東京タヌキ探検隊タイトル

東京タヌキタイムズ

116号(2018年8月) シチズンサイエンス編

東京タヌキ探検隊!そして東京コウモリ探検隊!は「シチズンサイエンス」の実践例です。ここではシチズンサイエンスを自身で運営している立場として解説していくことにします。

さて、シチズンサイエンスを論ずるなら、いろいろな論文や記事を読んで、比較検討して…となるところですが…。
その論文などを読んでいて思ったのは、「なんだかつまらないな…」ということでした。論文の筆者自身がシチズンサイエンスの当事者でなかったり、観念的なことを述べていたりで読んでも面白くないのです。
これは当事者自身が語った方がずっと面白いし、ためになるはずです。

また、シチズンサイエンスにはいろいろなプロジェクトがありますが、それらをいちいち調べて評価するような時間は私にはありません。これは他の人に任せたいと思います。
ここでは東京タヌキ探検隊!と東京コウモリ探検隊!を中心に進めていきます。

※ここでは「シチズンサイエンス」とはインターネット上でほぼ完結するシステムのものだけを取り上げます。「アナログな」シチズンサイエンスは昔から存在していましたので。

シチズンサイエンスとは

シチズンサイエンスとは「何らかの形でアマチュア(専門家ではない一般人)が参加している科学研究・調査」と定義できます。
アマチュアの参加数が多ければ多いほど「シチズン」らしいと言えますが、アマチュアがたったひとりで黙々と研究にはげむのも立派なシチズンサイエンスです。(なのでプロの参加は必須ではないと言えます。)
ですが、まあ、ここでは「多数の参加者で成り立つプロジェクト」のこととしてシチズンサイエンスについて述べていきます。

シチズンサイエンスのプロジェクトは「主催者」と「参加者」で構成されます。
調査研究の方法を考え、結果をまとめる「主催者」はプロが担う例が多いです。
アマチュアは「参加者」の立場であることがほとんどでしょう。アマチュアは少ない負担で気軽に参加できるようにプロジェクトが設計されていることが多いです。

アマチュアがシチズンサイエンスの「主催者」になる例はかなり少ないはずです。東京タヌキ探検隊!と東京コウモリ探検隊!はアマチュアである私が主催者(肩書は「隊長」)となっていますが、これはかなり珍しい事例ではないかと思います。

「科学」=「専門家だけのもの」、という認識は世間的にはかなり強いのですが、一部の分野、例えば動物学、植物学、天文学などでは昔からアマチュアが活躍してきました。
これらの分野では高級・高額な天体望遠鏡やカメラなどを使う人もいますが、そのような特別な道具なしでも研究・調査ができる場合も少なくありません。ですのでアマチュアでもサイエンスに参画することは不可能ではないのです。
また、動物学、植物学は対象となる生物種の数が膨大なものになるため、そして、生息地域が広大であることも普通であるため、プロ研究者だけががんばっても手が届く範囲はとても狭いものです。アマチュアが参加しても未知の領域は全然狭くなりませんが、それはつまりアマチュアも活躍できる余地が多くあるということです。

プロとアマチュア

ここで言うプロ、アマチュアとは科学研究・調査を職業としているかどうか(それが主要な収入源か)で区別されます。 ですのでプロとは大学や研究機関等に所属している研究者、と言っていいでしょう。

NPOに所属している人はどうでしょうか? もし給料をもらっている研究・調査専従者ならアマチュアではなくプロです。

ちなみに私はプロではありません。過去にプロだったこともありませんので「完全なアマチュア」と言えるでしょう。
大学では経済学部でしたので動物学どころか理系の専門教育も受けていません。教養課程ではもちろん理系分野の講義もとりましたが、主に情報処理(コンピューター)関係を熱心にやっていて、他は何をとっていたのか記憶にありません。そもそもその当時は動物学にはまったく興味はありませんでした。
理系の世界を知らないものですから、論文の書き方も知りませんし、学会ともまったく縁がありませんし、博士号だのといった肩書きもありません。(こういったこともあるせいか、プロ研究者からはほとんど相手にされません。)
こういう経歴ですから私を専門家と呼ぶのはおかしなことかもしれません。
ですが、科学は専門家だけのものではありません。資格などは必要ありません。アマチュアが科学に主体的にかかわっても良いのです。

