東京タヌキ探検隊タイトル

東京タヌキタイムズ

147号(2021年3月) なぜ都会にタヌキがいるのか

昨年2020年末からメディアで東京都23区のタヌキが何度か取り上げられてきました。
それらでは「なぜタヌキの目撃が増えているのか」ということを知りたがっていたようでしたが、記事中、番組中では明確な答えはありませんでした。

この疑問にはいろいろな意味が含まれているように思えます。それが明確でなかったためにうまく解答が得られなかったのではないでしょうか。疑問の詳細を整理してみましょう

「なぜ東京都23区にタヌキが生息しているのか?」
「東京都23区にタヌキは何頭生息しているのか?」
「なぜ江東区にタヌキが生息しているのか?」
「江東区でタヌキの目撃が増えているのはなぜか? コロナウイルスと関係はあるのか?」
「江東区でタヌキは増加しているのか?」
「東京都23区でタヌキの目撃が増えているのか? コロナウイルスと関係はあるのか?」
「東京都23区でタヌキは増加しているのか? 爆発的な増加にはならないのか?」
「タヌキは都会で何を食べているのか? (残飯食べてるんだよね?)」

と、こういったところでしょうか。
それではひとつひとつ答えていきましょう。

なぜ東京都23区にタヌキが生息しているのか?

多くの人は「都会には自然は無い、だから野生動物はいない」と思い込んでいます。
しかしちょっと考えればこれは間違っていることは明らかです。
だってスズメ、ツバメ、キジバト、ハシブトガラスといった野鳥は東京都23区でも普通に見ることができます。これらは野生動物です。昆虫だって野生動物です。チョウ、トンボ、セミなど東京都23区でも昆虫は生息しています。
まず、「都会にも野生動物はいるのだ」という認識を持っていただきたいものです。

「でも東京都23区にはシカやイノシシやクマはいないだろう!」と主張する人がいそうですが、そりゃいませんよ。何でもかんでも生息できるわけではありません。
都会に生息できる・できないの条件の違いはどのようなものでしょうか。
おおざっぱな一般論として、都会で動物が生息するには次の2つの条件が必要です。

・食べ物がある
・繁殖場所がある

生きていくために食べ物が必要なのは当然のことです。タヌキがいるということは食べ物も必要な量が存在しているということになります。タヌキに限らず野生動物が何を食べているかは研究のテーマとしてとても重要です。
シカやイノシシやクマが都会にいないのは、簡単に言えば食べ物が無いからです。里山に出てきて農耕地や生ゴミをあさることはあるでしょう。ですがさらに都市に進出しても食べ物にありつくことは難しくなります。これまた一般論として、体が大きな動物は必要な食べ物も多くなります。食べ物が少ない都会で生きていくのは無理なのです。タヌキは体が小さいので食べ物も少なくてすみ、都会でも生きていけるのです。
動物の中には特定の物しか食べないという種類も珍しくはありません。例えばカワセミやゴイサギ、アオサギといった鳥は魚しか食べません。都会に魚なんているのかと思われそうですが、これらも東京都23区に生息しています。つまり魚もいるということがわかるわけです。カワセミ、ゴイサギ、アオサギを見たいのならば、魚がいそうな川、池、堀を探すのが鉄則です。

繁殖場所については、動物によって必要とする条件が違っていて説明が大変です。一般的には、「数週間から数カ月間、安全に子どもを出産し、育てることができる場所」ということになります。雨風をしのげることも必要です。 タヌキの場合だと、例えば…
民家の床下というのはよくある話です。空き家であればより良いです。ただし、近年の住宅は床下に入ることがまずできなくなっていますのでタヌキにとっては困ったことです。
似たようなもので、寺社の床下、マンション1階のベランダ下、物置小屋の床下(床と地面の間に空間がある場合)などで出産・子育てした例があります。
条件は悪くなりますが、建物と建物の間の隙間、建物と塀の間の隙間、側溝の中という例もあります。雨が心配ではありますが、よほどの大雨でない限りしのいでいけるようです。本当に危険な時は別の場所に退避することもあるでしょう。
タヌキは自然界では穴の中や(地面近くにある)樹洞を利用します。東京都23区にもそのような場所はあるようです。

食べ物と繁殖場所があること、これが生きていくための本質的な条件であり、都会で生活するにも必要なものなのです。 これらに注目すれば都会の動物の観察や研究も面白くなるでしょう。

148号(2021年4月)

東京都23区にタヌキは何頭生息しているのか?

