東京タヌキ探検隊タイトル

東京タヌキタイムズ

135号(2020年3月) 目撃情報はおおむね正しい

東京タヌキ探検隊!は多くの方々からの目撃情報を集め、分析しています。この時、問題になるのは「その目撃情報は信頼できるのか?」ということです。まったくのでたらめ情報もあるかもしれません。記憶違いで目撃の日時や場所がちょっと違っていたりすることもあります。
日時や場所の情報があまりにも不明瞭な場合はデータベースには記録しません。ここでふるい落とされる目撃情報は時々あります。
動物の種類がはっきりしない場合は「種不明」でデータベースに記録することもあります。

写真や動画が添付されていれば、撮影場所を検証することができます。Googleマップとその機能のひとつであるストリートビューがあれば、多くの場合で場所を特定することができるのです。また、写っている動物の種類も確実に同定できます。写真や動画は-かなり確実な証拠となります。

東京タヌキ探検隊!では、基本的には目撃情報はその通りデータベースに記録しています。私の解釈はなるべくせず、必要な場合は別項目として記録しています。
目撃情報が本当に正しいのかどうか、私にはにはわかりません。ですが、これまでの経験から「目撃情報はおおむね正しい」と考えています。

特に印象深かった事例を紹介してみましょう。

2013年6月、渋谷(住所では円山町)でアナグマを目撃した、というメールが来ました(DBN2602)。
渋谷で?アナグマ?
渋谷にはタヌキは生息していませんし、ハクビシンが多いわけでもありません。そこにアナグマなんてさすがに疑ってしまう目撃情報です。23区にアナグマが生息しているという確実な情報は既にありましたが、それはまったく別の場所。
さすがに渋谷でアナグマはないだろうと思い目撃情報提供者にタヌキなど他の動物ではないかと再確認をお願いしましたが、その動物の外見の特徴をよく覚えており、確かにアナグマとしか考えられないのでした。
驚きではありますが、これほどしっかりした目撃情報は記録しないわけにはいきません。私はこの目撃情報を「アナグマ」として記録しました。

それから1年。
別の方から再び渋谷のアナグマの目撃情報が来ました(2014年7月、DBN3156)。しかも今度は写真付きです。写真の動物は確かにアナグマでした。以前の目撃情報は間違っていなかったのです。
その後さらにもう1件、目撃情報はありました(2014年11月、DBN3359)。これらはすべて同一個体と考えられます。渋谷で1年以上生存していたというのは驚きです。

この件が初めてのことではありませんが、あらためて私は「目撃情報はおおむね正しい」ということを実感し、肝に銘じることにしたのです。
「おおむね」としているのは、細かな誤りや勘違いが時々あるからです。ですので、クリティカルに(批判的に)目撃情報を読むことは必要で、無批判無検討で受け入れているのではありません。ただし、多くの目撃情報を読んできた経験から言うと、「おおむね正しい」と信じていいと思うのです。

目撃情報の収集を通じて、「話はそのまま聞き取る」という習慣はこの10年ほどですっかり私の身についてしまいました。目撃情報の返信に自分の解釈を書くこともありますが、基本は「聞くこと」です。
ですが、この習慣は仕事では役に立たないようです。というのは、仕事の現場ではずばっと指示を出すことが求められるからです。みんなの話を聞いて、意見を調整して…というのでは時間がかかり過ぎでなかなか結論がでません。これではうまく行きませんよね。おかげで会社内での私の評価は低いままです(苦笑)。

話は変わりますが、誰かが話すことをそのまま記録する、というのは民族学では普通の研究方法です。
その例として、松谷みよ子の業績をここで紹介したいと思います。
松谷みよ子と言えば児童文学者として有名です。ですが、私は民話収集の業績を評価したいと思います。
「現代民話考」は明治以降の各種の話を聞き取り、テーマ別に整理した全12巻の大作です。その内容は民話、怪談に限らず、こっけい話、噂話、小話、実話など多様なものです。
松谷みよ子自身の解釈はほとんど加えず、ひたすら聞き取り記録していったものです。(面白いことに時々松谷自身も経験談などを語っています。)

「現代民話考」は最初は単行本(立風書房)で、その後文庫本(ちくま文庫)で出版されました。現在ではいずれも入手が難しいです。
私はタヌキ関係の民話を調べるために何冊かを購入したのですが、とても面白かったので文庫版を時間をかけて全部買いそろえました。Amazonで時々検索していれば安い古本を見つけることは可能です。まあ、ほとんどはまだ読破していないのですが…。動物関係の巻だけでもいつかは読み通したいですね。

民話と(科学的な)タヌキ研究とではあまりにもジャンルが違いすぎるように思えますが、「ひたすら話を聞く」という点では東京タヌキ探検隊!の研究に似ているかもしれないと思うのでした。

