東京タヌキ探検隊タイトル

東京タヌキタイムズ

「東京タヌキタイムズ」は101号(2017年5月)より形態を変えて連載します。
PDF形式はやめ、当面はテキストデータでの掲載とします。

101号(2017年5月) 形態学

タヌキはイヌである(形態的には)

[タヌキ]

タヌキとはどんな動物かと聞かれたならば、「何の特徴もない動物です」と私は答えます。何か特別な能力とか外見があるわけではなく、そのため説明が難しいのがタヌキなのですがその話はまた後で取り上げることにしましょう。

形態という点でタヌキとはどんな動物かと聞かれたならば、「タヌキはイヌ——イヌそのものである」と私は答えます。タヌキとイヌがいっしょだなんて、そんなわけないだろうと言うようでは観察力不足です。

イヌという動物は皆さん見慣れすぎていてかえって観察していないかもしれません。足先に注目してみると、イヌは「指で体を支える」構造になっています。骨格を見ると、ヒトで言う手首(前足)の部分も足首(後足)の部分も地面から高い位置にあることがわかります。

意外かもしれませんがこれはネコも同じです。イヌとネコというとかなり違う動物だと思われていますが、分類上では近い位置づけになるのです(詳しくはまた分類学の項で)。

ではイヌとネコの違いは何かと言うと、頭骨の形にはっきりと現れます。イヌは吻(ふん=口の前に突き出した部分)が長く、ネコは吻が短いのです。

タヌキは吻が長く、イヌにそっくりな頭骨の形をしています。タヌキというと鼻が短い(吻が短い)というイメージを持たれている方が大半でしょうが、実際は鼻は長いです。動物園に行ったらタヌキの横顔をじっくり観察してみてください。タヌキは明らかにイヌ顔です。

全身骨格を見ると、タヌキとイヌとを区別するのはかなり難しいでしょう。両者がよく似ているのは当然のことで、同じイヌ科に分類されているからです。つまり分類学上では「親戚」同士とも言える間柄なのです。ですから骨格という形態から見るとタヌキとイヌはよく似ている、タヌキはイヌそのものであるとさえ言ってしまいたくなるのです。

タヌキは第一印象として「太ったイヌ」あるいは「太ったネコ」のように見えます。これは脚の構造が同じだからで、そう見えるのは当然のことなのです。

[ハクビシン] [アライグマ]

ハクビシン(ジャコウネコ科)やアライグマ(アライグマ科)は、前足は同じように指で支えていますが、後足は停止時には指先からかかとまでが地面に接し、細長い足跡になります(歩行時は後足も指先だけで支えます)。そのためイヌやネコとは違った印象を与えるはずです。

クマ(クマ科)はヒトで言うところの手のひら、足の裏がべったりと地面に接しますので、やはりイヌ、ネコとは違っています。

歯式

動物の種類を区別する時、客観的な指標、特に数値で表せる指標があれば便利です。体長や尾長など体の各部の寸法はわかりやすい指標ですが、個体差はもちろんありますし、計測方法によって誤差がどうしてもでてきます。

寸法よりもはっきりと数字で表せる指標として「歯の数」があります。これは「歯式」(ししき、Dentition)と呼ばれるもので、数式のように表すことができます。例えばヒトの場合、

歯式(ヒト)

と書き表します。意味は次のようになります。

歯式の意味

数字はそれぞれの歯の本数を表します。いずれも片側のみの本数です。
門歯とはいわゆる「前歯」のことで「切歯」とも言います。小臼歯、大臼歯は普通はまとめて「奥歯」と呼ばれます。

この歯式が正しいかどうか、ご自分の歯で確かめてみてください。なお、親知らず=前方から数えて8番目の歯は生えない人もいます。このような個人差・個体差はあります。

歯式は一般的には上のように分数に似た書き方をしますが、これは印刷やデジタルデータでは面倒なため、次のように1行にまとめてしまう書き方もあります(これも同じくヒトです)。

2/2・1/1・2/2・3/3=32

意味はもうおわかりと思いますが次の通りです。

上門歯/下門歯・上犬歯/下犬歯・上小臼歯/下小臼歯・上大臼歯/下大臼歯=全体の合計

親知らずが生えないという個体差を考慮するなら次のような書き方になります。「-」(または「〜」)で数値の範囲を表します。

2/2・1/1・2/2・2-3/2-3=28-32

次に、タヌキなどの歯式を見ていきましょう。

イヌ
3/3・1/1・4/4・2/3=42

タヌキ 3/3・1/1・4/4・2-3/3=42-44

アカギツネ 3/3・1/1・4/4・2/3=42

同じグループの動物は歯式も似た傾向になります。これでは区別がつかないように見えますが、他にも頭骨の大きさや形状など判別のためのポイントはありますので問題はありません。

