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タヌキなどの目撃情報を常時収集しています。
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対象地域:全国
対象動物:タヌキ、ハクビシン、アライグマ、アナグマ、キツネなど(野生の哺乳綱食肉目)

東京都23区内のタヌキ、ハクビシン、アライグマの目撃情報の集計と分析(2013年1月版)

※無断転載禁止

執筆:宮本 拓海 (東京タヌキ探検隊!)
2013年1月


■概要

・宮本(東京タヌキ探検隊!)による東京都23区内でのタヌキ、ハクビシン、アライグマ他の目撃情報の集計を報告する。
・今回の集計期間は2010年〜2012年。タヌキは405件、ハクビシンは623件、アライグマは41件が含まれる。2012年の目撃情報数は前年よりも減少した。
・アライグマはいくつかの地域で繁殖・定住の兆候がある。23区全体でも数十頭が生息している可能性がある。
・アナグマの目撃例が2件あった。参考情報として、2013年になってから得られた目撃情報についても報告する。東京都23区にもごく少数のアナグマが生息しているようだ。
・東京都23区以外の全国の目撃情報数についても簡単に報告する。東京都23区以外の目撃情報数はまだ非常に少なく、分析できる規模ではない。

■前文

 今年もタヌキ、ハクビシン、アライグマの目撃情報の集計を報告する。今回は2010年〜2012年の目撃情報の集計結果を報告する。

 文中に「DBN1234」のように記されている数字は、東京タヌキ探検隊!データベースで目撃情報に割り振られた通し番号である。この番号はデータベースに記録された順であり、実際の目撃年月日の順ではない。後の検証をやりやすくするためにできるだけこの報告書にも記載していく。


■2012年の事件

 目撃情報の報告の前に、2012年の東京都23区でのタヌキ関係の事件を振り返る(全国の事件については後述)。
 2012年5月31日、午前10時過ぎ、皇居外苑の祝田橋付近でタヌキ成獣1頭が目撃された。このタヌキは前日も目撃されていたという。タヌキは堀の石垣(内堀通り側)の隙間に入り込んでいった。その後どうなったかは不明である。このタヌキは首輪をしていた。報道によると、タヌキ調査をしていた皇居外苑管理事務所が装着した発信器付きの首輪らしい(読売新聞、MSN産経ニュース、サンケイスポーツなど、DBN2052) 。
 マスコミで報道はされなかったが、明治神宮では春以降タヌキ3頭がたびたび目撃された。参道や清正井(きよまさのいど)のような目立つ場所にも現れている。そのため写真も多く撮影された。特定のタヌキ個体が多数の人間に目撃され、ネットにも多数の写真が公開されるという珍しい事例となった。この3頭はいつも同じ個体であったようだ。赤ちゃんタヌキの目撃例はまったくないことから、出産はしていない。データベースにはメールによる目撃情報2件と新聞コラムに掲載された1件 [文献1] を記録している(DBN1941、2119、2144)。
 ハクビシン、アライグマについては特にニュースは得られなかった。


■目撃情報の集計

 収集された目撃情報は、データベース上で記録されている。記録する際、複数の目撃情報を1件にまとめることなどがある。そのルールは次のようになっている。

1.原則として、1つの目撃情報を1件として扱う。
2.同じ目撃者が同じ場所で繰り返し目撃している場合は、1件として数える。例えばタヌキが住宅の庭に来る場合や、ネコのエサやり場に来る場合がこれにあたる。
3.毎年同じ場所で目撃が繰り返される場合は、年ごとに1件として扱う。例えば、毎年営巣が行われていることが確認されている場合は各年を1件として集計している。
4.同じ個体(または同じ家族)であると推測される場合でも、場所・日時・目撃者が異なっていれば目撃情報別に個別に扱う。

 せっかくの目撃情報がデータベースに記録されない場合がある。位置情報・年があいまいな場合は原則として記録されない。位置情報が「丁目」すらわからない場合はまず記録されない。
 伝聞情報(いわゆる「人から聞いた話」)も日時や場所があいまいなことが多く、多くは記録していない。
 駆除業者からの情報や行政から聞き取った情報は含まれていない。

■目撃情報の分布地図の仕様

 分布地図の仕様は次の通り。

・座標系は世界測地系を採用する。
・メッシュは約2km×約2kmに相当する。正確には、東西方向に90秒、南北方向に60秒で近似している。これは地域メッシュ(JIS X 0410)での2倍メッシュと同一のものである(辺の長さが基準地域メッシュ(第3次メッシュ)の2倍のメッシュ)。

 目撃位置の詳細が不明であるため誤差のあるプロットもある。
タヌキでは誤差(誤差半径)の最大は500m。誤差100m以上は10件。平均誤差は約17m。
ハクビシンでは誤差の最大は600mで、誤差100m以上は13件。平均誤差は約15m。
アライグマでは誤差の最大は100mで、誤差100m以上は3件。平均誤差は約19m。
 大半は「番地」よりも詳しい位置が判明しており、中には誤差0mの例も少なくない。「番地」レベルでの誤差は約50〜200mに相当し、これは予想されるタヌキの行動範囲内に収まる。そのため「番地」レベルの位置情報が把握できれば実用上は十分である。ハクビシン、アライグマの行動範囲は不明だがタヌキよりも極端に広いとは考えにくい。


■タヌキの目撃情報の集計

 2010年〜2012年の目撃情報は405件あった。2010年は155件、2011年は132件、2012年は118件である。以前の報告書と数字が異なるのは、2012年に入ってからも前年までの目撃情報が寄せられたためである。
 情報源の分類は以下の通りである。

メール
387
宮本
9
メディア
7
ホームページ
1
その他
1

・メール=宮本がホームページ(東京タヌキ探検隊!)で情報収集を呼びかけ、メールで寄せられた情報。
・宮本=宮本が直接確認した情報。または聞き取りなどで収集した情報。
・ホームページ=インターネット上のホームページ(ブログを含む)に掲載されていた情報。
・メディア=新聞、テレビなどで紹介された情報。
・その他=電話1件。