宮本隊長は「500から1000頭」と推測しています。

具体的な算出方法は既に公開していますのでそちらをご覧ください。

東京都23区内のタヌキの生息数の推定(2012年版)

これは2012年の推計ですが、2021年現在でも大きくは違わないと思います。ただ、目撃情報数の推移を見ると中長期な変動はあると言えます。が、極端な増減にはなっていません。

(※注※ ただし、この時は大河川の河川敷の生息状況がよくわかっていなかった。そのため江東区の生息数が少なくなっている。河川敷の生息数についてはあらためて推計した方がいいかもしれない。)

1000頭というと、とてもたくさんいるように感じるでしょうが、23区の広さを考えると生息密度は非常に薄いものです。単純計算で1平方キロメートルあたり1頭か2頭しかいません。これでは遭遇するのもかなり難しいことが納得できるでしょう。
23区には1000万頭ものヒトが生息していることと比べると、タヌキの生息数はとても少ないことが理解できます。

なぜ江東区にタヌキが生息しているのか?

これは江東区に限らずどの区でも同じ質問が来そうですが、今回は雑誌、テレビで話題になった江東区を取り上げます。
なお、北に隣接する墨田区も地形的には「荒川と隅田川にはさまれた孤立した地形」で江東区と同じ状況です。以下では江東区・墨田区一体で説明します。(さらに上流の岩淵水門までも同じような状況と言えます。)

一般論として、タヌキは緑地とその周辺に生息します。
江東区・墨田区はほとんどの地域が建物で占められており、タヌキが生息するには厳しい環境です。
江東区・墨田区でタヌキが生息しているのは、荒川河川敷と江東区新砂(荒川河口部)だけだということがわかっています。これらの場所はまとまった緑地です。食べるものも繁殖する場所もあり、生息の条件がそろっています。
河川敷は夜はほぼ無人、新砂も夜の人口は極めて少ないです。これでは普段目撃されることもまずありません。そのためタヌキが生息していることを知らない人は多いでしょう。

ところが今回の報道では河川敷から離れた場所で目撃されています。これも説明できることです。
タヌキは東京都23区では4〜5月に出産します。秋には子どもたちも十分に成長し、親元から離れて独立します。この時、生まれた場所からかなり遠くへと移動する個体がまれにいることがわかっています。なぜそんなことがわかるのかというと、普通はまったくタヌキが目撃されない場所に唐突に現れるからです。その代表的な地域が江東区なのです。(墨田区はそのような事例が少ない。)
江東区でタヌキが生息しているのは荒川河川敷と新砂だけ。それ以外の場所では定住は難しいはずです。タヌキがいそうにない場所に現れたとしたら、そこに定住しているのではなく、どこか離れたところから来たと推測されるのです。江東区が荒川と隅田川にはさまれていることを考えると対岸から来たとは考えにくく(橋も少ない)、荒川河川敷あるいは新砂から来たと推測することができるというわけです。
この推論を当てはめると、最大3kmも移動してきたらしい事例がありました。
このような個体を私は「長距離移動個体」と呼んでいます。
長距離移動個体が目撃されるのは秋から冬です。これも「秋に親から独立した個体」であることを裏付けています。報道で話題になったのも秋以降のことでした。

このように江東区・墨田区のタヌキは「定住組」と「移動組」に分けることができます。
移動組は数が少なく、途中で客死してしまうことがほとんどです。河川敷を離れると生きていくのはなかなか難しいようです。

江東区でタヌキの目撃が増えているのはなぜか? コロナウイルスと関係はあるのか?

目撃が増えた理由は「たまたま」としか言いようがありません。ある地域で目撃が増えるということはこれまでも時々あることです。
たまたま今年は長距離移動個体が多かったのかもしれません。なお、「多い」といっても何十頭というレベルではありません。もっと少ない頭数です。

新型コロナウイルスとの関係も何とも言えません。長距離移動個体が現れる昨年の秋以降は人の外出頻度もかなり回復しており、タヌキの行動に大きな変化をもたらす要因にはなっていないと思います。

江東区でタヌキは増加しているのか?

これは何とも言えません。
東京タヌキ探検隊!が集めたデータは、生息個体群の一部の断片的な行動状況でしかありません。全体像まではわかりませんし、個体数の増減を正確に把握するのは難しいです。
何年もデータを積み重ねて、「どうも個体数が増えてきているぞ」「減ってきているぞ」ということがわかるのです。昨年から今年にかけての状況も数年後に見返してみてようやく何かがわかるのかもしれません。

149号(2021年5月)

東京都23区でタヌキの目撃が増えているのか? コロナウイルスと関係はあるのか?