ハクビシン 3/3・1/1・4/4・2/2=40

アライグマ 3/3・1/1・4/4・2/2=40

ハクビシンとアライグマはグループは異なりますが歯式は偶然一致しています。

ニホンアナグマ 3/3・1/1・3/3・1/2=34

ネコ 3/3・1/1・3/2・1/1=30

ネコは奥歯=臼歯の数が少なく、つまりその分だけ吻が短くなります。ネコの鼻が短いのは歯の構成からもわかるのです。

102号(2017年6月)

奇妙な頭骨

さて、ここである動物の頭骨の写真を見ていただきましょう。
犬歯が大きいことからこれは明らかに食肉目の動物だとわかります。

奇妙な頭骨

歯を数えてみると

3/3・1/1・4/4・1/2

となっていて、該当する動物がありません。ハクビシンやアライグマにも似ているようですが違います。犬歯が大きいことから食肉目であることは間違いありませんが。

実はこれ、イヌの頭骨なのです。
歯の数が違うではないか!と異議申し立てる人がいるかもしれませんがイヌなのです。

この頭骨を採集したのは私自身なのですが、発見時に全身は既にほぼ骨と体毛になっており何の動物かわかりにくい状態でした。ただし、発見場所(東京都葛飾区)と体の大きさ(小型犬サイズ)と足指の形からイヌかタヌキであると推測できました。

頭骨を持ち帰ってクリーニングした結果、その形状からタヌキでないと判断でき、イヌであると確定しました。おそらくポメラニアンかチワワではないかと思われます。

歯の数が違っている理由、それは「品種改良の結果」なのです。
イヌの品種の中には吻が短いものがあります。これはそのような外見の個体を人間が繁殖させ選別して作り出した結果なのです。
吻が短いということは歯が収まるスペースも短く狭くなるということです。その結果、歯の数が少なくなってしまったのです。

品種改良によってイヌにはさまざまな外見の品種が生み出されてきました。ですがこのように歯の数まで変化するような改変がイヌにとって良いことだったのだろうかと思わずにはいられません。

※哺乳類の頭骨の画像資料として下記のページを紹介しておきます。161種が公開されています。

哺乳類頭蓋の画像データベース(第2版)・獨協医科大学

食肉目のリスト

タヌキ

イヌ(品種不明)

ネコ

ハクビシン

アライグマ

アナグマ

アカギツネ

タヌキのサイズは小型犬

[タヌキ]

先ほどの話の中で、「小型犬サイズ=タヌキ」という説明をしました。「タヌキはそんなに小さいのか?」と疑う方もいるでしょう。

実際にタヌキを近くで見ると、意外と小さいな、と感じる人はきっといるはずです。おそらくもうちょっと大きな体を想像していたのかもしれませんが、タヌキは小型犬サイズなのです。

タヌキの体の大きさを説明するのにいちばんわかりやすい比較対象はネコ(イエネコ)です。イヌならばビーグルが近いサイズです。具体的な数字で説明しますと肩高(体高)は次の通りです。

タヌキ  27〜37.5cm (世界の動物・分類と飼育2食肉目)
ネコ   30cm (日本大百科全書(ニッポニカ))
ビーグル 33〜40cm (ジャパンケネルクラブによる理想体高)

※括弧内は出典。

肩高とは「肩甲骨最高点の高さ」のことです。イヌなどは胴体部分では肩の部分が一番高くなりますが、その高さのことです。ただし、タヌキとアライグマは腰の位置の方がやや高くなります。
頭の高さは関係ありません。頭は上げたり下げたりするので計測には向かないのです。

体長(頭胴長)で比べてもいいのですが、胴長短足な動物もいますし、尾の長さによっても印象は左右されます。肩高は直感的にわかりやすい数値だと思います。

タヌキ、ネコ、ビーグルは偶然にも「やや胴長短足」という体型が共通しており、比較にはちょうどいいと言えます。

上の数字からわかるように、タヌキはネコとほぼ同じ大きさ、ビーグルよりはちょっと小さい、というサイズです。

もっとも、ビーグルとタヌキで似ているのは大きさと体型ぐらいで他はあまり共通点はありません。ビーグルは垂れ耳で短毛ですが、タヌキは正反対です。

ですが、タヌキの体の大きさを頭に入れておくためにはビーグルはちょうどいいモデルになると言えます(まあ、ネコでもいいんですが)。私はビーグルに出会った時は頭の中で「タヌキサイズ、タヌキサイズ」と確認するようにしています。

大きさを比べると

ここで他の動物の大きさも比べてみましょう。

 
頭胴長
尾長
肩高
体重
タヌキ
50〜80
12.5〜25
27〜37.5
3.6〜6 (秋は6〜10)
ハクビシン
51〜76
40〜60
3.6〜6
アライグマ
41.5〜60
20〜40.5
22.8〜30.4
6〜7
ニホンアナグマ
44〜61
11.6〜14.1
12〜13
アカギツネ(日本産)
54〜79.5
32〜48
3.3〜6.8
ネコ
47〜51
23〜28
4〜8