※補足
非科学的な民話や昔話が科学的な研究に役に立つのかと思われる方もいるでしょう。私の場合、民話を科学的に説明できないかという視点で読んでいます。
例えば、「偽汽車」は科学的に説明でき、その正体がタヌキであることも間違いありません。
一方、「タヌキ・キツネに化かされた」という話は動物学的な説明は出来ません。
すべてを科学的に説明できるわけではありませんが、こういう視点から民話を読んでみるのも面白いものです。

136号(2020年4月) タヌキの感情はわからない

タヌキを見ていても感情は読み取れません。何を考えているかわかりません。これは間近でタヌキを観察した経験から得た教訓です。
そもそもタヌキは人間のような表情や感情表現をすることはありませんから理解できないのは当然です。
そしてこれはタヌキに限らず野生動物全般に言えることです。クマやスズメの考えていることなんてわかりません。

それに比べるとイヌ、ネコはとても特別な動物と言えます(ウマも加えてもいいかもしれない)。
イヌ、ネコを飼った経験がある方ならおわかりになるでしょうが、
「私の言う通りにした!」
「私と遊びたがっている!」
「今、俺の言ったことを無視しただろ?!」
ということは普通にあることです。
よくよく考えるとこれは野生動物ではありえないことです。
イヌやネコは長年人間とともに生活し、人間社会の一部とも言えるほどだからこそこのようなコミュニケーションが可能になったのです。イヌ、ネコは本当に特別です。

野生動物でも、限られた場面では感情がわかることもあります。
昔、タヌキ家族の観察をしていたときのことです。
そこは地域ネコのエサやり場になっていたのですが、ネコエサを食べにタヌキ家族がやって来ていたのでした。そんな家族を少し離れて観察していると、お母さんが私の方に接近してくるではありませんか。慎重な性格のタヌキが近づいてくるなんて珍しいことです。そして私の方をじっと見つめるのです。何を訴えかけているのか、何を考えているのか、わかるはずもありません。
「こ、これはいったいどういうことだ…?!」
しかし、少し考えればわかることでした。
お母さんはつまり
「メシくれ」
と要求しているのでした。
私はその場所の地域ネコの世話をしていたのではありませんが、定期的にお邪魔していたので少しばかりネコエサをネコたちのために持参していました。その一部はタヌキに横取りされてしまうのですが…。そのためタヌキには「メシを持ってきてくれる人間」と認識されてしまっていたらしいのです。

表情ではありませんが、東京タヌキ探検隊!に来る目撃情報の中には「タヌキが人間慣れしている」という報告がよくあります。
どういう行動や様子が「人間慣れ」に見えるのかはわからないのですが、タヌキは人を見てもすぐには逃げませんし、じっと人間を見つめることが多いようです。おどおどするような様子を見せることもあります。
これは「慣れ」というより、人間が何をするかを観察しているようです。
タヌキから人間を見るというのは、人間にとってゾウを見るようなものだと言えます。ゾウがすぐ近くにいればびっくりしない人はいないでしょう。ゾウがすぐに襲ってこないようなら、こちらもじっと様子を観察して…となるでしょう。ゾウがこちらに興味がないようならさっさと逃げるにこしたことはありません。
タヌキの場合もこれと同じ。人間の動きを観察して、隙あらば逃げる。そういうことです。スマホで写真を撮ろうと目を離したら逃げられた、というのもよくある話です(撮るならタヌキから目を離さずにスマホを操作しなければなりません)。
もし止まっていたゾウが動き出せば、人間もびくっとするでしょう。タヌキも人間が動き出せばびくっとします(おどおどするように見える)。

タヌキは、人間はいきなり襲ってくるような相手ではないということを理解しているようにも見えます。人間を見たからといってすぐに逃げ出すことは少ないようです。
夜の住宅地の道路で、普通に人間とタヌキがすれ違うこともあります。人間の方が無関心だったりすることも多いですしね。びっくりした人間があわてて追跡する、ということもありますが、その時はどこか民家敷地に入ってしまえば追いかけられることもありません。

人間と直接対峙する場面でなくてもタヌキは人間をよく観察しているようです。
飼っているイヌが亡くなったら庭にタヌキが来るようになった、という話があります。このイヌというのは室内飼いです。イヌを観察しているというより人間の生活を観察していると言えます。
旅行や入院でしばらく家が無人になっていたらタヌキが庭にすみついた、という話もあります(家屋内に侵入することはまずありません。床下に潜り込むことはあります)。
タヌキはどこかから人間たちを観察しているのです。あなたも観察されているかもしれません。

137号(2020年5月) コロナウイルスパンデミック下のアマチュア研究

2020年5月31日(日)掲載

新型コロナウイルスのパンデミック下、今、世界中の人が正念場です。
アマチュア研究者、在野研究者にとっても正念場です。
食っていくことができるのか、という「生計維持」、研究を継続できるのか、という「研究維持」が問われています。

