東京タヌキタイムズ
141号(2020年9月) タヌキの法律
鳥獣保護法と動物愛護法
動物に関する法律は以前にも別の場所で書きましたが、またあらためて、ちょっと別の視点から書いてみようと思います。
特に、タヌキにとっての法律という視点で見ていきたいと思います。
日本での動物の法律で特に重要なものは
「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法」(略称は鳥獣保護管理法、鳥獣保護法)
「動物の愛護及び管理に関する法律」(略称は動物愛護管理法、動物愛護法)
の2つです。
どちらも環境省の管轄です。
さて、この2つの法律の違い、おわかりになるでしょうか。一見するとどちらも同じように動物を扱っているように見えますが…。
まずはそれぞれで「動物」をどう定義しているか見てみましょう。
「鳥獣保護法」ではこう定義されています。
第二条 この法律において「鳥獣」とは、鳥類又は哺乳類に属する野生動物をいう。
おや、どうやら爬虫類や両生類や昆虫などなどは含まれていないようです。しかも「野生」とあるのでペットは除外されます。
さらに見ていきましょう。
第二条(続き)
4 この法律において「希少鳥獣」とは、国際的又は全国的に保護を図る必要があるものとして環境省令で定める鳥獣をいう。
5 この法律において「指定管理鳥獣」とは、希少鳥獣以外の鳥獣であって、集中的かつ広域的に管理を図る必要があるものとして環境省令で定めるものをいう。
7 この法律において「狩猟鳥獣」とは、希少鳥獣以外の鳥獣であって、その肉又は毛皮を利用する目的、管理をする目的その他の目的で捕獲等(捕獲又は殺傷をいう。以下同じ。)の対象となる鳥獣(鳥類のひなを除く。)であって、その捕獲等がその生息の状況に著しく影響を及ぼすおそれのないものとして環境省令で定めるものをいう。
なんだかややこしくなってきました。
「希少鳥獣」と「指定管理鳥獣」は何らかの保護をすべき動物、「狩猟鳥獣」は文字通り狩猟の対象になる動物のことです。
次は「動物愛護法」での定義を見てみましょう。
ところが、同法ではなかなかその定義が出てきません。ようやく出てくるのは…。
第二節 第一種動物取扱業者
(第一種動物取扱業の登録)
第十条 動物(哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するものに限り、畜産農業に係るもの及び試験研究用又は生物学的製剤の製造の用その他政令で定める用途に供するために飼養し、又は保管しているものを除く。以下この節から第四節までにおいて同じ。)の取扱業(動物の販売(その取次ぎ又は代理を含む。次項及び第二十一条の四において同じ。)、保管、貸出し、訓練、展示(動物との触れ合いの機会の提供を含む。第二十二条の五を除き、以下同じ。)その他政令で定める取扱いを業として行うことをいう。以下この節、第三十七条の二第二項第一号及び第四十六条第一号において「第一種動物取扱業」という。)を営もうとする者は、当該業を営もうとする事業所の所在地を管轄する都道府県知事(地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市(以下「指定都市」という。)にあつては、その長とする。以下この節から第五節まで(第二十五条第七項を除く。)において同じ。)の登録を受けなければならない。
長い!