長さの単位はcm、体重はkg
出典:世界の動物・分類と飼育2食肉目

これらの動物はだいたい同じ大きさであることがわかります。しかも外見がなんとなく似ているわけですから、判別できない人が多くても仕方ないことです。

[ハクビシン]

肩高のデータが一部抜けていますが、ハクビシンは明らかに肩高が低い胴長短足体型です。
また、ハクビシンはこれらの中では尾が特に長いため、わかりやすい体型です。
日本国内の同程度のサイズの動物で「胴長短足」「尾がとても長い」という形態はハクビシンだけです。このことを頭に入れておけばハクビシンは確実に判別できます。顔の模様を見る必要もないのです。
ハクビシンは尾を含めると1mサイズにもなるため、「大きい」という印象を持たれる場合があります。

[タヌキ]

タヌキとネコは「指で体を支える」という脚の構造をしていますので、四肢ですっくと立った姿をしています。タヌキ(冬毛)は一見すると「太ったネコ」か「太ったイヌ」のように見えるはずです。夏毛の時は短毛になるため模様がなければイヌにしか見えないでしょう。

[アライグマ] [アナグマ]

それに比べるとアライグマとアナグマは異質な感じに見えるでしょう。イヌでもネコでもないということがわかれば判別の手がかりになります。 アライグマは肩高が低く、つまり前につんのめったような感じになり、腰が高いのが特徴です。タヌキもやや腰が高い体型ですが、明らかにイヌに近いとわかるはずです。

アナグマも短足体型ですが、ハクビシンより太っていて、全体に平べったい感じです。上記の数値からはわかりませんが、「横幅がある」(=太っている)という外見でもあります。

ここまで、タヌキなどの模様については取り上げませんでした。これらを区別する時に真っ先に紹介されるのは顔の模様でしょうが、遭遇した時にそれをいつも確認できるとは限りません。タヌキなどは夜行性ですし、普通は近くでじっくり観察できるものでもありません。そのため、模様よりも体型の特徴を覚えておく方が実用的なのです。

103号(2017年7月)

「長い」「大きい」の基準は?

東京タヌキ探検隊!に送られてくる目撃情報の中には「体が大きかった」「尾が長かった」という記述もよくあります。ですが、こういった記述は私は基本的には無視しています。なぜかというと、「大きい」「長い」というのは基準があいまいな主観的なものだからです。

「大きい」と言う場合、何と比べて大きいのでしょうか。飼っているイヌと比べて? ネコと比べて? それともネズミと比べて? 比較対象または具体的な数字がなければ意味がない表現です。
例えばタヌキの尾を「長い」と表現する人もいます。まあ、ツキノワグマに比べれば長いと言えますが、ハクビシンと比べると短いです。
「80cmぐらいの大きさでした」と言う場合、それは頭胴長のことでしょうか? 全長(尾も含めた長さ)のことでしょうか? どちらなのかを書いていただけないと正しい判断はできません。それに、目測は当てにならないものです。

東京タヌキ探検隊!にとって、こういった大きさ・長さについての情報は実際に測定したもの以外は参考程度にしかなりません。

顔の模様

もしじっくりと観察できるのならば、そして写真や動画を撮ることができるならば、顔の模様は判別には一番重要なポイントです。

[タヌキ] [アライグマ]

まずはタヌキとアライグマで比べてみましょう。
どちらも目のまわりが黒くなっています。タヌキはその黒模様は左右がつながっていません。アライグマはつながっています。これはわかりやすい判別方法なので覚えておくべきことです。
タヌキの目のまわりの黒模様は大小の個体差がありますが、左右つながることはありません。吻の上部が黒くなって左右つながっているように見えることもあるのですが、左右の目と目の間の最短区間では必ず黒模様は途切れているはずです。 ただし…これは標準的な模様で、まれに左右の黒模様がつながっている個体もいるようです。

アライグマでもまれに左右の黒模様がつながっていない個体がいるようですが、その場合でも顔の中央に黒または灰色の縦模様があるためタヌキとははっきり区別できます。

もうひとつ、タヌキは耳の縁が黒いのですが、アライグマは白色です。

[ハクビシン]

ハクビシンの顔の模様の特徴は、何と言っても真ん中にある白い模様です。
また、目のまわりなどに白い模様があります。鼻がピンク色であるのも特徴です(まれに黒っぽい場合もあります)。
顔全体では黒い印象で、その上に白い模様が乗っかっているという風に見えるでしょう。
白い模様は個体により位置や大きさに違いがありますが、これが個体識別に利用できるかどうかは不明です(見る角度やまわりの明るさによって見え方が違ってくる可能性があるからです)。