149_2020graph

このグラフは東京タヌキ探検隊!が記録した東京都23区での目撃情報数の推移で(2021年1月の暫定版)。

(※注※ これは必ず注意しておかなければならないことですが、2009年頃に生息数が急増したわけではありません。ネットで情報提供を呼びかける東京タヌキ探検隊!のシステムが十分に機能するようになったのは2009年頃以降で、それまでは目撃情報はほとんど得られなかったのです。その理由はパソコン、インターネットが普及していなかったためです。2009年頃以前の数値は比較対象にはできません。)

2020年は目撃情報は増えていますが、数年前からの傾向とも言え、コロナウイルスとは関係ないように見えます。
これも数年後まで見ないとはっきりしたことは言えないでしょう。

東京都23区でタヌキは増加しているのか? 爆発的な増加にはならないのか?

上で述べたように、目撃情報からはタヌキの生息数は短期的には増減をしているようです。長期的には1000頭程度で安定しているように見えます。

爆発的な増加の心配はありません。 動物が生きていくためには食べ物が必要、ということは前に書きました。これは別の見方をすると、動物の生息数は食べ物の総量に制約されるとも言えます。つまり、食べ物が多ければ生息数は多く、食べ物が少なければ生息数は少なくなります。
東京都23区も現在の生息数は食べ物の総量に見合っていると思われます。食べ物が極端に増えないならば生息数も増えることはないでしょう。

山間部などでも実はタヌキの食べ物が豊富というわけではありません。ですので、暮らしやすそうに見えても生息数が急増することは考えにくいです。

タヌキは都会で何を食べているのか? (残飯食べてるんだよね?)

タヌキの主食は、動物性のものでは昆虫やムカデ、ミミズなどの無脊椎動物、カエルなどの小型動物、植物性のものでは果実です。これは都会でも郊外でも山林でも同じです。その場の環境に合わせて入手しやすいものを食べています。
あまり激しい運動(狩り)をしなくても入手できるものを食べているとも言えます。

都会の食べ物というと残飯や生ゴミを連想する人が多いようですが、タヌキがそれらを食べているという目撃情報はほとんどありません。あまりにも少ないので私も不思議に思うほどなのです。
もちろんまったく食べないわけではありません。その証拠は私自身が発見しています。

東京タヌキタイムズ 2009年5月号

東京タヌキタイムズ 2009年11月号

東京タヌキタイムズ 2012年3月号

これらを見ると、確かに残飯・生ゴミを食べてはいます。ですがすべてのタヌキが平等に恩恵を受けているわけではないと思われます。
現在、東京都23区のゴミ収集は朝〜昼に行われます。ゴミを出すのは夜が明けてからで、夜行性のタヌキがゴミと遭遇する機会はとても少ないはずです(実際に目撃例はほぼありません)。まれに前日夜からゴミを出すような家があるかもしれませんが、それはタヌキにとっては奇跡的な邂逅と言えるでしょう。

ところで、残飯・生ゴミよりも得やすい人間由来の食べものがあります。
それはネコエサつまりキャットフードです。
「人間由来の食べ物」とは人間の食べ物とは限りません。人間が供出源であれば「人間由来」ということです。
実は、タヌキやハクビシンやアライグマやアナグマがネコエサを食べに来るという例は珍しくありません。残飯・生ゴミの場合とは大違いです。

外ネコ(室内で飼われていないネコ。野良ネコとは限らない)のために、庭にネコエサを置きっぱなしにしているという人は意外と多いようです。それをタヌキたちは食べに来るのです。夜中、庭でカチャカチャとネコエサを食べる音がするので、「あ、ネコちゃんが食べに来たな」とカーテンの隙間からのぞいてみると…そこにいたのはタヌキだった!というのが典型的なパターンです。

タヌキがある程度ネコエサに依存しているのは間違いありません。しかし残飯・生ゴミの場合と同様、すべてのタヌキが同じようにネコエサを食べているわけではないでしょう。ネコエサが多い地域、少ない地域という差は必ずあるでしょうから。

150号(2021年6月)

なぜ都会にタヌキがいるのかを図解する

都会にタヌキがいることはそろそろ日本の常識になったと思いたいのですが、実際のところはどうでしょうか。
今でも東京都23区にタヌキがいることについて、「そんなことありえない」「山から降りてきたのだ」「逃げたペットだ」と思っている人はいるだろうと思います。
都市に動物がいることは不思議ではないということをあらためて説明したいと思います。