簡単に言うと、哺乳類、鳥類、爬虫類となるのですが、ここでの定義は第一種動物取扱業が扱うものについてだけの話です。ちなみに第一種動物取扱業とは、ペット販売業者、ペットホテル業者、ペットレンタル業者、動物園などのことです。
さらに先を読むと、
第六章 罰則
第四十四条 愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。
2 愛護動物に対し、みだりに、その身体に外傷が生ずるおそれのある暴行を加え、又はそのおそれのある行為をさせること、みだりに、給餌若しくは給水をやめ、酷使し、その健康及び安全を保持することが困難な場所に拘束し、又は飼養密度が著しく適正を欠いた状態で愛護動物を飼養し若しくは保管することにより衰弱させること、自己の飼養し、又は保管する愛護動物であつて疾病にかかり、又は負傷したものの適切な保護を行わないこと、排せつ物の堆積した施設又は他の愛護動物の死体が放置された施設であつて自己の管理するものにおいて飼養し、又は保管することその他の虐待を行つた者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
3 愛護動物を遺棄した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
4 前三項において「愛護動物」とは、次の各号に掲げる動物をいう。
一 牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる
二 前号に掲げるものを除くほか、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの
となっています。
突然ここで「愛護動物」という言葉が現れてくるのですが、これは要するに
「牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる」(人間が飼育しているかどうかは問わない)
と
「人間が飼育している哺乳類、鳥類、爬虫類」
ということです。やはり両生類や昆虫などなどは含まれていません。
このように、法律ではありとあらゆる動物を対象としているわけではありません。
以上だけでは、それぞれの法律が対象としている動物がわかりにくいのでもう少し説明しますと、
鳥獣保護法は野生動物(哺乳類、鳥類)
動物愛護法は飼育動物(哺乳類、鳥類、爬虫類)
を対象とします。
鳥獣保護法は名称に「狩猟」という言葉が入っているように、野生動物の狩猟を定めた法律が元になっています。
動物愛護法はペット業者のことが書かれていることからおわかりのように飼育動物が対象です。
タヌキの場合で言うと、
鳥獣保護法では狩猟鳥獣に含まれます。まあ、つまり、狩猟の対象になる動物となるわけです。
(「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律施行規則」の別表第二で指定)
ハクビシン、アライグマ、アナグマ、キツネも同じです。
アブラコウモリ他、コウモリ類はすべて狩猟鳥獣ではありません。一方でコウモリ類は半数以上の種が希少鳥獣に指定されています。アブラコウモリは希少鳥獣ではありません。
動物愛護法では野生動物は対象外となります。
(人間が飼育している場合は対象になります。)
タヌキは、飼育が禁止されている「特定動物」(第二十五条の二)には含まれていませんので飼育は可能です。ペットとして飼いやすいかどうかは別の話です。
ハクビシン、アライグマ、アナグマ、キツネ、コウモリ類も特定動物ではありません。が、アライグマは別の法律「外来生物法」で飼育が禁止されています。
142号(2020年10月)
担当する役所
鳥獣保護法も動物愛護法も国レベルでは環境省が担当していますが、地方自治体では担当部署が分かれます。
鳥獣保護法は東京都の場合、環境局(自然環境部計画課)が担当します。
動物の捕獲や狩猟や駆除の許可は環境局が出しています。区市町村が駆除をしたい場合でも必ず都環境局に申請しなければなりません。独自の判断で駆除することはできません。
ちなみに狩猟免許を交付するのは知事の仕事です(各種手続は都環境局の仕事)。ちなみに宮本隊長も狩猟免許(網、わな)を持っています。
ただし、都環境局は行政の窓口としての機能のみしか持ちません。
つまり、…
「おい、おまえら! 今から神田川に落っこちたかわいそうなタヌキちゃんを助けに行くぞ!!」
「「「「「押忍!!!!!」」」」」
なんて人たちは都庁第二本庁舎19階にはいません。
実動部隊は役人ではなく、外部の駆除業者や狩猟者団体、自然保護団体に外注されるわけです。
どの都道府県でもたいていは実行部隊は持たないはずで、役所は手続きの担当、全体の司令塔の役割を担っているのです。
例えば市街地に現れたイノシシを駆除を実行する場合、多人数で対処しなければならないため都庁の公務員だけで対処できるものではありません。経験のある狩猟者団体や駆除業者の協力は必要です。
警察、消防もその仕組みの中で協力をします。交通整理や住民への周知のでは警察や消防が出動します。
動物愛護法は東京都の場合、東京都動物愛護相談センターが担当します。正確にはその上の福祉保健局の担当となります。また、ペットの相談窓口は各保健所にもあります。
イヌネコというと、以前は保健所の仕事でしたが、今は多くの自治体で「動物愛護センター」のような名称の部署が担当するようになっています。まだ移行しておらず今も保健所が担当する自治体もあります。小さな自治体では職員数や施設の整備などが難しく、なかなか移行できないこともあるでしょう。
現在、保健所は原則的に人間の福祉・保健・衛生行政を行ない、動物のことは扱いません。(と思ったら、イヌの登録関係は保健所でも受け付けているのですね。自治体によって仕組みはばらばらだと思います。)
いまだに多いのは、「動物=保健所の仕事」という思い込みです。今はそうではないことを知っておいてください。
タヌキなどの野生動物は保健所に相談しても意味がありません!