東京タヌキ探検隊!への目撃情報の中にはまれに、顔の真ん中の白い線がなかったという例や、その線が薄かった(濃い色をしていた)、白線が2本あったという例が報告されています。白い模様が確認できない場合は体型など他の情報も合わせて判別しなければなりません。

[アナグマ]

ニホンアナグマも目のまわりが黒い動物ですが、タヌキに比べると黒い面積は小さく、目のまわりだけが黒い場合が多いです。ただし個体差はあるようで、黒い模様の大きさ、濃さは一定ではありません。
黒い模様は縦方向に延びているのがアナグマらしい特徴です。

ネットの画像検索で「アナグマ」を調べると、顔の模様の印象が違う写真が少しまじっています。目のまわりの黒模様がくっきりと濃く、耳のところまでつながっているのはヨーロッパ産のアナグマです(体全体はグレー)。「Meles meles」(学名)で画像検索するとヨーロッパ産のアナグマの画像が主に表示されます。
日本産アナグマの画像を検索するならば「ニホンアナグマ」とした方が確実により正確な結果が得られます。

[キツネ]

キツネについては特に説明する必要はないでしょう。 いわゆるキツネ色(赤みのある黄色)で、顔の下部は白色です。

耳の形

[タヌキ]

タヌキを描いたイラストやマンガでは耳が丸くなっていることがほとんどです。が、これは間違いです。タヌキの耳は丸みがある三角形です。
イラストなどではタヌキの耳を小さく描く傾向がありますがこれも間違いで、イヌやネコと変わらないぐらいの大きさがあります。冬毛の時は体毛が長くなるため顔全体が大きく見え、耳が相対的に小さく見えます。夏毛で体毛が短い時は逆に耳がかなり大きく見えます。

イラストなどでタヌキが丸耳になっているのは、はっきり言うとイラストレーターやデザイナーたちの勉強不足です。ちゃんと資料を見たり、実物を見ればこんな誤りは起こらないはずです。今ではネットで画像検索をすればすぐに確認できます。それでも間違った絵ばかり生産されるのですからひどいものです。
耳を丸くすれば可愛さを強調できますし、三角耳だとネコやイヌみたいになってしまうので無意識にそれを避けたのかもしれませんが、誤りであることは言い逃れできません。

[アナグマ] [ハクビシン]

ここで取り上げている5種の中ではアナグマの耳がいちばん小さく見えます。体毛に半ば埋もれてしまっているように見えることもあります。
ハクビシンの耳もタヌキ、アライグマに比べるとやや小さめです。

104号(2017年8月)

体の模様

[タヌキ]

タヌキの体色は全体には灰褐色です。ただし個体によって色味や明るさに違いがあります。四肢は黒色です。
前足から肩にかけてが黒くなっているのは遠くからでもわかりやすい特徴です。肩の黒い部分の前後は明るい色になっています。そのため肩の黒模様が強調され、遠くからでもタヌキと識別することができます。
背中から尾背面にかけて黒くなっている個体もいます。
ほとんどのタヌキでは尾の先端が黒くなっていますが、その黒い領域には個体差があります。尾の先端の背面部が黒くなることが多いようです。

タヌキの体の模様のパターンは実はジャイアントパンダによく似ています。タヌキは黒/灰褐色、ジャイアントパンダは黒/白ですが、タヌキの灰褐色部分を白色に置き換えてみると…ほら、ジャイアントパンダそっくりになります。

ネコではシャムやヒマラヤンといった品種がタヌキと似ている模様になります(タヌキは鼻まわりが黒くなりませんので完全一致ではありません)。この模様のパターンは食肉目に共通する何かの要因があるのかもしれません。

[ハクビシン]

ハクビシンもタヌキと同じく四肢が黒色です。
体全体の色は「淡色」「暗色」「赤褐色」の3つの型があります。これは私が独自に決めた用語で、今のところ他ではまだ採用されていないはずです。
「淡色」は胴体部分が灰褐色です。ハクビシンでは最も多く見られる体色です。
「暗色」は体全体が四肢と区別できないほど暗い色となっているものです。
「赤褐色」は赤みが強い褐色です。
実際にははっきりとこの3つに分けられるのではなく、中間的な体色の場合もあります。そのためどうしても主観的な分け方になってしまいます。
東京タヌキ探検隊!の2017年の報告書では、淡色型は69%、暗色型25%、赤褐色型6%と報告しましたが、目撃情報には体色について書かれていないことが多く、実際には淡色型がもっと多いのではないかと推測されます。

[アライグマ]

