東京タヌキ探検隊タイトル

東京タヌキタイムズ

「東京タヌキタイムズ」は101号(2017年5月)より形態を変えて連載します。
PDF形式はやめ、当面はテキストデータでの掲載とします。

101号(2017年5月) 形態学

タヌキはイヌである(形態的には)

タヌキとはどんな動物かと聞かれたならば、「何の特徴もない動物です」と私は答えます。何か特別な能力とか外見があるわけではなく、そのため説明が難しいのがタヌキなのですがその話はまた後で取り上げることにしましょう。

形態という点でタヌキとはどんな動物かと聞かれたならば、「タヌキはイヌ——イヌそのものである」と私は答えます。タヌキとイヌがいっしょだなんて、そんなわけないだろうと言うようでは観察力不足です。

イヌという動物は皆さん見慣れすぎていてかえって観察していないかもしれません。足先に注目してみると、イヌは「指で体を支える」構造になっています。骨格を見ると、ヒトで言う手首(前足)の部分も足首(後足)の部分も地面から高い位置にあることがわかります。

意外かもしれませんがこれはネコも同じです。イヌとネコというとかなり違う動物だと思われていますが、分類上では近い位置づけになるのです(詳しくはまた分類学の項で)。

ではイヌとネコの違いは何かと言うと、頭骨の形にはっきりと現れます。イヌは吻(ふん=口の前に突き出した部分)が長く、ネコは吻が短いのです。

タヌキは吻が長く、イヌにそっくりな頭骨の形をしています。タヌキというと鼻が短い(吻が短い)というイメージを持たれている方が大半でしょうが、実際は鼻は長いです。動物園に行ったらタヌキの横顔をじっくり観察してみてください。タヌキは明らかにイヌ顔です。

全身骨格を見ると、タヌキとイヌとを区別するのはかなり難しいでしょう。両者がよく似ているのは当然のことで、同じイヌ科に分類されているからです。つまり分類学上では「親戚」同士とも言える間柄なのです。ですから骨格という形態から見るとタヌキとイヌはよく似ている、タヌキはイヌそのものであるとさえ言ってしまいたくなるのです。

タヌキは第一印象として「太ったイヌ」あるいは「太ったネコ」のように見えます。これは脚の構造が同じだからで、そう見えるのは当然のことなのです。

ハクビシン(ジャコウネコ科)やアライグマ(アライグマ科)は、前足は同じように指で支えていますが、後足は停止時には指先からかかとまでが地面に接し、細長い足跡になります(歩行時は後足も指先だけで支えます)。そのためイヌやネコとは違った印象を与えるはずです。

クマ(クマ科)はヒトで言うところの手のひら、足の裏がべったりと地面に接しますので、やはりイヌ、ネコとは違っています。

歯式

動物の種類を区別する時、客観的な指標、特に数値で表せる指標があれば便利です。体長や尾長など体の各部の寸法はわかりやすい指標ですが、個体差はもちろんありますし、計測方法によって誤差がどうしてもでてきます。

寸法よりもはっきりと数字で表せる指標として「歯の数」があります。これは「歯式」(ししき、Dentition)と呼ばれるもので、数式のように表すことができます。例えばヒトの場合、

歯式(ヒト)

と書き表します。意味は次のようになります。

歯式の意味

数字はそれぞれの歯の本数を表します。いずれも片側のみの本数です。
門歯とはいわゆる「前歯」のことで「切歯」とも言います。小臼歯、大臼歯は普通はまとめて「奥歯」と呼ばれます。

この歯式が正しいかどうか、ご自分の歯で確かめてみてください。なお、親知らず=前方から数えて8番目の歯は生えない人もいます。このような個人差・個体差はあります。

歯式は一般的には上のように分数に似た書き方をしますが、これは印刷やデジタルデータでは面倒なため、次のように1行にまとめてしまう書き方もあります(これも同じくヒトです)。