民間団体
行政ではない、民間団体についても説明します。
「動物愛護団体」というとあらゆる動物を対象にしているように思えるかもしれませんが、実際はそんなことはありません。「動物愛護団体」は飼育動物だけ、実際にはほぼイヌ、ネコだけを対象にしています。つまり動物愛護法に対応しているといえます。
では、野生動物を扱う団体はどう呼ぶかというと、「自然保護団体」となります。こちらは鳥獣保護法に対応しています。
動物愛護団体と自然保護団体ははっきりと分かれており、越境する団体はほとんどありません。意外に思われる方も多いかもしれませんが、野生動物と飼育動物は法律だけでなく対処法がまったく違っており、どちらもカバーするのは難しいと思います。野生動物と飼育動物を区別できない団体は問題があるとも言えるでしょう。
ですので、神田川に落ちたタヌキを助けるのなら「自然保護団体」に声をかけるべきであり、「動物愛護団体」に頼むのは筋違いなのです。
ただし、「自然保護団体」は野生動物には直接介入しない、というのが基本のスタンスなので捕獲のノウハウが必ずしもあるわけではありません。相談相手としては頼りないかもしれません。
神田川タヌキ落下事件(2019年12月)では「動物愛護団体」が捕獲作業に協力してくれたらしいです(結局捕獲はできなかった)。タヌキはイヌやネコとサイズが同程度で、動物愛護団体には箱罠の使用のノウハウもあるため可能であったのです。守備範囲違いなのにありがとうございました。
山林でイヌが行方不明になった場合は、逆に狩猟者団体が役に立てるだろうと思います。
注意してほしいのは、民間団体は無償奉仕をしてくれる組織ではないということです。無償で対応してくれたとしても、それには人、金、時間といったリソースを使っているということを忘れないでください。
東京タヌキ探検隊!の場合
タヌキもハクビシンもアブラコウモリも鳥獣保護法の対象です。ですので東京タヌキ探検隊!、東京コウモリ探検隊!は鳥獣保護法の範疇で活動しています。
イヌ、ネコのことをほとんど扱わないのは飼育動物だからです。現実的にも野生動物と飼育動物はまったく違う動物だと実感します。特にイヌとネコは人間社会に深く組み込まれており、タヌキよりも人間に近い存在だと思っています。
ただし、まったくの無関心というわけではありません。イヌ、ネコがタヌキなどと遭遇した場合にお互いがどのような反応をするかには興味があり、そのような目撃情報があった場合には必ず詳細を聞くようにしています。
なお、東京タヌキ探検隊!、東京コウモリ探検隊!は宮本隊長1人だけで活動しており、動物とは関係ない仕事(まったく無関係でもありませんが)をしているただの平社員でしかありません。そのため調査研究以外の活動は難しいです。神田川に落ちたタヌキを助けろ、と言われても対応は無理なのです。
143号(2020年11月)
鳥獣保護法の問題・野生動物の保護
鳥獣保護法では原則として野生哺乳類、野生鳥類の捕獲は禁止されています。 捕獲できるのは次の3つの場合です。
・狩猟 (第十一条)
狩猟可能区域と狩猟期間と狩猟鳥獣が定められている。狩猟免許が必要。
・学術研究の目的、鳥獣の保護又は管理の目的 (第九条)
いわゆる「有害鳥獣駆除」もここに含まれる。環境大臣または都道府県知事の許可が必要。「有害鳥獣駆除」には狩猟免許が原則必要。
・農業又は林業の事業活動に伴い捕獲等又は採取等をすることがやむを得ない場合 (第十三条)
環境大臣または都道府県知事の許可を受けないで、環境省令で定めるところにより可能。ただし対象はモグラ科、ネズミ科(ドブネズミ、クマネズミ、ハツカネズミを除く)のみ。(鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律施行規則第十二条)
これはこれで理屈が通っているのですが、これに反して捕獲してしまう場合、捕獲しそうになる場合が起こりえます。特に「鳥獣の保護」の場合で、環境大臣または都道府県知事の許可無しで捕獲する(しそうになる)ことがあります。
「東京都23区内でのタヌキ」と限定した場合、次のようなことが起こりえます。
・自動車でタヌキをひいてしまい、動物病院に運ぶ場合。
緊急のことですので知事の許可を取りに行くなんてことはできません。
・疥癬症のタヌキを捕獲して動物病院に運ぶ場合。
・河川に落下したタヌキを捕獲する場合。
ケガ、病気の場合でも無許可の捕獲は違法のはずですが、自治体レベルでは動物病院を紹介しているようです。自治体の窓口を通すことで「違法」を回避しているということかもしれません。
