態(年間の出産仔数、家族行動)などが不明であるためタヌキとの目撃情報数の比較から推測するしかない。
2010年以降はハクビシンの方がタヌキの目撃情報数を上回っており、ハクビシンの方が生息数が多いのは確実である。2012年のタヌキの生息数を1000頭として、2012年のタヌキの目撃情報数を基準に単純計算すると、ハクビシンの推定生息数は約1100〜約1800頭となる。誤差があるとしても最大の生息数は2000頭以下であると考えられる。

アライグマの生息数は前述の通り、数十頭から100頭前後と推測できる。
アライグマの生息数が急激に増えないのは、生態が似たハクビシンが既に進出してしまっているせいかもしれない。

アナグマの生息数も前述の通り、数十頭以下と推測している。


■考察2:10年間のアライグマ目撃情報の集計

アライグマは目撃情報数が少なく、3年間の集計では具体的な生態はわかりにくい。ここでは2006年〜2015年の集計からいくつかの結果を紹介する。

目撃情報数の推移は上記の「考察1」の通りで、合計102件になる。なお、2006年は目撃情報数は0件なので実質的には9年間の集計となる。

各区毎の目撃件数を多い順に並べると次のようになる。

世田谷区
17
新宿区
7
大田区
7
杉並区
7
練馬区
7
文京区
6
目黒区
6
豊島区
6
港区
5
江戸川区
5
千代田区
4
江東区
4
中野区
4
北区
3
板橋区
3
中央区
2
品川区
2
渋谷区
2
足立区
2
葛飾区
2
台東区
1
墨田区
0
荒川区
0
102

・目撃分布図

メッシュ地図を下に掲載した。
1メッシュ当たり目撃件数の最大は6件(1ヶ所)、次いで4件(2ヶ所)である。

タヌキやハクビシンと同じく、北西部で目撃が多くなっている。タヌキの場合は緑地近くに生息が集中する傾向があるが、アライグマは緑地に関係なく広く薄く分布しており、ハクビシンに近い分布傾向と言える。特定地域で大繁殖している様子は見られない。

・目撃月

グラフを下に掲載した。月日が不明な目撃例は集計していない。
グラフの意味については生態などのデータが少ないため分析できない。
アライグマの繁殖期は春から秋まで幅がある。また地域差もあると考えられている[文献5]。目撃月の傾向は繁殖期と関係があると推測される。

・目撃時刻

グラフを下に掲載した。時刻が不明な目撃例は集計していない。夜行性であることがはっきりわかる。


■全国の目撃情報の集計

東京都23区以外の目撃情報についても報告する。いずれも2015年のみの集計である。

・2015年の事件

宮本は主に朝日新聞デジタルとGoogleアラートを利用してタヌキなどの記事をチェックしている。

大阪日日新聞ホームページによると、大阪市天王寺区の安居神社でタヌキが目撃されているとのことである(2015年9月6日付)。この付近は四天王寺、天王寺公園など緑地が集中している地域であり、宮本は以前からタヌキの生息を推定していた。

2015年12月28日、東京電力の発表によると、12月21日朝に福島第一原発2号機の建屋内にキツネが入り込んでいるのが監視カメラに映っていた(朝日新聞、読売新聞などメディアで報道)。現場は放射線量が高い場所であるがキツネのその後の生死は不明である。

・都道府県毎の目撃情報数

下に都道府県毎の目撃情報数の表を掲載した。これは2015年の目撃のみの集計である。目撃情報数が0件の地域は省略した。首都圏や大阪府は目撃者本人からのメールによるものが多いが、それ以外の地域の情報は新聞などのメディアに掲載されたものが多い。
目撃情報数が増えれば、東京都23区のようにより詳細な分析が可能になる。東京都23区以外からの目撃情報もぜひ知らせてほしい。

都道府県毎の目撃情報数(2015年)

タヌキ ハクビシン アライグマ アナグマ キツネ アカハナグマ
北海道
2
岩手県
1
宮城県
1
福島県
1
栃木県
1
埼玉県 ※1
4
1
さいたま市
1
千葉県
2
2
1
東京都23区
76
212
13
3
東京都多摩地区
15
19
2
1
神奈川県 ※2
1
横浜市
3
3
4
川崎市
2
2
1
相模原市
2
新潟県
1
静岡県
2
愛知県
1
三重県
1
滋賀県
1
大阪府 ※3
1
大阪市
1
1
奈良県
1
岡山県
1
福岡県
1
4
宮崎県
1

※1 さいたま市を除く
※2 横浜市、川崎市、相模原市を除く
※3 大阪市、堺市を除く。今回は堺市は0件。

アカハナグマは写真等の記録はない。だが、細長い尾にシマ模様があったとのことでありアカハナグマとして記録した(DBN3731)。

・東京タヌキ探検隊!データベースの記録について

2015年末現在、記録された全目撃情報数は3860件。動物別の内訳は以下の通り。

ハクビシン 1764件(45.7%)
タヌキ 1749件(45.3%)
アライグマ 232件(6.0%)
ニホンアナグマ 39件(1.01%)
キツネ 31件(0.80%)
チョウセンイタチ 11件(0.28%)
ニホンイタチ 3件(0.08%)
ジャワマングース 2件(0.05%)
アカハナグマ 1件(0.03%)
不明 28件(0.73%)。