2/2・1/1・2/2・3/3=32

意味はもうおわかりと思いますが次の通りです。

上門歯/下門歯・上犬歯/下犬歯・上小臼歯/下小臼歯・上大臼歯/下大臼歯=全体の合計

親知らずが生えないという個体差を考慮するなら次のような書き方になります。「-」(または「〜」)で数値の範囲を表します。

2/2・1/1・2/2・2-3/2-3=28-32

次に、タヌキなどの歯式を見ていきましょう。

イヌ
3/3・1/1・4/4・2/3=42

タヌキ 3/3・1/1・4/4・2-3/3=42-44

アカギツネ 3/3・1/1・4/4・2/3=42

同じグループの動物は歯式も似た傾向になります。これでは区別がつかないように見えますが、他にも頭骨の大きさや形状など判別のためのポイントはありますので問題はありません。

ハクビシン 3/3・1/1・4/4・2/2=40

アライグマ 3/3・1/1・4/4・2/2=40

ハクビシンとアライグマはグループは異なりますが歯式は偶然一致しています。

ニホンアナグマ 3/3・1/1・3/3・1/2=34

ネコ 3/3・1/1・3/2・1/1=30

ネコは奥歯=臼歯の数が少なく、つまりその分だけ吻が短くなります。ネコの鼻が短いのは歯の構成からもわかるのです。

102号(2017年6月)

奇妙な頭骨

さて、ここである動物の頭骨の写真を見ていただきましょう。
犬歯が大きいことからこれは明らかに食肉目の動物だとわかります。

奇妙な頭骨

歯を数えてみると

3/3・1/1・4/4・1/2

となっていて、該当する動物がありません。ハクビシンやアライグマにも似ているようですが違います。犬歯が大きいことから食肉目であることは間違いありませんが。

実はこれ、イヌの頭骨なのです。
歯の数が違うではないか!と異議申し立てる人がいるかもしれませんがイヌなのです。

この頭骨を採集したのは私自身なのですが、発見時に全身は既にほぼ骨と体毛になっており何の動物かわかりにくい状態でした。ただし、発見場所(東京都葛飾区)と体の大きさ(小型犬サイズ)と足指の形からイヌかタヌキであると推測できました。

頭骨を持ち帰ってクリーニングした結果、その形状からタヌキでないと判断でき、イヌであると確定しました。おそらくポメラニアンかチワワではないかと思われます。

歯の数が違っている理由、それは「品種改良の結果」なのです。
イヌの品種の中には吻が短いものがあります。これはそのような外見の個体を人間が繁殖させ選別して作り出した結果なのです。
吻が短いということは歯が収まるスペースも短く狭くなるということです。その結果、歯の数が少なくなってしまったのです。

品種改良によってイヌにはさまざまな外見の品種が生み出されてきました。ですがこのように歯の数まで変化するような改変がイヌにとって良いことだったのだろうかと思わずにはいられません。

※哺乳類の頭骨の画像資料として下記のページを紹介しておきます。161種が公開されています。

哺乳類頭蓋の画像データベース(第2版)・獨協医科大学

食肉目のリスト

タヌキ

イヌ(品種不明)

ネコ

ハクビシン

アライグマ

アナグマ

アカギツネ

タヌキのサイズは小型犬

先ほどの話の中で、「小型犬サイズ=タヌキ」という説明をしました。「タヌキはそんなに小さいのか?」と疑う方もいるでしょう。

実際にタヌキを近くで見ると、意外と小さいな、と感じる人はきっといるはずです。おそらくもうちょっと大きな体を想像していたのかもしれませんが、タヌキは小型犬サイズなのです。

タヌキの体の大きさを説明するのにいちばんわかりやすい比較対象はネコ(イエネコ)です。イヌならばビーグルが近いサイズです。具体的な数字で説明しますと肩高(体高)は次の通りです。

タヌキ  27〜37.5cm (世界の動物・分類と飼育2食肉目)
ネコ   30cm (日本大百科全書(ニッポニカ))
ビーグル 33〜40cm (ジャパンケネルクラブによる理想体高)

※括弧内は出典。

肩高とは「肩甲骨最高点の高さ」のことです。イヌなどは胴体部分では肩の部分が一番高くなりますが、その高さのことです。ただし、タヌキとアライグマは腰の位置の方がやや高くなります。
頭の高さは関係ありません。頭は上げたり下げたりするので計測には向かないのです。