幸い、私は今のところ影響軽微ですが、これは偶然に過ぎません。今回は私の現時点での状況を書くことにします。
(この文章を書きはじめたのは4月でしたが、もう緊急事態宣言も解除されてしまいました。それでも世界の経済活動は完全に元には戻っていません。)

まず「生計維持」。
今まであまりはっきりとは書いてきませんでしたが、私の仕事は「ビル管理」「ビルメンテナンス」といわれる業界です。これに含まれる仕事はさまざまですが、私が見ているのは清掃、害虫害獣防除、各種設備の点検、といったところです。私自身は現場仕事ではなく、現場の管理、立ち会いなどとなります。必要があれば現場に行かなければなりません。また、業界内では共通の問題として、特に清掃部門での「人手不足」が続いており、その穴埋めのため私自身が朝5時台の電車に乗って清掃作業に行かなければならないこともあります。

ビル管理はパンデミックで外出が禁止されようとも必要な仕事です。設備の点検は常に必要ですし、飲食店が休みでもゴキブリやネズミを放置するわけには生きません。清掃なんてしなくてもいいんじゃない?と思われそうですが、ある程度の利用者があるならば清掃は必要なものなのです。まあ、ビルの使用率が極端に減れば、清掃の仕事も減らされる場合はあります。それでも今のところは大きな仕事減少までには至っていません。もちろん、仕事がほぼなくなった現場というものもあります。そして今後どうなるかは不透明なところもあります。

このようにビル管理業は準インフラ産業とも言える存在で、この状況でも仕事があるというありがたいものです。ただ、現場へ通勤しなければならない、現場で感染するかもしれないというリスクはあります。
(5月最終週から現場作業がフルに入ることになりました。容赦ない仕事です。)

私がこの業界に入ったのは偶然で、特に希望があったとか、何かしたかったとかの理由はありませんでした。ですから思い入れなどというのも正直ありません。今は正社員ですが年収は300万円以下(名目額)。平均どころか中央値よりもずっと下なのです。これでモチベーション維持といっても難しいですよね。社内では現場要員として数えられていますが、出世の見込みはゼロです。まあ、格上げしようと言われても絶対に断りますが(給料と仕事量のバランスが明らかにおかしくなるので)。

ですがこの状況。
仕事があるだけましと言えます。当面は生計は大丈夫…でしょう。

次に「研究維持」。

研究もタダではできません。
ですが東京タヌキ探検隊!はもともと低コストでの運用をしていました。もちろんこれもたまたまです。 最初はホームページで目撃情報の提供を呼びかけました(1999年)。当時のホームページなんて原始的なものです。それからの約10年は目撃情報がほとんど来ませんでした。そのため呼びかけのページも放置状態でした。つまりお金などのリソースはほとんどかけていません。ただ、これでは集客に結びつかないこともわかっていましたので、少しずつホームページを拡充していきました。現在のホームページは2008年ごろの構造がまだ残っています。ですので、スマホには対応していないんですよね…。
低コストであるのは、研究時間・予算がかぎられている立場では当然の成り行きと言えます。結果的に、景気が悪くても継続可能となっています。
ただ、世の中には低コストにできない高コストな研究も多くあります。何でもかんでも低コストにしてはいけません。

もちろん、東京タヌキ探検隊!もコストがかけられれば研究のスピードは上がりますし、研究の幅を広げることができます。ですがパンデミックでなくても予算獲得は難しいです。

そして現在。
今はさすがに目撃情報が少なめになっているようです。というのは、東京タヌキ探検隊!の調査方法は「人間がタヌキなどを目撃する」ことが前提のため、外出自粛要請のために外出が減ると、タヌキなどに遭遇する機会も減ってしまうためです。
逆に、在宅勤務していたから発見した、という例もあったりしますからマイナスばかりでもないようです。
東京コウモリ探検隊!の探索活動は外出しなければできません。ですがそれは一人で河川敷や住宅地を踏破するだけのことです。屋外で、夕方以降なので、すれ違う人もほとんどいないでしょうから、衛生的には安全と言えます。危ないとすれば移動の電車、バスに乗ることぐらいです。ですので私は緊急事態宣言下でもコウモリ探索に行くつもりでしたが、いろいろと都合が合わず、今年はまだ行けていません。

…と、宮本隊長の事情説明を書いてみましたが、あまり参考にならないのが残念なところです。というのは、アマチュア研究者・在野研究者というのは収入確保の方法も研究手法もばらばらすぎて、個々の奮闘の様子が即誰かの役に立つ、とはならないからです。
ですがこうやって書き残しておけば、いつか(遠い先のことかもしれませんが)、誰かの役に立つこともあるだろう、と期待するのです。記録を残すのは大事なことです。

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