117号(2018年9月)

シチズンサイエンスの歴史を少し

シチズンサイエンスという言葉が登場したのは20世紀後半ですが、広く使われるようになったのは21世紀に入ってからです。そのきっかけのひとつは「オープンサイエンス革命」(マイケル・ニールセン著、2012年(原著)、2013年(日本語版))でした。この本の中でオープンサイエンスの例としてシチズンサイエンス(日本語版では「市民科学」と翻訳)が取り上げられています。本当につい最近のことです。

この時代にシチズンサイエンスが発展したのはパーソナルコンピュータとインターネットが普及したことが大きな要因であることは間違いありません。
もちろん、市民による科学研究・調査はそれ以前からも行われていました。日本では日本野鳥の会の活動が代表例と言えるでしょう。また、数多くの彗星や小惑星、超新星・新星などを発見してきたアマチュア天文家も好例です。

ただしここでは狭義のシチズンサイエンス=パーソナルコンピュータ/インターネットが普及して以降のものを取り上げることにします。(パーソナルコンピュータ/インターネットを前提としたシステムのもの、と言ってもいいでしょう。)
パーソナルコンピュータ/インターネット以前・以後では活動の効率がまったく異なっており、「以後」では量・質ともかなり拡大できるようになりました。以前・以後で区別するのは妥当なことです。

東京タヌキ探検隊!の活動をパーソナルコンピュータ/インターネット無しで行うことを想像してみてください。昔ならとてつもない労力が必要だったでしょう。
例えばパーソナルコンピュータ/インターネット以後では次のようなことが可能になりました。

・ホームページを使った告知。
広報会社、メディア等を使わず、自力でのワールドワイドな広報展開が可能になりました。効率的かどうかは別問題ですが…。
(ホームページの登場は「個人がメディアになる」ことを意味していましたが、1990年代にそのことに気づいていた人はどれだけいたでしょうか。)

・メールによる簡易な連絡。
さらに昔は携帯電話すらなかったですしね!
同時に、メールは情報収集の手段としても簡便・確実な道具です。文字情報を残すことができるのもとても重要なことです。

・デジタルカメラ、スマートフォンの普及。
映像証拠が残しやすくなりました。画質も十分です。映像は証拠としての価値が高いです。
スマートフォンは必ず持ち歩くものですから、偶然タヌキに出くわしても撮影できる可能性がかなり高くなりました。

・データベース・アプリケーションによる多数の情報の管理とデータ処理。
昔なら紙のカードに情報を書き込んで箱に入れて整理していたことでしょう。合理的なその方法でも数千件レベルになると統計をとることにも膨大な労力がかかります。データベースを使えば瞬時に答えが出てきます。

・表計算アプリケーション、グラフィックアプリケーションなどと組み合わせることによるビジュアル表現の簡易化
このおかげできれいでわかりやすい報告書が作れるようになりました。昔はグラフも表も手書きでしたからね…。

・ネット地図を利用することによるデータ管理
ネット地図とはGoogle Map、Google Earthに代表されるサービスです。ネット地図の登場は非常にインパクトが大きく、東京タヌキ探検隊!にとっても東京コウモリ探検隊!にとっても必須のものとなっています。
単なる地図情報だけではなく、航空写真、ストリートビューもあることでさらに強力なものになっています。コウモリ探索に行く前に現地の様子を知ることができます。タヌキの目撃情報があればその現場の風景を見ることができます。
東京タヌキ探検隊!も東京コウモリ探検隊!も目撃情報はデータベース・アプリケーションで管理していますが、同時に位置情報(緯度経度)にも変換してGoogle Earthで表示させています。
位置情報は数値で表せますので、分布地図も半自動で作成しています。昔は地図にプロットするだけでも大変な作業でしたが、今では簡単に、ずっときれいに図を完成することができます。
(ネット地図についてはまた別のところで取り上げたいところです。)

