小学校の向け読み物
センサーカメラでタヌキの写真をとる
2010年11月14日、私は横浜市旭区の雑木林に向かっていました。タヌキを撮影するためにセンサーカメラ2台を設置しに行くのです。林の近くにある川井小学校のK先生もいっしょです。K先生は小学校でタヌキの授業をしていて、私はそれに協力するためにタヌキの撮影に来たのでした。
センサーカメラとは、前を動物が通ると自動的に写真をとるカメラです。タヌキなどの動物はいつ来るかわかりません。何日も人が見はり続けることはできませんが、センサーカメラなら2週間、自動的に写真をとってくれます。
センサーカメラを林の中のどこに置くか、これは大きな問題でした。タヌキが通らないところにセンサーカメラを置いたら何も写真は写りません。タヌキがすぐ近くを通る場所に置かなければならないのです。
実は、大きな林の中にセンサーカメラを置くのは、私には初めての経験でした。私が主に調査しているのは東京都23区で、そこにはこれほど大きな林はほとんどありません。そこで、1週間前にもこの林にK先生といっしょに来て、タヌキが来そうな場所を調査しておいたのでした。
センサーカメラの1台目は、道の脇にあるけもの道に置くことにしました。けもの道とは、タヌキやウサギなどの野生動物が通る道です。やぶの中に一本の道が通っていますが、人間が通るにはせますぎるので動物が通った場所だとわかるのです。
2台目は林の中にある広場のような場所に置きました。この場所は木や草もあまり生えていない、見通しのいい場所です。タヌキも草がしげっている場所よりも、草のない場所の方が歩きやすいでしょう。それに、ここは落ち葉がつもっているので、落ち葉の下の昆虫などをタヌキが食べに来るかもしれません。
これでセンサーカメラの設置は終わりました。あとは待つだけです。さあ、写真はうまくとれるでしょうか?
11月26日、私とK先生はふたたび雑木林に行きました。ちゃんと写真がとれているか確認するためです。
まず1台目のセンサーカメラを調べます。残念、何も写っていません。間違いなくけもの道だと思っていたのに、動物は通らなかったのです。
次に2台目を調べます。あらら、こちらにもタヌキは写っていません。しかも、設置したその日にたくさん写真を撮っていて、すぐに電池が切れてしまっています。どうも太陽の光に反応してカメラが作動したようです。これは大失敗です。これではタヌキが来たかどうかもわかりません。そこで、電池を交換してもう一度挑戦してみることにしました。
11月30日は、いよいよ私が川井小学校5年生にみんなに授業をする日です。
まずはみんなで雑木林に行き、センサーカメラを置いた場所に行きました。2台目のセンサーカメラを置いた林の中の広場では、スコップを持って落ち葉の下を調べてもらいました。タヌキは地面にいる小さな生物を食べるといわれていますが、すっかり寒くなった11月の終わりに本当に生物はいるのでしょうか? 落ち葉をスコップでゆっくりどけていくと、……いました、いました。みんな次々と生物を見つけてくれました。ゴミムシという小さな昆虫がいました。小さく丸まっているのはヤスデです。寒いので丸くなって眠っていたようです。プラスチックの入れ物に入れると、びっくりしたのかまっすぐになって歩き出します。10cmはある大きなムカデを見つけてくれた人もいました。意外と生物がいるのですね。
落ち葉の下は暖かいので、冬をこすことができるのでしょう。タヌキはそれを知っているのです。
さて、雑木林での授業も終わり、みんなで学校に戻ります。センサーカメラもいっしょに持ち帰ります。学校に着いて、次の授業の前にセンサーカメラを確認しました。電池を交換してたった4日しかたっていませんが、今度は写っているでしょうか…。
「あっ!写ってる!」
電池を交換した11月26日の夜、広場に置いた2台目のセンサーカメラが前を通ったタヌキの写真をとっていたのでした。