 このようにほとんどはメールによる情報である。Googleの「ニュース検索」は全国の新聞、テレビメディアを一通り網羅しているので便利だが、東京都23区に限るとタヌキ等のニュースはほとんどなく、あまり役に立っていない。

 各区毎の目撃件数を多い順に並べると次のようになる。

杉並区
110
世田谷区
73
新宿区
41
中野区
27
渋谷区
25
板橋区
25
練馬区
21
千代田区
18
文京区
16
北区
14
豊島区
9
足立区
9
大田区
8
港区
4
台東区
2
中央区
1
目黒区
1
江戸川区
1
墨田区
0
江東区
0
品川区
0
荒川区
0
葛飾区
0
405

 練馬区と板橋区の数が少ないことについては、前年の報告書をご覧いただきたい[文献2]。「練馬区のパラドックス」はまだ続いている。
 杉並区が飛び抜けて多い理由は不明である。宮本は杉並区在住であるが、特に何か特別な働きかけをしているわけではない。2012年7月に「杉並タヌキおつきあいガイドライン(私案)」[文献3]をネットで公開したが、時期的にその影響はまだ大きくない。
 特筆すべきこととして、中央区で初めての目撃情報が得られた(DBN2385)。詳細はここでは述べないが、以前から生息の可能性が疑われていた場所である。ただ、これまで目撃情報がなかったため、他地域から移動してきた可能性も否定できない。今後の新たな目撃情報が期待される。

 面積当たりの目撃件数を多い順に並べると次のようになる。

件数
面積
件数/面積
杉並区
110
34.02
3.23
新宿区
41
18.23
2.25
中野区
27
15.59
1.73
渋谷区
25
15.11
1.65
千代田区
18
11.64
1.55
文京区
16
11.31
1.41
世田谷区
73
58.08
1.26
板橋区
25
32.17
0.78
豊島区
9
13.01
0.69
北区
14
20.59
0.68
練馬区
21
48.16
0.44
台東区
2
10.08
0.20
港区
4
20.34
0.20
足立区
9
53.20
0.17
大田区
8
59.46
0.13
中央区
1
10.18
0.10
目黒区
1
14.70
0.07
江戸川区
1
49.86
0.02
墨田区
0
13.75
0.00
江東区
0
39.94
0.00
品川区
0
22.72
0.00
荒川区
0
10.20
0.00
葛飾区
0
34.84
0.00
405
617.18
0.66

 面積はkm2。東京都ホームページによる。

 順位に変動はあるが、全体の傾向はやはり例年と同じである。おおざっぱには上位(1.0以上)、中位(0.5以上1.0未満)、下位(0.5未満)に区分できる。
 上位と下位に2極分化しているのが特徴であり、「タヌキがいる地域」と「タヌキがほとんどいない地域」がはっきりと分かれていると言える。

■タヌキの目撃分布図

 メッシュ地図を下に掲載した。
 これまで通り、北西部に偏った分布が確認できる。1メッシュ当たり目撃件数の最大は23件である。20件を超えるメッシュは4ヶ所ある。杉並区東部で特に目撃が集中している。この地域は「環七通り〜環八通り間の善福寺側・神田川流域」および「中野区南台、杉並区方南、渋谷区笹塚」に相当する。

■タヌキの目撃例の分析

 それぞれの目撃情報には興味深いものも含まれる。今回集計された情報を対象に紹介する。

・死亡例

 死亡したタヌキの目撃例は10件あった。自動車にひかれたと思われる例は5件だった(DBN1338、1523、1755、2152、2335)。実際には交通事故死する例は少なくないと考えられる。脱毛症状を伴う例は1件だった(DBN1169)

・ためフン

 タヌキのフンの例は、詳細がはっきりしない場合も含めて7件あった。

・疥癬症、脱毛症状

 何らかの脱毛症状が見られた例は43件あった。ただし3件は同じ場所であり同一個体群であることは確実(DBN1225、1266、1274)、また別の2件も目撃日と場所が近接しており同じ個体である可能性が高い(DBN1873、1874)。
 全目撃数に対する割合は約11%である。毎年同程度の割合なので、流行とは関係なく一定割合で発症しているようだ。地域もばらばらである。
 このうち昼間の目撃は27件あった。夜間は毛並みの確認までできないということもあるのだろう。また疥癬症だと裸同然の姿になるので、冬は暖かい昼間でないと活動できないのかもしれない。
 目撃月の最多は1月、12月の7件、次いで2月、3月、5月の5件である。他の月は1〜3件であった。前述のように冬は昼間に活動する可能性が高いために発見率が高いのかもしれない。そのため本当に冬に発症率が高いかどうかはわからない。全体では最も目撃が少ない5月に脱毛症状個体の目撃率が高い理由は不明である。

・イヌとの遭遇

 タヌキがイヌに遭遇する例は25件あった。イヌが興奮する例も、何も反応しない例もあるが、反応しない例の方が多い。イヌがタヌキに気づかない例もある。タヌキの方も、ある程度の距離があればイヌと人間の様子をうかがう例もある。イヌがリードでつながれていることを見切っている節もある。
 室内のイヌが、見えないはずの屋外のタヌキに反応する例もある(DBN1585、1739)。
 イヌのエサを食べに来た例が1件ある(DBN994)。

・ネコとの遭遇

 タヌキとネコが遭遇する例は34件あった。この内、ネコ用に置いたエサを食べに来た例(未遂も含む)は16件あった。この他にもエサを狙って来たのではないかと思われる例が複数ある。
 宮本が直接観察した例では、タヌキの方がネコよりも強い。しかしネコがタヌキを威嚇したり、ちょっかいを出すこともあった。目撃情報でも、タヌキが強かったり、ネコがタヌキを追いかけたりといった例がある。全体としてはタヌキの方が優勢のようだ。
 野良猫へのエサやり場にタヌキが現れる例は各地で発生していると推測されるが、ネコ担当者はいろいろと肩身の狭い思いをしているせいか、あまり外部に助けを求めないようにも見える。ネコとタヌキのトラブルについては、筆者が個別に対応しているので、ぜひメールで知らせてほしい。