アライグマの体色の特徴はシマ模様の尾です。
日本国内の場合、タヌキサイズの動物で尾にシマ模様があるのはアライグマとネコ(一部)だけです。アライグマを判別する最大のポイントですので必ず覚えておきましょう。
アライグマの体色は灰色です。まれに茶色の個体もいます。タヌキなどは茶色系の体色ですので、グレーのアライグマは明らかに違う動物だとわかるでしょう。

[アナグマ]

アナグマの体色は褐色〜灰褐色で、目立つ模様がないのが特徴です。

[キツネ]

キツネの体色はいわゆるキツネ色(赤みのある黄色)です。吻の下部から胸、腹にかけては白色です。脚の内側も白色です。
脚が黒い個体もそうでない個体もいますが、これは個体差と思われます。ただしホンドギツネ(本州、四国、九州に生息する亜種)は黒くないようですので、亜種毎に特徴があるのかもしれません。

間違ったタヌキ

[タヌキ]

間違ったタヌキ

このイラストは世間一般でよく見られるタヌキの図像です。このイラストを見た日本人は全員が「タヌキだ」と思うことでしょう。
しかしこれは「間違ったタヌキ」です。イラスト中の説明にもあるように、本物のタヌキの特徴とはかけ離れています。目のまわりの黒模様、耳の形、尾の模様…本物とはまったく違います。

日本人はなぜこれを「タヌキ」だと認識するのでしょうか。
その答えは「日本人は実物のタヌキを見たことがない」または「実物のタヌキをちゃんと観察したことがない」ためでしょう。日本人は誰もがタヌキのことをよく知っていると思っているでしょうが、実際は何も知らないのです。
その結果、今現在、世間ではこれに類似した間違ったタヌキばかりが氾濫しているのです。東京の地下鉄に乗っても、青いコンビニに行っても、スナック菓子を買っても、マンガやアニメでも見つかるのは間違ったタヌキだらけです。

前にも描きましたが、イラストレーター、絵本作家、デザイナーたちに問題の原因があります。実物を観察したり(動物園に実物はいます)、資料を見ればこんなことにはならないはずです。もし、これらを実行して「間違ったタヌキ」を描いているのだとすれば、観察力が欠如しているということです。絵を描く人が観察力を持たないというのは大問題ですよ。

この「間違ったタヌキ」は古くから存在するものではありません。
詳しく調べたわけではありませんが、戦後になってから登場したイメージのようです。江戸時代に歌川国芳らが描いたタヌキはこれとは違った「間違ったタヌキ」になっています。
尾のシマ模様は、アライグマが広く知られるようになったテレビ番組「あらいぐまラスカル」(1977年)の影響によるものと思われます。
このイメージの変遷を時系列でたどってみるというのは面白そうな研究題材ですが、私にはその時間の余裕がありません。誰か調べてみてください。

ところで、この「間違ったタヌキ」のイラストは私自身が描いたもので、このホームページに掲載したものがオリジナルです。あちこちでコピーやまねして描かれたイラストがあるようですが、元ネタは私なのです。

105号(2017年9月)

見間違いが多い例

東京タヌキ探検隊!に寄せられる目撃情報のメールを読むと、目撃した動物を別の種類の動物と誤認する例はよくあります。目撃したその場ですぐに違うと気付くこともあれば、後でネットで調べて気付く場合も、メールを読んだ私が誤認に気付く場合もあります。
ここではよくある誤認の例を紹介していきます。

[ハクビシン]

最も多い誤認例は、「ハクビシンを見てタヌキまたはネコだと誤認する」ことです。
ハクビシンの体型(胴長短足、尾が非常に長い)を考えればネコとの区別は簡単なはずなのですが、突然遭遇すると一瞬ネコか?と判断するようです。ただし、すぐにネコとは異質なものと気付き、すぐにハクビシンを思い出す、あるいはネットで調べてハクビシンにたどりつく例が多いようです。

ハクビシンが思いつかなかった場合はなじみのあるタヌキの名前が出てくることになるようです。

「電線のハクビシンを見てタヌキまたはネコだと誤認する」という例もあります。これも前の例と同じことです。が、タヌキもネコも電線を歩くことはできません。
電線を歩くことができるのはハクビシンかアライグマです。

[アライグマ]

「アライグマを見てタヌキだと誤認する」例もあります。まあ、確かに顔の模様などイメージはお互いによく似ていると言えます。尾にシマ模様があるのはアライグマだという知識があれば誤認することはないのですが、知らなければタヌキだと思い込むこともあるでしょう。

[アナグマ]

「アナグマを見てハクビシンだと誤認する」例があります。 アナグマの目撃例自体が非常に少ないにもかかわらず、この誤認例が複数あったということは驚きです。これはかなり高確率と言えます。見慣れている人ならまず間違えないはずなのですが…。
確かにどちらも顔の真ん中が白い、とは言えます。ですが、体型、尾の長さは明らかに違います。
もしハクビシンもアナグマも実物を見たことがなく、「ハクビシンは顔の真ん中に白い線」という知識だけ持っていたとすればこのような誤認は起こりうることなのでしょう。

