東京タヌキタイムズ
138号(2020年6月) 東京都23区のタヌキの生息分布 河川敷の個体群
生息分布地図
Googleマップが開きます。
注意点(再掲)
・「サブグループ」は継続的にタヌキが定住している地域を表す。
・「グループ」はサブグループを地理的にまとめたものである。血縁関係・家族関係があるという意味ではない。
・グループ、サブグループの名称は原則として地名を採用している。
・サブグループに含まれる生息数は決まっていない。ただし継続的に定住しているということは1つがい以上が生息していることを意味する。
・サブグループの領域外にはタヌキがまったく生息していないという意味ではない。サブグループの領域(境界線)は便宜的なものでしかなく、その外側にも当然タヌキは生息している可能性はある。サブグループの領域外にタヌキを見つけても自慢にはならない。
・サブグループの領域内ではタヌキが均一に分布しているわけではない。
・意図的に地図に載せていない個体群もある。存在が知られることで生息に影響があるのではないかと心配されるからである。逆にあえて公表することで注意を促している場合もある。
・この情報を元にタヌキを探しても発見できる確率はきわめて低いはずである。タヌキの生息密度は非常に低いためである。マスコミの皆さん、探しても時間のムダです。あきらめましょう。
河川敷の個体群 概要
タヌキは大河川の河川敷にも生息している。
河川敷は植物が繁茂していれば身を隠すことができ、ねぐらにも巣にもなりうる。夜間はほぼ無人であるのも都合が良い。
これはまたタヌキが人間に目撃される機会がほとんどないということでもある。実際に河川敷での目撃情報は少なく、生息の実態はわかりにくい。河川敷近くでの目撃情報があることから河川敷にも生息していることが推測できるのである。
野球やサッカーなどのグラウンドとして使用されている場所は植物が繁茂せず、隠れることができないため生息はできない。そのため河川敷に連続して分布しているのではなく、離散して分布することになる。
ゴルフ場は人間が密集することはないため生息可能である。
河川敷近くの緑地に生息する例も以下では含めている。
荒川右岸グループ
上流から河口部まで生息している。
河口部では河川敷から離れた所にも広く生息している。
荒川右岸Aサブグループ
上流から岩淵水門までの範囲。
浮間公園一帯も含む
赤羽ゴルフ倶楽部にも生息している。
新田宮城小台サブグループ
岩淵水門から西新井橋までの範囲。
荒川(荒川放水路)と隅田川にはさまれた地域全体を範囲としているのは、河川敷以外の住宅地でも目撃があるからである。
荒川右岸Bサブグループ
西新井橋から清砂大橋までの長大な範囲。長大だが目撃情報が少ない地域である。
墨田区でタヌキが生息するのはこの範囲の荒川河川敷だけである。墨田区の荒川河川敷にタヌキが生息することは以前から推測できていたが、目撃情報は墨田区全体でも長らくまったくなかった(23区で唯一タヌキの目撃情報がない区だった)。
2019年に墨田区での初めての目撃情報があり、執筆時点現在まで5件の目撃情報があるが、荒川河川敷での目撃例は1件だけである。それでも河川敷以外での生息は難しいと考えられ、荒川河川敷が本来の生息場所と言える。
(2019年10月の台風19号では荒川河川敷が水没した。そのため河川敷を離れたタヌキがいたと推測される。台風19号以降では3件が河川敷以外での目撃である。)
小名木川沿いで目撃される例がある。小名木川にそって西進することがあるようだ。
南砂では住宅地で時々タヌキが目撃されている。
新砂サブグループ
清砂大橋から下流の範囲。
砂町水再生センター一帯までも含む。
地図を見ると一目瞭然で、企業敷地、グラウンド、空き地などがあり緑地部分が多い。タヌキが生息するには都合がいい環境がそろっていると言える。
荒川左岸グループ
荒川右岸グループに比べると目撃情報が少ない。
荒川左岸サブグループ
荒川左岸サブグループは区切りの設定が難しいため、ひとつながりの長大な領域になっている。