・河川落下

 河川落下は3件あった。内1件は善福寺川の地上と河床を行き来できる場所であるため、正確には「落下」ではない(DBN1217)。善福寺川は一部区間(杉並区荻窪〜杉並区大宮)で護岸が斜面になっており、タヌキなら簡単に登り降りができる。
 神田川の河床で目撃された例(DBN1236)は、地上につながる経路がどこかにあると推測される。過去にも同じ場所で目撃された例があるためである。
 なお、タヌキ河川落下事件ではたいていの人が警察や消防に通報するが、これは正しくない。野生動物の行政の窓口は都道府県であり(東京都の場合は東京都環境局)、まずこちらに通報すべきである。

・目撃月

 グラフを下に掲載した。月日が不明な目撃例は集計していない。これまでのようにはっきりした傾向がわかりにくいが、10月が最多、5月が最小となるのはいつも通りである。秋に目撃が多いのは、タヌキが巣から離れて遠くへ移動していくためあちこちで目撃される可能性が高くなるからだろう。5月は出産直後の時期で、巣からあまり離れられないため目撃が少ないと推測される。

・目撃時刻

 グラフを下に掲載した。時刻が不明な目撃例は集計していない。18時から24時の目撃が多いのはタヌキが夜行性であることの反映である。0時以降の目撃が少ないのは人間の活動があまりなく目撃機会が少ないためである(つまり「終電後」の時間なのである)。
 (目撃時刻は「20時ごろ」といったあいまいな場合も「20時」として集計した。そのためグラフにはいくらかの誤差が含まれる。これはハクビシン、アライグマの場合も同じ。)
 参考までに東京の日出時刻は4時25分ごろ〜6時51分ごろ、日没時刻は16時28分ごろ〜19時01分ごろである。

・目撃頭数

 有効件数は392件。目撃頭数が1頭のみの例は284件で、全体の約72%にあたる。2頭は73件、3頭は18件、4頭は8件、5頭以上は9件である。最大目撃頭数は10頭(内、幼獣は少なくとも7頭)(DBN913)。
 1頭の目撃が多いが、つがいでもいつも寄り添って行動しているわけではなく、少し離れた場所にいることもある。目撃が1頭であっても近くに他の個体がいた可能性は否定できない。

・目撃場所

 ここでの目撃場所とは、最初に目撃された位置のことである。例えば道路と民家敷地を行き来したとしても、最初の目撃場所が道路ならば「道路」と分類している。
 道路は200件、民家は125件、企業は28件、寺・神社は12件、公園は8件、学校(教育施設)は7件である。ただし、「民家」には「アパートやマンションの敷地、駐車場」が含まれる。「企業」にも「駐車場(店舗用、コインパーキング)」が含まれる。
 上記と重複するが、「線路・踏切」は14件ある(線路・踏切への出入りを含む)。この内7件はある特定の駅での目撃情報である(DBN1556、1690、1778、2051、2086、2090、2100)。線路敷地内にタヌキがすみついているようだ。
 塀の上にいるのを目撃された例が4件あった(DBN1903、1919、2246、2324)。内2件は写真撮影されている。タヌキは高い塀に登ることはできないが、踏み台になるものを登ったか、塀が低い場所を登ったと推測される。

・家屋侵入

 「家屋侵入」とは、建物の内部に入り込むことである(民家だけでなくあらゆる建築物が対象)。
 家屋侵入は13件あった。1件は2010年11月の大手町のJXビルの事件(DBN1190)、1件は開けた入り口からの侵入(床下ではない)(DBN1543)、ビルの地下1階で保護された例(おそらくドライエリアに落下したと思われる、DBN1905)。他の10件は床下への侵入で、内7件はそこで出産している。

・子育て

 タヌキが出産・子育てをしたという情報は26件あった。これは「同時に3頭以上の目撃」というだけでなく、明らかに親子の体格差があること、巣の場所がおおよそ絞り込めることも条件としている。
 出産直後に幼獣を保護した例が1件(DBN1437、5月中旬)、おそらく出産直後に人間が存在に気付いた例が1件ある(DBN1448、4月下旬)。その他の目撃例(幼獣の成長の程度からの推測)と合わせても東京都23区内でのタヌキの出産時期は4月後半〜5月前半であると推測できる。


■ハクビシンの目撃情報の集計

 2010年〜2012年の目撃情報は623件あった。2010年は183件、2011年は236件、2012年は204件である。
 情報源の分類は以下の通りである。

メール
617
宮本
2
ホームページ
2
メディア
2

 各区毎の目撃件数を多い順に並べると次のようになる。

世田谷区
87
杉並区
58
大田区
57
新宿区
55
中野区
42
練馬区
40
豊島区
36
渋谷区
29
文京区
27
目黒区
27
品川区
23
江戸川区
22
港区
20
足立区
19
北区
15
板橋区
14
中央区
10
江東区
10
葛飾区
10
千代田区
9
台東区
6
墨田区
4
荒川区
3
623

 ハクビシンは23区すべてで目撃されている。

 面積当たりの目撃件数を多い順に並べると次のようになる。

件数
面積
件数/面積
新宿区
55
18.23
3.02
豊島区
36
13.01
2.77
中野区
42
15.59
2.69
文京区
27
11.31
2.39
渋谷区
29
15.11
1.92
目黒区
27
14.70
1.84
杉並区
58
34.02
1.70
世田谷区
87
58.08
1.50
品川区
23
22.72
1.01
港区
20
20.34
0.98
中央区
10
10.18
0.98
大田区
57
59.46
0.96
練馬区
40
48.16
0.83
千代田区
9
11.64
0.77
北区
15
20.59
0.73
台東区
6
10.08
0.60
江戸川区
22
49.86
0.44
板橋区
14
32.17
0.44
足立区
19
53.20
0.36
荒川区
3
10.20
0.29
墨田区
4
13.75
0.29
葛飾区
10
34.84
0.29
江東区
10
39.94
0.25
623
617.18
1.01