体長(頭胴長)で比べてもいいのですが、胴長短足な動物もいますし、尾の長さによっても印象は左右されます。肩高は直感的にわかりやすい数値だと思います。

タヌキ、ネコ、ビーグルは偶然にも「やや胴長短足」という体型が共通しており、比較にはちょうどいいと言えます。

上の数字からわかるように、タヌキはネコとほぼ同じ大きさ、ビーグルよりはちょっと小さい、というサイズです。

もっとも、ビーグルとタヌキで似ているのは大きさと体型ぐらいで他はあまり共通点はありません。ビーグルは垂れ耳で短毛ですが、タヌキは正反対です。

ですが、タヌキの体の大きさを頭に入れておくためにはビーグルはちょうどいいモデルになると言えます(まあ、ネコでもいいんですが)。私はビーグルに出会った時は頭の中で「タヌキサイズ、タヌキサイズ」と確認するようにしています。

大きさを比べると

ここで他の動物の大きさも比べてみましょう。

 
頭胴長
尾長
肩高
体重
タヌキ
50〜80
12.5〜25
27〜37.5
3.6〜6 (秋は6〜10)
ハクビシン
51〜76
40〜60
3.6〜6
アライグマ
41.5〜60
20〜40.5
22.8〜30.4
6〜7
ニホンアナグマ
44〜61
11.6〜14.1
12〜13
アカギツネ(日本産)
54〜79.5
32〜48
3.3〜6.8
ネコ
47〜51
23〜28
4〜8

長さの単位はcm、体重はkg
出典:世界の動物・分類と飼育2食肉目

これらの動物はだいたい同じ大きさであることがわかります。しかも外見がなんとなく似ているわけですから、判別できない人が多くても仕方ないことです。

肩高のデータが一部抜けていますが、ハクビシンは明らかに肩高が低い胴長短足体型です。
また、ハクビシンはこれらの中では尾が特に長いため、わかりやすい体型です。
日本国内の同程度のサイズの動物で「胴長短足」「尾がとても長い」という形態はハクビシンだけです。このことを頭に入れておけばハクビシンは確実に判別できます。顔の模様を見る必要もないのです。
ハクビシンは尾を含めると1mサイズにもなるため、「大きい」という印象を持たれる場合があります。

タヌキとネコは「指で体を支える」という脚の構造をしていますので、四肢ですっくと立った姿をしています。タヌキ(冬毛)は一見すると「太ったネコ」か「太ったイヌ」のように見えるはずです。夏毛の時は短毛になるため模様がなければイヌにしか見えないでしょう。

それに比べるとアライグマとアナグマは異質な感じに見えるでしょう。イヌでもネコでもないということがわかれば判別の手がかりになります。 アライグマは肩高が低く、つまり前につんのめったような感じになり、腰が高いのが特徴です。タヌキもやや腰が高い体型ですが、明らかにイヌに近いとわかるはずです。

アナグマも短足体型ですが、ハクビシンより太っていて、全体に平べったい感じです。上記の数値からはわかりませんが、「横幅がある」(=太っている)という外見でもあります。

ここまで、タヌキなどの模様については取り上げませんでした。これらを区別する時に真っ先に紹介されるのは顔の模様でしょうが、遭遇した時にそれをいつも確認できるとは限りません。タヌキなどは夜行性ですし、普通は近くでじっくり観察できるものでもありません。そのため、模様よりも体型の特徴を覚えておく方が実用的なのです。

103号(2017年7月)

「長い」「大きい」の基準は?

東京タヌキ探検隊!に送られてくる目撃情報の中には「体が大きかった」「尾が長かった」という記述もよくあります。ですが、こういった記述は私は基本的には無視しています。なぜかというと、「大きい」「長い」というのは基準があいまいな主観的なものだからです。

「大きい」と言う場合、何と比べて大きいのでしょうか。飼っているイヌと比べて? ネコと比べて? それともネズミと比べて? 比較対象または具体的な数字がなければ意味がない表現です。
例えばタヌキの尾を「長い」と表現する人もいます。まあ、ツキノワグマに比べれば長いと言えますが、ハクビシンと比べると短いです。
「80cmぐらいの大きさでした」と言う場合、それは頭胴長のことでしょうか? 全長(尾も含めた長さ)のことでしょうか? どちらなのかを書いていただけないと正しい判断はできません。それに、目測は当てにならないものです。