野生動物の治療をする公的な施設があればいちばんいいのですが、関東では神奈川県で神奈川県自然環境保全センターと横浜市立よこはま動物園ズーラシア、横浜市立野毛山動物園、横浜市立金沢動物園で受け入れているぐらいです。こういうことに税金を使うということはなかなか難しいのでしょう。
さて、もうひとつの「河川に落下したタヌキ」の場合。これは2019年12月に始まった「神田川タヌキ落下事件」(杉並区久我山)そのものです。
法律上では許可さえ取れば誰が捕獲しても良さそうに見えますが、都環境局は簡単には許可は出さないように思えます。許可を出すなら確実に捕獲できるという計画を出さねばならないでしょう。
「おいらが川に降りて捕まえてくらあ」というのでは100%失敗します。実際、勝手に川に降りて素手で捕まえようとした人がいたそうです。もちろん失敗しました。元気なタヌキを素手で捕まえられるわけがありません。
また、23区内では神田川に限らず中小河川は両岸が高い垂直壁であることがほとんどで、川に降りること自体が危険を伴います。「ロープ高所作業」に相当することだと考えねばならないのです。
川に下りたとしても水中はすべりやすく、やはり危険です。
こういったことを考えると、入念に計画・準備しないと失敗するのは明らかで、事故のおそれもあることを考えると簡単に許可を出せないのも理解できます。
「都環境局が捕まえてくれ」と言われても、都環境局もただの公務員ですからちょっと難しいでしょう。業者にやってもらうとしてもそんな予算があるとは限りません。
警察や消防に出動してほしいところですが、野生動物の捕獲は本来の業務ではなく、対応しなくても文句は言えません。そもそも数人行けば解決するようなものでもないので、実行するのも簡単ではないでしょう。ただし過去には警察・消防が捕獲した事例もあります。いったいどういう基準で行動しているのかはまったくわかりません。
このような「鳥獣の保護」は法律でも行政でも適切な対応がされているとは言えません。
ケガ、病気に限らず、また、タヌキに限らず、捕獲も想定されるような事態は23区でもいろいろと考えられます。「イノシシが現れた」というまさかの事件もありましたし、数年に1度はサルが現れたりします。事件が起こってから対策を考えても遅いこともあるでしょう。
起こりえる事態をリストアップし、関係部署と調整し、マニュアルを作成する、ということを自治体(都環境局)には期待したいのですが、無理な相談でしょうか。これは都会には関係ないことではなく、都会でもありえることなのです。
ケガ、病気の問題についてはもうひとつ考えておいた方がよいことがあります。
例えば山奥では人間に知られることなくケガをし、病気になるなる動物がたくさんいます。体制をいくら整えたとしても助けることができるのは幸運にも人間が発見できた動物だけで、あらゆる動物を治療することは不可能です。特定の地域の動物だけが厚遇されることになるのは果たしてよいことなのか、悩ましいことです。
少なくとも、人間が原因のケガ、病気は人間で解決してあげたいものだと私は思います。河川落下事件も人間が作り出した状況での事故です。救助はやるべきことだと思います。
144号(2020年12月)
タヌキが天然記念物・文化財保護法
天然記念物と言えば絶滅のおそれのある動植物や珍しい動植物が指定されるものです。実はタヌキも天然記念物なのです、と言ったら驚く人は多いでしょう。その話の前に天然記念物とは何かについて説明します。
天然記念物とは「文化財保護法」という法律で定められています。「動物が文化財」というのは奇妙に聞こえるかもしれません。一般には文化財とは美術作品、建築物、古文書、などなどといった人間にかかわるもののことですが、動植物や地質・鉱物といった自然のものも含まれます。この自然のものについてを「天然記念物」と言います。
天然記念物の内、特に重要なものは「特別天然記念物」に指定されます。
文化財保護法の管轄は文化庁です。動植物を文化庁が担当?、と違和感を感じるかもしれませんが、ちゃんと仕事はしていますので問題はありません。ただ、環境省の仕事とかぶってしまう領域でもあります。例えばコウノトリは文化庁、トキは環境省、といった「なわばり」があったりもします(※実質的には地元自治体の役割の方がずっと大きいです)。天然記念物が無意味だとは思いませんが、「行政のムダ」を少々感じてしまいます。