真実の尾

[タヌキ]

タヌキの尾というと「太い」というイメージが一般的です。が、実物を観察するとイヌと比べて特別に太いということはありません。

タヌキの尾の本体

写真は全身の毛が抜けたタヌキの死体の尾の部分です。毛が抜けてしまったのは長期間水につかっていたせいのようです。
このように、タヌキの尾の本体は実は細いのです。これはイヌも同じで、イヌを飼っている人ならご存じのことも多いはずです。
尾が太く見えるのは毛が長いからなのです。夏毛は毛足が短いのでほっそりした尾になります。
マンガやイラストなどでは太さが強調され過ぎていますがそれに惑わされないでください。

※2017年10月追記
マンガやイラストなどではタヌキの尾の先が丸く太く表現されることが多いのですが、私自身の観察やいろいろな画像を見ても実際の尾はそこまで極端ではありません。「イヌの尾よりも太め」という感じでしかありません。夏毛の時は細いので「イヌの尾そのもの」となります。
尾の先端だけ黒くなっているイラスト等もよくありますが、実際にはそのような例はほとんどないように思います。前にも書いたように、尾の背面部が黒くなる例が多いようです。

[ハクビシン]

東京タヌキ探検隊!のホームページにはハクビシンのイラストを載せていますが、このイラストについて、目撃報告者からよく指摘されるのは「尾はもっと太かった」「尾は先細りではなかった」というものです。

これは私のイラストが間違っているのではなく、「個体差」です。ハクビシンの毛の具合によって尾は太くもなり、先端の印象も違ってくるのです。

タヌキでもハクビシンでも他の動物でも重要なのは太さではありません。長さの方に注目しなければなりません。「ハクビシンのように長い尾を持つタヌキ」というのは存在しないのです。

ただし、その逆の「尾が短いハクビシン」はありえます。何らかの事故などで尾が切断されてしまうことは非常にまれですがあります。「尾がないタヌキ」を私自身が見たことがあります。
確率は非常に低いので普通はまず気にする必要はないことですが。

毛の長さ

[タヌキ]

タヌキには夏毛と冬毛があります。夏毛は短く、冬毛は長く、そのため外見がかなり違って見えます。
夏毛のタヌキはかなりやせ細って見えます。健康状態が悪いのではありません。体毛の模様がなければまるでイヌのように見えるでしょう。
冬毛のタヌキはかなり太って見えますが、これは毛足が長いためにそう見えるのです。タヌキは秋になると食いだめするので体重も増え、本体も太るのですが、毛足の長さの方がずっと外見に影響しているようです。
太って見えるのは単に毛足が長いというだけではなく、「毛が立っている」からでもあります。

疥癬症で一部脱毛したタヌキ

写真は疥癬症で体毛の一部が抜けたタヌキです。背中の一部がくぼんでいる箇所が脱毛した部分で、地肌が見えていました。
写真からは毛が立っていて、毛足が長いこともわかります。
(疥癬症については後でまた取り上げます。)

夏毛と冬毛はある日突然切り替わるのではありません。
冬毛から夏毛へ換わる時は、徐々に冬毛が抜けていきます。そのため一時的に毛並みがぼさぼさになることがあります。東京都23区では5月から7月にかけてが切り替わる時期です。
夏毛から冬毛へは、自然に毛足が長くなっていきます。東京都23区では9月から11月にかけてがその時期です。
ですので夏毛は8月前後の短期間だけしか見られません。

タヌキの赤ちゃんは当然ながら毛が短い状態で産まれます。そのため夏の間はまだ短毛です。7月までは親は毛がまだ長くてぼさぼさした感じなので子どもとは見分けられます(体格差もあります)。

8月になると親も夏毛で短毛になり、子どももかなり成長しているので親子の区別が難しくなります。
9月からは親と同じく子どもの毛も徐々に冬毛に換わっていきます。

[キツネ]

ネットで画像検索すると、キツネも短毛と長毛(やはり太って見える)があることがわかります。これも夏毛、冬毛です。

[アナグマ]

画像検索ではアナグマも夏毛と冬毛があるようですが、はっきりとは確認できません。手元の資料にも記述がないため、もうちょっとデータを集めなければならないようです。

[ハクビシン]

ハクビシンはもともと短毛で、夏毛と冬毛のはっきりとした差はありません。東京タヌキ探検隊!に寄せられた目撃情報に添付された写真・動画を見ても特に違いがあるようにはみえません。 ハクビシンがもともと生息する東南アジアは年間を通じて温暖なので、冬毛に換毛する必要がないということでしょう。

106号(2017年10月)

目に目を凝らす

[タヌキ]