東京タヌキ探検隊!にとって、こういった大きさ・長さについての情報は実際に測定したもの以外は参考程度にしかなりません。

顔の模様

もしじっくりと観察できるのならば、そして写真や動画を撮ることができるならば、顔の模様は判別には一番重要なポイントです。

まずはタヌキとアライグマで比べてみましょう。
どちらも目のまわりが黒くなっています。タヌキはその黒模様は左右がつながっていません。アライグマはつながっています。これはわかりやすい判別方法なので覚えておくべきことです。
タヌキの目のまわりの黒模様は大小の個体差がありますが、左右つながることはありません。吻の上部が黒くなって左右つながっているように見えることもあるのですが、左右の目と目の間の最短区間では必ず黒模様は途切れているはずです。 ただし…これは標準的な模様で、まれに左右の黒模様がつながっている個体もいるようです。

アライグマでもまれに左右の黒模様がつながっていない個体がいるようですが、その場合でも顔の中央に黒または灰色の縦模様があるためタヌキとははっきり区別できます。

もうひとつ、タヌキは耳の縁が黒いのですが、アライグマは白色です。

ハクビシンの顔の模様の特徴は、何と言っても真ん中にある白い模様です。
また、目のまわりなどに白い模様があります。鼻がピンク色であるのも特徴です(まれに黒っぽい場合もあります)。
顔全体では黒い印象で、その上に白い模様が乗っかっているという風に見えるでしょう。
白い模様は個体により位置や大きさに違いがありますが、これが個体識別に利用できるかどうかは不明です(見る角度やまわりの明るさによって見え方が違ってくる可能性があるからです)。

東京タヌキ探検隊!への目撃情報の中にはまれに、顔の真ん中の白い線がなかったという例や、その線が薄かった(濃い色をしていた)、白線が2本あったという例が報告されています。白い模様が確認できない場合は体型など他の情報も合わせて判別しなければなりません。

ニホンアナグマも目のまわりが黒い動物ですが、タヌキに比べると黒い面積は小さく、目のまわりだけが黒い場合が多いです。ただし個体差はあるようで、黒い模様の大きさ、濃さは一定ではありません。
黒い模様は縦方向に延びているのがアナグマらしい特徴です。

ネットの画像検索で「アナグマ」を調べると、顔の模様の印象が違う写真が少しまじっています。目のまわりの黒模様がくっきりと濃く、耳のところまでつながっているのはヨーロッパ産のアナグマです(体全体はグレー)。「Meles meles」(学名)で画像検索するとヨーロッパ産のアナグマの画像が主に表示されます。
日本産アナグマの画像を検索するならば「ニホンアナグマ」とした方が確実により正確な結果が得られます。

キツネについては特に説明する必要はないでしょう。 いわゆるキツネ色(赤みのある黄色)で、顔の下部は白色です。

耳の形

タヌキを描いたイラストやマンガでは耳が丸くなっていることがほとんどです。が、これは間違いです。タヌキの耳は丸みがある三角形です。
イラストなどではタヌキの耳を小さく描く傾向がありますがこれも間違いで、イヌやネコと変わらないぐらいの大きさがあります。冬毛の時は体毛が長くなるため顔全体が大きく見え、耳が相対的に小さく見えます。夏毛で体毛が短い時は逆に耳がかなり大きく見えます。

イラストなどでタヌキが丸耳になっているのは、はっきり言うとイラストレーターやデザイナーたちの勉強不足です。ちゃんと資料を見たり、実物を見ればこんな誤りは起こらないはずです。今ではネットで画像検索をすればすぐに確認できます。それでも間違った絵ばかり生産されるのですからひどいものです。
耳を丸くすれば可愛さを強調できますし、三角耳だとネコやイヌみたいになってしまうので無意識にそれを避けたのかもしれませんが、誤りであることは言い逃れできません。

ここで取り上げている5種の中ではアナグマの耳がいちばん小さく見えます。体毛に半ば埋もれてしまっているように見えることもあります。
ハクビシンの耳もタヌキ、アライグマに比べるとやや小さめです。

<スポンサー欄>