東京タヌキ探検隊タイトル

東京タヌキタイムズ

157号(2022年9月) タヌキのレアケース

タヌキ以外の話題を続けていると飽きられそうですので、時々タヌキなどの話もしたいと思います。
ここで取り上げるのは「レアケース」、つまりめったに起こらないことです。普通の調査研究ならわざわざ取り上げることもなく無視されることです。が、私はそのような珍しい事例にも注意するようにしてきました。レアケースであっても、そこにその動物の特徴が現れることがあると考えているからです。

レアケースの前に、現時点(2022年8月末)での東京タヌキ探検隊!データベースの記録数を並べておきましょう。これから紹介することはこれだけの大量のデータにもとづいていることなのです。

●全国
総記録数 6150件
タヌキ 2776件
ハクビシン 2740件
アライグマ 384件
アナグマ 84件
キツネ 75件
他にチョウセンイタチ、ニホンイタチなども記録されている。

●東京都23区
総記録数 4685件
タヌキ 2087件
ハクビシン 2316件 ※タヌキより記録数が多い!
アライグマ 189件
アナグマ 32件 ※目撃は少ないが、確実に定住している
キツネ 1件 ※定住していない

歩道橋を渡るハクビシン

「タヌキのレアケース」と題しておきながら、最初はタヌキではありません。しかし、前にも書いたように、「タヌキだけを見ていてもタヌキのことはわからない」のです。

ハクビシンが歩道橋を渡るという事例は7件あります。いずれも東京都23区です。たった7件、ですが東京らしい事情も見えてきます。
DBN1700は国道246号での目撃例です。246号は幅の広い道路で、ハクビシンやタヌキが横断するには勇気がいる危険な場所です。こういう場合は道路の上を横切る電線を渡りたいところですが、都心の大きな道路では電線の地中化も進んでいて、電線に頼れないこともあります。この時の現場は、少し離れれば横断する電線はありますが、ハクビシンはなんと歩道橋を渡ることを選択しました。
他のケースでも近くに手ごろな電線がないようでした。

※「DBN」はデータベース内での通し番号。場所、動物に関係なく記録順に番号を付けています(時系列順でもない。直近の目撃情報ばかりとは限らないから)。ここではなるべく付記するようにします。

また、歩道橋上でヒトとすれ違う事例もありました(DBN2890、4787)。

歩道橋のヒトが歩く箇所ではなく、柵の外側の狭いところを歩いていく事例もありました(DBN6092)。

目撃例は少ないものの、これらの場所ではハクビシンは日頃から歩道橋を利用しているのではないかという予想もできます。
残念ながら、歩道橋を使うヒトは少ないだろうこと、ハクビシンは夜行性であることから目撃事例はめったにないでしょう。調べるならセンサーカメラ(トレイルカメラ)を使うしかありませんね。

では、タヌキはどうかというと、2件の記録があります。ただし…
DBN5132は、歩道橋に登る途中の踊り場の柵の下にはさまっていた、というもので、歩道橋を渡りきったのかどうかまではわかりません。ヒトに驚いて柵の外に出ようとしたらはさまってしまったのではないかと思われます。タヌキはこの後、警官に助けてもらったようです。
もうひとつのDBN5992は歩道橋なのですが、両端がゆるいスロープになっています。タヌキは道づたいに来たつもりだったのが、あれ?なんで車が下を走っているのだろう??と驚いたかもしれません。歩道橋事例であるような、ないようなケースでした。

ハクビシンは木に登りますし、電線も歩きます。それに対してタヌキは高いところにはあまり登りません。歩道橋事例もそれを反映しているのではないかと思われます。

橋を渡る

言うまでもないことですが、小さい橋ならタヌキでもハクビシンでも他の動物でも渡ります。そうですね、例えば神田川にかかる橋ぐらいなら普通に渡れます。
宮本隊長自身も、ハクビシンが渡るのを見たことがあります(DBN5918、DBN5942、どちらも善福寺川)。どちらもハクビシンは欄干の外側を渡っていきましたが、欄干内側を渡ることも当然あります。

荒川や多摩川にかかるような大きな橋を渡る事例はあるかというと、次のようなケースがありました。

DBN5073、タヌキが清洲橋(隅田川)を中央区側から江東区側へ渡る。
中央区側でタヌキが生息しているとは考えにくいので、このタヌキは江東区側から来て往復したのかもしれません。

DBN3131、ハクビシンが運河にかかる橋(港区)の下の太いパイプを歩いていた。
大きな橋だと下に配管やキャットウォークがあることがあります。橋の上で車やヒトにびくびくするよりも橋の下の方が安心安全でしょう。
橋の下というのは目撃がかなり難しいケースです。そんなところを眺めるヒトなんてまずいませんから。