区分するならば上流側と綾瀬川・中川が並走している下流側に分けられる
荒川右岸に比べると目撃情報が少なく、生息の実態はさらにわかりにくい。
荒川と綾瀬川・中川にはさまれた細長い領域は、両岸の陸地へ行くには数少ない橋を渡らなければならない特殊な地理条件である。両岸との行き来はほとんどないと思われる。
そんな場所でもタヌキが繁殖しているという情報が得られている。
中川が並走している区間では目撃情報は1件しかない(河川敷での目撃ではない)。生息していてもかなり数が少ないと推測される。
葛西臨海公園サブグループ
東京タヌキ探検隊!のデータベースの記録では葛西臨海公園での目撃情報は1件だけだが、ネット検索すると時々目撃されていることがわかる。鳥類園(バードサンクチュアリ)に生息しているため目撃される機会が少なく、生息実態がわかりにくい。
葛西臨海公園は1989年に開園した。土地の大半は埋め立て地であり、タヌキは公園が整備されてから移住してきたと思われる。もともと近隣にいた可能性、荒川河川敷を下ってきた可能性の両方が考えられる。
139号(2020年7月) 東京都23区のタヌキの生息分布 河川敷の個体群(完)
江戸川右岸グループ
江戸川沿いだけでなく、水元公園も含めている。
生息数は多くはないようだ。
水元公園サブグループ
水元公園は広大な緑地である。バードサンクチュアリだけでなく人が立ち入れない場所、立ち入りが難しい場所も多い。夜はほとんどがまっ暗になる。このようにタヌキなど野生動物にとっては好都合な場所である。
これは一方で人間に見つかりにくいことになり、生息の実態はよくわからない。
江戸川右岸サブグループ
上流から下流までひとまとめにしているが、タヌキの定住が確実なのは、金町浄水場近辺、東篠崎近辺の3ヶ所だけである。
金町浄水場ではその敷地内にも生息している。
東篠崎近辺では河川敷よりも住宅地で目撃されている。河川敷よりも住宅地や寺社、公園の方が生活しやすいようだ。
江戸川水閘門近辺では東京都側はもちろん、千葉県側(旧江戸川と江戸川(放水路)が分岐する箇所)にも生息している。東京都側に進出する個体がまれにいるようだが、定住は難しいようだ。
多摩川左岸グループ
河口近くまで生息している。
多摩川河川敷は狭いせいか、河川敷から少し離れた場所にも生息している。
鎌田サブグループ
二子玉川駅よりも上流の領域。野川との合流点よりも上流、とも言える。野川流域も含む。
多摩川河川敷は広大であるためか目撃情報がまだない。兵庫島で目撃例がないのも不思議である。植物が繁茂している所や河原を行動していると推測される。
実際に目撃が多いのは野川沿いの住宅地である。
上野毛等々力渓谷田園調布サブグループ
二子玉川駅から丸子橋までの領域。
等々力渓谷と上野毛が主な生息地である。
等々力渓谷は夜は本当にまっ暗になるためタヌキなどには都合が良い。急斜面でも場所を選べば登り降りは難しくない。
上野毛では五島美術館と近隣の緑地帯に生息しているらしい。
多摩川河川敷での目撃はほとんどないが、やはり植物が繁茂している所や河原にいると予想される。
多摩川からは離れるが、九品仏一帯にも生息が推測されている。
下丸子サブグループ
丸子橋から多摩川大橋付近までの領域。
熱心なウオッチャーいるため下丸子一帯ではタヌキの生息がよくわかっている。寺社やちょっとした緑地を利用して生息していることがわかる。なお、下丸子一帯ではタヌキよりもハクビシンの方が目撃が多い。
六郷干潟サブグループ
JR東海道線、六郷橋付近から大師橋までの領域。
六郷干潟も発見されにくい場所だが、目撃例はあり生息は確実である。
大師橋からさらに下れば羽田空港がある。羽田空港内での目撃情報はまだないが、この広大な緑地ならば生息は可能のはずである。以前には野良犬が生息していたという話もあり、タヌキでもありえないことではない。
140号(2020年8月) 東京都23区のタヌキの生息分布 孤立した個体群