 面積はkm2。東京都ホームページによる。

 タヌキと比べると、薄く広く分布していることがわかる。上位4区は隣接しており、この一帯に集中しているらしいことは次に示す目撃分布図からも読み取れる。ただし、これは人口密度が高いためとも考えられる[文献4]。
 タヌキと同様に区分すると、上位(1.0以上)、中位(0.5以上1.0未満)、下位(0.5未満)となる。タヌキは上位と下位がはっきりと分かれているが、ハクビシンでは中位も多く、これによっても薄く広く分布していることが確認できる。

■ハクビシンの目撃分布図

 メッシュ地図を下に掲載した。

 1メッシュ当たり目撃件数の最大は17件である。タヌキほど突出している地域はない。
 全体的にはタヌキと同じく、東に少なく、西に多く生息している。しかし、23区全体に広く分布していることがタヌキと異なる。タヌキの生息が少ない都心部、東部、海岸部でも目撃されている。

■ハクビシンの目撃例の分析

・体色

 ハクビシンの胴体部分の体色は淡色型、暗色型、赤褐色型があることが知られている。淡色型は68件(61%)、暗色型は32件 (29%)、赤褐色型は12件 (11%) が記録されている。夜間の目撃が多いため、体色がはっきりしない場合が多い。これらの3つの型の比率は地域によって異なる可能性がある。全国的な比較ができるようになれば興味深い結果が出てくるかもしれない。
 目撃情報の中には奇妙な例もあった。ハクビシンの特徴は顔の中心を通る白い模様だが、「白線が無い(薄い)」という例が3件、「白線が2本」という例が2件あった。ゴミや汚れなどのせいでそのように見えた可能性もあるが、特殊な模様の例かもしれない。

・死亡例

 死亡例は7件あった。すべて自動車にひかれたものと思われる。
 1件は4車線以上の大通りであった(DBN1600)。狭い道路でも安全とは言えないようだ。

・フン・尿

 フン・尿の例は18件あった。屋根やベランダにフンがあったケースが11件、天井裏にフン・尿をしたケースが3件(DBN1987、2113、234)、自動車の屋根の上が1件(DBN1447)であった。内6件ではフンを回収し分析した(DBN1306、1447、1968、1976、2013、2219)。フンの内容物はほとんどが植物種子である。DBN2219では初めて昆虫類の断片が出てきた(甲虫類、おそらくコガネムシ類)。ハクビシンの食べ物については後述する。

・疥癬症、脱毛症状

 何らかの脱毛症状が見られた例は1件あった(DBN1201)。ハクビシンは短毛であるため脱毛症状があっても目立たないのかもしれない。また、夜間の遠くからの目撃では脱毛症状はわからないだろう。

・イヌとの遭遇

 イヌに遭遇する例は36件あった。イヌの反応は何も関心を示さないことが多い。吠える例もある。中にはハクビシンに対して友好的な態度の例もあった。イヌが電線上のハクビシンに気付く例もあった(DBN2118)。

・ネコとの遭遇

 ネコに遭遇する例は31件あった。これにはネコのエサを食べに来た例4件を含む(DBN1074、1391、1443、1729)。
 ネコがハクビシンの後を追う例は4件あった(DBN958、1980、2019、2141)。ハクビシンがネコを追う例は2件あった(DBN1698、1698)。ハクビシンとネコはいい勝負なのかもしれない。

・河川落下

 河川落下の情報はない。ハクビシンの運動能力ならば、垂直壁の鉄ハシゴを登ることなど容易なはずである。よって、河床から脱出できなくなることはないだろう。

・目撃月

 グラフを下に掲載した。月日が不明な目撃例は集計していない。温暖期に多く見られ、タヌキとは違う傾向を示している。タヌキと違い出産時期も読み取ることができない。
 冬季は目撃が少ないため、ハクビシンは寒冷期は活動が不活発になるのかもしれない。

・目撃時刻

 グラフを下に掲載した。時刻が不明な目撃例は集計していない。20〜23時に目撃は多い。昼間の目撃は少なく、タヌキよりも夜行性が強い。

・目撃頭数

 有効件数は598件。目撃頭数が1頭のみの例は510件で、全体の約85%にあたる。2頭は61件、3頭は20件、4頭は7件である。
 体格の違いから親子と思われる目撃例は22件あった。月別では1月=3件、5月=1件、6月=1件、7月=1件、8月=3件、9月=1件、10月=5件、11月=3件、12月=4件。時期がばらついているため、出産の時期が長いことが推測される(タヌキの出産時期が1ヶ月ほどの間に限定されるのとは対照的である)。一方で10月〜12月に目撃が多いため夏から秋にかけて出産することが多いのではないかとも推測できる。
 5頭以上の目撃例がないことから、出産頭数はタヌキよりも少ないことが統計的に推測される。

・目撃場所

 道路は337件、民家は210件、企業は24件、公園は16件、学校(教育施設)は7件、寺・神社は4件である。ここでの目撃場所とは、最初に目撃された位置のことである。ただし、ハクビシンが電線上にいる場合は「道路」、民家の屋根の上ならば「民家」などと分類している。寺・神社が少ないが、目撃場所近くに寺・神社がある例は少なくなく、巣やねぐらにしている可能性は否定できない。
 上記と重複するが、「線路・踏切」は6件ある(線路・踏切への出入りを含む)。
 特殊な目撃場所については上とは別に集計している。塀・フェンスの上は161件、電線・電柱は133件、屋根・屋上・ベランダは74件、樹上は52件、欄干・手すりは3件、壁・窓・雨どいは0件、である。これらの数字は重複がある。例えば、電線から屋根に移動した、という場合は「電線」「屋根」の両方でカウントしている。
 電線・電柱の目撃は全体の約21%になる。なぜ電線のハクビシンを発見できたかについて理由をたずねたところ、「2階など上層階のベランダや窓から発見」が25件、「たまたま見上げて」が18件、「視界に何か見えて」が12件、「鳴き声がして」が8件、「カラスが騒いでいた」が8件、「音がして」が2件、「イヌが気付いた」が2件、「坂道なので目線が自然に上を向いていた」が2件だった。
 昼間、緑地公園の樹上で寝ているところを目撃された例がある(DBN1104、1684)。ハクビシンは天井裏をねぐらにすることが知られているが、自然環境下でも普通にねぐらを得られるようだ。さまざまな場所をねぐらとして利用できることは、都市での分布の拡大に有利に働いているのだろう。
 ハクビシンが歩道橋を渡った例が2件ある(DBN1700、2222)。