国が指定した天然記念物は「国の天然記念物」と呼ばれます。一般には天然記念物と言えば「国の天然記念物」のことです。地方自治体では条例で天然記念物を指定しており、「○○県の天然記念物」のように呼ばれます。
さて、「タヌキが天然記念物」の件。これは「国の天然記念物」です。そんな話は聞いたこともない、そもそも保護されてないよね? と思う人がほとんどなのは仕方ありません。この天然記念物、正しい名称は「向島タヌキ生息地」。つまりタヌキという動物が天然記念物というより、「生息地」という場所が天然記念物なのです。
ちなみに向島は山口県防府市にあります。1つの橋で本土とつながっています。
では、そんなに特別な場所なのかというと、山口県の説明によれば
「1926年(大正15)には、生息数2万頭と推定されたが、その後減少し、1987年(昭和62)の調査では、生息は確認されたが、その数は10頭に満たない程度であるとされた。近年の著しい減少の一因として、1950年(昭和25)の本土との間の橋が架けられ、野犬が増加したことが考えられる。」
とのこと。(この面積で2万頭はちょっと多すぎでは? 東京都23区最小の台東区より小さいのです。)
最近では2013年にタヌキが撮影され、「生きたタヌキが17年ぶりに撮影された」と報道されました。
島はほぼ全体が山林で、タヌキが生息しているのは間違いないないでしょう。ただし生息数は少ないようです。そうなると「天然記念物」の意味はあまりないようにも思えます。かといって積極的に指定を解除するほどでもなく、このままの状態は続きそうです。
「タヌキが天然記念物」と言っても、ちょっと残念な話でした。
さて、東京コウモリ探検隊!が観察の対象にしているアブラコウモリも実は国の天然記念物なのです!
と言っても、まあ、予想できると思いますが、こちらもまた生息地の指定で、生息しているのはアブラコウモリだけではありません。
名称は「西湖蝙蝠穴およびコウモリ」。「溶岩洞穴」と「コウモリのねぐら」がセットになった天然記念物です。
場所は山梨県南都留郡富士河口湖町。西湖の近くにあります。なお、入場は有料、冬はコウモリ保護のため入ることができません。
生息しているコウモリはアブラコウモリの他に、ウサギコウモリ、キクガシラコウモリ、コキクガシラコウモリがいます。こちらも一時は絶滅寸前だったそうですが、入洞制限や保護活動により回復しつつあるそうです。
145号(2021年1月)
外来生物法
外来生物と言えば、その代表はアライグマでしょうか。あちこちで農作物を食べ、飼っている魚を食べ、家屋に侵入し、おまけに病気までうつすんじゃないかなどと散々な評判です。
タヌキを駆除しろとは絶対に言わない宮本隊長も、アライグマについては「まあ、駆除も仕方ないよね…」と言わざるをえません。その理由となっているのが外来生物法です。
正式な名前は「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」。
施行は2005年で、比較的最近できた法律です。
内容は法律名の通りで、「外来生物の被害を何とかしよう」というものです。なお、同法では動物も植物も扱っていますが、ここでは動物の話だけをします。
この法律ではあらゆる外来生物を対象にしているわけではありません。そんなことをしたら膨大な種類が対象となってしまいます。
そこで、被害が特に大きな(大きくなりそうな)生物を「特定外来生物」として指定しています。この特定外来生物にアライグマも含まれています。
特定外来生物に対しては次のことが禁じられています。
・飼育
・運搬
・輸入
・譲渡(有償・無償にかかわらず)
・放出(放獣)
動物園や研究施設では許可をとって飼育することになります。逃げ出せないような飼育施設が必要となりますので、個人での飼育は事実上難しいです。
2005年の施行当時に飼育していた個体は許可をとればそのまま飼育できますが、繁殖は不可です。施行から15年以上たち、アライグマの寿命は超えてしまっています。現在日本にいるアライグマはすべて野生で繁殖したということです。
特定外来生物は当然駆除もされています。
この他にも自治体レベルでさまざまな駆除が行われています。
その割には駆除に成功したという話は聞きませんし、アライグマは今も生息域を広げている勢いです。
なぜうまくいかないかというと、予算や人員が十分ではないからです。残念ながら特定外来生物の駆除は優先順位が高いというわけではなく、後回しにされがちです。