160号(2023年2月) 鳴き声

2022年に話題になったことのひとつはプロ野球球団・日本ハムファイターズのチアリーディングチームが踊る「きつねダンス」です。札幌ドームでの試合で踊っていたダンスなのですが、急速に人気を集め、NHK紅白歌合戦にも登場、新語・流行語大賞のトップテンにも選ばれました。

「きつねダンス」の曲は、ノルウェーの「Ylvis」(イルヴィス)が歌う「The Fox」(What Does the Fox Say?)。11年前、2012年の曲なんですね…。その歌詞は、「キツネはなんと鳴く?」というもので、適当な、いい加減な鳴き声が次々と歌われるというものです。
意味がわからなければYouTubeで見るべし

さて、ここからが本題です。
鳴き声といえばタヌキの鳴き声は世間的にはまったく知られていません。タヌキももちろん鳴きますが、その頻度は非常に低く、聞いたことがある人はとても少ないはずです。
これまでの記録では、
「クーン」とか「キューン」といった小さい鳴き声、
または
「キャンキャン」という幼獣どうしがケンカをしている声
が報告されています。
宮本隊長はどちらも聞いたことがあります。
小さい鳴き声は近くでないと聞こえません。
「キャンキャン」というのはまさに小型犬のような声なので、タヌキと気づかれないこともありそうです。タヌキはイヌ科、サイズは小型犬なので、小型犬に近い鳴き声であるのは不思議ではありません。

ハクビシンもめったに鳴かないため、その存在が気づかれにくいようです。
ハクビシンでわかりやすいものは、
「親にはぐれた幼獣が親を呼び続ける」
というものです。
宮本隊長が聞いた時は
「キュイー、キュイー、キュイー、…」
と、かなり大きな声で鳴いていました。鳥の鳴き声のようにも聞こえますが、こんな鳴き声の鳥はいないはず。また、鳥にしては声が大きすぎます。
また、途切れなく鳴き続けますのでかなり目立つことになり、人間に発見されやすくもなります。

成獣らしきハクビシンの鳴き声については
「ギャーギャー」
「キューキュー」
「キャキャキャキャ」
「キャンキャン」
「ケケケケケ」
「ギィーギィー」(ケンカ)
などが報告されています。ケンカしている場面で鳴くことは多いようです。やはり「鳥のような鳴き声」という表現が多いのが特徴です。

ちなみに、 鳴き声の報告数は
タヌキ37件
ハクビシン51件
です(東京都23区、2022年まで)。全報告の2%程度ということになりますので、やはりレアなケースと言えます。

アライグマは1件だけ(東京都23区。全国でもこの1件のみ)報告があります。
「キュルキュル、キュルキュル」
という鳴き声だったとのことです。
テレビ番組「あらいぐまラスカル」でラスカルが「チー、チー」と鳴く場面がありますが、あれは本当ではありません。というのも、ラスカルの声を担当した野沢雅子さんが、当時、動物園に通ったけれど一度も鳴かなかった!と証言しているぐらいなのですから。

アナグマの鳴き声については、残念ながらまだ情報が得られていません(全国でも0件)。

さて、最初に戻ってキツネの鳴き声です。
「The Fox」でもいい加減に歌われているように、ヨーロッパの人たちにとってもキツネの鳴き声というのはあまり知られていないようです。
キツネもイヌ科なので、イヌに近い声だろうことは予想できます。
ありがたいことに、きつねダンスの影響でキツネの鳴き声をまとめてくれた映像があります。

キツネはなんて鳴く? これが本物の鳴き声だ「きつねダンス」で注目 "コンコン"じゃない意外な声とは (22/09/20 17:40)  北海道ニュースUHB

ヘッドホンで聞いた方がよりはっきりと聞こえると思います。
ふむふむ、まあ、イヌっぽく聞こえなくもありません。距離によっては聞こえ方が違ってくることも考慮すべきです。
イヌだってみんなが「ワンワン」と鳴くのではなく、体格などによって「キャンキャン」だったり「ギャウギャウ」だったり「バウバウ」だったりいろいろな鳴き方をしますし、機嫌や状況によっても鳴き方は変化します。
キツネもそうでしょうから、「ワンワン」のように1語でまとめることは難しいことです。

ところで、キツネの鳴き声は日本語ではなぜか「コンコン」ですが、その原典は童謡「こぎつね」だと思われます(「小ぎつねこんこん山の中…」という歌)。ただ、歌の中の「コンコン」は鳴き声であるとは言えず、韻を合わせただけのようです。皆さん、ずっと勘違いをしてきているのではないでしょうか。
さらに、この歌は元はドイツの歌なのです!(宮本隊長も知らなかったよ!) タイトルは「Fuchs, du hast die Gans gestohlen(キツネよ、お前はガチョウを盗んだね)」(歌い出しも同じ)。「ガチョウを返さないと猟師が鉄砲でお前を撃ちに来るぞ」というなかなか強烈な歌詞です。日本語詞とはまったく正反対の世界観です。原曲にはキツネの鳴き声は当然含まれていません。

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