下の図は動物の生息場所を説明したものです。緑色の帯が動物の生息を表しています。

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山林には動物がいる。
都市には動物はいない。
その中間の里山には動物が現れることがある。
なるほどその通りだ、と納得されることでしょう。皆さんの考えるイメージに近いでしょう。

ですが、この図は省略し過ぎで、現実を正しく表していません。実際にタヌキは都市に生息しています。タヌキだけでなく、ネズミやアブラコウモリ、スズメやカラス、小さな昆虫など都市には多くの動物がいます。

次の図はより現実に近くなるように改めたものです。

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ここでの動物の分類は宮本隊長独自の概念ですが、説明すると…

大型動物は体重10〜20kg以上、ツキノワグマ、ヒグマ、イノシシ、シカとなります。
日本にはいませんがハイイロオオカミ(オオカミ)もここに含まれます。
気付かれたかもしれませんが、人間も大型動物に含まれます。意外には思わないでください。動物のほとんどは昆虫などのとても小さなサイズです。動物全体で見ると人間はとても大きな体なのです。
中型動物は体重10〜20kg以下、イヌ、ネコ、タヌキ、キツネ、ハクビシン、アライグマなどです。東京タヌキ探検隊!が対象とする動物はだいたいここに含まれます。
小型動物は1kg以下。イタチより小さな動物です。ネズミやコウモリはほとんどがここに含まれます。昆虫など無脊椎動物はほぼすべてが該当します(水棲動物は除外します)。

大型動物が現れるのはせいぜい里山まで。ですが、タヌキのサイズなら都市にも生息可能です。ネズミや昆虫は屋内に入り込むことも珍しくはありません。この図なら実態にかなり近いと言えます。

この図にはもちろん例外もあります。
イノシシやクマが都市に現れることもあります。ただ、これはとてもまれな例です。確率的にとても低いとも言えます(確率ゼロではありません)。
里山がなく、山林と住宅地が隣接している場合、イノシシなど大型動物が住宅地に現れる確率は高くなります。
中型動物でもキツネのように都市まで進出できない種類もいます。小型だからといってあらゆる種類のネズミ、コウモリが都市にいるわけでもありません。生息するためには食べ物があるか、繁殖できる場所があるかなどの条件も必要であるため、なんでもいることにはなりません。
それでも、体が小さいほどより人間の近くで生きていけることがわかるでしょう。
この図では、建物内、人体内まで領域を広げみまました。こうして見ると人間と動物の関係、距離感がわかりやすいのではないでしょうか。

最初の図に戻ると、里山は都市と山林の間にある防壁のようにみなされることがありますが、それは実態とは異なるものです。実際には山林と都市の間は連続的につながっており、境界線をひくことはできません。
東京タヌキ探検隊!は調査の対象を日本全国にしています。以前に都市部だけに対象をしぼることも考えたことがあります。ですが、いろいろ考えたのですが、都市と非都市の明快な境界線をひくことはできませんでした。境界線を設定できないのなら全体を、つまり日本全国を対象にするしかありません。
日本では里山が何か特別な地位・存在であるかのように扱われていますが、その周囲との連続性をもっと考慮したほうが良いと思います。

さて、この図ではひとつだけ異質なものが書き込まれています。それはウイルスです。
ウイルスは生物ではないとされるため、この図に載せるべきではないのかもしれません。しかしウイルスが生物に似たような振る舞いをするのも事実です。そもそもウイルスとはどういうものなのでしょうか。

151号(2021年7月)

ウィルスは生物の断片

今回はタヌキなどとはまったく関係のない話ですが、こういう時でもないと書けないことです。

この1年半以上の間、私達はウイルスという言葉を毎日のように聞かされ続けています。しかしウイルスについての理解が深まったでしょうか。ウィルスは一種の微生物だと思っている人は今も多いだろうと思います。
そういえば、「コロナ菌」などと言っている大臣経験者がいるそうで、この程度の知識の人に日本の政治経済を任せるなんてしたくないものです。
一般的には、ウイルスは生物ではないとされますが、生物であるという主張もあります。いわゆる「諸説あります」というやつです。

そもそも生物の定義とはどのようなものでしょうか。
生物の定義は意外と難しく、厳密に決めることはできませんが、次のようなものとされています。
・外界との境界を持つ(細胞膜などがある)
・DNAまたはRNAを持つ
・代謝する(消化、呼吸)
・自己複製する