もうひとつ、
「ワープロ・アプリケーションと家庭用プリンタの普及によるきれいな文書の印刷」
ということもありますが、今では印刷すること自体が衰退してしまいました…。時代の変化は速いものです。

こういった「革命的」とも言える恩恵のおかげでアマチュア(というより人類)の活動範囲は大幅に広げることができるようになりました。20世紀に同じことを実行しようとしてもかなり難しかったでしょう。
パーソナルコンピュータ/インターネットの恩恵がいかに大きなものであるか、私たちは再認識すべきです。

東京タヌキ探検隊!のもともとの試みは1999年に始まっています(当時のホームページはそのまま残っています)。まさに時代の転換点だった時期です。そして、シチズンサイエンスとしても世界的に最初期の試みのひとつなのです。

当然のことながら、当時は現在で言うところの「シチズンサイエンス」という言葉も概念も存在しませんでした。
私の発想も「ネットを使った世論調査・アンケート」の延長でしかありませんでした。それは当時既に存在していたもので、私に新規性はなかったと言えます。ですが今から振り返ってみると、これはシチズンサイエンスの最先端だったとわかるのです。

東京タヌキ探検隊!は「参加型サイエンス」であると私自身で紹介することがありますが、この言葉を使うようになったのはニコニコ学会βを知ったころですから、2013年ごろのことです。「参加型サイエンス」とはシチズンサイエンスの別表現です。
ニコニコ学会βでは「ユーザー参加型研究」という言葉を使っていて、そこから「参加型サイエンス」という表現を思いついたのです。

東京タヌキ探検隊!以外のシチズンサイエンスの動きはどのようなものだったのでしょうか。文献などでよく紹介されるシチズンサイエンスの開始年を調べてみました。

1999年「東京タヌキ探検隊!」
1999年「SETI@home」(カリフォルニア大学バークレー校)※「分散コンピューティング=参加者のパソコンに計算してもらう」というものであるためシチズンサイエンスと呼ぶにふさわしいかは議論がある。
2002年「eBird」(コーネル大学鳥類学研究所)
2007年「Galaxy Zoo」
2008年「いきものみっけ」(環境省生物多様性センター)
2013年「花まるマルハナバチ国勢調査」(東北大学、山形大学)
2013年「東京コウモリ探検隊!」
2015年「ナメクジ捜査網」(京都大学・宇高寛子)

この他にも早期からさまざまなプロジェクトが存在していたはずですが、東京タヌキ探検隊!は本当に最も早い時期のものだったことがわかります。そして、それが現在も継続しているというのも貴重な実例かもしれません。

ですが東京タヌキ探検隊!は注目度が非常に低いんですよね…。その理由のひとつは、成果が出るようになったのが2008年頃からだったということがあります。
なぜそれまでは成果が出なかったのかというと、日本ではパソコン/インターネットがまだ十分に普及していなかったからなのです。2007年前後にようやく広く普及している状態になり、「ネットで検索」という行動様式も広がり、「ネットで目撃情報を募る」というシステムもうまく稼働するようになったのです。
注目されにくいもうひとつの理由は、大学や役所といった「権威」と関係ないからです。マスコミをはじめ多くの人はそういった「権威」が付いていた方がありがたがるのではないかと私はひねくれてます。
まあ、それでも年に1度ぐらいはどこかのメディアで紹介されてはいます。

最近になって日本でもシチズンサイエンスの取り組みは増えてきたようですが、残念なことにまだまだ積極的とは言えないのが現状です。主催者側にもどういったことを参加者に任せればよいのか、どうやって参加者を募ればよいか、などなど戸惑うことが多いせいもあるでしょう。

アマチュアが主催者になるのはプロよりもずっと難しいことです。計画の立案や運営の方法など、ハードルが高いのは事実です。ですがそれは決して不可能ではないという実例を東京タヌキ探検隊!は示していかなければならないと考えています。

今はさまざまなジャンルと方法でシチズンサイエンスを試行錯誤する時代なのでしょう。これからの10年20年でシチズンサイエンスが当たり前の存在になっていくことを目指していきたいです。

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