ついにハクビシンの目撃情報数がタヌキを上回った。

地域の内訳は以下の通り(%表示は1%未満は省略)。

●東京都 3259件(84.4%)
23区 2987件(77.4%)
多摩地区 272件(7.0%)
八王子市 33件
三鷹市 29件
武蔵野市 26件
町田市 24件
調布市 19件
小金井市 16件
府中市 15件
立川市 14件
国分寺市 12件
日野市 12件
稲城市 11件
多摩市 10件

●神奈川県 191件(4.9%)
横浜市 104件(2.7%)
川崎市 53件(1.4%)
相模原市 10件

●千葉県 95件(2.5%)
市川市 22件
松戸市 14件
船橋市 11件

●埼玉県 82件(2.1%)
さいたま市 19件

●大阪府 58件(1.6%)
大阪市 13件
堺市 13件
高槻市 11件

●福岡県 23件
福岡市 15件

●兵庫県 16件

●京都府 13件

調査方法の性質上、人口が多いほど目撃数も多くなる傾向があることに注意してほしい。

全データのうち、写真や動画などがあるものは899件(23.3%)である。


■今後の課題

報告書は毎年同じような内容ではあるが、最新の情報を提供するためにも定期的な報告は継続していく。
目撃情報の収集は今後も引き続き行っていく。「東京タヌキ探検隊!」を名乗っているが、タヌキだけではなく、ハクビシン、アライグマ、アナグマ、キツネなども平等に扱っている。また地域も日本全国を対象にしている。皆さまのご協力をお願いします。

宮本は現在、仕事の都合で調査研究のための時間がとりにくい状況である。しかし目撃情報の収集と分析、センサーカメラの設置などはこれまで通り行っている。時間がかかるフンの分析は停止しており、詳細な報告はすぐにはできない。

東京都23区のタヌキなどの目撃情報の報告は次回は2017年1月を予定している。今回と同じく直近の3年間が対象となる。

東京都23区でのアブラコウモリを調査する「東京コウモリ探検隊!」も引き続き活動を行っている。アブラコウモリはタヌキなどよりも観察は非常に簡単である。ぜひ多くの方に参加していただきたい。


■謝辞

この調査研究は全国の皆さまから寄せられる目撃情報によって成り立っている。情報を寄せていただいた多くの方々にまず感謝をしなければならない。フンの回収やセンサーカメラの設置など特別のご協力をいただいた方々にも深く感謝する。

そして都会でしっかりと生活し、時々私たちの前に姿を見せてくれるタヌキやハクビシンやアナグマやキツネたちにも感謝する(残念ながらアライグマは外来生物なので感謝はできない)。


■文献

東京タヌキ探検隊!のホームページ

http://tokyotanuki.jp

東京タヌキ探検隊!の過去の報告書は次のページから見ることができる。

http://tokyotanuki.jp/reports.htm

東京コウモリ探検隊!のホームページ

http://tokyobat.jp

[文献1] 「東京都23区内のタヌキ、ハクビシン、アライグマの目撃情報の集計と分析(2012年1月版)」 「考察1:練馬区のパラドックス」の項を参照のこと
http://tokyotanuki.jp/docs/tanuki1201.htm
宮本 拓海、2012年

[文献2] 東京タヌキタイムズ(東京ハクビシンタイムズ) 2015年4月号「ハクビシンは冬眠してるのかも仮説/目撃情報数の季節変化はこれで説明できるか?」
http://tokyotanuki.jp/times/tanukitimes201504.pdf
宮本 拓海、2015年

[文献3] 「東京都23区内のタヌキの生息数の推定(2012年版)」
http://tokyotanuki.jp/docs/tokyotanuki1208.pdf
宮本 拓海、2012年
「東京都23区のタヌキの生息数は約1000頭」ということは広く知られつつあるが、その根拠を示しているのは宮本だけである。

[文献4] 杉並区ホームページより 「ハクビシン等の被害相談について」
http://www.city.suginami.tokyo.jp/guide/kenko/doubutsu/1014116.html

 中野区ホームページより 「ハクビシン・アライグマによる被害が続いたら」
http://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/dept/475000/d021162.html

 23区のホームページを調べたところ、11の区で区または区が委託した駆除業者が箱ワナを設置することが記されている(対象はハクビシン。一部ではアライグマも)。上のホームページはその一部の例である。板橋区や練馬区など生息数が多いはずの区で捕獲事業を行っていないことがあるのは興味深い。予想される捕獲数が多すぎて行政では対処できないという理由があるのかもしれない。
これらのホームページにはタヌキは明記されていないが同様に駆除の対象になっているはずである。

[文献5] 「アライグマの繁殖生態」(加藤卓也、宇野太基) 「アライグマ連続シンポジウム2012」(主催:関西野生生物研究所)資料より。
http://www.kansaiwildlife.com/pdf/racoon20120901-02/29-35.pdf


■使用地図

本稿に掲載した地図は国土地理院発行の以下の数値地図を複製・使用した。
「数値地図5mメッシュ(標高) 東京都区部」
「数値地図50mメッシュ(標高) 日本II」


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