・運動能力

 目撃例にはハクビシンが塀・フェンスを登る例もある。ネコの場合は一気に駆け上がるものだが、ハクビシンはほぼすべての例で一歩一歩よじ登っている。
 ハクビシンが電線を走っていたという報告が複数ある(DBN1263、1647、1902、2379)。その速度は正確にはわからないが、「走る」と表現するほどの速さであったのだろう。
 ハクビシンが渡ることができる電線の細さについては、実測できるわけではないので詳細はわからない。ある事例では、電柱から地面に斜めに張られている細いワイヤー線を登った(DBN2104)。
 水平方向へのジャンプ力については2件の具体的な事例がある。DBN2013ではベランダ間をジャンプした(2階)。DBN2358ではビル間をジャンプした(4階相当)。いずれも水平距離は約80cm、上下差はほとんどない。なお、DBN2358は屋上(5階相当)にフンがあり、おそらく最も高所での目撃事例でもある。

 ハクビシンの目撃例を分析すると、ハクビシンが森林の樹上生活に適応した動物であることが明らかである。ハクビシンは電線を歩き、電柱や樹木や塀を登る。住宅地では電線が縦横に張られており、これはハクビシンにとっては森林の樹上と似たような環境に見えることだろう。都市部でもハクビシンが生活できるのは電線のおかげと言えるかもしれない。
 ただし、ハクビシンは「完全な樹上生活者」ではないことにも注意されたい。ハクビシンは地面上で目撃されることが最も多いのである。

・家屋侵入

 家屋侵入は19件だった。ベランダに現れた例は含まない。屋根裏・天井裏が13件。その内12件は民家であった。他には集合住宅の入り口を通り抜けた例が1件(DBN1079)、地下鉄駅構内が1件(DBN1069)、オフィスビル1階(DBN1573)に侵入した例が1件、ビルの地下駐車場に侵入した例が1件(DBN1996)である。
 ハクビシンは屋根裏・天井裏に入り込むことがある動物である。もっと多くの侵入例があってもいいはずだが、目撃情報数が少なすぎるように思える。侵入された場合、駆除業者や行政への連絡が優先されるためかもしれない。
 あるいは、空き家などを選んで侵入していることも考えられる。他にも寺の本堂や神社の本殿は屋根が高く、人間の使用頻度も少ないためハクビシンがすみついても気づかれていない可能性がある。


■アライグマの目撃情報の集計

 アライグマの集計結果は目撃情報が少ないため統計的に十分なものとは言えないことに注意してほしい

 2010年〜2012年の目撃情報は41件あった。2010年は14件、2011年は20件、2012年は7件である。
 情報源の分類は以下の通りである。

メール
40
宮本
1
メディア
0
ホームページ
0

 各区毎の目撃件数を多い順に並べると次のようになる。

世田谷区
11
大田区
4
江戸川区
4
港区
3
文京区
3
目黒区
3
豊島区
3
新宿区
2
北区
2
練馬区
2
千代田区
1
中央区
1
江東区
1
杉並区
1
台東区
0
墨田区
0
品川区
0
渋谷区
0
中野区
0
荒川区
0
板橋区
0
足立区
0
葛飾区
0
41

■アライグマの目撃分布図

 メッシュ地図を下に掲載した。
 1メッシュ当たり目撃件数の最大は3件である。

■アライグマの目撃例の分析

・死亡例

 死亡例は0件だった。

・フン・尿

 フン・尿の例は0件だった。

・疥癬症、脱毛症状

 何らかの脱毛症状が見られた例は0件だった。

・イヌとの遭遇

 イヌに遭遇する例は3件あった。

・ネコとの遭遇

 ネコに遭遇する例は1件あった。

・河川落下

 河川落下は0件だった。

・目撃月

 グラフを下に掲載した。月日が不明な目撃例は集計していない。

・目撃時刻

 グラフを下に掲載した。時刻が不明な目撃例は集計していない。夜行性であることを示しているようだ。

・目撃頭数

 有効件数は38件。目撃頭数が1頭のみの例は35件で、2頭は3件である。

・目撃場所

 道路は20件、民家は16件、企業は1件である。
 特殊な目撃場所については上とは別に集計している。塀・フェンスの上は6件、電線・電柱は3件、屋根・屋上・ベランダは3件、樹上は2件、欄干・手すりは1件である。これらの数字は重複がある。

・家屋侵入

 家屋侵入は0件だった。

・子育て

 出産・子育の情報は0件だった。どこを巣にしているのかの情報もまったくない。

・繁殖の可能性がある地域

 アライグマが同時に複数頭目撃されたり、ある地域で集中して目撃される場合、繁殖が疑われる。これまで繁殖の可能性があることを指摘してきた地域は、世田谷区北部、田園調布周辺(大田区、世田谷区、目黒区)、文京区〜豊島区にかけての地域、赤坂御用地の4つである。これらの地域は2012年には目立った情報はなかったが引き続き警戒が必要だろう。
 今年新たに注意が必要な地域は江戸川区北部である。2011年以降4件の目撃情報がある。内1件は2頭が目撃されており繁殖が懸念される(DBN2042)。
 皇居では2009年にアライグマが目撃され、翌2010年に1頭が捕獲された。皇居に生息するアライグマはこの1頭のみと考えられていた。ところが2012年11月、千代田区霞ヶ関でアライグマ1頭が目撃された(DBN2356)。皇居の中あるいはその周辺地域に他の生息個体がまだ残っているようだ。

・アライグマの推定生息数

 アライグマの目撃件数は少ないため、生息数を推定することは難しい。23区のタヌキの生息数を1000頭と仮定し[文献5]、タヌキとの目撃件数の比較から単純計算すると、23区内にアライグマは数十頭から100頭前後の規模で生息していると推測できる。