この写真のタヌキは横腹の毛が抜けているようです。タヌキは疥癬症(かいせんしょう)という病気で毛が抜けてしまうことがあります。このタヌキもそうだと思われます。
タヌキが写っている写真は4枚ありました。それぞれの撮影の時刻は、
1枚目 午後8時32分9秒
2枚目 午後8時32分21秒
3枚目 午後8時32分37秒
4枚目 午後8時32分52秒
となっています。
タヌキの体長は50〜80cmです。
写真1枚目から2枚目のでは体長5つ分ほど歩いているようです。これを計算すると、250〜400cmを歩いたということがわかります。2枚目と3枚目の間はほとんど動いていません。3枚目と4枚目の間では体長2つ分歩いていますので、1〜1.6m歩いています。
これを分析すると次のようになります。
写真1枚目から2枚目まではゆっくりとですが歩いています。2枚目の場所でタヌキは地面に何かを見つけたのでしょう。口を地面に近づけていますので、昆虫やムカデなどを食べているのかもしれません。その後、さきほどよりもゆっくりと歩いていったようです。
これらの写真からは、タヌキが落ち葉のつもった場所で食べ物を探していることがわかったわけです。
次の授業ではさっそくこの写真を5年生のみんなに見てもらいました。みんなとても興味津々で写真を見ていました。センサーカメラは大成功でした!
※体長=鼻先から尾のつけ根(または肛門)までの長さ。「頭胴長」(とうどうちょう)ともいう。尾の長さはふくまない。
授業での使用について
総合の授業では教材のひとつとして本を利用することが多いと思いますが、タヌキは子ども向けの本も大人向けの本も多いとは言えません。そこで教材として使えるものとして上記の文章を書きました。
国語の教材にもなるように書いたつもりです。朗読で約10分程度です。
小学校中学年〜高学年を想定して書きましたが、難しい言葉があれば指摘してください。他の言葉に書き直します。未学習漢字はひらがなにしてかまいません。
書いた内容は、細部は省略しましたが本当にあったことです(横浜市立川井小学校の総合の学習の授業に協力した時の体験談です)。
写真は希望があればオリジナルのデータを提供します。センサーカメラの実物を見たことがない人がほとんどでしょうから、センサーカメラの外観の写真も提供できます。
タヌキについての読み物は東京タヌキタイムズもご利用ください。 ただし、小学生にはちょっと難しい言葉もありますし、文字数の関係で細かいことまで書けないことも多いのが難点です。
実践でのヒント
授業と関係がありそうなポイントを以下に書きました。いろいろな教科にかかわるので使いどころが難しいかもしれませんが、そこは現場でうまくやってください。他にも使えるポイントがあれば、先生ご自身の工夫でどんどん使ってください。
●ポイント タヌキを観察するにはどうすればいいだろう?
タヌキは夜行性であること、人間を警戒してあまり近づかないこと、の2つが大前提になります。 (これは正解はありません。場所や目的によっていろいろな方法が考えられます。「テントをはって隠れて待つ」というのは非常に警戒されます。)
●ポイント もしタヌキが夜、学校に来ているとしたら、あなたはどこにセンサーカメラを置きますか?
タヌキが入れる場所は限られているので、そこに置くのが定石です。柔らかい土がある花壇や畑も良い候補です。
●ポイント 落ち葉の下を探してみよう
季節によって生物の種類が違います。11月14日に行った時はゴキブリがたくさんいました。年に何度か試してみるのもいいでしょう。落ち葉はゆっくりとかきわけるのがコツです。そうしないと小さな生物を見落とします。
●ポイント タヌキが歩く速度を自分で確かめてみよう
「何秒で何cm歩いた」という計算をします。時速に換算するといいかもしれません。参考:人間の大人が歩く速度はだいたい時速3〜4kmです。 なお、3〜4枚目の写真では、「10秒間その場にとどまって、5秒で歩き去った」という解釈もできます。各写真の間の動きはわかりませんので、いろいろ想像してみると面白いかもしれません。