また、生息密度が低いと捕獲の効率が非常に悪くなるという問題もあります。例えば、東京都23区でのアライグマの推定生息数はたったの100頭ほどですが、この面積でこの頭数では発見すら困難です。この状況での駆除はお金の無駄遣いになってしまうでしょう。
ただ、アライグマが少ないからといって何もしないでいると、いつの間にか大侵略されていた、ということが起こりかねませんので無策というわけにもいきません。東京都23区については、行政とは関係なく東京タヌキ探検隊!がアライグマの目撃情報を収集しており、動向はそれなりに把握しています。今のところ東京都23区では増加の兆候はありません。
もし、あなたがアライグマと出会ったらどうすればよいのでしょうか。
素手で格闘しようとしても捕まってくれる相手ではありませんのでそれはあきらめてください。
環境省によると、「見つけた特定外来生物を生きたまま許可無く運搬することはできないことから、不用意に捕まえず、まずはその場所の管理者や行政機関に相談することをお勧めします。」とのから。
外来生物法に関するQ&A
Q8の項目を参照のこと
「運んだら違法」って、法律でがちがちに縛りすぎなんですよね…。
ということで、個人でできることは自治体に通報するぐらいしかありません。ただし、東京都23区で通報してもすぐに自治体職員がすっ飛んできて捕まえてくれる、ということはあ
りません。自治体にそんな道具の準備はありませんし、実際に捕獲するのは困難だからです。
2018年10月に東京都港区赤坂でアライグマが捕獲されましたが、あの時なぜ消防・警察が出動したのかはよくわかりません。それって消防・警察の仕事ではありませんよね?
東京タヌキ探検隊!にはぜひ連絡してほしいですが、もちろん捕獲に出動することはありません。ですが、情報の蓄積は生息状況の把握には確実に役立ちます。
外来生物法の捕獲にはいろいろとややこしいことが多く、例えば上記ページの「Q9 : 特定外来生物を釣ることはできますか?(釣り大会開催時の注意点)」にはオオクチバス(いわゆるブラックバス)について細々と注意点が並べられています。
「釣った特定外来生物をその場で放す「キャッチ・アンド・リリース」は問題ありません。」って、それじゃ法律の意味が無いよ!と言いたくなります。この辺りは釣り業界との激しい攻防があったのではないかと想像されます。
さて、特定外来生物のリストは環境省ホームページに掲載されています。
タイワンリス、カミツキガメ、ウシガエル、オオクチバス、コクチバス、ブルーギルあたりはよく聞く名前かと思います。
↑このようなものまで掲載されています。勉強になります。
ところで、特定外来生物のリストにワニガメが入っていないことに気付かれたでしょうか。ワニガメも悪名高い外来生物なのですが…。
外来生物法では特定外来生物の他に「未判定外来生物」というくくりもあります。これは「特定外来生物と近縁の生物で、生態系などに被害を及ぼすかどうか未判定である生物」という意味です。
「種類名証明書の添付が必要な生物」というのもあって、これは「特定外来生物又は未判定外来生物と容易に区別がつく生物以外の生物として、外来生物法施行規則別表第3、第4に掲げる生物」となっています。こちらは証明書があれば輸入は可能です。
これらのリストはこちらです。
特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律に基づき規制される生物のリスト【動物】[PDF]
参考までに、こういう手続きが関係してきます。
これによると…ワニガメ(=カミツキガメ科)は「種類名証明書の添付が必要な生物」となっており、輸入ができることになります。
え?それでいいの? と思わず言っちゃいますよね。
ちなみにアカミミガメ(いわゆるミドリガメ、全国の池で数多く見られるあのカメです)はリストにまったく出てきません。放置しておいていいのでしょうか。
外来生物法はまだ歴史が浅く、十分に機能しているようには見えません。今後も拡充されるであろうと期待したいです。
146号(2021年2月)
種の保存法とCITES(ワシントン条約)
タヌキなどとは関係ありませんが、もう一つ取り上げておきたい法律があります。
「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(種の保存法)です。
名前からは何の法律だかわかりにくいのですが、簡単に言うとワシントン条約に対応する日本国内の法律です。
ワシントン条約というと、有名ですね。そう、各国の海軍の軍縮を決議した国際条約です。って、それは「ワシントン海軍軍縮条約」(1922年)!