 アライグマはいずれ生息数が増加していく可能性は否定できず、その動向を継続的に監視する必要がある。東京タヌキ探検隊!がアライグマを情報収集の対象にしているのはそのためである。


■アナグマ、キツネの目撃情報

 2012年、アナグマの目撃情報が2件あった(DBN2061、2361)。それぞれ品川区、世田谷区での目撃である。ただし、写真・映像はなく、本当にアナグマであったかどうかははっきりしない。いずれも目撃場所付近に、アナグマが巣穴を掘るのに都合がよさそうな斜面・崖地がある。世田谷区の目撃例は自然環境的にも有望であるように思われる。

 キツネの目撃情報はなかった。

 ※参考情報
 2013年1月になって、大田区で確実なアナグマの目撃情報が得られた(目撃年は2012年、DBN2418)。写真でアナグマであることが確認できた。付近には斜面・崖地形がある。今回の報告書の集計は2012年末までに得た目撃情報を対象にしているため、この目撃情報は集計されていない。そのため参考情報として紹介する。
 これまで宮本は東京都23区内にはアナグマは生息していないと考えてきた。しかし大田区で生息が確認されたということは、他にも個体群が生息している可能性があることを示唆している。これまでの目撃情報の中にもタヌキやハクビシンと誤認された例が混じっているかもしれない(今回の目撃情報も最初はハクビシンとして報告されていた)。データベースの洗い直しの作業をする必要がある。
 東京都23区でのアナグマの推定生息数はアライグマよりも少なく、多くても数十頭程度と考えられる。アナグマのそれぞれの個体群は遠く離れており、互いの交流はないとも予想される。「都会の緑地に孤立したアナグマ(の個体群)」というイメージになるだろうか。その緑地が開発されればアナグマは絶滅することになってしまう。日本全国で見ればアナグマは絶滅のおそれはない動物である。しかし大都会の中のアナグマが消え去ってしまうことの是非については多くの人に考えていただきたいことである。


■考察1:タヌキの長距離移動

 タヌキの通常の行動範囲は東京都23区の場合は半径数百m程度と推測される。しかし目撃情報の中には定住地と推定される場所から1km以上離れた場所で発見された例もある。ここではデータベースの全目撃例からその事例を紹介する。

 タヌキが長距離を移動したと判断するためには以下を満たすことを条件とする。
・近隣でのタヌキの目撃情報が非常に少なく、定住していないと考えられること。
・出発地点と考えられるタヌキの定住地域があること。
・目撃月が10〜12月であること。この時期は若いタヌキが親離れして巣を離れるからである。

 データベースには次のような長距離移動例がある(2012年以前の全データが対象)。

[事例1] 約3km(DBN53)
 2005年11月27日のいわゆる「秋葉原事件」。神田川の美倉橋(千代田区)下でタヌキが捕獲された。このタヌキがどこから来たのか、なぜ神田川に落下していたのかは不明である。移動経路については、神田川に沿って下ってきたと考えるのが最も自然な経路と考えられ、上記の距離もこの仮定に基づくものである。

[事例2] 約1km(DBN540)
 JR神田駅(千代田区)付近での目撃(2008年12月)。皇居から来たと考えられる。

[事例3] 約1km(DBN1190)
 2010年11月4日のいわゆる「大手町事件」。千代田区大手町のJXビル地下でタヌキが捕獲された。皇居から来たと考えられる。

 事例2と事例3はいずれも皇居の東側地域での目撃例である。この地域はビルが林立しており、タヌキが定住できる環境ではない。また皇居以外に定住地はない。そのため、タヌキは皇居から出発したと容易に推測できる。

[事例4] 約1.5km(DBN364、365、366、367)
 渋谷区本町のオペラシティー付近での複数の目撃例。いずれも日時が近接しており、同一個体と推測される。

[事例5] 約1km(DBN2343)
 渋谷区本町での目撃例。

 事例4と事例5はいずれも中野区南台方面から移動してきたと推測される。中野区南台、杉並区方南、渋谷区笹塚が接する地域はタヌキの目撃例が多く、複数家族が定住しているのは確実である。ただし、この推測ではタヌキは甲州街道を横断しないことを前提としている。甲州街道の南側(渋谷区西原)にもタヌキは生息しており、上記の目撃場所への距離も1km以下になる。しかし甲州街道は幅が広く、交通量も多いため、横断は非常に困難であると仮定したのである。

 これらの事例からは、タヌキは秋に1km以上を移動することがあるとわかる。ただしその事例は少ないことから、多くの場合の移動距離は1km以内であろうと推測できる。

 特定のタヌキ個体の移動を知るには、発信機あるいは位置記録装置をタヌキに装着して調べるのが最も良い方法である。しかし一方で、目撃情報を多数蓄積していけば上記のようにそれらしい特殊な事例を発見することも可能である。目撃情報による方法の欠点は、タヌキが広く生息している地域では役に立たないことである。例えば杉並区ではほぼ全域にタヌキが生息しているために、特定のタヌキがどれだけ移動したかを推測することは不可能である。

■考察2:ハクビシンの食べ物

 フンの内容物、果実を食べている現場を見た目撃情報などからハクビシンが食べている果実を挙げると次の通りになる(東京都23区内の全データより)。

1〜2月 トキワサンザシ属 2件
3月 キンカン 1件
5月 桜桃(食用サクランボ) 3件
5〜8月 ビワ 8件
7月 ウメ 1件
7月 モモ 1件
7〜8月 ブドウ 5件
7〜9月 イチジク 2件
8月 ズバイモモ(=ネクタリン) 1件
8〜1月 カキノキ 12件
9月 ヤマモモ 1件

 いずれも民家の果樹または街路樹であり、農作物ではない。ビワとカキノキの果実を食べている例が多いが、これはこれらの樹木数が多いことを意味しているのだろう。カキノキは実が青いうちから食べている例があった。
 鳥のエサとして置いていた果物を食べた例では、リンゴ、ミカン、夏ミカン、バナナ、モモを食べている。
 直接観察されたわけではないが、ハクビシンが夏ミカンを食べたと思われる例が1件(DBN312)、サツマイモを食べたと思われる例が2件(DBN152、1336)、オキザリス(カタバミ属)の球根を食べたと思われる例が1件(DBN2096)ある。
 また、干し柿を食べた例が3件(DBN627、1738、2358)ある。
 このようにハクビシンは植物性のもの、特に果実を好んでいることがわかる。