タヌキの目はほぼ黒目の部分しか見えません。目玉を左右に動かした時に少しだけ白目が見えます。これはイヌと同じです。
近くでよく見ると、黒目の中央部分は黒に近い褐色で、周辺部分は濃い褐色になっています。ですが遠くからは黒目にしか見えません。

ほぼ黒目ということは目の周りの黒い模様に目が隠れてしまい、遠くからは眼球の位置がわかりにくいという効果があります。ただしこれが戦闘時などで何かの役に立っているのかどうかはわかりません。

(ジャイアントパンダも同じく黒目+目の周りに黒模様ですが、意外とこわい目つきを黒模様がごまかしていると言えます。人間はだまされているのです。)

[ハクビシン] [アライグマ] [アナグマ]

ハクビシン、アライグマ、アナグマの目も同じようにほぼ黒目の部分しか見えません。
ハクビシンは目に接する皮膚が細く明るい色(白色〜灰色)になっているため目の輪郭がわかります。ただし、離れたところから見るとこの明るい部分を確認するのは難しいでしょう。また、個体によってははっきりしない場合もあります。
(近くでしっかりの観察したことがないのでこれ以上書くことがありません。)

[キツネ]

キツネの目は瞳孔が縦長で、白目部分は黄色です。これはネコに似ています。
同じキツネの仲間(キツネ属)でもフェネックの目はイヌと同じくほぼ黒目しか見えません。

[タヌキ]

夜にタヌキなどを観察する時には懐中電灯が必須の道具になります。懐中電灯で遠くを照らすと、動物の目が光を反射するのでそこに動物がいることがわかります。動物の目は横に2つ並んでいて動きもしますから、何か他の物体の反射光ではないことはすぐにわかります。
タヌキの目の反射光はオレンジ色です。幼獣は白っぽいオレンジ色です。
ただし、目の反射光は正面以外の方向では別の色に見えることがあるので注意が必要です。

それぞれの動物種の目の反射光の色を知っていれば観察の役に立つでしょう。ただ、その資料がほとんど見当たらないのが残念です。

[ネコ]

ネコの目の反射光の色は、私の経験では確か青色だったと記憶しているのですが、ネットで調べてみても確実な情報はありませんでした。個体によって色が違っている可能性もあるので多くの個体で確認する必要がありそうです。

動物の目の反射光を利用した調査方法はシカの調査でよく利用されています。ライトセンサス調査あるいはスポットライトセンサス調査というものです。
照明は強力なものを使用するので、まず目の反射光を探し出してからじっくり光を当てて頭数や大きさなどを調べます。

都会では強力な照明は使えませんし、民家等の建物が密集しているので遠くまで見通せません。ですが照明が少なくあまり迷惑にならない大河川の河川敷では採用できる調査方法かもしれません。

足跡も重要な証拠

動物を調査するにあたっては足跡の知識も必要です。
都会では足跡が残るような土が露出した場所は非常に限られており、あまり役に立たない知識のように思えます。
ですが意外な場所に足跡が残っていたりすることがあります。例えば、
・固い地面のグラウンドにタヌキの爪の跡だけ残っていた足跡
・ベランダの手すりにハクビシンの足跡
・半乾きのコンクリート床を歩いたために残った足跡
・泥のついた足でコンクリート床を歩いた足跡
といった事例があります。

足跡らしきものを見つけたら、まずはスマートフォンなどで写真を撮ってネットで調べるのが一番いい方法です。足跡のそばに10円玉などを置いて撮れば後で大きさを確認することもできます。

[タヌキ]

タヌキの足跡

タヌキの足跡は前足、後足ともに4本指です。ツメ跡もあります。
前足は実際は5本指ですが、親指は地面に届かないやや離れた位置にあるので足跡には残りません。これはイヌとまったく同じです。

タヌキの足跡は小型犬の足跡とほぼ同じで区別は難しいです。都会ではたいていの場合イヌでしょう。イヌが入ってこれない場所であるなどの条件がそろってはじめてタヌキの足跡だと断定できます。
大型犬の足跡は明らかに大きいので区別できます。

[ネコ]

ネコの足跡

ネコの足跡も前足、後足ともに4本指です。ただしツメ跡はありません。
ネコは普段はツメを引っ込めています。ですので足跡にツメ跡がないのです。

[ハクビシン]

ハクビシンの足跡

ハクビシンの足跡は前足、後足ともに5本指で、ツメ跡があります。
ハクビシンは、立ち止まると後脚のかかとが接地し、図のように長い足跡になります。歩行時はかかとは接地しないので、前足と似た足跡になります。

[アライグマ]

アライグマの足跡

アライグマの足跡は前足、後足ともに5本指で、ツメ跡があります。
アライグマはハクビシンと同じく、立ち止まると後脚のかかとが接地し、図のように長い足跡になります。歩行時はかかとは接地しないので、前足と似た足跡になります。