ウイルスに決定的に欠けているのは「代謝」です。ウイルスは呼吸も消化もしません。ですから成長することもありません。つまり「生きていない」と言ってもいいかもしれません。つまりつまりウイルスは「殺すことができない」のです。「ウイルスを殺す」などと書いてある文章には注意した方がいいでしょう。

ウイルスは自己複製はしますが、単独で複製はできません。他の生物の細胞に入り込んで初めて複製されます。その複製も生物のように分裂して増えるのではなく、ウイルス自身の形を壊してDNA/RNAを宿主の細胞の機構に渡し、ウイルスのパーツを製造してもらうという仕組みで増えます。言い換えると、宿主の機能を使って増殖するのです。

一方で、生物とウイルスは構成要素は共通しています。ウイルスは生物の仕組みを利用できるほど親和性があります。ウイルスは「生物ではない」と言い切れないほど生物に似ているのです。

さて、このような特徴を持つウイルスは生物だと言えるのでしょうか?
生物ではないという主張あり、生物であるという反論もあり、そしてもごもごと口をにごすつぶやきがあり、といった具合で完全な結論には簡単にはたどりつけそうにありません。

ウイルスは生物か非生物か、ということについては私も(時々ですが)昔から「ううーん(←うなり声)」と考えてきました。私はウイルスの専門家ではありませんが、生物を考える上ではこのウイルスという微妙な物質は面白い存在なのです。

ずっといつでもウイルスのことを考えているのではありませんが、前回の説明図を考えていた時、思いついたのです。 「ウイルスは生物の断片である」と。
そう考えればウイルスという存在をうまく説明できます。

ウイルスは生物の断片だから、構成要素は共通しています。
ウイルスは生物の断片だから、DNAまたはRNAという仕組みを使って増殖できます。
ウイルスは生物の断片だから、容易に生物の細胞にも侵入できます。
ですが、ただの断片ですので単独では機能しません。

うむ、私としてはすっきりとウイルスを定義できたと思っています。

ウイルスが生物の断片だとすると、ウイルスと生物は不可分の関係なのだと理解できます。
ウイルスは過去の生物、あるいは現存の生物の一部だったと考えられます。ただ、ウイルスは機能をしぼり込んでいますので、特定の生物だけでなく、広い生物種に対応できます。つまりウイルスだけを根絶することは不可能です。
天然痘ウイルスは根絶できた数少ない例のひとつですが、これはヒトのみにしか感染しないという特殊な事情もあったためでしょう。ヒト以外にも感染するウイルスだと根絶は不可能です。
そう考えると、「ゼロ・コロナ」をお題目にしている政治家はセンスがないなと思ってしまいます。ここでの「コロナ」とは「COVID-19」のことでしょうが、政治の力でゼロにすることは不可能です。これは既に世界各地で証明済みです。COVID-19をゼロにできるかどうかは偶然にも頼らざるをえません。
たとえCOVID-19をゼロにできたとしても、コロナウイルス(ヒトコロナウイルス)は普遍的な風邪の原因ウイルスです。そこから新たに変異し、脅威になる新コロナウイルスが現れるかもしれません。いや、いつか必ず現れるでしょう。そしてコロナウイルス以外にも脅威となりそうなウイルスはいくらでもいます。
人類はウイルスとずっとつきあっていかなければならないのです。つまり「ウイズ・コロナ・フォーエバー」、「ウイズ・ウイルス・フォーエバー」。これまた「ウイズ・コロナ」をお題目にする政治家はいますが、それは永遠の真実ですので、実は意味のない空虚なスローガンにすぎません。

「ウイルスは生物の断片」ということからは別の仮説が導けます。
ウイルスは一般には「悪いやつ」とされていますが、実際には何も悪さをしないウイルス、中立的なウイルスが圧倒的に多いはずです。断片なんてあちこちに無尽蔵にあるわけですから、それらすべてが悪いことをしていては生物世界そのものが崩壊してしまいます。
そしてもうひとつ、ウイルスには「いいやつ」もいるはずです。今はほとんど話題にもなりませんが、ヒトやその他の生物を助けている良いウイルスもいることはわかっています。研究としては病原としてのウイルスの方が緊急性が高いのでほとんどそちらばかり調べられていますが、ウイルス世界の全体像を知るには良いウイルスの研究も進めていかなければなりません。

人類はウイルスのことをまだ全然わかっていない、というのが本当のところでしょう。COVID-19にさえ打ち勝つことができるのか、先行きは見通せません。「ウイルスに打ち勝つ」などと簡単に口にすることは控えたいものです。

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