 ハクビシンが動物性のものを食べているかどうかはわからなかったが、ようやく2012年にフンの中からコガネムシ類の断片を見つけることができた (DBN2219)。

 以上の結果は、ハクビシンが極端な果実食であることを意味しているのだろうか。群馬県でハクビシンの食性を調べた研究[文献6]によると、果実や昆虫類の他にもカエル、鳥、カニ、ザリガニなど動物もよく食べていることがわかる。
 千葉市の住宅地で得られたハクビシンのフンを宮本が調べたところ、カキノキ種子、ムクノキ種子、ブドウ種子約、ヤマモモの実の粒(?)、雑草、葉、甲虫類の断片といったものが含まれていた(DBN2287、2012年9月)。東京都23区でのフンの内容物は1種類だけの果実種子が出てくることがほとんどであることと比較すると、多様なものを食べていることがわかる。現場の住宅地は開発された場所で、近くには山林がある。
 これらのことからは、「ハクビシンは自分の好みに合うものを食べるが、食べ物はその場所の環境によって変化する」という仮説を立てることができる。群馬県や千葉市の現場は自然環境が豊かであるため、動物性のものも植物性のものも食べる。ところが東京都23区では動物の数も植物の数も山林に比べるとかなり少ない。その結果、東京都23区で安定して入手でき、かつハクビシンが好むものはカキノキなどの人間が植えた果実類ということになる。ハクビシンは人間によって生息場所を与えられたと言える。

 ハクビシンが都会で何を食べているのかはまだ完全にわかっているわけではない。そのため現在もハクビシンのフンの回収は非常に重要な課題である。発見された場合はぜひ連絡してほしい。ハクビシンのフンは小型犬やネコのものに大きさ、形は似ている。2階より上のベランダや屋根などネコがまず来ない場所のフンはハクビシンのものと疑った方がよい。


■全国の目撃情報の集計

 東京都23区以外の目撃情報についても報告する。いずれも2012年のみの集計である。

・2012年の事件

  「イヌの赤ちゃんだと思ったらタヌキだった」という話が時々あるが、「クマの赤ちゃんと思ったら」という事件が島根県大田市あった。ケガをした小動物を、最初はイヌだと思い、成長するうちクマではないかと思ったとのことである(中国新聞、毎日新聞、読売新聞、DBN2078)。タヌキは (イヌと同じく) 前足は5本指(親指は離れた位置にある)、後足は4本指であり、クマは前後とも5本指であるので判別は容易である。
 9月8日、成田空港の滑走路で着陸した航空機がタヌキに接触したかもしれない事件があった。タヌキは負傷していたが生存していた。もし本当にぶつかっていたのならあまりにも頑丈なタヌキである(時事通信、DBN2268)。
 2月、鹿児島県薩摩川内市でジャワマングースが捕獲された(南日本新聞社、DBN1950)。ジャワマングースは外来生物で、沖縄島や奄美大島で問題になっていたが、最近は鹿児島市で捕獲されたりしていた。薩摩川内市で捕獲されたということは、既に鹿児島県内各地へ分布を広げている可能性がある。

・都道府県毎の目撃情報数

 下に都道府県毎の目撃情報数の表を掲載した。これは2012年の目撃のみの集計である。目撃情報数が0件の地域は省略した。首都圏や大阪府は目撃者本人からのメールによるものが多いが、それ以外の地域の情報は新聞などのメディアに掲載されたものがほとんどである。
 大阪市ではタヌキが東住吉区、住之江区で目撃されている。
 目撃情報数が増えれば、東京23区のようにより詳細な分析が可能になる。東京23区以外からの目撃情報もぜひ知らせてほしい。

都道府県毎の目撃情報数(2012年)

 
タヌキ ハクビシン アライグマ アナグマ キツネ マングース
北海道
1
 
 
 
1
 
青森県
3
 
 
 
1
 
宮城県
 
 
 
 
1
 
茨城県
 
1
 
 
 
 
埼玉県 ※1
5
2
1
 
1
 
千葉県
9
12
1
 
 
 
東京都23区
118
204
7
2
 
 
東京都多摩地区
11
17
1
 
1
 
神奈川県 ※2
1
2
1
 
 
 
横浜市
8
7
2
 
 
 
川崎市
3
2
 
 
 
 
石川県
 
1
2
 
1
 
静岡県
1
 
 
 
 
 
愛知県
1
 
 
 
 
 
京都府
 
 
1
 
 
 
大阪府 ※3
1
 
 
 
 
 
大阪市
3
 
 
 
 
 
堺市
1
 
 
 
 
 
兵庫県
2
 
 
 
 
 
奈良県
 
 
1
 
 
 
和歌山県
 
1
 
 
 
 
島根県
1
 
 
 
 
 
福岡県
 
1
2
 
 
 
宮崎県
 
 
1
 
 
 
鹿児島県
 
 
 
 
 
1

※ 「マングース」はジャワマングースのこと
※1 さいたま市を除く。今回はさいたま市は0件
※2 横浜市、川崎市を除く
※3 大阪市、堺市を除く

・東京タヌキ探検隊!データベースについて

 東京タヌキ探検隊!のデータベースは以前は動物別、地域別に分けて管理していた。しかし全データを横断的に調べるには都合が悪かったため、2011年にこれらを統合した。統合によってどの地域の情報にも対応できるようになったため、情報収集の対象も全国へと拡大した。
 2012年末現在、記録された全目撃情報数は2411件。動物別の内訳は
 タヌキ 1222件(51%)
 ハクビシン 1029件(43%)
 アライグマ 118件(4.9%)
 ニホンアナグマ 6件(0.25%)
 キツネ 10件(0.41%)
 チョウセンイタチ 6件(0.25%)
 ニホンイタチ 1件(0.04%)
 ジャワマングース 2件(0.08%)
 不明 17件(0.71%)。