ワシントンのような有名な都市で採択された条約なんていくらでもあるわけで、本当はワシントン条約という呼び方はよくありません。国際的にもこの動植物についての条約はワシントン条約とは呼ばれていません。
この条約の正式名は「Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora」、日本語では「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」です。
頭文字をとって、通称は「CITES」、発音は「サイテス」です。国際的にはこの名前で通っています。
CITESは絶滅のおそれのある野生動物・植物を保護するための決まりごとですが、動物・植物を直接保護するのではなく、国際取引つまり輸出・輸入の段階で取り締まろうというものです。希少な生物が輸出入できないようにすれば、密猟ビジネスが成り立たなくなるだろうということです。ですが、国の中での取引には規制は定められておらず、それが欠点になっています。
CITESの重要なポイントは、生きている生物だけでなく、死体、剥製、毛皮、骨、牙、加工品、薬などなども対象になります。象牙や漢方薬として使われるトラの骨なども対象です。
具体的な例がこちらにあります。
海外旅行の時に空港で注意書きを見たことがある方もいるでしょう。
CITESが対象としている生物は3つのカテゴリー、附属書I、II、IIIに分けられています。
Appendices I, II and III(附属書の完全なリスト)
附属書Iは絶滅のおそれのある生物です。商取引は禁止されています。学術目的などでは輸出入は認められていますが、輸出許可書・輸入許可書が必要です。
約1,100種が掲載されています。
附属書IIは現在必ずしも絶滅のおそれはないが,規制を必要とする生物です。輸出国の許可があれば商取引はできます。
約37,400種が掲載されています。
附属書IIIは世界的には絶滅のおそれはないが、ある国内では絶滅のおそれがある生物です。その国の輸出許可書が必要となります。
約220種が掲載されています。
ここで最初に戻って、CITESに対応する日本の法律が「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(種の保存法)というわけです。
ただし、日本政府はCITESを全面的に受け入れているわけではありません。
附属書I掲載のクジラ10種、附属書II掲載の魚類11種類(サメ類とタツノオトシゴ)については「留保」としています。つまり日本はこれらを条約の対象外としているのです。なんだかズルをしているみたいですね…。
日本政府の主張は「クジラは絶滅の危機ではない」ということですが、商業捕鯨とからんでいるのは明らかです。この話は長くなりますし、タヌキとも関係がないので省略します。
絶滅のおそれのある動物植物というと、CITESの他に「レッドリスト」や「レッドデータブック」という言葉もあります。これらはよく似ていますが成り立ちはまったく異なるものです。
「レッドリスト」は国際自然保護連合(IUCN)が作成したリストのことです。「レッドデータブック」はレッドリストの書籍版のことです。ですので両者は実質的に同じものです。近年はインターネットでも情報が提供されていますので「ブック」である意味はなくなってしまいました。ですので統一的には「レッドリスト」と呼ぶべきでしょう。
ホームページは下記です。
The IUCN Red List of Threatened Species(部分的に日本語)
ただ、このページはわかりにくいですね…。トップの検索枠に生物名を入力するとその情報が表示されます。ただし日本語は通りません。「tanuki」や「koumori」は通りますが…。
レッドリストは有名ですが、これは法律や条約とは関係ありません。純粋に科学的な調査資料です。
日本では環境省によるレッドデータブック・レッドリストがあります。
都道府県単位での検索もできます。
東京都を調べてみると、アナグマが「区部:絶滅(EX)」になってます。おーい、アナグマは23区では絶滅してませんよ!(笑)
環境省とは別に、自治体レベルでのレッドデータブック・レッドリストもあります。
国内のレッドデータブック・レッドリストもやはり法的な効力はありません。
法律にできないのは残念ですが、法律にしようとすると政治的な圧力やら妥協が必要になり、骨抜きになってしまう可能性がどうしても高くなってしまいます。そういった干渉を避けるためにも独立したデータである方が良いとは言えます。