タヌキの日常の行動範囲は半径数百m以内とされる。個々のタヌキの行動範囲は重なりあうことも、少し離れることもある。間隔が少し空く箇所はあっても全体としてはだいたい連続して分布していると言える。これは東京都23区でも同じである。
ところがタヌキがまったく目撃されない広い「空白地帯」の中で唐突にタヌキの生息場所が現れることがある。近隣のサブグループからは離れすぎていて日常的な交流は難しいことから「孤立した個体群」と呼ぶことにした。
孤立はしているが繰り返し目撃が報告されており、繁殖・定住には成功しているようだ。
孤立した個体群の成立過程は次の2つが考えられる。
・以前は広い範囲で生息していたが、徐々に生息地が減少してしまい、孤立してしまった。
・別の生息地から長距離移動してきたタヌキが定住に成功した。
孤立した個体群の一部は国道246号線の南側地域で見られる。
国道246号線の南側は東海道に近かったためか開発が早くから行なわれ、タヌキの生息には不利な環境になってしまったようだ。それでも一部が生き残りに成功したらしい。
別の孤立した個体群はJR東北線以東の低地帯にある。この低地帯では荒川、江戸川の河川敷が主な生息場所になっているのは既に述べた通りだが、それらとは別の個体群も存在する。
浜離宮恩賜庭園個体群
浜離宮恩賜庭園にタヌキが生息していることは間違いないが、情報は非常に少ない。
勝どき、晴海、有明といった埋立地でタヌキが目撃されることがあるが、その出身地は浜離宮恩賜庭園以外は考えにくい。
浜離宮恩賜庭園ではタヌキは植物が繁茂して身を隠せる場所をうまく利用して生活しているようだ。
浜離宮恩賜庭園は将来的な整備が計画されているという話も聞くが、植物をうまく保存しなければタヌキの生息が難しくなりかねない。
タブノキなど実のなる樹木、身を隠すための低木の保全は特に重要で、伐採して見通しが良くなりすぎるのは避けなければならない。
なお、浜離宮恩賜庭園にはハクビシンも生息している。
自然教育園個体群
自然教育園(国立科学博物館附属自然教育園)とそれに隣接する東京都庭園美術館にタヌキが生息していることは以前から知られている。昼間行動しているところを目撃されることもある。豊かな自然環境のおかげで安定して生息できているようだ。
生活はこれらの敷地内で完結しているようで、敷地外での目撃は少ないが、まれに離れた場所での目撃がある。
林試の森公園目黒不動尊個体群
林試の森公園と目黒不動尊の一帯。
もともとは自然教育園から来たのだろうと推測される。古い目撃情報がないため、やって来たのは最近のことかもしれない。
最近は祐天寺方面でも目撃されている。
東京工業大学個体群
大田区と目黒区にまたがる東京工業大学・大岡山キャンパスにはタヌキが生息している。
大井競馬場個体群
大井競馬場内での目撃情報はないが、隣接するしながわ区民公園や周辺で少数ながらタヌキの目撃例がある。大井競馬場またはしながわ区民公園に定住する個体群がいるらしいことが推測される。
馬を飼育している場所で、馬のエサを目当てにタヌキが来る事例がある。大井競馬場でも馬のエサを食べに来ることがあると考えられる。
池上本門寺個体群
池上本門寺は小さな山が丸ごと緑地となっていると言える。
本門寺の周辺地域でも目撃があり、佐伯山緑地公園やその他の小さな緑地にも生息していると推測される。
中川公園中川水再生センター個体群
中川公園と中川水再生センターの一帯に生息している。
中川水再生センターは一般の立ち入りはできないため生息の実態はよくわからない。
高砂個体群
中川の高砂橋近辺とそれに続く下流側には小さな河原がある。この河原や線路敷地、寺院、神社などを利用して定住している個体群がいる。
その他の孤立した個体群
国道246号線の南側には上で紹介したものの他にも複数の孤立した個体群がある。
それらはいずれも1家族しかいないようだが複数年の出産が確認されている。
ただ、環境が変化すると直ちに消滅してしまうおそれもある。慎重に扱わなければならないため、ここでは場所も含め詳細は解説しない。