アライグマの足跡は指が長く、その形は人間の手のようにも見えます。ただし人間と比べるととても小さな足跡です。

[ハクビシン] [アライグマ]

ハクビシンとアライグマが電線を歩くことができるのは電線をつかむことができるからです。
足跡からわかるように、アライグマの指はイヌやネコに比べると長く、物をつかむことができる形になっています。
ハクビシンはアライグマほどではありませんが、ある程度物をつかむことができます。ハクビシンは指はそれほど長くはありませんが、肉球の面積が大きく、凹凸があります。この形が物をつかむのに役立っているのかもしれません。ハクビシンの肉球はピンク色で、人間の赤ちゃんの手のようにも見えます。
タヌキ、イヌ、ネコの足は物をつかむことができません。ですので電線を歩くことはないのです。

[アナグマ]

アナグマの足跡

アナグマの足跡は前足、後足ともに5本指で、ツメ跡があります。
ツメが大きいのが特徴です。穴掘りに特化した足になっているわけです。
アナグマの足跡は横幅があるのも特徴です。

107号(2017年11月)

クマの赤ちゃん?

[タヌキ]

草むらで鳴いている動物の赤ちゃんを拾った。クマの赤ちゃん(またはイヌの赤ちゃん)だと思って育てていたら実はタヌキだった。という事件は毎年のように日本のどこかで発生しています。

タヌキの赤ちゃんは生後1ヶ月ぐらいまでは全身が真っ黒で、タヌキのようには見えません。確かにクマかイヌの赤ちゃんに見えてしまうでしょう。
ですが足跡の知識があればクマの赤ちゃんではないことはすぐにわかるはずです。クマの足指は5本です。タヌキ、イヌは4本(前足には少し離れて親指1本)です。指を見るだけで問題は解決なのです。
タヌキとイヌの区別は難しいのですが、1ヶ月もすればタヌキならタヌキらしい模様に変化しますのでその時点で判別可能です。

アライグマ、大地に立つ

これは形態学の話ではないように思えますが、骨格に関わる話なのでやはり形態学で取り上げます。

[アライグマ]

後脚で立つアライグマ

アライグマは後足で「立つ」事ができます。つまり、後足で体全体を支え、上体をまっすぐに起こすのです。 この時、後足はつま先からかかとまで広い面積が接地しますので安定した姿勢となります。

[タヌキ] [キツネ] [ネコ]

これはタヌキには不可能な姿勢です。タヌキはつま先で立つため、上体を起こすと非常に不安定な姿勢になってしまうのです。同じ理由でイヌ、ネコ、キツネもこの姿勢は不可能です。

イヌの中には後足だけで長時間立っていられる個体もいるようですが、それはオリンピック出場間違いなしのスーパーアスリートと言っていいでしょう。

[ハクビシン]

似たような姿勢はハクビシンも可能ですが、胴体が長く足が短いのでちょっと違った印象になります。イタチ類が上体を起こした姿勢に似ています。
ハクビシンの場合もアライグマ同様に後足のつま先からかかとまで広い面積が接地します。
ハクビシンがこの姿勢をすることは簡単なはずですが、目撃されることはかなり少ないようです。

[アナグマ]

アナグマは、イタチ科なので立つことはできそうなのですが、資料不足でわかりません。

判別の方法のおさらい

動物と出会ったとしても近くでじっくり観察することはまず不可能です。暗い夜道で目の前を横切っていった動物を判別するにはどうすればいいのでしょうか?
判別するための最低限のポイントを紹介します。
(東京都23区で目撃できるタヌキ、ハクビシン、アライグマ、アナグマの4種に絞ります。また、顔を確認できない場合も多いでしょうから顔の模様の判別は省略します。)

尾にシマ模様がある

アライグマ

尾が胴体に匹敵するほど長い

ハクビシン

胴長短足

ハクビシン

電線を歩いている
(※形態のことではありませんが重要な判別ポイントです。)

ハクビシンまたはアライグマ

木に登っている、塀の上にいる

ハクビシンまたはアライグマ
(非常に低い確率でタヌキも木や塀に登ります)

肩(前足の付け根)が黒い

タヌキ

(冬)まるまるとした体型

タヌキまたはアナグマ

(夏)どう見てもイヌっぽい

タヌキ

体色がグレー(灰色)

アライグマ

ネットにはこれらの動物の動画が多数あります。動画をたくさん見ることがもしもの時の予習になるでしょう。

この「形態学」の項ではタヌキなどの外観・形態について詳細に説明してきました。形態だけでも語ることはたくさんあるのです。
これらを頭の中に入れ、動物の画像・動画を見て学習すれば、動物たちの判別は難しいことではなくなるでしょう。

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