地域の内訳は
 東京都23区 1940件(80%)
 東京都多摩地区 151件(6.3%)
 横浜市 68件(2.8%)
 川崎市 26件(1.1%)
 千葉県市川市 17件 (0.71%)
 さいたま市 10件(0.41%)
 大阪府 34件(1.4%)
などである。

 全データのうち、写真や動画などがあるものは455件(19%)である。

・近接目撃事例

 目撃情報がこれだけあると、別の人がほぼ同時に同じ動物個体を目撃した例がいくつもありそうだが、実際には非常に少ない。「別の人が」「近接した時刻に」「近接した場所で」目撃する例を「近接目撃事例」と呼ぶことにしているが、これに該当するのは3組しかない。それぞれ
 2008年、渋谷区、タヌキ (DBN364、365)
 2011年、世田谷区、タヌキ (DBN1345、1346)
 2012年、渋谷区、タヌキ(DBN2388、2390)
である。
 もうひとつ、2011年大田区では奇妙な事例があった(DBN1803、1811)。別の人が、近接した時刻、近接した場所で動物を目撃しているのだが、それぞれアライグマ、ハクビシンだったのである(アライグマは写真あり)。ハクビシンが見誤りだった可能性はあるものの、かなり珍しい事例となった。

・キツネは東京都23区にどこまで迫れるか

 東京都23区にキツネが生息していないのはほぼ確実である。その理由は、タヌキよりも肉食傾向が強いため、都会では十分な食べ物が得られないためだろうと推測される。野ネズミを多数狩るには広大な緑地が必要となるだろう。
 東京都23区に最も近いキツネの生息地としては、多摩川河川敷、荒川河川敷が挙げられる(いずれもその近接地域をも含む)。荒川では埼玉県戸田市で目撃例があり(2011年、DBN1761)[文献7]、これが東京都23区に最も近い目撃例である。多摩川では東京都多摩市でキツネの目撃例がある(2012年、DBN2368)。多摩川、荒川からは離れるが埼玉県所沢市で目撃例がある(2012年、DBN2048)[文献8]。江戸川東岸の千葉県側にもキツネは生息しているだろうが、現時点では目撃情報は得られていない。
 いつの日かキツネが多摩川・荒川河川敷を下り東京都23区に到達することがあるかもしれない。ただし、上記の目撃例はいずれも東京都23区から見て対岸側である。


■今後の課題

 報告書は毎年同じような内容ではあるが、最新の情報を提供するためにも定期的な報告は継続していく。
 目撃情報の収集は今後も引き続き行っていく。「東京タヌキ探検隊!」を名乗っているが、タヌキだけではなく、ハクビシン、アライグマ、アナグマ、キツネなども平等に扱っている。また地域も日本全国を対象にしている。皆さまのご協力をお願いします。

 宮本は現在、仕事の都合上で調査研究のための時間がとりにくい状況である。しかし目撃情報の収集と分析、センサーカメラの設置などはこれまで通り行っている。時間がかかるフンの分析は停止しており、詳細な報告はすぐにはできない。

 東京都23区のタヌキなどの目撃情報の報告は次回は2014年1月を予定している。今回と同じく直近の3年間が対象となる。


■謝辞

 この調査研究は全国の皆さまから寄せられる目撃情報によって成り立っている。情報を寄せていただいた多くの方々にまず感謝をしなければならない。フンの回収やセンサーカメラの設置など特別のご協力をいただいた方々にも深く感謝する。

 そして都会でしっかりと生活し、時々私たちの前に姿を見せてくれるタヌキやハクビシンたちにも感謝する(残念ながらアライグマは外来生物なので感謝はできない)。

■文献

東京タヌキ探検隊!のホームページ
http://tokyotanuki.jp

東京タヌキ探検隊!の過去の報告書は次のページから見ることができる。
http://tokyotanuki.jp/reports.htm

[文献1] コラム「あじわい夕日新聞」 筆者・原由子
 朝日新聞夕刊(東京版)、 2012年6月29日

[文献2] 「東京都23区内のタヌキ、ハクビシン、アライグマの目撃情報の集計と分析(2012年1月版)」 「考察1:練馬区のパラドックス」の項を参照のこと
 http://tokyotanuki.jp/docs/tanuki1201.htm
 宮本 拓海、2012年

[文献3] 「杉並タヌキおつきあいガイドライン(私案)」
 http://tokyotanuki.jp/guideline.htm
 宮本 拓海、2012年
 都市部でのタヌキ、ハクビシン、アライグマの被害とその対策について紹介している。

[文献4] 「東京都23区内のタヌキ、ハクビシン、アライグマの目撃情報の集計と分析(2011年1月版)」 「考察2 目撃件数と人口密度の関係」の項を参照のこと
 http://tokyotanuki.jp/docs/tanuki1101.htm
 宮本 拓海、2011年

[文献5] 「東京都23区内のタヌキの生息数の推定(2012年版)」
 http://tokyotanuki.jp/docs/tokyotanuki1208.pdf
 宮本 拓海、2012年
 「東京都23区のタヌキの生息数は約1000頭」ということは広く知られつつあるが、その根拠を示しているのは宮本だけである。

[文献6] 「群馬県におけるハクビシンの食性と生息状況」(姉崎、坂庭、田中、2010年)
 http://www.gmnh.pref.gunma.jp/research/no_14/bulletin14_12.pdf

[文献7] 「ホンドキツネ:生息の可能性高まる 戸田ケ原でフン発見 自然再生の象徴に/埼玉」
 毎日新聞ホームページ、2011年10月3日掲載。

[文献8] [文献8] 「ホンドギツネ撮影 所沢の狭山丘陵 県平野部で絶滅危惧種」
 東京新聞ホームページ、2012年5月25日掲載。

■使用地図

本稿に掲載した地図は国土地理院発行の以下の数値地図を複製・使用した。
「数値地図5mメッシュ(標高) 東京都区部」
「数値地図50mメッシュ(標高) 日本II」


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